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第33話 イルマとテラー

――アグロ近辺にある駐屯地



 いったいどうしてこうなったのだろうと、テラーは自問しつつテレサをみていた。


「テラー! 早く、あの獣人たちに言って、私を自由にさせなさい」


 叫んだテレサを見れば、厚い布地で目隠しされ手と足を縄で縛られている。テラーの方といえば、目隠しがない分、まだマシとはいえただろう。

 そんな状態で、設置されたテントの中に放置されていた。


「いまこの場には、誰もいませんよ。私と隊長のみです」


「な、なぜそんなに冷静でいるのですか! これは立派な反逆ですよ!」


 冷静とは真逆の感情を丸出しにしたテレサだったか、それを見てしまうと、なぜか冷静になれてしまう。

 テラーは大きく息を吐きたくなったがグっとこらえる。仮にも上司の前でため息をつくのは、規律にも影響しかねない。もっとも自分たち以外いないのだから、どうでもいいのだが。そうしたクセがつかないようにしているだけだ。


「なんとかしたいのは山々なのですが、私も縄で手をまかれています。おまけに足もしばられ柱につながれていますので」

 

 チラリと自分の足をみる。もし首輪をつけられていれば犬扱いだっただろう。それはオオカミだといいはるテラーのプライドを傷つけることになるだろうが。


「そもそもここはどこなんだ。あなたは見えているのでしょ?」


「ええ。まあ、見えてはいますが、どこかと聞かれても、私達が駐屯していた場所としかいえません」


「え? それでは、先ほど移動したあと、また戻ってきたという事?」


「そうなります。いったい何を考えているのか、あの男の考えていることは、さっぱりです」

 

 テラーが愚痴がこぼすと、テレサがポケーとした顔をみせる。


「どうかしましたか?」


「やっぱりあの男は、あなたの仲間だったのね!」


「仲間……」


 そうなるのか? と頭を捻った。

 幼少のころから、自分の周りにいてくれたことだけは確かだ。

 子供のころなら、友人とはっきりといえただろう。

 成長し、自分たちが人間たちにとって奴隷として扱われていることを知ると、3人の間で、微妙なズレが生まれ始めた。


(あの頃の2人は、私の夢を真剣に聞いてくれていた)


 エイブンは、自分に忠誠を誓うようになり、イルマは遠巻きながらも、自分を影から助けてくれていた。

 近くにいてくれた2人だから、いつしか離れた距離が遠く感じてしまう。

 友人だった存在が部下になる。それは、奇妙で寂しいものであった。

 そうなったのは、自分なのか、周囲なのか、はたまた、彼らが望んだのか、よくわからない。

 だが、いつしかイルマはテラーの元から離れていった。


(結婚したからだと思っていましたけど、こんな事をしでかしたということは、私の考えに反対していたから?)


 それならそうと言ってくれればと思うが、考えてみれば、何かを言われたとしても、きっと同じようなことをしたのだろう。


 自然とため息がでる。


 増援を待っていた早朝早くに現れたイルマたち。

 期待はしていなかった分、その姿に希望があふれた。

 だが、その希望はすぐに砕かれたのだから、ため息だってでてしまう。


 テレサは何事が起きたのかすらわからず拘束される。

 応戦しようと剣を抜いた人間たちは殺される。

 同様に戦闘態勢にはいろうとした獣人たちもいたが、こちらは気絶だけさせられた。

 元々テレサの部隊人数は少ない。

 急遽集められた人々で追ってきたのだ。多いわけがない。

 そんな状態で、魔族達とやりあい、さらに人数を減らした状態。

 そこを襲ってきたイルマ達。

 勝負とすらいえない状態で、イルマたちが勝ち、こうして拘束されているわけである。


 いったい何が悪かったのかと考えれば、ここまでの経緯すべてが悪かったのでは? とすら思えてくる。そんな堂々巡りのような考えになりつつある思考の渦をかき乱したのは、テレサの声であった。


「テラー! 聞いているのですか!」

「あ、はい。すいません、すこし考えごとを」


 いったい何を言っていたんだろう? と、顔をあげテレサを見た。


「あなたが裏で糸を引いているのなら、即刻やめなさい! こんなことをしても、獣人が、私たちに勝てるわけがないのだから!」


「はぁ……そうですね」


 何を勘違いしているのだろうと、テラーの疲労が増す。


「私から、ジェイド王子に進言して、今回のことは穏便に済ましてもらいますから、早くこの縄を解くよう言うのです!」


「……私も縛られているのですが」


 色々とツッコミたいが、それは口にせず、ついさっき話した事と同じ言葉を口にした。

 と、そんな2人のやりとりが繰り返されているテントに、


「話中わるいが、お邪魔するぜ」


 イルマがやってきた。あとついでにエイブンも。


「……イルマ」


「テラー様! 申し訳ありません!」


 テラーが名をよんだイルマではなく、謝罪したのはエイブンであった。

 手にしていた弓を地面におき、身を沈め、頭を深く下げた。


「おめぇは、またそれか。いい加減慣れろや」


「これが慣れるかぁあ―――――!」


「あいっかわらず、うるせぇ声だな。いいから、ちょっと黙ってろ」


 目前で交わされる会話する姿が、何か懐かしい昔を思い出させて、ふっと気を楽にさせた。


「この声は、あの虎人(こじん)! ようやく縄を解きにきましたか」


 場違いなテレサの言葉に、3人の動きが止まる。

 イルマは、なにいってんだこいつ? といったふうに、テレサを呆れた目でみて、エイブンは頭痛でもしたかのように頭に手をおく。テラーにいたっては、またかと、近くにあった柱に頭をのせた。


「まったく状況把握が遅いのです。獣人ごときが私たちに逆らおうなどと……ブベっ!」


 先をつづけようとしたテレサの頬が、イルマによって殴られる。一瞬、頭が曲がってはいけない方に向けられたが、気のせいだとテラーは思うことにした。


「な、な、なにが……」


 よく気絶しなかったなと、エイブンは思った。目隠し状態で、イルマの一撃をモロにくらい口が動かせるとは大したものだと。まあ、イルマなりに手加減したのだろう。


「次は犯す」


「!」


 顔を近づけ、感情をこめずに、ただ言った。

 本気だとかそういう話ではなく、どうでもよさげだ。

 それ以上言わずに、テレサをジっと見る。その視線を感じたのか、テレサは押し黙った。


「そのまま黙ってろ」

 

 コクコクと頷くテレサをみて、視線をテラーへと向けた。


「……」


 自分へと目線を向けたイルマに対して、テラーは何をいったらいいのかわからなくなった。

 部下でありながら、反逆を行った男に対して、色々言うべきことはあるのだろうが、その言葉が口からでてこない。


「まあ、ひさしぶりだな」


 テレサにかけた声とは違い、やわらげである。


「……そうね」


 ヒサオたちが出現した海岸にテラー回されて以来、2人はあったことがない。

 関係でいえば、2人は上司と部下なのだが、そもそも、海岸の見張りという任務のテラーと、砦防衛についたイルマとでは、明らかに仕事の性質が違う。


「一応聞いておくわ。これは何の真似?」


「聞かなくてもわかるだろ?」


「ええ。でも、ちゃんと聞きたい。上司として」


「今は違うな。だから、言う必要もない」


「……イルマ」


 視線をそらさず、悪さをした子供でもみるようにイルマを見る。その眼差しに昔は耐えられず、頭をさげたイルマであるが今は違っていた。


「用件だけ伝えにきた。余計な会話をする気もない」


 張りなおした声をだす。逆をいえば、張りなおさなければならないほど、イルマの心が揺らいだからだろう。


「明日、アグロの街にはいり会談を行う。そこで、俺は獣王を名乗るつもりだ」


「「獣王!」」


 驚いた声をだしたのはテラーとエイブンである。


「俺は。この国の中に、俺たちの国を作る。人間から許可をもらってではなく、力づくでな」

 

 無理だ! とテラーは叫びそうになった。だが、そんなテラーの意思を、イルマの金色の瞳が射抜いた。


「俺たちの家族が、ちゃんと種族としての面子をもてる国を。俺たちが味わった、絶望ではなく希望を。俺は、俺の子供達にやりてぇ」


 言葉を一度きる。テラーへとさらに力づよい視線をむけ、


「俺達を認めさせる、そのために、おめぇもこい!!


 言い放った声と、差し出された手を、テラーは茫然とみつめてた。



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