第30話 写メ
コタに電話を切られてから再度かけなおしてみたが、繋がらなかった。
バァちゃんの方にも電話してみようかと思ったが、不安を煽るだけな気がして止めた。
「はぁ……」
「何がどうしたのか知らないけど、溜息されるとこっちも憂鬱になるのよね」
「元気だせ、小僧」
親友と思っていた奴にちゃんと事情を話したら、3秒で電話を切られた。
これで落ち込むなという方が無理だと思うんだけど!
「電話が繋がったのは確認できたし、それだけでも儲けものか……」
気落ちした声で呟いてしまった。
「ヒサオ。そのデンワで前の世界に連絡が出来るのは分かったけど、それで何か出来るの?」
「お前、思っていても言わずにおいたことを……」
そうなのだ。
元いた世界の知人と連絡が出来るにしても、こっちの話は信用されないし、仮に信用されたとしても、何が出来るというのだろう?
向こうの物を転送できるなら、使い勝手は素晴らしいものになるだろうけど、出来るとしたら情報交換ぐらい? 俺の状況を向こうに話したとしても、意味がほとんどない。せいぜい、ネタにされて終わりだ。
これって、もしかして、交渉術と同様に使い勝手が悪いスキルなんじゃ?
通話の文字を見た時は、これで俺の時代がきたぜヒャッハーとか、ちょっとは思ったけど、全然駄目じゃね? 鑑定といい、交渉術といい俺の時代短くないか?
「まあ、落ち込んでても駄目か」
気を取り直そうとした声をあげた瞬間、電話が鳴った。
「お? …っと、コタ!?」
向こうからも電話ってくるのかよ!? ……いや、そりゃあ、出来るのが普通なんだけど、なんか俺の通話スキルの価値がまた下がった気がしてならない。
「もしもし」
『あ、出た。ヒサ。さっきは悪かったけど、僕が電話を切ってから、そっちではどのくらいたっている?』
「話の筋道がおかしいきがするが、たぶん30分ほどだ」
『30分……なるほど』
「何がなるほどだよ?」
『カップラーメン作ってみた』
「? 意味わかんねぇよ」
『そう? 日○のやつ美味いよ』
「知ってるよ! 俺もアレ好きだし!」
何を言いたいんだ。俺も食いたくなってきたじゃないか。
『ああ、ヒサ。一度電話きるから、そっちからメール送ってみて。写メも忘れずにね』
「ああ? なんで?」
『できれば異世界だという証明できそうなのがいいな』
「……え? コタ?」
『ヒサが嘘をいう理由がないからね。まずは、できるだけ確認作業をしてみようよ』
「コタ! お前っていうやつは!」
『はいはい。とりあえず確認が先ね。あとカップラーメンは3分。そしてその間にそっちでは30分たった。あとは分かるよね?』
「へ?」
一瞬何を突然……と思ったが、時間のズレの話だとすぐに理解できた。
こっちではすでに1ヶ月以上。おそらく40日ほどたっている。
向こうでは4日ほど。
つまり、向こうとこっちでは10倍ほど、時間のズレが発生しているという事になる。
俺が話したこの事から、すぐに確認行動を考えた? という事か。
「お前、すげぇな」
『理解できた? この手の話は小説ネタでよくあるから、すぐ思いついたよ。それよりメールよろしくね。んじゃ切るよ』
「お、おい」
またプチッと切られた。プチっと……
今回はいいけどな。
「写メか……えーと」
ふと部屋を見る。
異世界っぽいもの……まあ、この部屋も異世界っぽいと言えばそうだよな。
だけどこの部屋にあるものなら、現代日本でも用意できそうだしCG乙って言われたらそれまで……
ああ、天然ファンタジー素材が、目の前に3人もいるじゃないか。
「お前ら3人ちょっと並んでくれ。写真撮るから」
「「「しゃしん?」」」
見事にハモッタな。知らないのは無理ないけど、説明している時間がもったいないから、とにかく3人には並んで座ってもらった。
中央にオッサン。左にミリア。右にコリン。両手に花状態のオッサン写真。
うーん……コリンはドワーフっていうより幼女って感じだから、異世界感が無いけど、オッサンとミリアはそれっぽいか。まあ、これで試してみよう。
「はいチーズ」
「「「?」」」
これまた、何を言っているんだこいつは。といった顔を3人共がする。
さっそく写したばかりのデーターをメールに添付して送……れた。なんだか時間が、かかったな。
「さて、電話でも……いや、待つか?」
どうするか少し考えたが、写メがついたら電話よこすだろうし、それを待つことにする。
ちなみにメールの文には、ミリアとジグルド、そしてコリンの事をほんの少しだけ書いた。
例えばミリアはエルフで何度か異世界経験しているとか。
別に悪い意味で書いたわけじゃないが、コタがどう受け取るかだな。
と、そのミリアが近付いてきて携帯を覗き込んできた。
「なんだよ、いったい」
「それさっきの私達よね? すごく綺麗な絵。何これ?」
「何って言われてもな。写真っていうんだけど、分からないか」
「分からないわよ。ジグルド、こういうの知ってる?」
今度はオッサンが腰を上げてやってくる。コリンもヒョコヒョコ付いてきた。お前はアヒルの子か。
「知らん。とんでもなくきめ細やかな絵じゃが、これをあの一瞬で描ける道具なのか?」
「描けるというか、なんというか……確か、光を利用して、光景を何かに焼き付けるみたいな感じだったか?」
「光を……つまり光魔法なのか?」
「魔法じゃないから。前にも言ったろ。俺の世界にはミリアが使うような魔法なんてなかったって」
どう言えばいいのか、まったく分からない。
小学校の頃あたりに、俺も似たような疑問をもった覚えがあるが、あの時どう言われた? いや、それを思い出して参考にしても、この、なんでも魔法で片付けてしまいそうな人達には説明の難易度が高すぎる。
「ヒサオ。これって理を知らなくても使えるの?」
オッサンへの説明に難儀していると、ミリアが横から聞いてきた。
「ことわり? なんだそれ?」
「理は理よ。物事の道理というか真理というか」
「あー 言いたい事は分かるけど、そういうの知らなくても、操作方法が分かれば使えるよ」
「へー ちょっと教えてくれない?」
そういい手を伸ばしてくる。ちなみにオッサンも。コリンは……奪おうとしているのか、身構えていやがるな。
さすがに、今はコタの返事まちなので駄目と言っておいた。
そのコタからの返事が遅いんだが?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コタからの電話がきたのは、1時間ほど過ぎた後だった。
すでにミリアとコリンは自室へと戻っている。
風呂の習慣というものも無く、洗濯等は朝にやることが多いしで、もうこのまま寝るだけだなと、ベッドにつこうとした時に電話がきて、
『エルフだエルフ! しかもドワ子! ヒサ、分かってるね! やってるね! 嫉妬がMAXだよ!』
なにやらテンションMAX状態のコタが騒いでた。
「落ち着け。あと、ドワーフ爺のことも気にしてさしあげろ」
『僕には樽にしか見えないよ』
ひどい奴だ。俺も最初見た時は見事な樽体形と思ったが、せめて生物として見たぞ。
「しかし遅かったな。写メに興奮して電話の事を忘れてたか?」
『そんな事はないよ。メールがきてすぐに電話したし。多少の興奮はしたけどね』
多少……うん。つっこまないでおこう。
「こっちじゃ1時間以上待ったぞ。そっちだとどうだった?」
『1時間? 予想より長いね。こっちだと4,5分っていう程度だよ』
「これも時間のズレっていうやつか?」
『時間のズレに関しては、もう少し試してみないと、ハッキリとは分からない感じ。それより、エルフとドワ子の写真だけどさ』
「あー…うん。言っておくけど、コスプレじゃないぞ」
『分かってるよ。ヒサが、おバァちゃんに黙っていなくなってまで、誰かにコスプレ頼むとか、あるいはどこかのコスプレ祭りに侵入して写真撮ったとか思ってないよ』
思っていないのか……にしては具体的な気がする。
『僕が言いたいのは、この写真を恵子や早苗おバァちゃんに見せていい? って事なんだ』
「え? ちょ、まて。恵子はともかく、バァちゃんに見せても……」
コタの奴何を言い出すんだ。あの写真を見せてどうなるものでもないだろう。
『見せる意味はあるはず。ちょっと聞きたいけど、ヒサ。こっちに帰ってこれるアテあるの?』
「……いや、今のところないけど、それとどう話が繋がる?」
『早苗バァちゃんに何か言った?』
「言えるわけないだろ! こんな状態で!」
コタの話が、飛びまくりで苛立ちが沸いてきて、声を張り上げてしまった。
隣のベッドからの視線に気づき、オッサンが俺をジーっと見ているのを知る。
すこしだけ声のトーンを下げて話を続けた。
「どう言えってんだよ。いま異世界に来ていて、いつ帰れるか分からない、ってそのまま言えとでも?」
『それでいいよ』
「お前! なに言ってんだ!」
下げた声がすぐに戻ってしまった。
『ヒサ、僕は、早苗バァちゃんが限界に近いっていったよね』
限界……ああ、確かに、言っていたような。
『隠しているようだけど、心労が溜まっているよ。いつ倒れても不思議じゃない。何しろ、娘さんも失踪して、君までいなくなったんだ。どれだけ不安定な状態なのか察しろよ。馬鹿なの?』
「……」
母親の事も言われ言葉に詰まった。
コタの言う事は、尤もだと思うが、それでもこんな話をして、まともに聞いてもらえる自信がまったくない。
『この写真を恵子に見せるよ。それで味方につけて2人で説明してみる。その後、ヒサの方に電話してもらうから、ちゃんと話をするんだ』
「コタ……」
『僕だって心配なんだ。それに、恵子だってきっと助けてくれる』
「……悪い。助かるよ」
『じゃ、今晩はこれで切るね。恵子には僕から話をしておくよ。どうもそっちの世界とこっちの世界とじゃ時間のズレが大きくて、話の流れが狂いかねない』
「狂う?……ってどういう事だ?」
『もしかしたら程度の推測。だから気にしないでくれ。じゃあね。気を付けるんだよ。そっちは安全な日本とは違うようだしさ』
「分かっているよ。じゃ、頼むぞ」
そして今度こそ電話が切れた。
これから恵子に電話するんだろうな……うーん。あいつで大丈夫か?
ご近所の幼馴染に不安を覚えながら、今度こそ俺はベッドの中へと潜った。
……コタ、悪いな……




