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第5話 レベルがあがってた

「うーん」


 聞き終わった俺たちは村長宅から出た。

 テラーさんの言った通り村人達は俺達を遠巻きに見るだけで、関わろうとはしてこなかった。これも託宣を優先しているせいか?


 村を出てしばらくしたあと河川を見つけ、腰を落ち着けたはいいが、全員が困りはてた顔で唸った声をあげた。


 食料等は村長宅から拝借し、俺とオッサンがリュックを背負い中に詰め込んである。

 盗賊を倒しておいて、俺達が盗みを働くというのはいささか思うところがあるのだが、聞いた話だと俺達はどこにいっても歓迎されないようだし仕方がない。


「まいったわね。たぶん王都に行っても私たちの扱い酷いかもよ?」


「ミリアさんの言うとおりかもしれませんね」


「確かにそうじゃな。じゃが、この地図だと王都アルツとその隣にある大森林しか書かれておらんぞ」


 これまた拝借した地図を広げ言うが、周辺地域のみの地図のようで、オッサンの言うような場所しか書かれていなかった。

 地図を見て知ったけど、王都の名前は『アルツ』。

 そして俺達がいた村は『ガーク』という名前らしい。


 王都の方は、ここから北西のようで結構な距離がある。

 『アルツの大森林』というもの有って、それは西の方角だな。

 とりあえずその王都の方が近しいけど、ミリアの言う通り酷い目に合いそうな気がする。


 さて、どうしたものかと考えていると、オッサンが唸るような声を出していた。


「オッサン、どうした?」


「うむ……王都アルツ、それに西部にある大森林。そしてイガリア」


 ブツブツと俺の言う事に反応しているのかどうか怪しい感じだな。

 少しほっとくと、


「聞いてくれ。ワシは、王都アルツというのは聞き覚えがないが、大都市アルツなら覚えがある。それに西にある大森林。ワシがいた世界ではこの森にエルフの集落があったはずなんじゃ」


 エルフ。と聞こえてミリアの長耳がピクっと反応した。


「ジグルド。あなたの世界だと、ドワーフとエルフは仲が悪かったんでしょ? それなのに居場所を知っていたの?」


「有名どころは知っとるさ。何しろワシらドワーフは、エルフと人間の同盟に追い込まれておったからな。知らずに近くに居を構えようとするのは愚かと言うものじゃろ」


 腕を組みブスっとした不機嫌な顔つきで言う。言われてみればそうかもしれないな。


「ジグルドの言うとおりね。何か気に障ったのなら謝るわ」


 ミリアが、ペコリと頭を下げた。

 オッサンの頬が若干赤みを増してプイと顔を曲げた。年甲斐もなく照れている。これがキモカワというやつか。


「オッサンの言うことは分かったよ。アルツが王都か大都市なのかはどうでもいいが、個人的にはまず大森林に行くべきだと思う」


「ですが、人間の街の方が情報は集まるのでは?」


 チラッとテラーさんがミリアを見る。2人の視線が合ったが、ミリアの方が目を反らし、自分の考えを口にし始めた。


「アルツは情報以前に危険だと思う。エルフの里があるかどうかは分からないけど大森林に向かいましょ。エルフ相手なら私が交渉できると思うし。ジグルドはどうする?」


「ワシのいた世界じゃと、それは自滅行為にもなるんじゃが……違う世界じゃと思うしの……」


 オッサンは悩んでいたが、すぐにミリアに渋々賛同した。それで話が決まり、俺達は大森林へと向かう事にした。

 俺達が大森林に入っている間、オッサンは念のために大森林の外で待つと言う。

 数日なら大丈夫らしいが、心配したのかテラーさんが『一緒に残りましょうか?』と言い出した。


「ヒサオが近くにおらんのなら会話もできん。それなら一人でおったほうが何かと楽じゃろ。テラー。悪いがそう言う事で小僧の護衛でもする方が良かろう」


「分かりました」


「ヒサオだけ? 私も守ってよ」


 納得出来ないといった顔を見せるミリアに、俺達三人は失笑という反応でかえした。彼女の機嫌が一気に悪くなったのは言うまでもないだろう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 盗賊に襲われた村を救って、その村長宅の食料を勝手に拝借して、おまけに家の住人たちを縄で縛ってさっさとでてきた俺達(かなり酷い気がするが考えないようにしよう)。

 その家にあった生肉を俺が見れば、ラクセイの赤身肉というものらしい。これを早速焼いて夕飯とする事になったが、


「調味料があったのは助かるけど、パンが欲しいわね」


 肉だけなのが不満らしくミリアがフォークを刺しながら言う。

 ちなみに焼いたのはテラーさんで、周囲にある石を砕いたり動かしたりして簡易的なキャンプ場を作り出したのはオッサンだった。

 その間、俺とミリアが何かをしようと手を出しかけたが、その度に邪魔者扱いされ何一つできなかった。

 何が言いたいかと言うと、そんな俺達は黙って食べろという事実である。


(ご飯とスープがほしい)


 口にはださない。

 だが、心で思うことぐらいは許してください。


 ちなみにこの肉は脂身が少ないが、肉を食った! と満足させてくれる肉であった。焼き方と塩コショウに似たナニカによって味も良い。

 だが、それだけだと舌が麻痺してしまう。だから別の何かが欲しかったのだ。それは分かってくれ!


「よくペロリといけるな」


 テラーさんとオッサンの皿にのっていたステーキ肉はすでにない。けっこうなボリュームのはずだだが、どこに消えた? いうぐらいの速度で綺麗に消えた。


「ねぇジグルド。さっきここの場所を作るのに色々小道具出していたけど、あれって村にあったものじゃないよね? どこにしまっていたの?」


「ん? ああ、それならここだ」


 何食わぬ顔で自分の右腕の下部分をカパって……ぶぇ! それ義手だったのか!


「全然気づかなかったわ。腕毛まで植毛させた義手なんて見たことないわよ」


 ミリアが半ば呆れたような声を出すと、オッサンの顔が自慢するかのような笑みを作った。


「弟の自信作じゃ。どうじゃすごいじゃろ。昔、人間との戦いで腕を失くしてな。それからしばらくした後、ワシにくれた。ダリル鉱石という物を使ってあって、微量な魔力を流しこむだけで、指先が開いたり閉じたりする優れモノじゃぞ」


 もう笑みがはちきれんばかりに右手を見せてくる。本物と見分けがつかないぞ。


「戦いか。なんでドワーフと人間エルフ連合が戦いになったんだ? そうなる理由ってなんだったんだよ?」


 オッサンの義手をみて何気に尋ねると、顔が一気に渋くなる。


「そんなもの決まっておる。ワシらが秘匿しておった希少鉱石の眠る山の情報を入手したいからじゃ」


「希少? もしかしてその義手の材料とか?」


「これとは違う。もっと希少な鉱石が採掘できる山があったんじゃよ」


 そうした話を俺達が続けていると後片付けを終えたテラーさんが戻ってきて、


「おや? 寝床の準備が出来ていませんね。皆さん、石の上で宿泊するおつもりで? あれは、疲れがほとんどとれないので勧めいたしませんよ」


 等と言われ自分たちの現状に気づき、あわてて動き出す。


 どういう理由で異世界に来てしまったのか知らないが、この3人と出会えたことは運がよかったのではないだろうか? 俺一人だったら、まだ海岸にいたかもしれないな……



 拝借してきたマントやらシーツを使い、簡易寝床を作り、さて寝ようかとしていると、ミリアが、


「向かうのは大森林でいいと思うけど、その間にヒサオには強くなってもらおうと思います!」


「俺?」


 自分を指していう俺に、コクコクと顔を縦に振られた。


「ヒサオが倒れる。私たちが会話できなくなる。あとついでに、ヒサオの面倒もみないといけない。この流れは私達にとっては危険だと思うわ。ということで強くなってもらおうと思います」


 俺の面倒はついでですか、そうですか。まあ、知っていましたけどね。だから俺を見て笑みを浮かべないでください!


「ヒサオさんに魔法の修行でも?」


「違うわ。と言うか……」


 テラーさんの質問に、ミリアが言いづらそうな顔を浮かべた。


「ヒサオ。あんたは魔法を覚えないほうがいいわよ」


 俺を直視し言うミリアの瞳から俺は逃げられなかった。

 何か強い意思を感じ、真面目に聞いてみた。


「理由は教えてくれる?」


「ごめん。これは私の勘としか言えない。そしてその勘が当たっていたら、どうなるかわからない。だから理由も教えないし魔法も教えられない」


 意味が分からないし納得も出来ないが、専門職の人がそう言うのであればと、自分を騙し納得させた。

 魔法か……出来れば使ってみたかったな。


「わかったよ。じゃあ、俺を強くするってなると、剣術とか?」


 今度はテラーさんの分野かな? 精霊憑依とかちょっとカッコよかったけど、剣を振るう様子も凄かった。テラーさんを見ながら村での彼女の活躍を思い出していると、


「剣術云々の前に、あんた決定的に体力が足りてないじゃない」


 呆れたような声音で言われ、そういえばそうでした! 所詮レベル1っすからね! と思い出す。そんでもってついでに自分を鑑定しなおしてみれば……おっと?


「ちょい報告」


 自分のステータスを見てこれは言っておかねばと口を開くと、女子二人が俺を見る。

 ちなみにオッサンはすでに寝ている。オッサンは早寝だね。


「俺のレベルが、何故か7になっている」


「レベルって強さを示すものでしたか? それがいつのまにか上がっていると?」


 テラーさんが俺に確認する為に尋ねた。

 そもそもレベルという概念が彼女達には無かったらしく、その説明にレベル=強さの数値 と最初に鑑定した時に教えてある。


「前はレベル1だったわよね? どうして上がったの? ヒサオの世界じゃ急成長するのが当たり前?」


 そんなミリアの質問に俺は首を横に振った。

 レベルが上がった理由については知らないと伝える。


「ヒサオの言うレベルってそもそも普段はどうやって上げるもの?」


「あー…レベルっていう言葉が使われるのはゲーム内の話でさ」


 ゲーム内で使われるレベル上げの話を始め、その最中に、


「あれ? もしかして盗賊倒したから?」


 一緒にいる二人が倒して回ったから、もしかしてそれが経験値扱いになって、俺のレベルが上がった? って事ではなかろうか?


「ゲーム? 遊びよね? よく分からないけど、ズルイ気がする」


「同感です。訓練もなく強くなるとか卑怯です」


 ミリアとテラーさんにズルイと言われたが、俺の責任ではないです。


(なんでゲーム仕様? ここゲーム世界じゃなかろうな?……怪しい)


 よくあるオチな気がしてきて頭痛すらしてきた。


「それも確認しないとね。なんだかヒサオって弱いのか強いのか分からないわ」


 ミリアが呆れたのか、考える事に疲れたのか、どっちともとれる声を出しながら寝る姿勢へと変えた。


「考えるだけ無駄なような気がしてきました。お休みなさい」


 テラーさんもまた寝ようと、拝借してきたシーツとマントに包まった。

 なんか俺の扱いが酷くなってないか?


 ……俺も寝るか。明日から、また大変な気がするし。


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