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第24話 まさかの料理

 ちょっとだけ家の事を思い出したら、バアちゃんの手料理が懐かしくなってきた。


 というか、アレだな。

 いい加減、米が恋しい。

 日本人は米ないと駄目って聞くけど良く分かった。米がないと調子がでない。


 問題は米だけじゃない。

 魚、肉、野菜。だいたいこれのどれかの単品食+スープなんだよ。


 どうして2品のみ?

 もうちょいあるだろ?

 野菜の種類がどうこう言わないが、せめて漬物みたいのってないの?


 そりゃ命を助けてもらっておいて言う事じゃないってのは分かっているし、何を贅沢な事を言っているんだと言われればそれまでだけど、俺はバアちゃんの手料理を美味しく頂いていたのです。

 毎日食卓に並ぶ品に『うめぇ~』と言い、漬物の歯ごたえを堪能しながらテレビを見ておりました。

 その頃と今の違いがありすぎなのです。


 分かりますか?


 突然、明日から米なし、漬物なし、何かしらの2品のみの食事だけになります。と言われたら、どうします?

『は? なにそのありえない食事』か『俺、いつも健康食品だから問題ない』とかに意見が別れるかもしれませんが、俺は前者なのですよ。


 なので米ください。


 そんな俺を待っていたのは、当然米ではなく、


「ラーメン…だと。しかも餃子つき!」


 これはこれで良し!

 と思いたいが、ラーメンにはライス付きだろ! な俺にとって、これは痒いところに手が届かない気持ちを味わってしまう。


「な、なんでラーメンがあるんだ? いや、嬉しいけど餃子?」


 茫然としながらしっかりと食卓に座ると、俺の前にあったのはフォークとスプーンだった。

 これはこれで唖然としまう。

 なぜ箸とレンゲじゃないんだ?

 この世界にきてから箸を見たことないから、これが普通なのだろうけど、ラーメンと餃子があって箸がない? え? ちょっと俺わからない。


「ヒサオ、この料理分かるの?」


「あ、うん。ミリア知らないの?」


 先に着席しているものの、まったく手をだしていない様子のミリアが聞いてくる。

 その隣にはしっかりとコリンがいて、ラーメンの丼をマジマジと見ていて、あ、ついでに言っておくと、ラーメンの丼は中華風のアレだった。それを摩訶不思議そうな顔でコリンが見ているわけで、たぶん初めて見たのだろうなと思う。


「コリンもこの料理は初めてらしいの。2人で何だろ? って話してたのよ」


「そうなのか」


 思ったとおりだけど、ちょっと待ってほしい。


「でもコリンとジグルドってこの街に滞在していたんだろ?」


 言いたい事が分かったのか、ミリアがコリンへと顔を向ける。

 コリンが気付いたらしく、俺達の方を向いた。


「この料理は初めてなのです。この街は珍しいのが多いので、コリンとしては好ましいのです。レシピを覚えてジグ様の胃を虜にするのです」


「そ、そうですか」


 思わず引いてしまう。

 なんか怖いよこの子。たぶん俺より歳上なんだろうけど、この子って言っちゃうよ!


「はい。なので、これを知っているであろう、ヒサオさんにレシピを教えてほしいのです」


「無理。カップラーメンぐらいしか作れません」


「? カップラーメン? また知らない料理なのです? 興味深い。コリンはヒサオさんの頭を覗きたい気持ちなのです。割って(、、、)いいですか?」


「駄目だから!」


 即答で返す。命の危険を感じたせいか早かった。


「ところでジグ様は?」


「オッサンは、長さん…じゃなかった、フェルマンさんが部屋に入って行ったの見たから、話中だと思う。あと、ラーメン食べないの? 時間がたつと伸びちゃうよ」


「伸びる? なにそれ?」


「麺だよ。オッサン達を待っていたかったけど、こんなミソ(、、)ラーメンの……まて」


 そうだよ。さっきから匂っているこれはミソだろ。

 この世界、ミソがあったのか!?

 まてまて、それじゃ、味噌汁も?

 って事は、も、もしかして米も?

 いやいや待て、落ち着け俺。こ、米の前に、味噌汁があるかどうか先だろ!

 あ、だが、米がないと味噌汁が無いかもしれん! なにしろ、この2つは永遠のコンビと言ってもいいくらいだしな! 米が無いのに味噌汁だけ存在するとか、ないはずだ! だよね!


「もう待てん! 俺は食うぞ!」


 食欲をそそるラーメンの匂いに我慢しきれず、フォークを掴み食べようとするが、その前にまずはスープだ! 麺の前にスープをすするのは、ラーメンに対する礼儀と言ってもいいのではないだろうか!

 ズー……なんてこった。


「ミソだ! 本当のミソだ!」


 確認した。この味はミソだ。たぶん一ヶ月ぶりのミソの味だ!

 もう、たまらん! 俺は食べるぞ!

 ズルズルとフォークを使い、歓喜にわく胃袋にラーメンを入れていく。


 なんてこった……

 麺も上出来ではないか。

 しかもこれは、俺の好きな中太の固麺だ。

 た、たまらん!

 ズルズルズルズル……ここで餃子を……

 !?


「……あるべきものがない」


 俺の中では、餃子は醤油につけて食べるものだという認識がある。

 なのに俺の前にあるのは、餃子のみ。

 まあ、これだけでも食べられるんだが、ここまできたら醤油が欲しい。


「おやおや、お客さん、泣くほど美味いのかい? うれしいね~」


 ちょうどそこに、宿のオバサンらしき人がやってきた。

 この人がコックか? 宿の主人と同じく翼人のようだ。


「ミソラーメンは泣けるほど美味い。だが、餃子につけるものってないの?」


「おや? ミソを知っているのかい? あんまり作らないのに、良く分かったものだね。それに餃子の事も知っているとは、若いのに物知りだね」


 俺の知りたいことを答えてくれない、50頃ぐらいの恰幅のいいオバチャンは、俺の背中をバンバたたき笑ったあと立ち去ろうとする。


「待ってオバチャン! この餃子につけるものってないの!」


「ああ、そうだっけ? 確かあったらしいけど私は知らないのよ。でも、そのままでも十分美味しいよ」


 わずかな希望すら消えて、いたしかたなく餃子に手をだす。

 これは焼き餃子か。良々分かってるな。水餃子は個人的にどうもな。でも、醤油がないのか……

 パクッと一口食べてみる。


 ほー…

 ひき肉メインのニラやネギが入った、オーソドックスタイプの餃子か。

 だけど醤油がないせいで、やっぱり俺好みとは言えないが、それなりに美味しいものだ。


 再度ラーメン。

 ズルズル~と音を立てながら食べていく。そんな俺をミリアが見ており真似を始めている。


「おいしい! ラーメンだっけ? こんな美味しいのがあるなんて知らなかった」


 どうやらミリアは気に入ったらしい。

 コリンはといえば、目をギョロっとさせて食べまくっている。こっちはさらに気に入ったらしいな。下手したら、隣の席にあるミソラーメンも手をつけるんじゃ……


「なんじゃ、いい匂いがするの」


「これは懐かしい。俺も以前一度たべたきりの料理だ」


 オッサンとフェルマンさんが、ニコニコしながらやってくる。

 声が聞こえると、コリンの手がピタリと止まり素早く席を立ちあがった。

 そのまま自分の隣の座席をひき、


「ジグ様こちらへ。おいしい料理なのです」


「そうか、良かったの」


「はい、堪能するのです」


 あからさまなコリンの態度に気付く様子もなくオッサンが席に向かうが、俺には蜘蛛の巣にかかった獲物のように見えてしょうがない。

 フェルマンさんはと言えば、その後ろからついていくが……あれ? ゼグトさんは?


「フェルンマンさん。ゼグトさんは?」


「うん? ああ、皆の様子を見に行ってもらった。街に慣れない奴らもいるしな」


 そう言ってオッサンの横へと着席。ゼグトさんチャンスを逃したな。


「腹も減ったし、さっそく食べてみるかの。コリン、これはどうやって食べるんじゃ?」


「これはですね。フォークをこう持つのです」


「フムフム」


 新たにやってきた2人がミソラーメンを食べ始める。

 今更思うが、ダークエルフとドワーフとエルフがラーメンをすする光景ってなんかこう違和感がありまくりだな……

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