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第10話 裏切り

 俺達を案内しているダークエルフの男の名前はゼグトといった。


「本当に1日で、森を抜けられます?」


 疑問に思い俺が走りながら尋ねると、コクリと返してくる。


 ダークエルフだからかどうか知らないがゼグトさんは銀髪だった。これは長と呼ばれた男もそうだったな。

 華奢で小さな体形をしており、走る速度が異常に早い。いまでこそ俺達の速度、というか主に俺の速度に合わせてくれているけど、最初の時はアッというまに置いて行かれてしまった。


「ねぇ、どうしてドワーフが狙われているの? それに、あなた達がそれを心配しているのは何故?」


 俺の前を走るミリアが息を乱すことなく尋ねる。


「狙われる理由なぞ『託宣だから』だろう。人間はそれ以外で動く事はほとんどない。ドワーフを心配しているのは、我々にはドワーフに対し恩義と約束があるからだ」


「託宣? 託宣があったからって一つの種族を滅ぼそうとするのか?」


 今度は俺が口を出す。ゼグトさんは黒く切れ長の目を俺に向けて、


「お前達は知らずとも無理はないが、彼ら人間は、託宣があったからで同種族の国を亡ぼすこともある。ならば、他種族を亡ぼすことに躊躇いなぞある訳がない」


 静かな怒りが彼の口調から感じられた。

 それも無理はない。

 話を聞けば、先日匿ったドワーフを狙い、人間の軍が森にやってきたらしい。

 その本隊を彼らは撃退したらしいが、一部の部隊がはぐれ村にやってきて、多大な被害を出したという。

 村を守っていた人々もいたらしいが、守り切れず多大な被害をだし、守るはずだったドワーフも死なせてしまった…と、苛立つ口調で教えてくれた。


「あなた達はドワーフに恩義あるの?」


 ミリアが先を走るテラーさんから目を離さず聞いた。


「そうだ。俺達の先祖はドワーフに命を救われた事がある。それ以来、ドワーフに対して必ず恩を返すと誓った。だが、その誓いは果されずに彼らは死に、一つの約束だけが残ってしまった」


「約束?」


「それについては言えない。君達が異世界人だからと言うのでは無い事だけは分かってほしい」


 それ以上ゼグトさんは言葉を続けなかった。

 彼の抱いている感情が俺たちにも伝わったので、追及もせずこの話は止めた。


「道はこれで?」


「真っすぐでいい。この森には特殊な結界が張っており、中で同じ所をグルグル回るようになっている。エルフならば感知できるはずだが?」


「ミリア……」


 言いたいことが分かり、ジト目でみるが、


「呪いのせいよ。攻撃系魔力以外はかなり低下しているの。感知とか無理(・・・・・・)


 ミリアが淡々とした口調で言ったが、何か引っかかるな? なんだろ?

 気にはなったが、あまり踏み込んで聞くと、また苛つかせるだけな様な気がしたので話を変えた。


「ところで、ゼグトさんは俺達のような異世界人に会った事はありますか?」


 唐突な質問のように思えるが、これは俺達にとって大事なことだし、聞ける時に聞いておかないといけない。俺の声に、ミリアの耳が反応したのが見えた。彼女も当然気にしているのだろう。


「私は無い。そもそも人間達が異世界人を管理しているから、我々には出会う機会がない」


「なるほど。そう言えば最初に会った人は、俺達を眠らせようとしていましたね」


 盗賊に襲われていた村の話を軽くすると、ゼグトさんは頭をふった。


「相変わらず人間のする事は理解できん。君も人間のようだが、考え方は違うのだろ?」


 当然違うと答えると彼は安堵したかのように表情を柔らかくしてくれた。多少なりとも警戒していたのかもしれない。


「ねぇ。噂程度でいいんだけど、異世界人がどうなるのか分からない?」


「すまないが、俺は知らない。だが長ならあるいは」


「長ね……これ失礼だと思うけど、さっき話をしていた人よね? 若いように見えたけど、それって……」


「察しの通りと思ってくれて構わない。だが、あの方はすでに長としての資格を有していた。問題はない」


 ミリアの話を途中でぶった切るかのようにゼグトさんが言った。もしかして、先の戦いで長の立場だった人がやられたのか? あまり聞きたくない話だ。


 しかし、まいったな。

 結局異世界人の事を知るには、人間と接触しないと駄目な気がする。

 かといって、あんな託宣だとかに縛られている連中と会話して何とかなるんだろうか?

 テラーさんが言っていたが、王都アルツに一度行って、あの海岸を調べた連中から情報を引き出すしかないのかな?


 ああ、長さんが知っている可能性もあるのか? まずはそこからかな?

 それで何か情報が分かればフラグが…って違う。ゲームじゃないんだから、この考えは捨てないと駄目だろ。油断していると、ポッとでてきて困る。

 

 その後も会話を続けたが、だんだんと途切れがちになった。

 途中休みを挟み、陽が落ちてから軽く眠った。

 こちらの世界に来てから大分体力がついたのは実感できた。

 以前なら、こんなことは無理だっただろう。

 ミリアやテラーさんがモンスターを倒すたびに経験が増えてレベルが上がってきているし、それの影響もあると思う。

 まだ陽が上がらないうちに目を覚まし、俺達が入ってきた場所へと急いだ。そこがジグルドと決めていた合流地点となっている。おそらく近くにいるはずだ。


「待って! 止まって!」


 そろそろという所で、突然ミリアが強く声を出した。

 全員が足を止め、すぐに行動を開始したのはゼグトさんとミリアだった。

 2人ともが体を伏せて耳を澄ます。テラーさんは足を止めたが、特に何かをする様子もない。


「この騒めき。森の外からね。しかも、多い」


「人間の軍勢だ! 不味い。今来られたら結界による優位性が無いぞ! いや、だが、ドワーフが捕まっているのであれば助けねば!」


 ゼグトさんが迷った声を出す。


「結界は村で管理をしているのか?」


「ああ。村で長が管理している。戻って報せたいが、まずはドワーフの安否を確認しないと」


 村の危険性よりオッサンの安否を優先か。尋ねておいてなんだが、村に戻るべきじゃないだろうか?


「ジグルドの事は我々が。あなたは戻って知らせるべきだ」


 身を隠す気もないテラーさんが言い出す。それにゼグトさんが反対の声をあげかけたが、


「あなた一人なら半日もかからない。ジグルドがどうなっているのか、分かるまで時間がかかるかもしれない。捕まっていると仮定しても、我々だけではどうしよもない。違いますか?」


 テラーさんの考えに俺とミリアが賛同の手をあげると、ゼグトさんは顔を一瞬歪めた。

 だけどすぐに、首を頷いて返してくれた。


「分かりました。無茶をしないでください。それと俺一人ならば夕方には戻ってこれる。それまで我慢してほしい」


 夕方って、たぶん3、4時間ぐらいだぞ? そんなに早く行って戻ってこれるのか?……だいぶ速度緩めてくれていたんだな。


 俺たちが頷いたのを見て、ゼグトさんは来た道を戻っていった。その場から消えたような速度だったので、彼が言ったことは本当なのだろうと思う。


「じゃあ、まずは確認しないとね。体を低くして物音を立てないようにしてね」


 ミリアの言う通りに物音がする方へと向かう。

 森に入る前にあった開けた平地に、人間の軍隊が集合していた。

 俺の鑑定能力で見た限りだと、そのほとんどがアルツ兵と表示されるが、数人ほど違った称号を持つ人達がいた。将軍とか貴族とかいるが、こいつらはバラバラに動いていて、どうも話がまとまっていない印象を受ける。


 俺が見た情報を2人に流すと、


「ジグルドはいないのですか?」


「ちょっと待って」


 周囲をグルッと見直してみる。色々いて分からないな。何人か鑑定しちゃったよ。混雑しすぎてわからない。いるかどうかだけでも分からないかな?


「うーん。オッサン……あれ?」


 探している最中。ポーンと目の前に文字入力を出来そうな画面が……オイ。まさかだろ?


「どうしたの?」


「いや、ちょっと試したい事ができたから時間をくれ」


 タイミング的に考えて、これしかないと文字を……スカるし反応がない。文字入力できるようなタッチパネルなんて出ないし……念じてみるか。

 オッサンオッサンオッサン……入力はされた……オッサンじゃないな。知ってたよ。


 気を取り直し『ジグルド』と入力すると、今度は赤い矢印が出現。追って行くように顔を動かすと、軍の中にいるオッサンを見つけた。


「いたぞ」


 見つけたのはいいが不満だ。

 便利なのはいいんだが……ホント何だよこれ?

 

 そんな事を考えながらオッサンがいる場所を指差すと、そこには縄で縛られたオッサンがいた。

 まいったな。嫌な予感が的中しやがった。


「ミリアさん。あなたの魔法で、どの程度やれますか?」


 物騒な事をテラーさんが言い出した。

 やれるって、殺るってことだよな? もう力づくで解決しようとしているの? 無茶するなって言われていたと思うんだが。


「やるだけなら、あれ全部まとめて一発で始末できるわ」


 こっちはこっちでおかしなこと言いだしたぞ!

 どのくらいの数なのか見当もつかないけど、見た感じだけで100人超えていると思う。なのに、それを魔法だけで片付けられるとか言い出しやがった!


「それは凄いですね。魔王を倒したと聞いた時から、もしや? とは思っていました」


「俺、まったく考えなかった」


 俺が間違っていたのか? と自分の常識を疑ってしまう。しかもそんなやつが、俺がいた世界をおかしいとか言っていたんだが? ミリアの方がおかしいだろ。


「そりゃ、そうでしょう。『魔王軍』を相手にしないといけないんだがら、広域殲滅魔法も必要になるわ」


「そ、そういうものか。分かった」


 もう、どうでも良くなってきた。

 そういうものだとシブシブ飲み込み、なら簡単じゃ? と、思ったが、そう上手くはいかないらしい。


「ジグルドがいるから殲滅魔法は駄目ね。一緒に片づけてしまうわ」


 敵味方の区別ができないらしく、ならばどうするかという話にもどると、


「区別ができる魔法でならどのくらいを?」


「うーん。だいたい7、8人程度? 自分中心系ならもっといけるけど、この場合は駄目ね」


「なるほど。では、7,8人ほどの方でいきましょう」


 テラーさんが言い出した事に、俺たちはそろって『いきましょう?』という声を出してしまった。


「魔法と同時に、私が突っ込みます」


「「それおかしいから!」」


 これまた同時に俺たちが声を出してしまう。

 ここからオッサンの場所まで結構あるし、テラーさん一人が突っ込んだ所でどうなるというのだ。


「何がおかしいです? 風の精霊憑依の力でジグルドの側にいき、縄を切ってて戻ってくるだけですよ。もちろん、ジグルドを助けたら、兵達をミリアが殲滅してください」


 当然の事といったクソ真面目な顔つきで言われ、俺とミリアの口がポカーンと開いた。


 そんなにテラーさん早く走れたか?

 確かに、風の精霊憑依を使った後は素早く動いていたが、それだって普通より早いという感じ程度だった気が……ああ、最初の村での戦闘時はもっと早かったか?……あれ?


「もしかして、いままで全力で動いてなかったとか?」


「はい。全力で動くと憑依できる時間が短くなりますから」


 なるほどと、俺の両手からポンという音がでた。


 これやれるんじゃね?

 どうやら思った以上にこの2人の力っておかしなレベルのようだし、ゼグトさんを待つ必要ないんじゃ? それに、あの軍勢だってどう動くのか分からないし、オッサンの居場所が分かる今がチャンスな気がする。


 ミリアに、俺は賛成といった表情を見せてやると、深い溜息をつかれた。なぜだろう? どこかに欠点でもあるのか?


「まあ、やってみてもいいけど、これかなりの博打よ? 私達はこの世界の住人の力量がほとんど分からないんだし」


 と、言うミリアに俺が見た兵たちの状態を教えた。

 ほとんどの兵が10台前半のレベル。たまに20台になっている者がいるが、こっちは指揮官クラスだ。

 10台前半とか兵として駄目なんじゃ?

 指揮官クラスが20台だけど、俺もすでに20台になっているし、俺が指揮官やっている軍隊って想像しただけで危険な気がしてならない。


「レベルねー…それって本当にアテになるの?」


「俺が聞きたい。俺のレベル、すでに20超えているのに、強くなった気がまったくしない」


「……駄目じゃない」


「お、おう」


 駄目出しされてへこんだ。

 鑑定によるレベル識別って役立つと思ったのに、それすら駄目だしされるって……俺、この先やっていけるんだろうか?


「2人とも、ジャレアイはその位にして、やりませんか?」


 俺達に呆れたような声と顔を向け言うテラーさんに、2人そろって手と首を激しくふって否定した。

 テラーさんの言葉に挑発されたかのようにミリアがスクっと立ち上がり、オッサンがいる場所に照準を合わせ杖をむける。


「ジグルドの周囲のやつらを()るわ。あとは任せたわよ! 《即死(インスタント・デス)》」


 おそらくは魔法の名称であろう。

 呪文詠唱が無いのは、ミリアの特殊能力のせいだ。

 放った魔法の効果なのか、ジグルドの周囲にいた兵士達が突然血反吐を吐き地面に倒れた。

 直訳すると即死か……やっぱりそういう魔法もあるんだ。


 瞬間。


「ウッ!」


 ミリアが呻く声がし見ると……





















 テラーさんの右拳が、ミリアの腹に突き刺さるかのようにメリ込んでいた。


「え? なんで?」


「すいません。ヒサオさん」


 彼女がそう言った声をきいた瞬間、俺の腹にも彼女の右拳が入り、意識を手放してしまった。


 ……くそ、どういうことだ……

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