第38話 それぞれの夜
夜の事だ。
オッサンも寝静まり、俺もウトウトとしていた。
携帯を見つめ、鳴らないだろうか? と考えていた。
コタの奴が、こっちから電話しないように言うから我慢しているけど、すでに2日目。
でも、向こうでは5時間近いって感じかな?
その間に恵子を味方に引き込んで、バァちゃんに話をして理解させる…か。
「無理すぎる」
今更だな。そう、思いつつ苦笑してしまった。
すでに70過ぎのバァちゃんに、どう説明したら理解してもらえるんだろう?
孫が突然異世界に行って、人間に追われながら、エルフとドワーフと一緒に旅をしています。竜王さんの保護が得られて、もうじき魔王に会いに行きます。
俺なら「何言ってんだお前。漫画の見すぎだろ」ってまず突っ込むな。
コタ。
お前、難易度高いミッションやるんだな。骨は拾えないけど、頑張ってくれ。
恵子に説明することも難し……いや? あいつは漫画好きだから、簡単に説得されるかもしれないな。
コタと恵子は、俺の幼馴染的な2人で家も近い。
本格的に遊びだしたのは小学校になってからだけど、これは俺が保育所や幼稚園にいかなかったからだ。
別に待機児童ってわけじゃないぞ。
親父もいない。母親もいない。
そんな俺をそういった場所にいかせたら、心ない言葉で傷つくだろうと判断したらしい。
もっとも小学校で、その心ない言葉でグサグサ攻撃されてはいる。
無論、しっかり反撃しておいたけどな。
まあ、そんな過去話はおいとくとして電話だ。
何かしらの考えがあるような感じだったけど、どうしようかな?
電話は駄目か……あっ!?
「メールならいいんじゃね?」
何故そう思うかだと?
簡単だ。
そうしたいからだ。
後でコタに聞かれたら「メールだし! 電話じゃないし!」と、誤魔化せるからだ。
――誤魔化せないと思うけど。
「よし、さっそく!」
まず相手だな。
コタ……は論外だな。絶対なんか煩く言う。
恵子は……。中学に入ってからあんまり連絡とってないんだよな。
そもそもメールアドレス知らん。コタとはよく連絡してるらしいから、もしかして付き合っているかも?
学校の同級生は……。まあ、数人知っているけど、1度もメールした事がない連中がゴロゴロ……ボ、ボッチじゃねぇし!
バァちゃん。
メールしても読まないだろうなー…そもそもメール開けるだろうか?
あれ? こうなると相手がいないような……
「き、気のせいだ。俺だって誰かいるはずだ」
登録されている相手をサラっと見ていく。
見事に、誰もいないな。
付き合いの深い連中は、あの2人だけだし。
家族もバァちゃんだけだし。
学校の先生? 余計話がおかしくなりそう。
「やべ。こうしてみると、俺ってコミュ障予備軍だわ」
違うと思うが、現実が俺を追い詰める。
…………よし、寝よう。
あれだ。ここ異世界だし。現実というのとはちょっと違う気がするし。うん。寝よう。
そう、思いきや携帯が鳴る。まるで『逃がさねぇよ』と言いたげに。
「恵子か。なんてタイミングで……もしもし」
『もしもし、ヒサ君?』
「うん。俺」
『今、コタ君と一緒にいるんだけど、あ、勘違いしないでね、別に変な意味で一緒ってわけじゃなくて、これは、なんというか、コタ君が突然やってきて』
「分かっているよ。コタから俺の現状について話聞いた?」
『…うん。あと写真も見せられた。ちょっと信じられなくて、それなら直接確認して見てくれって言われたの』
「それで電話か。コタがどう言ったのか知らないけど、見せられた写真ってのは、エルフとドワーフが写っているやつ?」
『そうそれ! エルちゃん素敵だよね! あとドワ子ちゃん可愛い! これ大きく印刷してもらうんだ!』
「あ、はい……お前もか」
オッサン哀れ。恵子にも無視されてしまった。
『なにが?』
「いや、何でも。それより、コタからどう言われた?」
『ヒサ君が異世界にいて、いまエルフやドワーフと旅をしているっては聞いた。どうしてそうなったとか、戻ってこれるかどうかとか、そういうのは話してくれない。まず、電話をして確認してみてくれって言われて、それで……ヒサ君大丈夫なの?』
「今のところは何とか」
『それでどうしてそうなったとか、教えてくれる?』
「その前に、お前信じたの?」
『え? うん。だって、早苗おバァちゃんの様子もおかしかったし、何かあった? とは思ってはいたの。そこにこんな話だし、いくら私が漫画好きっていっても、こういう冗談をコタ君が言うとは思えない。ヒサ君なら言いそうだけど』
「なぜ俺なら言いそうなのか問い詰めたいが、止めとくとして、そうか……」
思ったよりバァちゃんがヤバそうだな。そろそろ警察に駆け込むかな?
ああ、でもコタが上手く言ってくれたんだっけ? そこはコタ頼みだな。
「だいたいコタに話した通りだ。こっちは今、夜だから大きな声もだせないし、長話もしていられない。なので簡単に言うぞ。コタのいう事は本当だ。だから、恵子も協力してほしい」
『それは良いけど、何を協力したらいいの?』
「まずは、バァちゃんを助けてやってくれ。説明するのは大変だろうけど、俺から電話して説明しても、混乱するだけだと思う。とりあえず、そっちの方を頼みたい」
『説明……異世界の説明。うーん……やってみるけど、上手くいくかどうか分からないよ?』
「まあ、そうだろうけど頼むよ。その後の事はまだ考えてない。コタと相談して、なんとかやってくれ」
考えていないも何も、バァちゃんの事だってコタが考えて実行しているだけ。丸投げといってもいい話だな。
『なんとかって、アレだね。夕飯のオカズを聞いたら、何でもいいって言うお父さんと一緒だね』
「微妙に違うきがする……」
『分かった。あと、コタ君も言ったと思うけど、早苗バァちゃん、本当に心配しているからできるだけ早く帰ってきてね』
「もちろんだ」
『本当に? ヒサ君、昔から状況に流される所あるから心配だよ』
「あ、あのな。それは、周りが煩く言うから、しょうがなくやっただけだよ」
『そのしょうがなくで、普通は色々出来ないんだよ。今回のヒサ君は、とにかく早く帰ることを考えるんだよ。それ以外は禁止!』
この後も延々と話しが続く。
ほとんど、恵子からの一方的な注意だ。さすがに煩くなってきたな。
「分かったって。もう切るぞ。寝るからさ」
『ああ、待ってコタ君がなに』
――ブチ
「あ? コタがどう……切れてる」
突然電話が切れた。
なんだ? コタが無理やり電話切ったとか?
よく分からんけど、次回はこちらから電話してみるか。今日はもう寝よう。
それにしてもやっぱりバァちゃんを心配させちゃったか。
突然失踪した母さんの事もあるし……
あ! 元勇者メグミの話をするの忘れてた。
まぁ、次回でいいか。確認とれてないし。
本当に寝るとしよう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
地下牢に入れられた獣人達3人のうち、眠れたのはイルマだけだった。
「こいつよく寝れるな……」
同じ牢屋にいれられながら、呆れた顔と声を出したのはエイブン。
「イルマは昔から、すぐ眠っていましたよ」
「確かに。こいつほど図太いやつを俺は知りません」
鉄格子を挟み向かいの部屋から聞こえてきた声はテラーのもの。
「しかし、いくらなんでも、明日にはどうなるか分からないというのに、これですよ? どういう神経しているのか分からない」
「そうは言いますが、エイブンは昔からイルマと一緒にいるじゃないですか」
「腐れ縁です。それに俺はこいつより、テラー様に付いている方が多かったはずです」
実際、海岸で見張りをしている時も、伝令兵としてついてきている。
「それには感謝しています」
「ああ、いや、そういうつもりじゃないですから! 頭なぞ下げないでください」
暗がりの中で、ペコリと頭をさげたテラーを見て、エイブンが慌てた声をだした。
「いえ、この際だからいいますが、エイブンには感謝していますよ。昔からね」
「テ、テラー様……」
「私の夢に付き合ってくれて有難う」
「つ、付き合うとかないですから! 俺がす、す、好きにしただけです!」
「エイブン? なぜ、そんなに声をつまらせるのです?」
「いえ! ちょっとホコリが喉にですな! ゴホゴホ」
「大丈夫ですか? 困りましたね。ここの兵にいっても薬等くれないでしょうし……」
「大丈夫ですから! ほんと気にしないでください!」
話せば話すほど、何故かエイブンの体調が悪くなっていく。
「ゴホン。と、所で、つかぬことを聞いていいですか、テラー様?」
「何をです? 今更、遠慮もいらないですよ」
「ゴホゴホ!」
遠慮いらないとか言われただけで、これである。
「えーと、はい。なぜ、イルマの手をとったのですか? こいつは昔から大口たたきますが、だいたい見切り発車するやつですよ?」
「……その事ですか」
「はい。あの人間の女、テレサでしたか? あの部隊長やラーグスに呆れてしまったのは分かりますが、だとしても、イルマについていくのはどうかと思うのです」
「そうですね……わたしも、ちゃんとは説明できないと思いますが……イルマの部下達の顔と、私の部下達の顔が違っていたからです」
「顔?」
「私の部下達からは、私に付いてくる。という気持ちが見えました」
「はい。もちろんです。私もそれは良く分かります」
自分がその筆頭だとは口にしなかった。恥ずかしかったらしい。
「ですが、イルマの部下達は、一緒に笑っていました」
「はぁ? たしかにこいつは部下と一緒に良く酒を飲んでいますね」
「ええ。そうしたイルマを考えると、私は、私一人の夢で、みんなを引っ張っていた…そんな気がします」
「? それが悪いのですか?」
「……イルマは、引っ張るというより、一緒に進む、という感じに見えました」
「こいつが?」
床に眠ったイルマを見て「はぁ? この馬鹿か?」と言いたくなったが止めた。下手に起こしたくないのだろう。
「ええ。私一人が引っ張るより、イルマのように、困ったら誰かに恥ずかしげもなく頼るのがいいのでは? そう思いました」
「……そういうものなんですか?」
分かる様な分からない様なと、理解するのに苦しみ始める。
「すいません。私自身、何故こうしているのか分からないので、これ以上説明できません」
「はぁ…いえ、テラー様が悪いわけではないのですが…」
聞いたが、益々よく分からなくなった。
ただ、テラーが自分で考えた上で、イルマに従っているなら、それでいいと自分を納得させる。
「エイブン、もう寝ましょう。また明日、イルマが何か無茶をしでかすかもしれませんし。体力は蓄えておくべきです」
「……そうですな。どうせこいつはまた無茶いいだすでしょうから」
そう言い、頭をテラーへと一度さげ、エイブンも体を横たえる。
幼馴染2人が横になったのを見て、テラーは溜息を一つ吐いた。
「ヒサオ、ミリア、ジグルド。あなた達がもし私を恨み、イルマの邪魔をするのであれば……」
テラーが、牢の中で言う声は、誰の耳にもとどかないまま闇の中へと静かに消えていった。




