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第41話 ミリアの成すべきこと

ミリア「私が主人公だと証明できそうね」

ヒサオ「おい、作者!」

作者「頑張って、ミリアちゃん!」


 ミリア=エイド=ドーナ。


 彼女は今回の異世界経験で3度目となる。


 1度目と2度めは魔王討伐を目的とした召喚によって。

 そして2度目の世界で帰ることができなく、いまの世界に何の因果か来てしまった。

 同じ生涯で3度も異世界にくるような経験をしたものがいるだろうか?

 どれほどの不運が重なればそうなるというのだ。

 本人にとってみれば、厄災としかいえないだろう。

 異世界にいきたい人々もいるだろうが、彼女は全く違うのだから。


 だが、ここユミルという国にきてからの彼女はついていた。

 まず、転移魔法陣の設置場所がよかった。

 製作者であるオルトナス=エウロパが、エルフの国のどこに設置しただろうか?

 製作者がまず考えること。

 自分にとっての便利性を考える。ともすれば、設置場所は容易に想像できるのではないだろうか?


 森の中に作られた丸太を組み合わせた家。癒されること間違いなしと宣伝文句すらつきそうなログハウス。

 そんな家に転移して最初に目にしたのは、地下だった。

 湿気がほとんどなく、わりと居心地がよさそうだ。かといって長くいる気にはなれないが。


 部屋からでて、まずは誰かと接触しようと行動しだす。

 そこが一軒家だと知るのはすぐだった。

 家の住人である、若草色の短髪少年エルフと出会い聞いたのだから。


「え? あれ? 君だれ?」


「あ、え、うん。落ち着け私。とりあえず言葉は通じる。うん。よかった」


「あ、あの? だから、君だれ?」


「私は、ミリアといいます。突然お邪魔してごめんね」


 相手が若い少年エルフとみて、ごめんねと言う。

 そこはすいませんだろう、と、ヒサオがいればツッコミをいれたかもしれない。いやないか。ヒサオだし。


 無意識に両手を合わせて、ごめんねのポーズ。

 可愛いかもしれないが、相手の少年は素で可愛いぞ。


 麻で作られた作業服のように単純な衣服。汚れのあとも目立つし、いまさっき外仕事から帰ってきたような感じだ。

 ミリアより背丈が小さく線の細い体形。エルフは総じて華奢なのが多いので、むしろ少年が普通だろう。

 純粋無垢といった綺麗な顔立ちをした少年が、ミリアをじっと見つめて、こういった。


おば(、、)さん、どうして地下から? そこに……いたたたた! おば(、、)さんやめて!」


「……」


 無言で梅干しだった。ミリアは梅干しを知っていたようだ。

 少年のこめかみを両こぶしでグリグリ。初対面の少年に対して、しかも無断侵入ともいえる行為をしておいて『おばさん』の一言で梅干しをしてしまう。さすがミリアというべきか。

 ついでにいえば、ミリアはおばさんには見えない。少年より若干上なくらいだ。梅干しも仕方が無いだろう。


「おねぇさんやめてよ! 痛いよ!」


 パッっと手を放す。

『あらやだ』とかまったくいわない。

 ジッと少年をみつめ、分かっていて言ったわね。と思う。離してほしい一念で『おえぇさん』と言い直したのだから確実だ。純真無垢とは誰がいったのだ。


 見た目とは違い、裏がありそうな少年の名前は、エルマ=トーレスといった。

 言葉が通じることを確認したミリアは、アグロの街に設置してある転移魔法陣からやってきたと説明する。そして、すぐに戻るという事も。


「あれ? おねぇさん戻れるの? その魔法陣、使用するのにけっこう魔力つかうけど?」


「私ぐらいになれば、そんなの……」


「どう?」


 まったく反応しない。

 ミリアの魔力に反応し、起動式が発動するはずなのだが、兆候がまったくなかった。


「戻れない……どうしてよ!」


 あっさりとダメなことが判明した。どうしてもこうしても、今さっき、エルマがいったはずばかり。苛立ちを覚えながらも、仕方がないと1日待った。


 そのあいだ、エルマに色々尋ねてみると、そこがオルトナスが住まう家である事と、エルマが弟子であることが判明。ヒサオが冗談めいた口調で『会えたら』とはいっていたが、まさか一発目から本人の家に転移するとは想定外すぎて『ハハハ……』と乾いた笑いが出たのを、エルマは不思議がってみていた。


 エルマの師であるオルトナスは、ちょくちょく出かけるらしく、その帰りを待ち魔法陣の教授を願うと、


「良いぞ。しばらく暇になるしの」


 と、あっさりと言われてしまう。


 オルトナス=エウロパ。

 エルフというのは、歳をとってもさほど外見には表れない。そのためか、彼もまた若い姿を保っていた。


 人間とは違い腰を折り曲げることもないし、眉間にシワが複数あるわけでもない。ごく一般的なエルフ同様、美形だった。

 中途半端に伸びた銀髪に、切れ長の銀の眼。無駄に整った顔だち。旅の吟遊詩人といっても通じそうだ。


 さらにこのオルトナス。そんな顔であるにもかかわらず、口調が爺さんのそれ。人間が聞けば、落差が酷く慣れるまで時間がかかりそうだ。

 魔法使い用の薄青い外套を愛用しているのか、ミリアが知る限り外出時はかならず着用している。


 言うミリアも、ここにくるまでは天の長衣を長く愛用していたが、ここにきて色々と服装を変えていた。

 本日は若草色のシャツと灰色の半ズボン。

 若作りだとエルマが口にだしミリアに”拳”で殴られた。すでに日常となりつつある。懲りないエルマはその()があるのかもしれない。


 そんなオルトナスに教えてもらい転移魔法陣を覚えようとしているのだが、この男、天才である。

 練習用として用意された大きな紙。その上に紫炎水が混じった墨で魔法陣を描くのだが、


「そこは違うじゃろ。もっと魔力をバーンと込めろ。全体のバランスをニョーンと感じるんじゃ」


「バーンとか、ニョーンとか、ほんとやめてよ」


 いまのミリアは魔力感知ができる。

 エルフとして十全に力を発揮できるのだ。

 だが、そのエルフとしての能力を使っても微細すぎる魔法陣の魔力バランスは、把握し切れるものではない。

 それをこの調子で教えられるのだから、頭を悩ませてしまって当然だった。

 その微細な差を把握できる天才。それがオルトナスでありヒナガ=メグミだった。


 さらにいえば各地で設置された転移魔法陣は、メグミの卒業課題だったらしい。聞きたくもない裏話である。街の住人が聞けば、卒業課題につかわれたのかよアレは! と多少の憤りを覚える可能性だってあるだろう。


 そのヒナガ メグミについてだが、エルマに注意されたことがある。


「魔法陣のことを教えてもらうのはいいけど、メグミさんのことは聞いちゃだめだ」


 普段と違いピリっと気を張ったようなエルマの声に理由を尋ねてみると、


「僕も分からないけど、師匠はあまり話たがらないんだ。聞くと機嫌も悪くなるし、すぐ話を変える。だから、転移魔法陣を覚えたいなら、それだけが知りたいといった感じで話すといいよ」


「何かあるのね……分かったわ。忠告に従うことにする」


「それがいいよ。最も覚えられるかどうか、それすら怪しいけどね」


「なに? 私を舐めてるの?」


「違うよ……まあ、教えてもらえば分かるさ」


 苦笑いをし耳をピコピコと動かしたエルマであった。

 その理由が、オルトナスの教え方に理由があったことを知るのは後日となる。



――そんな感じで、ヒサオ達と別れてから3ヶ月が経過していた。


「ハァ……困ったわ」


 自分で描いた魔法陣の前で、がっくりと頭をうなだれ、使っていた筆を墨のはいったバケツに入れた。

 場所はミリアの部屋として用意された2階の元物置小屋。

 ベッドと箪笥のみがあり、あとは練習用の紙を広げるためのスペースがあった。

 窓ガラスといったものがなく、掃除をすると咳込む毎日である。


「よく言うよ。制限時間内に式だけを書くなら完璧じゃないか」


「それだけじゃだめよ。ちゃんと式が稼働するための魔力バランスを考えないと」


「知ってるよ。でもここまで3ヶ月でこれたんだ。十分早い」


「そうなんだろうけど」


 もし、半年で習得して再会するなんて言わなければ、あるいはこんなにも焦らなかったかもしれない

 また、帰還魔法が存在していれば、一足飛びにそっちを習っていたかもしれない。


 だが、ないのだ。


 イルマがいったとおり、この国でも帰還魔法の類は存在しなかった。


 オルトナスには、自分が異世界人だということを隠している。知れれば、メグミのことが連想されてしまうし、どことなく拒絶している節が見られる。

 エルマがいったように、彼はメグミに関する何かを恐れている節が見られるのだ。

 だから、そういった類のことはエルマに聞くのだが、成功したという話は聞いたことがないと言われてしまった。


「師匠もでかけちゃったな~ おねぇさんどこかいかない?」


「あんたね、たまには洗濯ぐらい手伝いなさいよ!」


「やだよ。家事はおねぇさん。僕は外仕事ってきまったじゃない。やだな~忘れたの? もしかして、けっこうアレきてる?」


「その喧嘩かったわ」


 少年に煽られ、台所で包丁を握りしめ、シュっと投げればトンとエルマの顔付近を通り壁に突き刺さる。

 頬にすり傷ができて血がタラリとでれば完璧だが、そこまでいかないようだ。

 エルフといえ万能ではない。そして、普通のエルフはこんなことをしない。ミリアはどこで覚えたのだろう。2度にわたる異世界経験は伊達ではないということか……

しばらくはミリア編となります。

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