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第34話 魔族の本当の敵

――アグロの街


 言われた通り、カリスさんの家に足を運んだ。

 彼の家は、石造りで作られた質素で実用的な住まい。

 天井が高いせいか室内が広く感じる。

 たぶん竜人族の建築様式で作られたものなんだろうと思う。

 カリスさんや、一緒にいた護衛さん達の背丈が高かったから、それに合わせ作られているのだろう。


「くつろいでくれ。大したものはないがな」


 一階の室内に通された俺達の前にお茶が出される。これはカプティーだな。

 軽く頭を下げ茶に口を付けると、カリスさんが話を始めた。


「さきほども言ったが、獣人族が会談を求めてきた。日時は明日の昼すぎあたりになる。彼等は君達3人共か、あるいは誰か一人の同席を希望しておったよ」


「では、獣人達の目的は彼等なのですか?」


「それはあるだろうな」


 フェルマンさんがカリスさんに尋ねると、すぐに肯定された。

 なら俺達が会談にでるのはマズイのでは? と思う。


「だが、人間の兵達を捕縛している様子を見るかぎり、手を組んでいるとは思えんな」


「いえ、捕縛している様子を見せて、街中に入るチャンスを作ろうとしているとも考えられます」


「それを人間が許すと思うか? 獣人たちに足蹴にされ、縄で捕縛されるなど、奴らのプライドが許さんぞ」


「それはそうなのですが、かといって話し合いに応じる必要があったのですか?」


 俺もフェルマンさんに同意だな。

 どんな理由で、会談に応じる気になったのか知りたいと思う。


「それは簡単じゃ。ワシ等が魔族としてまとまっていられるのはなぜじゃ? それは魔族の方針が、どの種族に対しても門を開いておるからじゃろ」


「……つまり、あの獣人は、和平を求めているかもしれないと?」


「あるいは、それに近い何か……。そこは明日知れるじゃろ」


 2人の口調が和らぎ、話が止まりかけてくる。

 俺としては、もっと聞きたくもあったので口を出した。


「話の途中で申し訳ないんですけど、俺達はこの世界について良く分かっていません」


 途切れかけた会話に手をあげ、口を挟むと、部屋にいる皆の視線が集中した。

 ちょっとここは頑張らないと、後々怖い事が起きそうな気がするんだよな。


「続けて構わん」


「ありがとうございます。それでですが……」


 俺は彼ら2人に、この世界についての情報を求めはじめた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ここの大陸は『イリーガル』という名前らしい。

 西半分は魔族と呼ばれる多種族がまとまり支配し、東側一帯のほとんどは人間達だ。


 つまり、西側は魔族領土。

 そして、東側は人間領土という単純構造になっている。

 まぁ、人間側はいくつかの国々に別れているようだから単純とは言えないけど。


 では、中立であるエルフはと言うと、人間側だろうが魔族側だろうが、あちらこちらに点在しており、独自の集落を築いているという話だ。

 これに対して手を出さない理由は、人間側は託宣がない為。

 魔族側として言えば、エルフが元々は亜人という扱いであり、いつかは自分達の側へと戻ってくると信じているかららしい。


 では獣人達はと言うと、人間領土で暮らしているようだが、各国とも彼等を奴隷に近い存在として扱っているらしい。

 なぜだろ?

 これに対する答えは、こうだった。


「はるか昔からじゃな。託宣が獣人を奴隷として選んだとも言われている」


「奴隷ですか……獣人達は抵抗しないんですか?」


「しなかったと思うか? 何度も反逆は起きたが、そのどれもが託宣によって一方的に鎮圧された」


 カリスさんが教えてくれるんだが、少し疑問が沸き起こる。

 どうせだし尋ねてみるか。


「魔族はその反逆に手を貸さないんですか?」


 同じ人間を敵にしているのであれば、手を組んだほうがいいんじゃね? という素朴な疑問だった。

 ところが、これに対する返事は、意外なもので……


「まず勘違いしておるようだから言うておく。ワシ等魔族は、人間達と直接的に戦う気はない」


「え?」


「じゃから、獣人達と手を取り合って、人間達と直接争うことはない」


「いや、だって」


 これおかしいだろ?

 人間領土にのりこんで、森を占拠していたじゃん。

 ドワーフ達だって、各国の人間領土に住み着いていたから殺されたんじゃ?

 大前提としておかしくはないか?

 今まで得た情報と合わせ考えてみても、考え方が違う気がするんだがどういう事?


「ヒサオ。俺たちダークエルフが森に住んでいたのは、争うのが理由ではない」


「では、どうしてです?」


「託宣が働かない土地を広げるためだ」


 聞いてみたが、やっぱり意味が分からなかった。

 さらに話を求めてみる。


「理由は知らんが、ワシ等魔族が長く住まうと、その土地では託宣が聞こえなくなる」


「元々この街も、カリス老とその一族が近くに住んで作りあげたものだ」


 うーん、つまり託宣が聞こえてこない場所を作り出すのが目的ってことか?

 まあ、託宣頼みの人々が、その託宣を奪われた土地から離れていくのは、彼らの自由なのだろうけど、それを意図的にしている時点で戦争の火種を作っている気もするんだが?


「納得がいかんようじゃな。これは異世界人である、おぬしらにとってみれば理解しづらいとは思う」


「そういう問題ですか?」


「世界が違えば常識も異なる。これは分かるな?」


 フェルマンさんに言われ、それについては理解を示す。


「ヒサオ。この世界にきて少しは人間達の行動を見てきたと思うが、お前から見て託宣とはどういうものだと考える?」


「怖いと思いました」


「どうしてだ?」


「俺が見て感じたのは……」


 この世界に来てから見てきたものを、ズラズラと話していく。

 仲間と思っていたテラーが実は違っていた事。

 その根幹的な部分に託宣があったこと。

 この世界の人間達は、俺達を異物のように思っている。それは理解できた。もちろん不満はあるけれど。


「獣人は人間の奴隷。人間は託宣の奴隷。そう思わなかったか?」


「それに近いものは感じました」


 躊躇わず返事をすると、ミリアとオッサンも同意するように肯いた。

 2人も色々考えているんだろう。

 部分的には違うのかもしれないけど、託宣に対して言い知れぬ恐怖は感じていると思う。


「そこで聞くが、仮に俺達が戦争を仕掛け人間達を勝利したとして、彼等は託宣に従うことを止めるだろうか?」


「止めないでしょうね」


「そうだ。さらにいえば、託宣が聞こえる場所において、俺たち魔族は人間達に勝てない」


 魔族でも無理?

 大森林にダークエルフが住んだり、ドワーフだって住んでいたのでは?

 それはどうやったんだ?


「人間は託宣が無いと動かない。あの森は、託宣が聞こえづらくなっていたから、何十年もの間住まうことが出来た。この街が比較的近かった出来た事でもある」


「分かるかの? ワシ等の敵は託宣が聞こえる土地そのものなのじゃよ」


 カリス老の言葉で、なんとか一応の理解はできたけど、納得はできない。

 これは俺自身が人間だからだろうか?


 結論だけを言えば託宣を封印して回っていると言う事になるのか?

 でも土地の略奪行為と見られてもおかしくはないと思う。


「話は大体分かりました。獣人達が求めているのは人間との直接的な戦いで、魔族は託宣を打ち消すのを目的としている。という感じですよね?」


「そんな所じゃ」


 カリス老の返事で俺の理解が合っていることは分かった。

 だけど、それなら、


「魔族は託宣を打ち消す為。獣人は人間を恐れている為。それなら、両者が手を取り合うのは可能なのでは?」


 純粋な疑問なのだが、どうしてこんな事を誰も思わなかったんだろう?

 そう疑問を投げかけてみたが、今度はオッサンが口を出し始めた。


「小僧。それくらいにしておけ」


 不機嫌そうな口調だった。

 気になって目端を向けてみる。


「ワシ等は助けてもらっておる身。この世界の住人達についても疎い。そんな立場で、あれこれ疑問を投げかけるのであれば、それ相応の事をしてからにしろ」


「……すいません。確かにそうですね」


 聞きすぎたか。

 俺もそんな気はしていたが、深く聞く機会なんてあまりなかったから、つい突っ込んだ質問をしてしまった。


「少年よ。お前の疑問は分かるが、戦争となれば多くの命が失われる。お前は、それを背負ったうえで今の発言ができるか?」


 オッサンが止めてくれた事で、カリス老はこの程度の言葉で済ませてくれたのだろうと思う。

 俺はその言葉に、黙って首を横にふって返した。


「先も言ったが、ワシ等は戦いたいわけではない。獣人達が和平を求めてくるのであれば、それに対して応えることもしよう。だが、もし獣人達のやり方で人間と戦おうとするのであれば、ワシ等はそれに応えることは出来ん」


「はい。理解できます」


「じゃが、託宣という人間にとって重要なものを奪う作業をしておるのは確かじゃ。それは人間達にとってみれば、喧嘩を売られているのと同じようなものとも言える」


 おや? 話が違ってきたぞ?

 いや、流れ的に繋がるのか?


「それを理解した上で、ワシ等は託宣を人間達から奪っている。やり方は違えど、獣人と同じく戦争を仕掛けているだろうと言われれば返す言葉もない」


 俺が納得できない部分は、それだな。

 どこがどう違うのか知りたいんだけど、俺に分かるだろうか?


「それを考慮にいれた上で、ワシ等魔族は託宣を危険視している。アレは、存在してはならん」


 憤りを感じているのか、カリスさんの顔が険しい。

 過去に何かあったのだろうか?


「カリス老。この話はそれくらいにしましょう」


 フェルマンさんが止めにはいってきた。

 俺もこれ以上は厳しい。

 少し時間をおいて、得た情報を消化しないと新しい話を飲み込めない気がする。


「ヒサオもいいな?」


「はい。この世界に対して知らないことが多いため言い過ぎたと思います」


「それはいい。気持ちも分かる。だが、お前に情報を与える為の場ではない。それを分かってくれ」


 尤もだと、フェルマンさんに顔を下げた。


「予想外に話が長くなった。多少時間をかけ理解してもらおうと思ったが、その時間も怪しくなってきおった。この後の事もあるので簡単に言うが……」


 そこでカリス老は渋い顔をし一呼吸おいた。俺達3人の顔を軽く見てから、


「明日の会談では、3人共が出て黙っていて欲しい。ワシからの頼みはそれだけじゃ」


 なぜそうなるのか理解できなかったけど、口にすることしなかった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 話はアッサリと終った。

 だって、ミリアとオッサンが、肯いて了承しちゃったから。

 俺は納得出来なかったけど、聞けるような空気じゃなかった。


 カリスさんとの話が終わると、すぐにミリアが転移魔法陣の話をしだす。

 すぐにでもユミルへといって言葉が通じるかどうか確認したいらしい。


「分かったよ。じゃ、行こうか」


「行くのは私一人よ」


「分かってるって。俺達は待機所の中で待っているよ」


 他にする事も無いし、何かあって戻ってきたらすぐに行動を起こせるようにしよう。

 そんな話をしていたら、フェルマンさんが後ろから声をかけてきた。


「お前ら、ちょっと待て」


「あ、さっきは失礼しました」


「それはもういい。それより転移魔法陣の事なんだが、使用は一時禁止になった」


「「「え?」」」


 コリンを除く、俺たち3人の声がハモった。ここにきてこれか。


「どうしたんです?」


「あの魔法陣は、使用者の魔力を使い転移するものだが、人によっては、再度の使用まで数日かかる場合がある。エルフ娘は「ミリアよ」……」


「ああ、すまん。ミリアは賢者なのだし大丈夫だろうと思うが、念の為に明日の会談終了までは、使用禁止とさせてほしい」


 そんな事が鑑定でも出ていた気がしたな。コロっと忘れていた。


「そういう理由ならしょうがないわね」


「分かりました。じゃ、何か別のことでも……」


 ちょっと時間が空いたな……何をしようかと考えていると、


「すまんが、ワシはコリンと旅の準備を済ませておきたい。街中を見せてもらっていいじゃろうか?」


 オッサンが、フェルマンさんに尋ねると、快い返事で返した。

 ほんと彼らダークエルフにとって、ドワーフというのは大事なんだな。対応する態度がまるで違う。


「君達はどうする? ジグルド様と同じように街中を見てまわるか?」


 そうしたいんだけど、俺達って金ほとんどないんだよな。

 ここまで逃亡生活だったし、稼ぐという行為がまったくできていない。最初に略奪した時の金ならいくらか持っているんだけど……


「ん? オッサン。旅の準備って言うけど、金あるの?」


「ドワーフを舐めなるよ。ワシが寝る前に作り置きしてある細工物は売り物じゃぞ」


「マジか!? オッサン、少しはこっちにも融通してくれよ!」


「働け小僧。働いてこそ金の尊さを分かるというものじゃ」


 最後は笑い声をあげて、コリンと一緒に街中へと向かっていった。

 全くその通りで言い返せねぇ!!


「ミリアさん……」


「お金なら無いわよ」


「あ、はい」


 ジーっとフェルマンさんを見る。

 期待をこめて。それはそれは期待をこめて。ミリアも一緒にジーっと。


「……俺もあんまりないのだが、しょうがないか」


 こうして俺達は小銭持ちになった。

 ちょっと買い食いしたら終わるようなお小遣いだったけどね!


「ヒサオ、行くわよ」


「ああ、ちょっと待って。フェルマンさん、夜には宿に帰りますから」


「あ、あぁ……」


 という流れで別れたんだけど、後ろに取り残されたフェルマンさんが、


「あいつら、ごく自然に2人きりになるな……」


 なんてことを言っているのが聞こえたけど、考えすぎですよ。

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