第61話 キマイラ戦
キマイラ。
あるいはキメラともいう。
ライオンとヤギと竜を混ぜた異形の姿。
胴体はライオン、尻尾はヤギ、背には竜の翼。3匹の能力と顔を併せ持つ魔法混合生物。
それがキマイラ。
マグマ河をぬけ、石造りの通路へと再度でる。
さらに先へとすすむと、光が見え始めた。
その光が、キマイラの吐く火の息によるものだと知ったのは、部屋についたときだった。
部屋の大きさは、通路の2倍強。時折でる火の息が部屋にいるキマイラの存在を映し出す。
部屋へとはいってきたジグルドたちを視認したキマイラは、動きをとめ威嚇のための唸り声を上げ始めた。
「グルウウウ……」
身をかがめ突進姿勢。すでにジグルドたちは臨戦態勢。盾とランスをかまえ、斜め後ろでコリンが弓を構えている。
『あいつは、ここからでられないようになっている。危険を感じたら部屋からでろ』
「おお、それは良い。わかりました」
「コリンもわかったのです!」
ユニキスのアドバイスで、この戦闘の難易度が下がった。
チャキっとランスの穂先をしっかりとたて、盾の影に胴体を隠す。頭と足が丸見えだが、仕方がない。盾のサイズが1サイズ下がったのだから。
「コリン!」
「はいなのです!」
みがまえ走り出す。突進開始にあわせ、コリンが矢を放った。
ジグルドの突進に身構えていたキマイラが、コリンの矢に反応し一歩さがる。
そこにジグルドの突進攻撃。態勢を崩しながらも、竜の顔から炎の息が吐かれる。
「ぐうぅ!」
咄嗟に、盾を構えながら後退するも、この盾に防火性能はつけていない。盾が熱にやられる前に、温度をさげてやる。
シュトトトン!
コリンの連続矢。キマイラが一歩、また一歩と後ろに下がった。
「どぉりゃああああ!」
ランスを突き立て突進するも、今度はそのジグルドの盾にヤギの顔が突進攻撃を行った。
ジグルドのランスよりも先にヤギの角が盾にあたる。衝突した瞬間、角を前面に押しだされ、ジグルドの体が一瞬浮いた。
「くッ!」
ふわっと浮かされ、そのまま後ろに立つことはできたが、そこに竜が吐く炎が襲ってくる。
「またか!」
盾で炎による直接ダメージは防ぐものの、温度調整をしなければ盾を持っていられることもできない。徐々に、スキル操作と武器を振るうことによる疲労がたまっていく。なのにダメージらしきものが与えられない。
顔が3もあるからランスの穂先を当てやすいかと思いきや、その顔が何かと邪魔をしてくる。特に中央についている竜の顔が邪魔すぎた。
(《炎熱操作》をつかっても、こいつは体内で操作しておるという話じゃし…)
すでに切り札という考えになっていたスキルだが、キマイラのような相手には通じないことを知らされている。だからこそランスを選んだのだが、当てる事すらできていない。となれば、
(攻撃はコリンにまかせ、ワシは気を引くか)
攻撃することは捨てた。いや、キマイラの注意をひくための攻撃に切り替えたというべきか。
突進はせず盾をかまえる。
攻撃より邪魔を意識。
突くのではなく置く。
ジグルドはここにきて、自分の役割を一定方向へ変化させた。
ジグルドの意識変化に気付いたコリンもまた、自分がやるべきことを変えていく。
(狙いうつのです!)
元々狙いは澄ましていたが、それは『当てる』というだけだ。
基本は牽制。急所にはいれば儲けものという意識でいた。
(ジグ様が守ってくれるのです! なら!)
牽制は捨てる。
意識を研ぎ澄まし、キマイラの急所となる部分を考え、そこへと矢を集中させる。
当たれば儲けものではなく、必殺の意識で。
弓糸に矢をのせ、ただひたすらその時をまつ行為に、コリンは没頭し始めた。
(コリンからの攻撃がやんだ? 矢がつきたか?)
キマイラから視線を外すことができないジグルドは、コリンの意識変化を知ることができていない。後方からの攻撃がこなくなったことによって、キマイラもまた、攻撃意識をジグルドへと集中させていく。
「ガルゥウウウウウウ!」
ライオンの牙における噛みつき。
爪による攻撃。
竜がもつ炎の息。
そしてヤギの角による突進。
これら全てが連続攻撃として組まれ、息つかせぬ攻撃をみせてくる。
「ぐぉ!」
それがたった一人へと集中。着ているのは工場できるような作業服。体に一発でもはいればただで済むはずがない。ひたすら盾一つでさばいているが、盾を付けている左腕がジンジンとしびれ、悲鳴を上げ始めた。
『攻撃をまともに受けるな! 流すんだ!』
正面から攻撃を食らい続けるジグルドに、頭上からみていたユニキスがアドバイスを飛ばす。
(流す? こうか?)
爪による攻撃がくる。盾を斜めにし横へと流した。確かにこちらのほうが、少ない力で攻撃をさばけるが、下手をすれば、そのままコリンへと突進されてしまう。
(立ち位置を考えねばならぬが、コリンがどこにいるのか……)
矢がとんでくれば、いまどこにいるのか察することもできたが、その矢が全く飛んでこない。なにかあったのか? と思うのだが、コリンからの声もまったくなくなったので、状況がつかめなかった。
「コリン!」
声がこないのであれば、こちらからと名前を叫ぶ。
「待つのです!」
「!? よし!」
何を?と言わない。そもそも思わない。位置もわかり、何を考えたのかもわかった。狙い澄ました一撃を考えている。なら自分がすることは今まで通り。迷いがきえた。
「おりゃ!」
「ガルゥ!?」
控えていたランスによる攻撃を再開。
突如攻撃にでたことに驚きキマイラが後ろへと後退。炎の息を吐こうと竜の顔がわずかにあがるも、
「させん!」
吐かれるより先に、ジグルドが盾を構え突進してくる。何度もやられているので、タイミングがつかめたようだ。
「グァアアアア!」
ジグルドの体重が盾にのり、それがそのまま打撃となった。息を吐きかけていた竜の顔が痛烈な打撃をうけ折り曲がる。
一つの頭がダメージをくらったことにより、さらに一歩後ろへとさがった。そこに、
シュトトン!
と、2本の矢が連続でライオンの顔へと刺さる。
最初の矢が目へとはいったが、コリンは2本ともあてるつもりだったようで、残念がっている顔をしていた。
3つのうち2つの顔がいきなり連続でダメージを覚えた。
これに動揺したヤギの思考によって翼が広がる。上空へと浮かび、ダメージ回復を図った。
しかし、これが悪手となった。
「今なのです!」
飛ぶことによって今までみえていなかった急所がみえた。
つまりは腹。
成長することによって覚えたコリンの連続矢が再度発動し、2本の矢が同時にキマイラの腹へと的中。
「ガァアアア!」
さらなるダメージを受けたことで、体をぐらつかせる。
翼も動くことをやめ、空中で態勢を崩した。
そのまま墜落してくるが、落下場所にジグルドがランスを構え待ち構えていた。
「終わりじゃ!」
落ちてきたキマイラの横っ腹に、ランスが深々と突き刺さり、
「ガァアアアアアアアアアアアアアアァァァァァ………」
悲鳴が鳴り響く。
―――声が消え、その体に突き刺さったランスごと地面にドカっと落とされた。
『よし! よくやった!』
ユニキスの歓喜が響くと同時に、コリンとジグルドの体から力がぬけ、その場に2人ともが座ってしまう。
「やれやれじゃ……」
「もう、駄目なのです~」
一歩も動きたくないといった状況のようである。




