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第20話 足止め

ヒサオ視点に戻ります。

 シュトン。

 そんな音がしたかと思えば、先頭を走るゼグトさんの馬が声をあげ横へと倒れた。


「!?」


 条件反射でゼグトさんが馬から飛び降りるのを見たが、その彼が足をついた場所に第2矢が突き刺さる。


 全員が足を止め周囲を見渡す。

 今俺達がいるのは、山に挟まれた街道だ。

 そこら中に隠れる場所があるせいで、どこから放たれたのか分からない。


「ゼグト乗れ! 皆、足を止めるな!」


 長が声を張り上げゼグトさんを拾上げた。その声に押されるように、全員が馬を走らせようとする。


「ミリア、なんとかならね?」


「私よりヒサオがなんとかしなさい!」


「戦闘スキル皆無の俺に戦えと!?」


「違うわよ! まずは敵の確認。自分が出来る事を忘れちゃ駄目!」


「確認って……あ、《鑑定》か」


 言われるまで忘れていたと、周囲をサラっと見たら、すぐに見つけることが出来た。何やってんだろ俺。


「右上の林の影に2人! あとは見当たらないよ!」


 位置を指さし声を張り上げると、聞こえた人達が馬上から弓を射った。


「躊躇いねぇな……」


「こんな時に躊躇う必要がどこにあるのよ。しっかりしなさい!」


 手綱を握りしめ張り詰めた声を上げる。ミリアにしては珍しい感じだ。


「盗賊の可能性もあるけど、この人数相手に2人だけで攻撃を仕掛けてくるとは思えないわ。きっと足止めよ」


「足止め……それだと後ろの荷馬車が危なくないか?」


「そんな事、分からないわ。ここの人達もそのくらい考えているでしょうし、任せるべき」


「確かに」


 ロクな実践経験もない俺が心配する事でもないな。他にも敵がいないか、警戒だけはしておこう。


 チラチラと周囲を探してみると、見つけた2人以外はいない。

 俺とミリア。それと長を中心とした陣形で馬を走らせているが、先に襲ってきた2人を相手にする為に4人ほど離れている。荷馬車が襲われないようにする為に人数を割いたんだろう。


「長さん、街まで残りどのくらい? それと街につけば安全?」


 隣を走る長に俺が尋ねたが、教えてくれたのはゼグトさんだった。


「街までならもう少しだ。あそこなら安全だぞ。住んでいるのは我らの味方だから安心しろ」


 もっと詳しく聞こうかとすると、左前方の山沿いに一頭の馬が見えた。またかと、鑑定してみると、


「テラーだ!?」


「え、どこ?」


 間違いない。以前牢屋であったときのステータスのままだ。こいつだけは本能的に危険を覚える。


「左前。山の傾斜から降りてくるよ!」


 エレメントソードをすでに抜き放ち、何かしらの精霊を憑依させようとしている。ここからでは声が聞こえず判断できない。だけどあいつはよく風の精霊を使っていたし、きっと同じだろう。


「ミリア!」


「この距離だと……いいわ、まず、やってみる」


 手綱から一瞬手をはなし、指輪をつけている左手を胸中央へとあて、


「《風玉(エア・ボール)》!」


 牢で見せた風の玉をテラーへとむけて放つが、


「あ、それは…」


 俺が思わず呟いた。

 たぶん風精霊を憑依させているだろうし、その相手に向かって風系の魔法ってのは無効化されるんじゃないのか? と予想したとおり、彼女に届く前に霧散した。


「やっぱり! ミリア、他のは?」


「また風憑依なのね、それなら《土刺(アース・スパイク)》」


 今度は村の盗賊相手に見せたやつか。って、あれだと動く相手にどうなんだ?

 これまた思ったとおり、馬の足元で土が盛り上がり鋭い刺が出来上がるが、それは馬が通過したあとだった。


「即死のやつは駄目なのか?」


 いつかみた魔法のことを尋ねると、首をふられた。


「あれは、今つかえないのよ。ちょっと訳ありでね」


「え? どうして? もしかして、あの杖がないからとか?」


 と言っている間に、もう近くまで来ていた。


「今ならば、命だけは奪いません。投降しなさい」


 テラーの声が聞こえてくるが、そんなのは無視。


「《全体防御増幅(オール・プロテク)》。《全体敏捷性増幅(オール・クイック)》。《全体攻撃力増幅オール・アタック》」


 ミリアから聞こえてくる声。それに「え?」と声をだす俺。

 ゲームでよくあるような魔法の名称。これは強化系魔法だろう。俺にも効果があるようで、身体能力が上がるのを実感できた。


「これ強化系だろ? 使えたのか?」


「説明はあとでするわ。護衛の人達に任せて、ここから離れるわよ」


「え、ちょッ!」


 俺達を狙ってきたテラーから距離をおこうと、右側へと馬を走らせる。

 それと交代するように、護衛についていたダークエルフの3人がやってきた。

 ミリアの魔法効果を実感しているのか、彼らの顔が高揚しているのがわかる。楽勝とか思っているのかもしれないが、その彼らのレベルは3人共が34~36程度。

 対してテラーは一人だけど、レベルは……え? ちょ、まて、お前、なんで64(、、)まであがっている?


「やばいかもしれん」


「なにどうしたの?」


 見知ったことをミリアに伝えると、


「急に強さが上がったって事? それって精霊憑依させたからじゃないの?」


「……つまり精霊憑依するとレベルもあがる?」


 なるほど! それなら分かる。

 じゃあ、精霊憑依って強化系魔法みたいなものになるのか?

 なら、同じく強化系魔法をかけられたダ―クエルフの3人も、元々のレベルはもう少し下だったのかな? 俺はどうなんだろ?


 レベル24 ヒナガ=ヒサオ

 称   号 通じるもの。

 アイテム  革の軽鎧。携帯電話。

 ステータス 2流交渉人+防御力増幅+敏捷性増幅+攻撃力増幅

 ス キ ル 通訳、解読、真鑑定、交渉術 等


 あがってねぇええええ!

 前に牢で見た時とレベルがまったく変わってない。

 それに補助魔法効果については、ステータスにしっかりと出ていた。

 テラーが使う精霊憑依と、ミリアが使った強化系魔法とでは意味合いが違う?

 試しにもう一度テラーを見てみる。


 レベル64 テラー=ウィスパー

 称   号 精霊騎士

 アイテム  エレメントソード 上級軍服

 ステータス 伝説級精霊騎士

 ス キ ル 精霊憑依 火の心 《風の心》 土の心 水の心 闇の心


 おや?

 あー…なるほど。分かった。

 強化魔法の場合はステータスに出るけど、精霊憑依の場合は、レベル加算とスキル表示が若干変わるわけか。だからといって、何か出来るわけじゃないけどな!


「《範囲回復(ヒール・ウィンド)》」


 おっと回復? ミリアのやつ回復魔法まで使えるのか?

 金属音を響かせながらぶつかり合う前方が、緑色の光が包まれる。護衛についていた3人が一瞬動きをとめ、またその光景にテラーが唖然とした。


「こ、これは!?」


「《氷の散弾(フリーズ・ショット)》」


 続けて放たれる魔法。ミリアの頭上にできた氷の弾丸が、テラーが乗っていた馬へと降り注いだ。


「クッ!」


 護衛の背後から放たれる形となり、テラーもダメージを食らう。

 乗っていた馬から振り落とされる形となるが、地面にぶつかる寸前受け身をとり、即座に立ち上がった。

 エレメントソードを両手で握りしめ、護衛ではなくミリアを睨みつけてくる。


「攻撃魔法だけだというのは嘘だったのですか!」


「言ってない事があるだけよ馬鹿! 《氷の散弾(フリーズ・ショット)》」


 氷の弾丸が再度放たれるが、今度は避けられる。

 こちらに注視しているせいか反応が早い。だが、避けたはずのテラーに護衛2人の刃が迫り、剣で防ごうとする。


 姿勢が崩れたこともあり、テラーが押される。

 2人が交互に迫るため、テラーは防戦一方だ。

 もう一人の護衛はと言うと、必殺の一撃を当てようと、後ろに下がって力を貯めこんでいる様子だ。


 いける! テラーは防戦にまわっている。


 近接2人が交互に襲い掛かり、スキを見せればミリアの魔法。さらに、3人めの護衛が必殺の気合をみせ、それにもテラーは警戒している。


 こうなる前にテラーは俺達を何とかしたかったのだろう。

 護衛を少しでも減らして、そのタイミングで自分が突入。弓を射ってきた2人とテラー自身の3人だけ。これで全てとは思えないが、彼女の思惑どおりではないはずだ。

 このままテラー倒せれば、この後の事態に対しても優位に進められるかもしれない。


「ミリア、駄目押しできる?」


「今は無理。それにヒサオの交渉術で呪縛した方が良くない?」


「呪縛違うから! いや、まあ近いかもしれないが」


 何を目的に交渉術を発動するかって事になるが……と考えた瞬間、護衛の一人が肩から血をだし下がってきた。見れば2本の矢が突き刺さっている。


 え? テラーが? いったいどうやった!


 俺が驚く間に、他のメンツが動く。

 ミリアはすぐに馬を近づけ、回復の魔法を。後ろに下がっていた護衛の一人は、傷を負った男と交代するようにテラーへと向かう。


 俺が一つのことを考えている間に、状況は一転二転。

 こうなると自分の足手まといを痛感せざるを得ない。


「その矢はテラーが?」


「あの獣人女のことなら違う。あいつの後ろから飛んできた。すさまじい腕だ。二本同時といってもいい」


 痛みを我慢し、すでに矢を抜かれた肩を治療されながら男が教えてくれた。

 テラーの背後をみるが、誰もいない。

 いや、テラーが下りてきた山沿いのところに鑑定によるメーターが見える。あれか!


 レベル42 エイヴン=イーリス 

 称   号 弓兵隊長

 アイテム  ダークウッドの弓矢 銀軽鎧

 ステータス 一流弓兵

 ス キ ル 連続矢 的中矢 弓戦闘 強化魔法レベル3


 スキルを見る限り後衛か。ミリアの弓戦闘版みたいな感じかもしれない。

 体を林の間から出し矢を射ってくるけど、次の瞬間には場所を移動している。テラーのことが心配なのか、徐々に近づいてくるが、どうもあれは……


「たぶんケンタウロスだ。だんだん近づいてくるぞ」


「まずい! 女を早く仕留めねば!」


 俺の呟くような声に、回復を受けていた護衛が声を上げ、地面に突き刺していた剣を手にするが、痛みで呻く声を漏らした。


 やばい。


 こっちで今戦えるのは、護衛の2人だけだ。

 これは、ミリアが言ったように交渉術でなんとかしないとだめか?

 だとしたら目的は……あの剣がいいな。


「おい、テラー! その剣を……「《闇よ。わが身を使え!》」」


 俺が言い終わるまえに、テラーが憑依精霊を変えた。闇? ええい、なんだっていい!


「その剣が欲しい! 取引だ!」


 術を発動する言葉を口にする。が、テラーに変化なし。あれ?


「どうやら有効のようですね」


 安堵したような声がテラーから漏れる。

 ……

 ……

 まさか、それって俺への対抗手段?

 俺の交渉術ってわりと警戒されていた? ……ちょっと嬉しい。


「いやいやそうじゃない!」


 思わず声に出してしまった。

 こいつの前で交渉術使ったのって、ラーグスとかいうやつの時だけじゃねぇか。

 なのに、もう警戒しているとかおかしくね? そこまで俺のこと危険視している理由が知りたいよ!


「それって俺対策だよな! おかしいだろ!」


「少なくとも!」


 ガキンと音がし、交代したばかりの護衛の男が突き飛ばされる。構えなおし、再度攻撃をしかけようとするが、


「この2人よりは!」


 もう一人いた男の剣が弾き飛ばされた。なんか力が増しているような……


「あなたの方が危険ですから!」


 俺へと焦点を合わせ、剣を振り上げてくる。

 剣先が振り下ろされるとおもった瞬間、俺の背後から矢が飛んでくる。その矢を、テラーが体を捻りながら後退し躱した。


「クッ! もうですか!」


 最初に駆けつけてくれた護衛以外にもダークエルフ達はいた。

 その彼らが出遅れながらも、助けにきてくれた。

 俺達を守ろうと、剣や弓をつかいテラーを牽制。

 対処が難しくなって来たようで、テラーが一歩一歩後退していく。

 そこに、矢が数本飛んできて、やってきたダークエルフたちを牽制。これは、あのエイブンとかいうやつだろう。


 テラーが山沿いに出てきた時から、ここまでの出来事がわずか数分だ。

 異世界にくるまで戦闘と言えるような行為を何一つしてこなかった俺に、ついていける訳がない。

 いくらレベルが上がったとは言え寄生で上がったようなもの。

 身体的な能力がどうこう言う前に、頭がついていけない。


 単純明快にいえば『実践慣れができていない素人』状態のままなのだ。


「テラー様、お引きを!」


 矢は放ってきたケンタウロスが、次なる矢を放ちつつ声を上げる。おまけに、走りながら更に放ってくる為、うかつに近づけない。


「逃がさない! 《氷の散弾(フリーズ・ショット)》」


 迷いが見えたテラーに向かって、ミリアが3度目の氷の弾丸を放った。

 だが、それが切っ掛けとなってしまい、テラーはエイブンへと一直線に走り出し背に乗った。


「時間ぎれですか……でも、まだ終わっていませんよ。ヒサオ、必ず捕まえます!」


「俺かよ! 俺限定っておかしいだろ! だいたいさっきのは死にそうだったよ!」


 上げてきた声にツッコミを入れてしまう。こんな俺を捕らえてどうしたいのか、さっぱりわからない。

 ああ、確か、ラーグスというのが、偽魔王討伐とか言ってたっけ?

 そんなの俺に頼まなくてもやれるんじゃないの? むしろテラーがやればよくないか? 俺を捕らえようとする理由がやっぱりわからん。


 返事はかえってこず、テラーを乗せたエイブンが、左側の山沿いを駆け上がり後方へと走っていった。よくまあ、あんな坂道をテラーを乗せた状態で駆け上がれるものだ。ケンタウロス、マジ凄いよ。

 ……あ、後方って馬車とかあったな。まずい。


「追わなくて大丈夫か? 後ろにも馬車に乗った人達いるだろ?」


 俺が言う前に彼らも分かっていたようで、この場に3人ほど残し、他の人々が後方へと向かっていった。……とりあえずは収まったと思う。本当にとりあえずばだけどな。


「『まだ終わっていない』って言っていたわね。すぐに、またやってきそう」


 まったくだ。

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