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第19話 追撃する者達

 ドワーフを救ったのはダークエルフ。

 時を同じく脱走した2人。

 そして3人は共通して異世界人。

 状況から考え、おそらく合流するだろう。

 よくて大森林に立て籠もり。悪くすれば、魔族領土へと逃げられる。


 そう判断したジェイドは、追跡の任務をテレサとテラーへと言い渡した。

 その意味を察したテラーは、いち早く自らの責務を把握し、ヒサオとミリアの匂いを仲間達と辿っている。


 馬に乗ったままテラーがテレサに近付き、


「隊長。やはり逃亡者たちは大森林へと向かっています」


 後続からついてくる自分の同胞と、ジェイドによってつけられた人間達に見せつけるかのように馬上で話をする。


「ご、ご苦労さま。引き続きの追跡を行うように」


「ハッ!」


 声をあげ、テラーが手綱を引き締め先へと走りだした。

 ホっと息を吐くテレサであるが、即座に上体を起こした。


(これはチャンスなんだから、しっかりしなさい私!)


 ジェイドに言われた時は、頭がまったく回らなかったが、自分のまったく預かり知らないところで、追跡部隊が集まった時には、思考停止でいられる状況ではなかった。


(託宣がないと無理だと思っていたのに、こんなチャンスがあるなんて夢みたい! これで、パパとママを楽させられるかも!)


 しくじれない。

 このチャンスを棒にふったら、いつになったら牢屋の看守という立場から這い上がれるのかわからないのだ。

 その思い浮かんだときからテレサは自分が何をしたらいいのか必死に考え始めた。

 それはいいのだが……


(私、なにしたらいいの?)


 いままで託宣に任せていたツケが回ってきたようだ。考えるという事が出来ずにいた。


 部隊構成は、獣人と人間の混合追跡部隊という形となっており、獣人達はテラーがまとめているのだが、どうも人間部隊の空気が悪い。

 一言でいえば『なぜ自分たちも?』な考えなのである。


 自分達が、獣人達と作戦行動を一緒にするとか、プライドが許さない。

 ましてやそうした託宣もなく、突然誰とも知らない女の部下にされ、しかもその命令内容が王子であるジェイドから出た。おまけにすでに夜。


 ぶっちゃけ、わけわからん。という状態だった。


 獣人達は慣れているのか、テラーの指揮に不満の声を上げる事なく従っている。


 だが、人間達の方は説明すらないままで、とにかく脱走した3人を追う部隊として追跡しろと言われただけ。夕方に召集がかけられ、すでに夜半となっているという事もあり不満が口から漏れ出している。


「あの子誰だよ? 見た事ないぞ」

「知らねぇよ。それにこんな託宣あったか?」

「ない。獣人もいるし魔族相手の任務なんだろうな」

「はぁ……なんだよそれ。魔族相手なら獣人だけでやらせろよ」

「王子も何考えているんだよ。あの人、前から俺達に交じって訓練とかしていたけど、これもあの人の気まぐれじゃないのか?」


 テレサに聞こえるぐらい大きな声で、互いに愚痴をこぼしあっている。誰一人としてやる気というものが見当たらない追跡部隊となっていた。


 いや訂正しよう。

 テレサだけはあるのだから。

 ただ何をしたらいいのか、頭が回っていないが。


 一方、獣人の方とと言えば、部下に問題はなかった。

 基本獣人の多くは、狼や犬タイプが多いのだが、今回は馬型。つまりはケンタウロスも数人いるし、希少タイプといわれる猫型もいる。


 さて、ここで問題なのが一人いる。

 それはテラーだ。

 一見すると、無駄なく任務を遂行しているかのようだが、彼女の頭には、拭いされていない言葉があった。

 それはラーグスが言い放った一言。


『道具』


 ハッキリとそう言われた。

 奴隷として扱われているようなものだと思っていたが、まさか生物とも扱われていないのとは思わなかった。


(託宣による約束だと思ったのに、あの様子では違ったのか。ここまで頑張り、騎士にもなったのに……)


 領地問題は王が決めること。

 その王と会うことが許されていないテラーは、ラーグスから報酬として領地を与えられることを言われた。つまり、王からそういう命令を下したと思っていた。それも託宣によるものだと。


 だが、蓋をあけてみれば、道具扱いだ。

 となれば、ラーグスの言った領地報酬の件は嘘だとしか思えない。

 今までの頑張りはなんだったのだろう? 全て無駄にされたような感覚でいる。


(王子はどうお考えなのか)


 大森林に近づき匂いが濃くなっていることを確認しつつ、王子の事を考える。

 ジェイドにとって単純に面倒だと思ったからの発言だったのかもしれないが、テラーにとってみれば、どん底に落とされた後に、もたらされた救いの言葉に近かった。


(王子ならばきっと……)


 絶望から希望。

 ジェイドの言葉は、テラーの心を揺さぶっていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ケンタウロスと言えば幻獣の類になるのかもしれないが、この世界での分類は獣人とされている。そして彼らの役目は、馬との交流において重要な役目を担っていた。

 なにしろ馬と言葉が通じるのだから、扱いが比較的容易になる。


「エイブンどうですか?」


 テラーが話しかけたエイブンと呼ばれる赤髪のケンタウロスが、テラーの馬から視線を外し、彼女へと向けた。


 若さあふれる顔だち。背には矢筒をつけ、左手には弓を。

 くすんだ銅色でできた胸鎧は傷だらけだ。

 下半身は馬のソレであるが、普通の馬と比べて一回りほど小さい。

 これはエイブンのみならず、ケンタウロス全体に見られる傾向であるが。


「ええ。あと半日程ならなんとか。ですがその後は、長い休憩が必要になると思います」


「それなら、回り込めそうですね」


 大森林に着く頃には、すでに明け方になっていた。

 このまま森に入ろうとしたが、結界の存在を思い出し足を止める。

 最悪なのは魔族領土まで逃げられること。


(状況的にありえるし、このまま中にはいるよりも回り込みたい)


 そんなテラーの考えを知り、ここまで疾走させていた馬の様子を確認してみた。

 この事はテレサと相談したわけではない。

 テレサの方は自分の部下となっている人間達の管理すらできていない。作戦を考慮する余裕があるわけがなかった。

 そんなテレサを横目でチラリとみるが、とても隊長と呼べるものではないと思う。


(槍の腕はそれなりと聞いているが、王子としては口封じの意味が強いのだろう)


 実力ではなく、運でこの場にいるだけだと把握はしているものの、立場上、報告をせねばならなく馬を横につけた。


「隊長。このまま森の反対方向へと向かいます」


「え? もう逃亡者達は森の外へ?」


「いえ、そうではありません。森には結界が張ってある為……」


 軽く説明をすると、テレサは、


「結界があると、匂いをたどるのも難しくなるのね」


「確実性が下がります。森の中に入るにしても、回り込んでからの方が、逃がしにくくなるでしょう」


「わかった。どうせ託宣が無いし、それで行きましょう。責任はもちろんあなたね」


「……ハ」


 テラーは内心を隠し、軽く頭を下げた。

 そんな彼女達が森の反対側に出たのは、明け方であった。

 先行していた先遣隊の一人がテラーと合流すると、


「テラー様。アグロの街へむかう道に、複数の匂いがありました。もしかすればですが、すでに……」


 テラーと同種族のような茶の体毛に覆われた、どうみても犬でしょ! 間違っても狼じゃないよね! と、ヒサオならいいそうな獣人の男が報告する。もちろん犬の獣人である。


「逃亡者の匂いは?」


「人間の方と思われる匂いはありました。しかしエルフの方は……」


「それで充分。ダークエルフとエルフの匂いの区別は難しいですからね」


「申し訳ありません」


「このまま後ろの本隊と合流を。私は確認する為に急ぐ。この事はテレサ隊長にも報告を」


「ハッ! テラー様、お気を付けて!」


 テラーに一言いい残し、獣人兵が下がっていくと、隣を走るエイブンに命令を下した。


「聞きましたね。弓兵を2人ほど連れてきなさい」


 言われた彼は、軽く会釈をし体を捻り、自分の足で走り出す。

 ケンタウロスであるエイブンの走る速度は馬以上。その背に誰かを乗せる事もごく稀にあるらしい。ただし、それは自らが認めた主のみとされているが。


 すぐにエイブンが部下を連れ戻ると、テラーは馬の速度をあげた。


「思ったよりも行動が早い。先行している部下と合流するつもりで急ぎます。馬には無理をさせますが、エイブンお願いします」


「分かっております。倒れる寸前まで頑張ってもらいますよ。どうしてもというのであれば、わが背をつかってください」


「助かります。その時は頼らせてほしい」


「お任せを!」


 燃えるような赤い髪と等しく、彼の声は熱い何かをを感じさせる。

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