第40話 別離
取引が済んでからの数日は忙しかった。
まずミリアがエルフの国であるユミルへと転移。
ところが帰ってきたのは翌日だった。
理由について聞いてみると、
「あの転移魔法陣を作動するのに、結構魔力を使うのよ。私でも連続使用は無理で丸1日休んじゃった。あと、言葉は大丈夫だったわ。ただ、エルフ語のみだったけどね」
そんな理由かららしい。
あと、なんだか良く分からない事が1つ。
「それにヒサオ……あんたが言った事、それに近い事がおきたわよ」
「俺が? なに言ったっけ?」
本気でなに言ったか覚えていないんだが、悪戯した後の女子のようにクスクス笑っていて……ちょっと鼓動が早まってしまった。
オッサンとコリンについて話すとすれば、すでに荷物をまとめ街を出ていった。
もちろん、フェルマンさんに頼まれた何かを成すためにだろう。
「すまんが、しばらく連絡をとれんと思う。ミリアの言った半年を目途に一度は戻ってくるつもりじゃが、それも約束するのは難しい」
「ジグ様を、しばらくお借りするのです。本当に有難うなのです。あと、ヒサオ様。戻りましたら、ぜひともジグ様攻略の手ほどきをお願いするのです」
「しません」
なんだそのオッサン攻略って! わけわからんにも程がある。
2人は多少の荷物を馬に載せ、俺達が見送る中、アグロの街を去っていった。
獣人達について言えば、彼らは、この街に残る事になった。
大将であるイルマがいなくなるから建国を進めることもできないし、人間達に襲われる危険性もありで、この街で匿ってもらうことになったらしい。
イルマがいない間は、獣人達をまとめるのはテラーになったが、捕らえたままになっている人間達の処置についてどうしようか悩んだ。
「どうするつもりじゃ?」
カリスさんがイルマへと尋ねると、彼は、
「どうもこうも、エサだけ与えて牢にでも入れておいてくれ。一応ジェイド王子の命令で来たわけだし、交渉材料になるかもしれねぇ」
そのジェイド王子というのが、どういった人なのか分からないが、託宣にない取引にのってくる人なのだろうか? その辺りはまったく情報がないから分からないが、俺が口出しするような話じゃないなと、聞き流す事にした。
結果だけを言えば、イルマの言ったとおり、地下牢にぶちこまれたままになるらしい。
街に残るゼグトさんは、この街に一緒にきたダークエルフ達と共に、自分たちの住居建築を始めたようだ。
いままでは借宿に住んでいたらしいが、いつまでもとはいかず、汗水たらして大工仕事を始めていた。ちょっとファンタジーぶち壊しの光景だったが、しっかりと写真を撮っておいた。
そろそろバァちゃんとも話をしなければならないだろうし、その時の証拠写真の一つに……使えるのか? まぁ、コタなら喜ぶだろう。あいつにも送っておこう。
で、そのバァちゃんなんだけど、ついに電話がかかってきた。
「バァちゃん……」
『ヒサオ……なんだね?』
「う、うん。なんかごめん」
『無事なんだね? ごはんは? お金は? 誰かに騙されているとかじゃないんだね? ホントそこは、どこなんだい。バァちゃん迎えにいけないのかい? コタ君と恵子ちゃんが来て、色々言ってるんだけど、バァチャンさっぱりだよ。いせかいってどこの国なんだい? 飛行機で行けるのかい?』
「い、いや。バァちゃん、ちょっと落ち着いて」
『これが落ちつけるかい。1週間も連絡も無しで、バァちゃん、ご近所さんに聞いてまわっちゃたよ。コタ君は友達の家に行ってるとか言ってたけど、それも嘘だったとか言われたときは、もう警察にいくしかないと思っちゃったじゃないかい」
「あー…バァちゃんそれは止めて。というか、警察に行ってもどうにもならない場所にいるから」
覚悟はしていたけど、やっぱり矢継ぎ早に色々言われたな。
こうなりたくないから、説明頼んだんだけど駄目だったか。
最初から無理な話だったし、しょうがない。
『でも、どうすんだい? 戻ってこれないのかい?』
「あ……」
どう言おう? 糸口みたいのは見つかったけど、本当に細い糸だし……希望持たせていいんだろうか?
……いや、違うな。これは。
「戻るよ。絶対帰る」
『本当かい?』
希望をもたせる? なに言ってんだ俺は。
頑張らないといけないのは俺じゃないか。
他人ごとみたいに思ってんじゃねぇよ。
「うん。家に帰ってご飯を食べたいからね」
『そうかい! じゃあ、バァちゃん、新米用意しとくよ』
新米……くいてぇ~な~
「それいいな。頑張るけど時間かかるから、腹減らして帰るね」
『そんなにかい? じゃあ、お米送ろうか?』
「無理無理」
やっぱり分かってないか。送ってほしいけどな。
「安心は出来ないだろうけど、コタとも連絡とるようにするから」
『……わかったよ。バァちゃん待ってるから、ちゃんと連絡よこすんだよ』
「うん。じゃあ、また電話するから。あとコタと恵子にも有難うって言っておいて」
『そんなの自分でいいな』
「それもそうか。んじゃまたね」
『元気でいるんだよ』
「バァちゃんも」
……プチ――ツーツー
……ハァ。久しぶりにバァちゃんの声聞いたせいか、ちょっときちゃったな。
でも、なんか腹が据わった。
よし、俺も魔王とやらに会いにいく準備をするか!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「じゃあ、カリスさん、行ってきます。面倒かけました」
「ああ。魔王様によろしくな。妙な真似はするなよ」
「そんな事はしませんよ。それにイルマのことも引き受けます」
「ハ? 俺の事を引き受けるだ? ガキがいっちょまえ言ってんじゃねぇよ」
「ガキでも何でもいいけど、謁見したいんだろ? 同盟結びたいんだろ? だったら、大人しくついて来いよ。そしたら会えるって」
「……? お前、何か変わったか?」
「そうかもな。でも、別にいいだろ。じゃあ、また来ますんで!」
キリがないと思い、イルマの肩をパンと叩き魔法陣に乗る。
紫の火がともり、魔法陣の起動が確認できた。
「エーラムへ!」
こうして俺たちはバラバラになる。
だけど、絶対再会出来ると信じてる。
その時、俺は必ず、何かの手がかりをもって帰ってやる。
俺は、絶対帰るんだからな! 待ってろよ魔王!
1部これで終了です。
いかがでしたでしょうか?
引く続き2部を楽しんでいただければ、非常に嬉しいです。




