第13話 偽勇者
ボーっと待つ。
やる事が無くなって、壁に背をつけ、硬い床に座り待つ。
昼飯は硬いパンが2個と、具がちょっとしか入っていない冷たい塩スープのみ。野宿していた頃のベアちゃんの肉が恋しくなってきた。牢に入れられ、まだ2日目だというのにさ。
飯を食い終わった後に、またラーグスとテラーがやってきて、ミリアの方へと向かっていった。
俺に聞かれたくないのか、ラーグスたちの声が聞こえない。
だが、ミリアの大声だけは聞こえてくるので、だいたいの予想は出来た。またミリアを利用しようとしているんだろうけど無理じゃね?
だって、ミリアを利用するとしたら魔法関係だろ?
魔法使用可能状態にしたらどうなるか、あの2人だって予想できるんじゃないか?
オッサンがいなければ、軍相手だろうが全滅できそうな口調だったし、鑑定で見たレベル数値もテラーの倍近かった。
それで思い出した。
テラーの称号って精霊騎士だったよな?
なんでそんなのが軍人のような服を着てラーグスと一緒に?
俺達が出現したあの海岸を見張っていたわけだから、あの時からすでに軍属だった事になるんじゃ? なら、そっちの称号ででるんじゃ?
ああ、でも騎士か。なら軍属でいいのか? うーん。分からんから、ちょっと見てみよ。
レベル57 テラー=ウィスパー
称 号 精霊騎士
アイテム エレメントソード 上級軍服
ステータス 一流精霊騎士
ス キ ル 精霊憑依 火の心 風の心 土の心
水の心 闇の心
……えっとテラーさん。レベルの上がり方がおかしいのでは? 思わずさんづけしてしまったじゃないか。
最後に見た時は確か47だ。と言うか、最初から変わっていなかったはず。
それが数日で10レベル上がっている。
スキルも増えているな……前は火と風だけだったのが、さらに3つ追加になっている。
ちなみによく使っていたのは風で、火精霊はまったく憑依させていなかった。当人によると扱いにくいらしい。
しかしこれはどう考えればいいんだ?
明らかに強化されている状態な気がするが、こっちが本来の状態だったんだろうか?
でもそうなると弱体させていた事になるし……それに意味があるのか?
当人の話を信じるなら、俺達と一緒にいることを決めたのだって、とっさの判断だったらしいし、なにかしらの準備なんてできなかったはずだ。んじゃどうして状態が変わっているんだろ?
あるいは、この数日間でここまで成長できた? この世界の事をよく分かっていないし、ありえるかもしれない。
ん? 話が終わったのか? ボソボソ声が聞こえなく――ガチャ? 金属音がしたぞ。
すぐにその音の正体はわかった。
ミリアが牢を出され、手に木の枷をつけられたまま歩いてきた。もちろん、ラーグスとテラーも一緒だ。
「ミリア!」
「大丈夫!」
名前を呼ぶと同時にミリアの気の張った声が返ってきた。何を言いたいのか分かるが、不安が残って仕方がない。
彼女が着用している『天の長衣』は特殊なもので、常に物理結界を張っているらしい。
もちろん物理攻撃を完全に無効化するものではないが、かなりダメージを減らせる。
それを着せられたままなのだから、多少の出来事なら大丈夫と言いたいのだろう。
まあ、その効果も魔法を放った瞬間消えるらしいから、そこをテラーにやられたんだが。あいつ、タイミングを見計らっていたんだろうな。
「さてと。テラー」
「ッ!? 痛いわよ!」
ラーグスの意思を察し、テラーがミリアを俺の眼前に跪かせた。
ミリアが怒気を込めテラーを睨むが、テラーは意に介していないようだ。
「何の真似だ?」
「分かるだろ? 『偽勇者』」
いや分からん。
『偽勇者』というのも分からないが、ミリアを俺の前に座らせてどうしたい?
「何をどうしたいんだ? というか『偽勇者』ってなんだよ?」
「言葉どおり。聞けば、君がいた世界にも勇者や魔王といった者がいるのだろ?」
「は? なに言ってんだ?」
「ラーグス様。それは少し違います」
会話が噛み合わない俺達の横から、テラーが口をだしてきた。
軽く説明すると、ラーグスは頭を軽く振った。
「いない存在なのに物語には登場するだって? また、おかしな世界だね」
考えを託宣に依存しているから空想とか妄想とか想像力が足りないのだよ。と、言ってやりたい。もっとも勇者として称えられた人はいただろうけど、それを口にしても面倒になるだけだ。
「まあいい。話としてはあるのなら勇者の意味も分かるだろう。その偽物と言えば、だいたい思うところがあるんじゃないか?」
「まったくない」
率直に言ってやったら、黙りやがった。
「テラー、こいつは頭が弱いのか?」
失礼な。額に手をあてて、そんなこと言うんじゃ……手に指輪が……フーン……
「私達と常識が違うのではないでしょうか? 勇者の事から説明するのが、よろしいかと」
「そうしろオッサン。いや、エロイ人」
「エロイ?」
俺にとってオッサンはジグルドだけだ。それをこいつに使うのは勿体ない。なので、エロイ人と呼ぶ事にした。
「意味が分からないな。通訳スキルは大丈夫なのか?」
「おそらくは。ですが、ヒサオの通訳スキルは勇者の物とはいささか違いますから」
「そのせいだと?」
「かもしれません。彼の場合は、周囲にいる全員がスキルの恩恵を得られるわけですから、その時点で普通とは異なります」
「そうだったね。昨日このエルフで検証ずみだ」
そういい、忌々しそうにミリアの頭を一押しした。
「なによ!」
「黙れ。君なんて、人質にしかならないんだから」
「…ん?」
俺が疑問の声を出した。
ミリアが人質? 誰に対して? まさか、この状況って、ミリアを人質にして俺に協力させようと? ……こいつ頭悪いんじゃね?
言っちゃなんだが、俺を従わせるならミリアを人質にする必要ない。普通に暴力振るわれれば従います。もちろん、チャンスをみて裏切るけどな。
「どうした。まさかとはおもうが、この状況を分かっていない?」
「あー…うん。ミリアを人質とか汚くないですか?」
とりあえずこいつの話に乗ってみた。一応ね、一応。
「こんな危険な存在、人質にしかならない。魔法を使えるようにしてしまったら、こちらの被害が尋常じゃなさそうだし困ったエルフだ。まぁ、杖がなければどうという事は無いようだけど」
それは同意見だな。
杖を取り上げ、封印の魔法陣を部屋に設置するとか、かなり危険視しているんだろう。気絶させる前にテラーが聞いていた話が伝わっているに違いない。
で、偽勇者の話はどうなった? いいかげん教えてほしいんだが?
その後もグダグダとエロイ人の話が進むが、堂々巡りに似た感じになるので、ほとんど覚えていない。俺が聞きたかった偽勇者の話に戻ったのは、テラーが空気を察して声をかけてからの事だった。
「そう言えば、こいつは知らないのだったな」
知らないも何も、何がどうなっているのか、さっぱりだ。
お前文官長なのに、そんな記憶力で大丈夫か? と、言うか、こんなのが文官長でも大丈夫な国ってどうなんだよ? それだけ託宣が凄いって事になるんだろうか?
「まずは勇者から説明してあげよう」
そういってラーグスが話始めるが、なぜか自慢気であった。
簡単に言えばこうだ。
勇者とは魔王に対抗できうる存在で、どの勇者にも鑑定と通訳スキルが備わっているらしい。
つまりこの2つがない異世界人は勇者ではないという事になる。
これは召喚儀式の際に与えられるものらしく、この2つが基本となり、あと魔法や武器スキルなんかが追加されるという話だ。
で、俺には追加方面が皆無なわけで、偽勇者という事になるのだろう。
俺は召喚されたのか? と、一応尋ねると『違う』と言われた。
俺達がいた海岸は昔から異世界人が出現するポイントで、その辺の話は先日聞いた話といっしょだった。あの場所に現れた俺は、誰も召喚していないという事になる。
では、なぜ俺には勇者が所持する基本スキルがあるのか?
と、言う事になるのだが、それは不明らしい。
なんでも召喚儀式そのものが解析されておらず、ただ託宣があったからという理由で召喚される事がほとんどらしい。絶対ではないようだが。
召喚された訳でもないのに、勇者がもつ基本スキルを所持している。だから偽勇者という事なわけだが、問題なのは……
「魔王を倒せって、あんた」
「立場をわきまえたらどうだね?」
あんた呼ばわりした事にイラっときたようだが、言われたくないなら馬鹿な事を言うなと返したい。
「テラーから聞いただろ? 俺は弱い! むしろミリアと交渉しろよ」
「知っている。そしてこのエルフにもすでに言ったよ。だが服従する気はまったくなさそうだ」
「そりゃそうだろ。俺だって同意見だ」
「君といい、このエルフといい、本当に立場を分かっていないようだね。これは取引でない。いつでも我々はお前たちの命を奪うことができる。それをよく考えてみたらどうだ?」
言われるまでもなく、そんなことは分かっている。
だが、エロイ人の言うことを聞いたとしても、待っているのは魔王と戦うという結果だ。
それなのに、ここで命令を聞いてどうする。
「俺が魔王と戦っても勝てるとは思えない。なぜそんな事を?」
「それは安心しろ。魔王といっても相手も偽物だからな」
「……はい?」
最近は偽が流行っているのか?




