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芥川龍之介「薮の中」より
芥川龍之介の「薮の中」を現代風にアレンジした作品です。
序
ここにはだれもいない。
だれも来ない。
唯一人、おれは深く沈み込んだ静けさの中に包まれている。
時折、囁きかける乾いた風は、唯、寂しさと空しさを伝えるだけ。
手を伸ばしても何も掴めない。
唯、冷たい、冷たい感触が俺の精神を鋭く突き刺し蝕んで行く。
寂しい・・・
この辛さは、一体、なんであるのか?
ーーー薄く淡い鋼色の月影は、深く淀みすぎて、此処までは届かない。
ここは、暗い籔の中。
そしてーーーそして、おれは、“何か"の影を追い、求めるように
今もこうして彷徨い続けている。