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第6話 道中色々

 予想が当たってしまった。

 悪い方にではなく微妙な方に。


 まず1つめ。

 レベル上げは簡単だった。

 道中遭遇するモンスターをミリア達が瞬殺。

 これで経験が入りレベルが上がった。

 俺だけではなく、オッサンにも入っていたようで鑑定してみると26まで上がっていた……のだが、


「強くなった気がせんが?」


 そう、オッサンがこう言った時点で気づくべきだったかもしれない。

 それが発覚したのは俺のレベルが11になった時だった。


「ステータスが3流交渉人になっている」


「は?」


 聞いて呆れた声を出したのはミリアだった。

 ラージアントとかいう巨大蟻の群れを彼女が爆発四散させた後、自分のステータスを見てみるとそうなっていた。


「交渉人? どういう事? それ強くなっているの?」

「俺が聞きたい」


 オッサンのレベルが上がった時のように、俺も身体の具合を確かめるように動かしてみるが、まったく強くなった気がしない。


 これってまずくない?


 そもそも交渉人っておかしい。俺、店でネギった事すらない。なんでそっち方面? あれか? 称号が『通じるもの』だから、そっちの方になったとか? そもそも通じるものってなに? これも意味が分からない。


 そして2つめ。

 レベルが10を超えた時にスキルに変化が起こった。

 鑑定が《真鑑定》になったのだ。

 これだけ聞けば意味が分からないだろうが、俺の目には前を歩く3人の頭上にメーターバーが3つ表示されるようになっている。


(どう見てもゲーム仕様のHPバー等です。本当に有難うござました)


 本気でありがたいとは思うが、なんだか小馬鹿にされた感じがして嫌味の一つも言いたくなった。

 誰に馬鹿にされたんだ? と聞かれれば言い返せないわけであるが、あえて言うならこの世界そのものと言えばいいだろうか? と自問自答すらしてしまう。

 この事を3人に話すと詳しい説明を求められたので教えた。


「たぶん生命力と魔力とスタミナだと思う」


「それは凄いですね。相手の身体状態が手にとるように分かるとは、とんでもない技能です。ヒサオさんには死んだふりをしても無意味になりますね」


「その前に、ヒサオに対して死んだふりをする意味があるかどうか疑問よね」


 テラーさんが持ち上げ、ミリアが落として、ワシしらねのオッサンがいる。段々と連携が取れてきている気がするな。


「で、結局強くなったの?」


「たぶん?」


 一応《真鑑定》でスタミナも見れるが、数値が出ているわけではない。

 メーターの減り方がレベルの上昇と共に緩和されている気がしないではないが、気のせいだろうと、言われてしまえば、そうにも思えてしまう。こんな状態で強くなった! といえる自信が俺には無いな。


 でもって3つめ。

 これはレベルとは無関係だが、気付いた事がある。

 数日過ごすうちに、何度か時間が気になったので携帯電話を見てしまった。


「あれ? 電池減ってないぞ」


 時間が文字バケしているのは海岸にいた時に確認している。それでも見てしまうのは、クセなので仕方がないのだ。

 そして気付いたのが時間ではなく電池の方。

 俺の携帯は、3日もあれば充電する必要があったのだが、まだ満タンのままだった。これはいったいどういう事だ?


(ネットとか電話できれば……無理か)


 思いついたことを試してみるも、そもそもアンテナ表示が一本も立っていない。どうあがいても、ただ光る箱だ。いやメモは出来るから、無用の長物とまではいかないか?


 そんな感じでレベルを上げて、糧となったモンスターを食べられるかどうかの鑑定をしながら街道を進んでいったわけだが、そんな日々が4日目となったある日、大森林とアルツ王都への別れ道にさしかかった。


「大森林はこっちね」


 ミリアが迷わず選ぶ。その後をついていくオッサンと俺だが、テラーさんが足を止めた。


「……たしかアルツの研究員が砂浜を調べに来たと言っていましたよね」


 立て札に目を向けながら俺達に聞いてきた。

 確かに村長がそんなことを言っていたが、聞いた当人は何を言っているのかさっぱり分からないとも言っていた。


「アルツに行きたいの? でも私達だと捕まりかねないわよ」


 すでに相談して決まっていた事であるが、何を思ったのだろう。テラーさんはワンコ耳をヒクヒクさせて目を閉じ考えこむような仕草をしたあと、突然閃いたように耳をたてジグルドを見た。


「ジグルド。あなたは外で待つつもりといっていましたよね」


「森での話か? そうじゃが、それがどうかしたのか?」


「それなら、私のサポートに回ってみませんか? 私一人なら捕まらずに忍びこむことも可能だと思います。風精霊を憑依させれば、すばやく動けますし」


 言いたいことが分かったが、別問題があるよな。


「テラーさん。たぶん情報収集したいんだろうけど、俺もそっち行かないと言葉わからないよ」


「……あ」


 大きく可愛げのある瞳だったテラーさんの目が、点のように小さくなったのは、いかなる理由なのか多少知りたくもあった。

 この人、きっと天然さんだわ。

 それも真面目になればなるほど大ボケかますタイプじゃないだろうか?

 尻尾がちょっと垂れていて、頭を撫でたくなるが手を出さずにおく。


「そ、そのうち言葉の勉強をする時間を作りましょう!」


 頬を若干朱色に染めいうワンコ……じゃない獣人さんって結構可愛いんだな。初めて知ったよ。


 テラーさんのボケは置いておいて、真面目に勉強する機会は欲しいと思う。

 言語関係について俺は勉強すらできないと思うが(スキルが勝手に通訳してくれるから)、この世界の歴史やら地理は覚えた方が良さそうだ。


 そうそう一般常識もだな。

 特に村長がいっていた『託宣』とか意味が分からなかった。

 あれって結局命令されて、それやったら平和な日々が続くっていう事だろうけど、誰がそんな命令を個々に伝えているのか謎すぎる。それこそ神様とかそんな感じになるんじゃないだろうか?


(神ねぇ―…まぁ、でも魔王やらそれを倒すエルフの魔法使いとかもいるようだし)


 前を歩くミリアの後ろ髪を見つめながら考えた。いつ髪を洗っているのか謎なくらい、サラサラな金髪が編まれ肩に乗っている。


 おっと大事なのはミリアの髪じゃなかった。

 村長の話によれば『託宣』の声は人間族にのみ伝えられるらしい。その通りに動くのがこの世界の人間達のルール。

 他の種族に関しては不明だが、村長の言葉を信じるのであれば人間にのみらしいから、他種族にはないのだろう。なら、大森林にいるかもしれないエルフ達は、大丈夫なはずだが。


(それだってオッサンがいた世界の話だしな。いなかったとしても仕方がないか。まあ、いてくれれば助かる……のか?)


 エルフの集落らしいから、最初はミリアが話すだろうが不安でしかない。まあ、考えても仕方が無いか。


「今日はこの辺で良かろう。小僧、テントを建てるぞ」


「ほい。んじゃ出すぞ」


 オッサンにいわれ俺が背負っていたリュックからテント一式を取り出した。


 この世界に来て1週間以上すぎた。たぶん今日は10日前後だろう。そろそろ数えるのが馬鹿らしくなってきている。

 その間にいくつかの戦闘があって、もっぱらモア・ベアというモンスターが襲ってきていた。熊によく似たモンスターで、顎からマンモスのよう大きな牙が生えている。毛皮がわりと特殊で水を弾く性質をもっていた。俺はこれに目をつけてオッサンと話し合い、テントモドキを作り上げた。


 ヒントはオッサンの右手に収納されている小道具の数々。

 俺の現代知識じゃ中途半端すぎたので、オッサンの収納方法を参考にした。

 それを応用するような形で俺のリュックに収まるように作ったわけだが、代わりに食料関係がほとんど消えてしまう。

 もっとも襲ってくるモンスターの殆どが食せる部分が多く、これを食べて過ごしているので現状は困っていない。野菜成分が足りなさ過ぎるが、今は目をつぶろう。


 リュックを背負っているのは俺とオッサンで、オッサンの方のリュックには主に衣服や現在進行形で製作されているものなどがは入っている。

 衣服の大半はテラーさんとミリアのもので、俺やオッサンのものは、ほとんどない。まずは女性のものが優先だろうと押し切られたわけなのだ。言うまでもなくミリアからだけど!

 衣服といっても下着類がほとんどで、それを男に持たせるってそれでいいのか? とは口に出さずにおく。言ったら、どんな顔をされるのか分かったもんじゃないからな。


 あと変わった事といえば、俺とオッサンのレベルだ。

 俺は14になり、オッサンは27になった。

 だからといって強くなったという感じがないのは同じだが、オッサンの武器だけが変わった。


 以前は小型ハンマーだったが、今は両手もちの戦闘用ハンマーを手にしている。

 旅の途中拾ったものや、村長宅から拝借したものを利用して作り上げたものだ。

 レベルと言えば、テラーさんもそろそろ上がってもいいと思うのだが変化がない。


「本当は防具も作りたいのじゃが、腰を落ち着けんと金属製防具は無理じゃな」


 とは本人の言葉だけど、武器を旅の合間のちょっとした時間で作り上げただけでも凄いと思う。


「寝袋もできたし、次の毛皮はヒサオかジグルドの防具にまわす?」


 意外な事というイメージがあるのだが、ミリアが寝袋を作ったのだ。

 まあ、継ぎ足ししたような寝袋であるが暖かく寝やすい。おそらく防具も作ろうかと思っているのだろう。モア・ベアの毛皮はわりと利用しやすいらしいし。


「ワシの場合、今着ているものと大して変わらん気がするの。小僧を優先したらよかろう」


 ジロっと俺の身体をみてオッサンが言った。

 この世界に来る前に着ていたトレーナーとジーンズの痛み具合がそろそろ危険だしな。

 戦闘は完全に三人に任せっきりなので、それで痛んだわけではないが、こうも野宿が続くと色々破けてくる。


 そう言えば、ミリアが着用している天の長衣だが、彼女はずっとそれを着ている。

 ほとんどの戦闘は、テラーさんが即終わらせているので出番がほとんどないが、それでもミリアが魔法をぶっ放すことはある。なのに、彼女の天の長衣はまったく汚れる気配がない。何かしらの魔力が込められているのかと考え尋ねてみると、


「女の服を気にするとか、デリカシーがないわね」


「普通に気になるだろ。それ、ずっと着ているようだし」


「この服には魔力が込められているわ。それも特上のね」


 フンと、鼻息をあげ、胸を張ろうとするが、その胸が悲しい事になっている。


「それは凄い。どういったものなのでしょう?」


 俺たちの会話に、テラーさんが加わってきた。同じ女性として、気になるのだろう。


「そうね。本当なら隠した方が良いのかもしれないけど、教えておくわ」


 そう前置きしてから、彼女が着用している天の長衣について語ってくれた。

 この白い長衣は、自ら魔法攻撃しようとしないかぎり表面に強い結界が張られ、物理攻撃のほとんどを防ぐらしい。物理耐性90%カットとかいう感じだろう。


「つまり、この服は、私が魔法を使わない限り、汚れといったものも防いでくれるのよ! すごいでしょ!」


「ずりぃ!」


 俺のトレーナーにもそんな魔法をかけてほしいわ。

 ……チート装備を俺にもください。


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