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第47話 決定的な問題

 謁見の間での騒動が終わりかけたが、ミリアのみが部屋の外で待つよういわれた。

 オルトナスはまだ話があるらしく、デュランと共に部屋へととどまる。


「では、外でお待ちしています」


 ミリアが、一礼し謁見の間をでていく。

 残った3人。

 いや室内には、兵や貴族などもいるのだが、彼らは王達の会話に耳を傾けるだけのようだ。


「面白い娘をつれてきたな、オルトナス」


「何かあるとは思っておりましたが、いやはや、またも異世界人だったとは私も知らずにおりまして、申し訳ありません」


「よい。それは先に聞いた。しかし、ああはいったがどうしたものか……」


 ふと悩むように目を細めると、オルトナスが一歩ふみだし両手を軽くあげた。


「先の判断でよろしいかと。しばらくは様子を見たいと私も思っておりました」


 自分の気持ちを素直に言うオルトナスに、王が細めた目を開き、背を玉座に深く預けた。


「そうか。ならば別の問題のほうが優先だな。デュラン。人間のほうはどうだ?」


「ハッ。動きは変わらずのようです。ここ数日、湖の外部周辺に軍を展開させ訓練を行っておる様子。嫌がらせにしては規模が大きすぎます」


「湖の外か。託宣が聞こえてしまうな」


 これも困った問題だと、ため息を一つ。

 同じ時期に問題が発生すると、どうしても繋がりを疑ってしまう。

 デュランではないが、ミリアが敵の内通者ではないか? という考えがどうしてもぬぐえない。それはクロスが真っ先に疑ったことと同じ意味をもつ。


「して、オルトナス。我にまだ用件があるらしいの?」


「ハイ。そのことですが、報告書には?」


 王がクロスからの報告書を手にし前へと突き出す。それをオルトナスが近づき受け取り見ると、ふうとため息の一つをついた。


「やはり、リームは感じとっていたか。クロスはまだまだじゃな」


「あの娘の才は本物よ。だが、才だけではいずれ壁にぶちあたる」


 独り事のようにいうオルトナスにデュランが反応。自分の部下なだけに、聞き流すことができなかったようだ。腕をくみ、思っていることをそのまま口にした。


「壁の。だが、大丈夫じゃろ。できた弟がおるし頼れる上司もおる。もちろんクロスのことじゃぞ」


「わかっておるわ!」


 またも喧嘩がはじまりそうな気配に王が苦笑を一つ。部屋の兵たちは、自分たちは何もみていないと態度を決めている。許されるなら耳をふさぎたいぐらいだ。

 2人の会話にわりこんだのは、王であった。


「オルトナス、その件であれば、我は貴様に一任しようと思っている」


「私に?」


「感じておったのだろ? 誰よりも先に。だから弟子いりを許可したのではないのか?」


 確認ではない。王の声はどこか楽しげだ。オルトナスを弄っているようにも聞こえてならない。


「……お見通しで」


「ということだ、デュラン。これでよいか?」


「王がきめたことなれば」


 そういうデュランの顔をみれば不服があるのが見て取れた。だが、それを飲み込もうとしているのも同時に分かってしまう。


「オルトナス、これでよいな?」


「はい。助かりました……あ」


 話が終わりそうな気配に包まれたとき、顔を再度あげ王へと、


「先日クロスたちが来たとき、こういいました。転移魔法陣の封印をたのめないかと。あれは王の命令でしょうか?」


「いや? 我が命じたのは交代での監視のみだ。そう申しつけたはずだが……デュランまて、どこにいく」


 回れ右をし、扉へと歩みだしたデュランが、ピタリと足を止めた。


「……ち、ちと急用を思い出しまして」


 その態度でバレバレである。オルトナスもまた予想していたようで、すぐに怒声を発した。


「やはりお前か! この異端児エルフが!」


「う、うるさい。全部お前がだな!」


「何がだ! 人の大事なものをお前は! そもそも王の命令を将軍のお前が曲げてどうする!」


「チ、違う! まげてなぞおらぬ、私はただどうせならばと……う、うるさい、だまれ!」


 次の瞬間、2人が互いに獲物を握りしめる。

 デュランは腰にあった剣を。

 オルトナスはエウロパ結晶から杖をとりだす。

 互いににらみ合い、まずは一手をと構えたとき、


「やかましいわああああああああ! 貴様らいますぐ、国から追放してやろうか!」


「「お、王」」


「問答無用! お前たち、こいつらを部屋から追い出せ! しばらく我の前に顔をだすのを禁ず!」


「「うぇ!?」」


「驚くときは仲がいいな……兵たちぐずぐずするな。さっさとやれ」


 言われ行動を起こす兵たち。さすがに見ていませんでは通らないと覚悟をきめ、2人の年長者たちを部屋から連れ出し始めた。


「まったく、いいかげん歳を考えればいいものを。あれで国の重鎮なのだから始末が悪い……まあ、面白い奴らではあるが」


 王の愚痴なのかどうか怪しい声に耳をかす兵はいなかった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 2人が部屋からでてくると互いに顔を見合わせ、フンと鼻息をぶつけあい反対方向へとわかれた。それを遠巻きにみていたミリアは近づいていき、


「師匠なにがあったんです? 部屋のなかから大声が何度も聞こえてきましたが」


「ああ。まあ、それはじゃな……」


 まさか喧嘩のし過ぎで国外追放されかけたとはいえず、あさっての方角をみたかとおもえば、ピンとひらめきが浮かぶ。


「エルマへの土産話で少しもめての、ほれ、街でなにか買ってかえるぞ」


「え? あ、はい。エルマ? なぜそんな話に? それも王の前で?」


「ぐずぐずするな。いくぞ」


「ちょ、まってください」


 さっさとこの場を離れようとするオルトナスを、ミリアが追いかける。

 こんなことが繰り返されているのだから、街での評判がわるくなり一緒に住まうミリアたちが心配されるのだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 自分の素性も全て教えたうえで、王の許可がもらえた。

 このことはミリアの精神に大きく影響をあたえたようで、オルトナスの感性による教えにも対応していった。


「そこはこうもうちょっとニョルンとだな」


「ニョルン……こうですか?」


「そうじゃ、その筆運びじゃ。こめる魔力はどの程度なのかわかっておるか?」


「こんな感じでしょうか?」


「そうそう。そこはキリっとメリハリをこめて、うむ。文句なしじゃ」


「よかった!」


 うまくいき、歓喜の笑みをみせる。大きな紙に描いた魔法陣の前で汗をタオルでぬぐった。


「あれでよくわかるな~ おねぇさんすごいよ」


 いまだにオルトナス言語の把握がつかめていないエルマが尊敬のまなざしを向けた。

 ミリアの進展とはうってかわり、エルマのほうはここのところ調子悪いらしく、卒業までまだまだ時間がかると言われてしまう。それにショックを受けたかとおもいきや、次の瞬間には、まあ、いいやといった声をだし、外仕事へとでていった。


「エルマって、いったい何年ここに?」


「そうさな……かれこれ12年ほどか?」


「そんなに!?」


「壁にぶちあたって先に進まんのじゃ。いや、進もうとしておらんのかもしれん」


「……師匠って、見ていないようで、見ているんですね」


 ポロっと言ってしまった瞬間慌てたように自分の口に手を当てた。

 その数日後、オルトナスは外出し、ミリアの転移魔法陣習得はおくれることになった。


 心配されたエルマであるが、


「壁ね……まあ、そうとも言えるけど、僕の場合ちょっとちがうよ」


「なにが?」


「魔力が足りてない」


「え?」


「ギリギリなんだよ。本当に。師匠もその辺わかっているみたいだけど、あの人天才すぎて、誤差分くらいなんとかなるだろ。みたいな感じでいるんじゃないかな?」


 釣りから帰ってきたエルマが、魚を解体しているときに聞いてみるとこんな話をされた。

 そんなことになっているとは思わなく、どう反応していいのか困った目をむけていると、


「ああ、気にしないでいいよ。おねぇさんだって同じ悩みを抱えると思うし」


「私? いまのところそういうことはないけど?」


「それ練習用の話でしょ? 本番のは数倍魔力が必要になるよ」


「えっ!?」


「ほら地下にある魔法陣。あれが本物だから。あれを毎日1度使用できるぐらいの魔力があるなら平気だと思うけど、おねぇさん2日に一度ぐらいでしょ? たぶん、ギリだと思う」


「ま、まずいわ」


 ここにきて、まさかの魔力足りない発言されようとは思わなかった。


「僕の場合は、成長すれば平気になるとおもうけど、おねぇさんの場合は……」


「ま、まだよ。私は育ちざかりだし!」


「……」


 ノーコメントで返した。

 解体した魚を鍋にいれ、そのまま台所へともっていく。何もいわないのは、エルマなりの情けだろう。心配したのはミリアなのに、話が終わってみれば、不安を残したのはミリアのほうだった。


(おねぇさん、なんか変なんだよね。あの歳なら十分たりるはずなんだけど、なんでだろ? 最初あった時も不思議に思ったけど、何かあるのかな?)


 本当に育ち盛りならいいんだけどとは思うこともせずに、夕飯の下準備を始める。

 本当ならミリアの仕事なのだが、少しばかりショックが大きかったようで、エルマの後をついてくることせずに、外の空き地でハァ……と深いため息をついていた。気のせいか目が死んでいるように見えた。


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