第2話 状態確認
その場で気が付いたのは俺が最後だったらしい。
ミリアが逃げ出した林地帯で、ドワーフみたいなオッサンとミリアが座っている。
横になって気を失っていた獣人さんは、ポケーっと足を伸ばし二人の前に座っていた。
でもって最後に俺が目覚めたわけだが、視界に小さく丸いマークが浮かび上がっている。●こんな感じだ。
「ん?」
思わず出た声に三人が振り向き、気付いたかと声をかけてきた。
「すげぇ痛かったよ」
自分の頭を撫でながら言うが、俺の目はオッサンではなく、目の前にあるマークに向けられている。何だこれ?
「とりあえず、その子が私の前にいたわよ」
ミリアが言うが、その子呼ばわり……ああ、こいつエルフだっけ? 俺と同年代じゃないのか。設定か何かと思ったけど、こうもファンタジー住人が出てくると異世界とか言うのを信じるしかないかな。
「そうでしたか。私がここに来たのを見た方はいませんか?」
今度は倒れていた獣人女さん。足や背中と同じくらい声もピシっとしている感じがする。
「知らん。知っているとしたらその小僧ぐらいじゃ」
俺か? まあ小僧っていったら俺だろうな。でもそんなの、
「俺も知らないよ。ミリアとオッサンが空からふって……って、え?」
マークを触る前に、勝手に見覚えのある光景が出た。
それはゲーム等でよく使われるメニューウィンドウというやつに近い。
「どうした? さっきから何かを触るように指を動かしおって」
「打ち所が悪かったのではないでしょうか? そのようなハンマーで殴られては、おかしくなるでしょう」
いいぞ獣人女さん。もっと言ってやってほしい。そう思いながらも、目の前に表示されたウィンドウを触ってみようとしたが、手ごたえが無い。もしかして、念じるとか? ……あ、やっぱりか。どれどれ。
レベル1 ヒナガ ヒサオ
称 号 通じるもの
アイテム 私服。携帯電話
ステータス 一般人以下レベル
ス キ ル 通訳、解読、鑑定、等
ステータスが一般以下ってどこまで弱いんだよ。
それに、何だこのスキルは? おれ文系苦手なんだが? かと言って理系が凄いとか違うけどな!
「ほんとにどうしたのよ、さっきから。指を変に動かして怪しいわよ?」
「いやこれ……はぁ? 何だそれ?」
俺の目に、ミリアのステータスが表示されたせいで、思わず声に出してしまった。
「なに? 人の顔をジッとみるとか失礼よ」
「なんだよ、その『召喚され慣れした魔法使い』って!?」
後先考えずに言うと彼女の足が止まり、皆の顔がキョトンとしたものになった。
「あんた、なに言ってんの?」
表情が凍り付いているのが分かる。
何かを隠そうとしているのがバレバレだ。追求する必要性を感じるな。
「『召喚され慣れした魔法使い』って言った。そういえばお前、最初にあった時に召喚がどうとか言ったよな? もしかして自分でやったことを俺達に押し付けようとしているんじゃないのか?」
俺の言葉に後ろの二人が顔を見合わせあった。
この二人は聞いていないから今になって『それはどういうことだ?』と思い始めているのだろう。
俺達に疑いの視線を向けられたミリアが、3人の顔を軽く見たあと諦めたように嘆息をつく。
「誤解よ。それにあなた自分で言っていて気づかない?」
「なにをだ?」
「召喚され『慣れ』した。つまり召喚したのではなく召喚される側なのよ。もっと言えば、これで3度目よ。分かった?」
言われて気付くとか俺はアホかと思ったが、
「そして今度はあんたの番よ。どうしてそれが分かったの? しっかり吐いてもらうわよ」
本当にバカだと知ったのはその言葉の後だった。
これって隠しておいたほうがよかった気がする。
隠せるような状況でもなくなったので俺はありのままを話した。
何がどうなっているのか、この状況を含めて知らないことばかりであるが、疑いだしたら切りがないという結論を出し、自己紹介になりかけたが、
「待って。あなた、その変な能力で名前も分かるんでしょ? なら私達の名前も当ててみてよ」
ミリアが持っていた杖をかざして言った。どうやら確認したいらしい。
「え? 良いの?」
ちょっと覗き見るような感じがして恥ずかしいんだが……でも、ミリアの見ちゃった後だしな~
大丈夫だろうかと不安を感じチラっと獣人女さんを見てみる。
「私は構いませんよ。どういった感じなのか興味がありますし」
「ワシもかまわん」
「じゃ、そう言うことで。よろしくね」
許可がでてしまったか。んじゃ始めるか。
まずは獣人女さん。
レベル45 テラー=ウィスパー
称 号 精霊騎士
アイテム エレメントソード レザーメイル一式 ホシ肉等
ステータス 一流騎士
ス キ ル 精霊憑依 火の心 風の心
ゲームとは違いステータス面は数字ではないようだ。
それと所持アイテムについてもあまり表示されない。それに俺のスキルもだが『等』という言葉が表示されているな。表示制限でもあるのか?
とりあえず、知った事を全部言うと、
「色々聞きたい事があるけど、テラーさんは精霊召喚が出来るの?」
ミリアが、まずそれを聞いた。
テラーさんは、うーんと指を顎にあてながら空を見上げる。
「召喚ではなく憑依ですね。呼び出すのは一緒なのですが、私の場合、自分の身体に憑依させて戦います」
なにそれカッコいい。と思ったがちょっと怖いとも思った。
「それって戦う事以外には利用できないのね?」
「そうなります。そう言う意味では魔法使いの方が汎用性が高いですね。羨ましくなる場面もありますよ」
「普通なら、そうかもね」
「? ミリアさんは魔法使いですよね?」
「そうだけど……ヒサオ、今度は私を見て教えてあげて」
「え、うん」
そういえばミリアの方は称号の所まで見て止めたんだった。
再度見直してみる。
レベル87 ミリア=エイド=ドーナ
称 号 召喚され慣れした魔法使い
アイテム 世界樹の杖 天の長衣 魔法水等
ステータス 伝説級の討伐者
ス キ ル 無詠唱 制約の呪い(攻魔) 攻魔全系統レベル9
こんな具合にでて、色々凄いことが分かった。
てか、あんなボロそうな杖に世界樹とかいう名前が付いてるのかよ。もしかして凄い杖なのか?
「色々疑われるのは嫌だから全部言っておくわ。今ヒサオが言ったように、私は2度異世界に召喚されているの。おそらくこれで3度目。過去に2度呼ばれた世界で魔王を2度倒しているからこの状態よ」
ミリアがひと息で言い切った。隠すのが面倒なのは本当のようだな。
しかし、これは凄まじいな。
テラーさんのレベルも凄いと思ったが、倍近いレベルというのは流石伝説級とかつくステータスだと思う。
「テラーさん。さきほどの質問だけど、私は《制約の呪い》と言うのを自分にかけているので攻撃魔法しか使えないの。だから一般的な魔法使いほど幅広く魔法を利用できないわ」
なるほど。とテラーさんが頷いている。
ミリアの《制約の呪い》というのは多少気になったが、少しはイメージ出来たので詳しくは聞かなかった。
これは推測だが、攻撃魔法の習得を早めるか、あるいは威力を上げる為に他の系統を全て使えないようにしているんじゃないかな? 聞けばいいのだが、俺は疑ったばかりだから聞きづらいものがある。
次はオッサンの番だなと俺達三人ともが視線を向けた。
「緊張するの」
最後になったせいか緊迫した空気になったが、
レベル24 ジグルド
称 号 流浪の鍛冶師
アイテム 携帯鍛冶道具一式 作業服
ステータス 2流鍛冶職人
ス キ ル 炎熱操作 ドワーフの加護
他の二人に比べると普通? とりあえずやっぱりドワーフだったんだなと思った。
そう言えば他の二人はエルフの~とか獣人の~とか無いな? この二人はそっち系のものはないのだろうか?
「やっぱりドワーフなのね」
ミリアがジト目でいうと、
「ふん。そっちこそエルフじゃろ。ワシらは仲が悪いからすぐに分かるの」
オッサンが顔を背けて言いかえす。
ミリアと言えば、キョトンとした顔を一瞬したが、すぐに微笑んだ。
「なるほどそう言う事。ジグルドさん。あなたの世界ではドワーフとエルフの仲が悪かったのね。私が生まれた本来の世界だと逆よ」
「なに?」
「年に一度、自酒を持ち寄って両種族の村で祭りをするほど仲が良かったわ。私もドワーフの作るお酒は大好きよ。とくに蜂蜜のはいったお酒。あれはいいわね」
「なんと!? いや待て! と言うかそれは、ワシら全員別々の世界から召喚されたと言う事になるのか?」
何を今更と俺は思った。
何しろ俺の世界には彼等のような存在はいないのだから。
オッサンの疑問にミリアが頷き、さらに、
「もっと言うと、これは召喚じゃないかもしれない。私が過去に呼ばれた時は2度とも召喚主が近くにいたわ」
「それはどういう事じゃ? 今回は召喚主がいないと?」
「分からないわ。隠れて見ているっていう事も考えられるし。召喚術についてはテラーさんの方が詳しいんじゃないの?」
「私のは精霊限定ですし、そもそも召喚術というのも、おこがましいレベルです」
テラーさんの口調ってキッチリしていて、聞き取りやすいな。
ミリアのいった事を考えてみる。
テラーさんは精霊召喚して憑依させるようだから、それも召喚術の一種として考えたわけか。
ミリアは凄いな。なんと言うか色々な事を同時に考えている感じだ。
「それはともかく、ワシらは帰れるのか?」
一瞬にして緊張感が高まった。そういう事かと俺も理解ができた。
よく悪魔召喚とかゲームであるが、あれは契約を結ぶ事で召喚成功になるんだと思う。
だが俺達は契約をしていない。つまり呼ばれた目的が何なのか分からない。
と言う事は……あれ? それって都合が良いのでは?
「それっていいんじゃないのか? 契約していないなら目的果たす必要なく帰れるんじゃ?」
そう言った俺の声にミリアがジト目で返した。
「ふーん。で、どうやって帰るの? 魔方陣も召喚術が使える人もいないのに帰る方法とかあるわけ? ヒサオの世界じゃそれが普通に出来ちゃうの? わー すごいね」
……凄く怖いです。
ジーっと俺を見るミリアの目が細くて口は笑っていて、表情がこわ張っている。
頬はなんかヒクヒクしていているし、なぜここまで言われるんだ? と思ってしまう。
「い、いや。俺の世界って魔法とか無いし」
「へー…そうなんだ。じゃあ、魔法以外で別の世界に移動できるんだ。ヒサオの世界って凄いね。私わからないから、教えてくれない?」
こいつ分かっていて言ってるだろ! 俺もちょっと苛つくぞ。
「なんでそこまで言われないといけないんだよ! 言いたい事あるならハッキリ言えよ!」
怒鳴り声を上げると、彼女はスゥと息を深く吸った。
――あの?
「じゃあ言うけどね。私は元の世界に帰れないまま、この世界に来ちゃったのよ。1度目の異世界はまだ帰れたから良かったけど、2度目の異世界じゃ召喚主が途中で死んじゃってそのまま戻れなくなったの! おかげで散々な目にあったわけ! 分かる? 40年ぐらい帰る方法を探して見つからなくて、それでも何とかしようと転移魔法に詳しい友人に泣きついて色々試している最中に、こっち来たのよ! それなのに、何よこれ! ふざけんのも大概にしてよ! 運命の神様とかいるなら出てきなさいっての! 魔王相手に用意したレベル9魔法を連続でぶつけたげるわ! それともあんた!」
「は、はい!」
「代わりに私の魔法攻撃受ける?」
「絶対嫌です!」
レベル1の俺に何をしようとする。というか、40年とか言ったな。やっぱり見た目どおりの年齢ではないのか。1度目の異世界では魔王を倒したらしいし、2つの異世界で過ごした時間を合計したらけっこうな歳に……
「なんか考えているでしょ? それもけっこう失礼な事を」
「何にも考えておりません、大佐どの!」
勝手に口から出た俺の大佐発言にミリアは顔を傾けた。
俺だってなぜ大佐といったのかよく分からない。
きっと彼女が発する狂気じみたオーラのせいだ。
俺は悪くない。なにが悪いのか知らないが、悪くないはずだ。
……たぶん。
俺にストレスをぶつけたてスッキリしたのか、多少は落ち着きを取り戻し始めた。
そうしたミリアから若干距離をとった俺達三人だが、この場で頼りになりそうなのはミリアだけのような気がして、それ以上離れようとは思わない。
「ミリアさんは怖い人ですね」
テラーさんの言う声に俺とオッサンが頷いたが、無理もないと思う。