第43話 夜半の客達(挿絵あり)
深夜。
オルトナスの家の住人たちは眠りにつく。
元々疲れ果て帰宅した主は当然として、日々の生活と勉学に勤しむ弟子2人も、夜はぐっすりだ。
森の中に建てられた丸太建築の家からは、安らかな寝息のみ聞こえた。
そんな家に近づくものたちがいる。
むろん人間ではない。夕飯時の話はフラグだったのかというパターンではない。やってきたのはエルフ達だった。
この国で騎士となったエルフ達で、ミスリルでできた鎖鎧を身に着けている。
人数は3人。多くはない。
だが、戦闘を念頭においた姿だ。
腰にさげた片手剣と、背にした矢筒。手には持ち運びのしやすいショートボウ。とても狩りをしにきたようには見えない。
「オルトナス殿の家はこのあたりでいいんだな?」
先を歩く長い金髪エルフが後ろに続く男に言う。
性別は男。名前はクロス。階級は騎士兵長。引き連れている騎士たちのリーダーだ。
「はい。地図によるとそうです」
あとから続く小柄な男はヒュース。桃色の短髪に同じく桃色の瞳。性別が男というのが悔やまれるような可愛らしい顔だ。
そんな彼の背後にいる、よく似た少女が、
「早く……いこ……夜……こわい」
「ねぇさん、それで騎士試験よく受かったね」
震えた声に、ヒュースがっくしと頭をたれた。
「ん」
と、小さな声をいい、ブイサインを示す。ない胸をはって。
「褒めてないからね?」
「?」
「なんで悩むの!」
「ここは……ナデナデ……?」
桃色髪の頭を差し出し、何かを期待するような目を見せてくる。ヒュースは、困ったとばかりにクロスをみた。
「任務中だから、いくら双子とはいえ遊ぶのはほどほどにしてくれないか?」
「僕はまじめです!」
「私……も?」
どうやら姉弟らしい。真面目な弟と、困った姉という感じのようだ。
「いくよ2人とも」
クロスの声に2人がそろって頷き、3人は先を急いだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
玄関扉がコンコンと叩かれる。誰も気づかない。家の住人たる3人は皆2階で夢見心地で睡眠欲求に身をまかせていた。
さらにコンコンと叩かれる。
むくっと起き上がったのは、ミリアであった。
「ン……なに?」
起きたはいいが、自分が何で起きたのか分からなかった。金の髪がボサボサである。
「ン……」
そのままベッドにパタリ。寝なおそうとする。すると、またもコンコンと音がして、ガバリと布団をあげた。
「下? こんな時間に?」
一瞬風かと思ったが、そういう物音ではないことに気付き、寝間着の上に茶のガウンを羽織る。
この家にあったもので、誰も着るものがいないからと、使わせてもらっているものだ。
下に降りていこうとすると、エルマが眠っている部屋から物音が聞こえてきた。起きたのだと思い、扉を軽くノックした。
「エルマ起きた? 誰かきたかもしれないから見てくるわ。師匠を起こしておいてちょうだい」
「わかった。気をつけてね」
互いに緊張した声で話をすませ下へと降りていく。
トントントンと降りる足音が聞こえたのか、玄関扉が再度叩かれた。
「はいはい。どなた?」
扉が叩かれた音には敵意がなかったので緊張を緩める。だが、手にはしっかりとトルク宝石の指輪がつけられていた。
「夜分すいません。オルトナス殿はいませんか?」
礼儀正しい声がし安堵の息を吐く。来客かと扉をゆっくりと開くと、そこには騎士姿のクロスが立っていた。
「どなた?」
「はい。私は騎士兵長のクロスと申します。こんな時間にもうしわけありませんが、オルトナス殿に合わせてもらえないでしょうか?」
「……はいって。いま起こしてもらっているから」
クロスとその後ろにいるヒュースたちの姿をみて、ただ事ではないと察し中へと招き入れた。
「奥の部屋で座って待ってもらっていいですか? いま飲み物を用意します」
「ありがとうございます」
クロスのみが礼をいい、3人が奥にあるリビングへと向かう。普段の食事も済ましている場所だ。
いったい何事なのかと考えながら湯を沸かし始める。ささっとカプティー茶をつくり、客間へと運んでいくと、階段をおりてくる音が一つ。
「誰じゃ? こんな時間に……と、クロスではないか」
オルトナスの知り合いのようだ。
一目みて名前をいい席へと座った。エルマは下りてこないようだ。
クロスは座っていたが、ヒュースとリームはクロスの背後に立っていた。
「オルトナス殿。もうしわけありません」
「なんじゃ? こんな時間にくるとは?」
2人が軽く挨拶をする横から、ティーセットを置いていく。中はもちろんカプティー茶。
そのまま話を聞こうと、オルトナスの横へと座った。
「そちらは?」
「ああ、住み込みで教えている弟子じゃ」
「そうですか……」
「なんじゃ? 聞いたら不味いことか? ならば、席を外させるぞ」
「いえ、そうではないです。どちらにせよ、知ってもらうことになりますし」
そう前置きし、クロスが話を始めた。
「オルトナス殿は、人間たちが何かを始めたのはご存知ですか?」
「ああ、その話か。噂程度には聞いたが、それがどうしたんじゃ?」
「実は、つい最近、結界外近くで軍事行動をしているのを見かけた者がいるらしいのです」
瞬間、緊張が走り、ミリアが口にしようとしていた茶をテーブルの上においた。
「それが噂の元か。しかし、この土地には手出しできんじゃろ。結界もあるし、託宣も働かん。おまけにここの土地は空間魔法によって歪曲されておる。下手に手出しなぞできんはずだ」
「私どももそう思ったのですが、ほぼ似たような状況にあったダークエルフの森が3ヶ月前にやられたことはご存知ですか?」
「知っておるが、あの土地はアグロの街の託宣封じに頼っておったのじゃろ? 不完全な状態だったはずじゃ。それに獣人たちもあの時は従軍しとった」
「そう聞いておりますが……それが不安の元になっておりまして…」
クロスが何かを隠すような言い方をしたのをみて、オルトナスはピンときた。背を椅子に深くつけ、
「なるほど。まあ、考えんでも分かることじゃが……命令したのは王家か?」
「……私の口からは……あの、それでですな、できれば、この家にある転移魔法陣を封印してもらえればと」
「何!?」
怒りを含む声をだし、席をたった。そうしたオルトナスの態度を見たクロスは、両手を前にだし焦った声をだす。
「いえ、できればです。それが駄目であれば、我々をこの家においてもらい、魔法陣の監視にあたれという命令でした」
「封印まで考えるのか? アレの転移先は人間が支配している土地は除外しておるぞ? それは王にも伝えてあるはずじゃ。今更なぜそんなことをいいだした?」
「そこでダークエルフの森がでてきます。なぜあそこの結界をやぶり、人間たちは襲えたのでしょう?」
「え?」
事情を知っていたミリアが唐突に声をだした。
「どうした?」
「……いえ」
フッと顔をそらす。事情を聞き知っていたミリアは、どうしたものかと考え始めた。
最初ドワーフを匿っていたときに襲われたのは託宣によるもの。
完全に託宣封印ができずにいた為、ごく一部の部隊が託宣の指示に従い手薄になった村を襲撃してきたと聞いている。
これはその時の襲撃者たちが、得意気に口にしたのを生存者が聞いたらしいから確かだ。
(この人たちは知らない?)
異世界人である自分ですら知っているのに、なぜこの人たちは? ……あ、そうか。
「少し質問していいでしょうか?」
「どうしました?」
クロスの声と、オルトナスの怪訝な表情をみてから、
「この国は、他国との連絡がほとんどとれていないのでしょうか? ダークエルフの森が襲われた経緯について、私は少し知っているのですが」
「なっ!?」
ガタリと立ち上がったのはクロス。オルトナスは苦い顔をする。何を思っているのか、よくわからない。
「ちょっとまってください。確かに我が国はあまり他国との国交は……もしや、あなたは外から?」
「ええ。まあ。そうなります」
頭の切れる男だと考え、その点についての隠し事はやめた。
異世界人であることは隠す必要があるが、これはもしかすると、
(場合によってはしゃべたほうがよさそうね)
覚悟を決めて、会話の続きを始める。
「詳しくお聞かせしてもらえても?」
「はい。私が聞いた話によると……」
そういい、ミリアはフェルマンから聞いた話を、あくまで噂として話始める。
「ドワーフを匿っていたとはワシも初耳じゃな? 生き残りがおったとは」
「それも知らなかったんですか。隠していたわけではないんですが、師匠すいません」
「いや、良い。ワシもこの手の話題はせんかったしの」
もっと大事なことを隠しているんだけど、ほんとごめんと、心のなかでミリアは謝った。
「ん? いやまってください。それはもしかして、1度目の襲撃の話では?」
「え? 1度目?」
「はい。襲撃は2度ありました」
今度はミリアが驚き、尋ねてみる。
「1度目の襲撃で村が襲われ、2度目の襲撃で森が焼きはらわれました。このとき、森にあった結界が完全に消失したようです」
「それが3ヶ月前?」
「はい。そして、その数日前に軍が森の前で陣をはっていたとか。確かそのときは、すぐにひき帰したと聞いています」
「陣……そしてひき帰した? なぜ?」
「さぁ? それこそ人間達の行動ですから、託宣があったのでは?」
「……」
考えてみる。
自分が村に滞在したのは1日だけだ。そしてその時はまだ村があった。
時間軸で考えれば、あのあと森が焼き払われたのだろう。
では、その前の軍がやってきたが、ひき帰したというのは?
(あの時?)
記憶を探り思いだす。
自分たちが森にはいり、ジグルドがさらわれた時。
たしかに、森の前に待機していた部隊をみた。あれがそうなのだろう。ということは、自分たちを捕らえたあと、軍はひき帰したということになる。
(わざわざ、私たちを捕らえるために軍を動かした? やることが大げさすぎない?)
だが逆に考えると、自分たちをそれだけ危険視しているということになる。脱走したときも、すぐに追っての部隊を派遣したのだから、あながち間違ってはいないのだろう。
「何かわかりました?」
考えごとをしているミリアにクロスが期待をこめた声で聞いてくる。
どういったらいいのだろうか? いや、どこまで話していいのだろうか、と一瞬考えたあと、
「いえ、2度目の森を焼き払った話について考えていたのですが、やはり聞いた覚えがありません。それは確かな話なのですか?」
ミリアが逆に尋ねかえすと、クロスの手がピクリと動いた。
「それはどういう意味でしょう?」
声は冷静だが、いままでの気配とは多少違っていることに気付く。
「クロス。この娘は、その3ヶ月ほど前まで外におったらしいのじゃ。じゃから、自分が知らない話を、なぜワシ等がしっておるのか不思議でならんのじゃ。悪気があるわけではない」
オルトナスの援護がはいり、内心で助かったと安堵する。が、
「3ヶ月前? ……そうでしたか。これはまたタイミングが良すぎるのでは?」
クロスから一瞬殺気が漏れた。それを察知したミリアはわずかに腰を浮かしそうになったが、気取られるのを恐れ強引にやめる。
「どういう意味です?」
「それを私がいうのですか? 3ヶ月まえといえば、ダークエルフの森が焼き払われたあたり。おそらくその後に、あなたはやってきたのでは?」
「たぶん、そうだと思います。それが何か?」
「……もうひとつ。あなたは、なぜ、ダークエルフ達がドワーフを匿っていたのを知っているのです? 匿っていたというのであれば、彼らは秘密にしていたはずですが?」
「それは……」
まずいと、冷や汗をタラリと流す。
クロスの言う通りだ。
ミリアが聞いた話は、そのダークエルフに聞いたのに、噂で聞いたといってしまった。
それに、3ヶ月前といえば時期的にも関係性があるように聞こえてしまう。
おまけにこの男は、この国への危険性を感じ、ここにきたのだろろう。ということは、自分に対して不安をもって当然だ。
「あなたは、知りすぎではないでしょうか?」
まったくもってその通りだと、自分の迂闊さを呪った。こういうときに、ヒサオがいてくれたら、彼のスキルで切り抜けられそうなんだがと思うが、いないのはしょうがないと諦める。
「わかりました。本当のことを言います。ですから、そちらの2人を抑えてもらえませんか?」
チラっとクロスの背後にいる2人の少年少女を見て言う。すでに剣を抜きそうだ。
「ヒュース、リーム」
名前を呼ぶと、彼ら2人は、すっと姿勢を戻す。
「これで?」
「はい。では……」
もはや、転移魔法陣の習得は諦めるかと、ミリアは全てのことを語り始めた。
ここでさらに誤魔化し、それを嘘だと見抜かれたら、もうこの地にいることもできそうにないのだから。
普段のヒュースとリーム
挿絵は普段の姉弟です。
右が弟のヒュース 左が姉のリームとなります。
きゃらふと というソフトを使っていますが、このソフトは男キャラを作れません。女キャラでヒュースを作ってみました。




