第1幕、第2幕
芥川龍之介「藪の中」より。
第1幕と第2幕です。
第1幕
深い竹やぶの中、気持ちのよい鳥の鳴き声がさえずる。
まだ新しい木漏れ日の中、
私は見た。
「あ、死骸・・・。」
第2幕 後日の噂話
「ねぇ、ちょっと奥さん!!鉄ちゃんの奥さんったら!!ちょっと、ちょっとぉ〜」
ゴミステーションに集まる近所のおばさんたち。
いつものように、うわさ話をしに、ニヤニヤしながら寄り集まっている。
「あらまっ、カドキチさんの奥さんったらぁ!!なによぉ。」
「ねぇ、ちょっとぉ、鉄ちゃんの奥さん、聞きましたぁ?!」
「何ですかぁ、奥さんったらぁ!!」
「ほら、あなたのお隣のぉ・・・。」
「ああ、お隣のご主人が竹薮の中で殺されたって話ですかぁ?」
「そう、そうなのよぉ、奥さん。お隣のご主人を殺した犯人が捕まったそうなのよぉ。」
「そうなのぉ?!」
カドキチの奥さんが、お尻をふりふりシナを作り顔をちょっと赤らめて、
「犯人はあの成金不動産のセールスマンですって!!」
「きゃっ!!まぁ!あのぉ!!・・・やあねぇ。あのセールスマン、家にもきたのよぉ。」
「まぁ!!鉄ちゃんの奥さんのところにも?いやぁねぇ。」
「そう、そうなのよお。あの優しい顔をした、ちょっといい男!」
「面の良い男に限って、ろくでもない奴が多いのよねぇ。」
「こわいわねぇ・・・。優しそうな顔してぇ、判らないものよねぇ。・・・殺られなくてよかったわぁ。ほ・ん・と・に。」
「あんたのほうが怖いって」
「え、なに?」
「あ、いえ、ほ・ん・と・に。あ、そうそう、それとねぇ、あのひとぉ、うちの主人の知り合いの知り合いなんですってぇ。」
「まァ、ほんとにィ?!」
「そうなのよお。なんでもぉ、何とか組って所のやくざとも通じていてぇ・・・。兎に角、あんまり性根が良くない 人だそうよ。」
「こわいわねぇー。」
「でもって、すごい女好きな人なんですって。・・・ほら、この間、女子大生が強姦に襲われて殺されたって話、あ れもあの男じゃないかって、専らのウ・ワ・サ。」
「やっだぁー。・・・あの男、そういえば家に来た時、わたしのことぉ、いやらしいなめるような眼でみてたのよぉ。」
「ま、奥さんったらぁ。うそばっかり。」
「え、なに?」
「でも、あそこの奥さん、人は見かけによらないって云うけれど・・・。」
「・・・やらしいわよねぇ。ほんと、大人しそうな顔をして、裏ではなにやってるのか。そういえば、最近、見ないわよねぇ。どうしたのかしらぁ?」
「それにしてもあの夫婦、いつもベタベタしてたけど、案外、ほんとは仲悪かったんじゃない?」
「仮面夫婦ってやつね。」
「今時、それは死語だって・・・。ねぇ、それよりワイドショー、いつくるかしらぁ?」
「ほんと!!」
「テレビなんて映っちゃったりして。きゃっ!!」
「もう!わたしなんてこんなふうにいつも口紅塗って、今か今かって待っていますのよぉ。うふふ。」
「あ、そろそろ主人が起きてくるころだから・・・。」
「じゃあ、またあとでね!」