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第3話 村での戦闘

 ミリアが落ち着くのを待ってから最年長? と思われるオッサンが口を開いた。


「どうやら嬢ちゃんが慣れとるようじゃし、これからどうしたら良いか分からんか?」


 オッサンのいう事に俺も同感だ。もちろん獣人のテラーさんもだった。


「慣れていると言っても、2度とも最初は召喚主がいたのよね。1度目は呼ばれた場所が城内で、そこの国王にあれこれいわれて腹がたって魔法の一発もいれたくなったけど我慢したって感じだったわ」


 最初の王様なに言ったんだよ!

 ミリアもミリアだ。わけが分からない状況で、見知らぬ王様に攻撃しかけようと思うとか沸点低すぎるだろ!


「最初から目的や情報等を与えられたと?」


 テラーさんはまったく別の事を思ったようで淡々と聞いた。


「そうよ。あと言葉……あっ!」


 そこでミリアが止まった。顎に手をあて首を捻ってから俺を見た。百面相を見ている様でちょっと面白い。


「ヒサオ。あなたのスキルに通訳って有ったわよね。それって自分だけじゃなくて、他人にも影響でるの?」


「さっきの? 分からないよ」


「分からないって、自分の能力でしょ? なんで分からないのよ」


「いや、そう言っても俺には元々そんな力はないよ。皆の能力が分かるのも謎だし」


 言われてみれば、なぜこんなアイコンみたいのが浮かび出るのか、それすら分かっていなかった。ミリアの素性を聞いてすっかり忘れていたな。


「突然そんな力に目覚めたと? という事はこの世界に来てからでしょうか?」


「そんな話を聞いたことがないわね。私が最初に呼ばれた世界では、召喚主が私に魔法をかけて言葉が通じるようにしたの。それが2度目の世界でも有効だったから、いまこの状況で言葉が通じても不思議に思わなかったけど、あなた達は違うでしょ?」


 ああ、それでか。ミリアの言いたい事が分かって納得した。

 俺の能力らしい《通訳》が発動しており、その効果が全員にかかっていると思ったのだろう。たぶんミリアの推測通りじゃないか?


「ふむ。それはいずれ試すとして、今はまず」


 そこまで言うと同時に、オッサンの腹がグーっと音を出した。


「食料を確保した方が良くないか?」


 どうやら腹減りだったらしい。

 オッサンが鳴らす空腹音に俺はプっと吹き出し、ミリアは嘆息をひとつく。

 テラーさんはやれやれといった苦笑いしている。


 確かに食料は大事だ。

 幸い海岸はすぐそこだし、周囲は林地帯。

 森と言えるほどの広さには見えないし、おそらくすぐに見開いた場所に出るんじゃないだろうか?

 周囲で食料を確保しても良いし、人里を探しに出発しても良い気がする。

 そう言った感想を口にするとテラーさんが同意。おまけに、


「精霊は使えませんが、私は見てのとおり()タイプの獣人です。鼻が良いので少し見て回ってきましょうか?」


 狼だったのか。

 聞いて思ったのはソコだった。てっきり犬かと思っていた。

 だって茶色いし。目つきも犬っぽい。どう違うんだと聞かれても困るけどな。


「一人で? それなら全員で一緒の方が良いと思うわ。モンスターと遭遇したら厄介かもしれないし」


「ではそうしますか。たぶんすぐに開けた場所にでると思いますし。そうしたら何かしら見つかるかもしれません」


 聞きなれた言葉ではあるが、実際に見た事がない名前が出てきたな……

 俺とは違い、テラーさんはモンスターという単語に反応を示さない。

 オッサンも一緒だ。この人達の世界ではソレが普通という事か。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 すでにこの4人の中でのリーダーはミリアになりつつあった。

 歳の上で言えばオッサンがと思うが、2度の異世界を経験していると言う言葉がなにより大きい。多少精神的に不安定な気がするが、身の境遇を考えれば納得もできる。


「やはり、すぐでしたね」


 テラーさんの言う事に俺達はすぐに『ああ、やっぱり』という顔をして返した。先へと進んだ場所に、整備された石道が見つかったからだ。周囲の木々にも切り倒された跡があるから、この近くまで人の手が入っていると考えるべきだろう。たぶん道をたどっていけば村とかあるだろうな。


「誰かいてくれれば助かるの。できれば食料を分けてもらえればありがたい」


 オッサンの眉が八の字になった。俺も腹が減ってきたが、オッサンの腹はそろそろやばそうだ。


「先ほど食べられそうなキノコがありましたが、毒があるかどうかも分からないですし、分けてもらえれば有難いです」


 そう言えばそうだよな。

 テラーさんの言う事に俺は納得したが、すぐに自分のスキルを思い出し、そこらの草を注視して見る。


(あ、やっぱりでるのか)


 俺の目に、皆を見た時のようにウィンドウが表示され、その草が薬草の一種に利用できるものだと表示された。

 《鑑定》そんなスキルがあったのを思い出して試した結果だ。ミリア達の能力を見れたのも、たぶんこのスキル効果なんだろうな。


「煙よ!」


 突然、杖を向けて大声を出したのはミリアだった。

 ふとテラーさんをみると、何だか強張った顔をしている。


「……この匂いは」


 テラーさんの鼻が嗅ぎ分けるように動く。


「血の匂いと死体を焼く匂いが混じっています」


 聞くと同時に緊張が走る。

 どうするか一瞬迷い足を止めたが、


「いくわよ! テラーさん案内!」

「はい。任せてください」

「やれやれじゃ!」


 三人の声がそれぞれの意思を示し走り出した。

 遅れまいと必死に俺も後を追うが、3人共早いな。魔法使いのミリアにすら置いていかれてしまいそうだ。


「ジグルド、武器はある?」


 走りながらミリアが言うと、オッサンが右腕をブンと一度まわす。するとその手には俺を殴った小型ハンマーが握られていた。


「今は、こんなものしかないの。適当に嬢ちゃんのガードでもするとしよう。獣人のネェちゃんに前衛を任すぞ」


「私の事はテラーで結構」


 そうした会話をしながら走っていると、煙が一本ではないことを知る。少なくとも4つの煙は確認できた。

 走りながらテラーさんが、腰に下げていた片手剣を抜いた。

 その刀身に描かれている模様のようなものが『我が身体を御身に貸しださん』という文字だと理解できたが、日本語で書かれているのはおかしいだろう。これは解読スキルのせいか?


 さらに近づくと悲鳴が聞こえてきて、ほぼ同時に状況が目に飛び込んでくる。


「やっぱり!」


 ミリアの声と同時に俺達の足が止まる。

 ここまで全力疾走してきたせいで、俺なんか息切れをしている。地面に倒れたいぐらいだ。


「盗賊でしょうか? 《風よ! わが身を使え!》」


 剣を垂直に立て目を閉じ唱えると、ヒュルンという音と共に一陣の風がテラーさんの身体を包んだ。フワっと一瞬浮かんだようにすら見えたぞ。


「先に行きます」


「あ、ちょっと! ……もう。魔法使いがいるのを忘れないでよ」


 ミリアが愚痴った時には遅く、すでに村中にテラーさんが向かい走っている。

 ミリアはと言えば、杖を両手で持ちながら、


「敵味方入り乱れていると、使える魔法が限られちゃうのよねっと《土刺(アース・ピラー)》」


 さらに愚痴っぽい声をだしつつも魔法? と思われるもの使ったようだ。テラーさんが向かった先の相手の地面が、槍のような尖った形状へと変化し、


「ギャアア――――――――!」


 足下を突き刺す。

 とても痛いでは済みそうにないな。

 テラーさんが俺達の方を見ると、すぐに理解したかのように頷き、目の前にいる男の胴体を切り裂く。血が噴出する前にテラーさんの姿がどこかに消えてしまうが、早すぎるぞ!


「テラーめ。嬢ちゃんのガードをする気は全く無いようじゃな」


「別に良いわよ。たぶんあっけなく終わりそうだし。《水矢(アロー・レイン)》」


 空に向かい杖を掲げると、空中に水の塊のようなものが出現。固まった塊から水の矢が村中へと降り注ぐ。ミリアの言うようにすぐに終わりそうだな。

 敵味方の区別が使える魔法をその後も連発し、その度に悲鳴が聞こえてくる。

 テラーさんの姿も時折見えて、持っている剣が血で染まっているのが見えた。


「ワシ等のすることはなさそうじゃな」


「終わった後宜しくね。特にヒサオ。あんたは私達の近くにいないと駄目よ。でないと、たぶん言葉が通じないから」


 さらに魔法を使うか考えながら俺を見向きもせずに言う。

 それくらいなら出来るだろうけど、この光景はちょっと俺にはキツい……


「う、うぇ……」


 ついに堪えきれなくなった。口を押さえ吐き出してしまう。

 ミリアとオッサンが俺を見て騒ぐが、俺の意識が朦朧としだす。

 全力疾走で付いてきて、血と人が焼かれた匂いを嗅いで、駄目押しに地面に転がる動かなくなった肉の塊を見せつけられる。

 

 これを間近で現実として突きつけられた俺は、自分の意識を手放すことを選んでしまった。

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