序章
白磁のような白い肌にセピア色の柔らかくウェーブを描く髪、紅を刷いたわけでもないのに色づく紅い唇。ぱっちりとしたアーモンド形の眼は大きめで、高純度の硝子で出来たドールアイだと云われたら納得してしまえそうなほど透き通った琥珀に翡翠が混じるヘイゾルの瞳が真っ直ぐに男を見ていた。
感情を一切そぎ落とした貌がまるで人形のような、少女と呼べばいいのか女と称するのが正しいのか分からないほど年齢が曖昧な容色の娘は、婚約者だと紹介された四十にも手が届きそうな男を前に数度瞬いただけだった。
一方、婚約者として姿を見せたはずの娘のあまりの無反応さに、男は如何したらよいのか分からずに無言を通した。
柔らかなブロンドの髪は伸ばされ首筋で一本に纏められており、アッシュグレイの瞳は鋭く、整った顔立ちではあるが配置の妙なのだろう、とても厳つい印象を人々に与え、どこか威圧的な雰囲気を醸し出しているためか、男を見ると大抵の女は悲鳴を上げたり気を失ったりする。
だが、目の前に立つ娘はそう云った反応を一切しなかった。悲鳴を上げて怯えられたら引けばいいし、気絶されたら人を呼べば良いだけなのに、そのどちらもされないと、途端に如何した好いか分からなくなるほどに、男はそう云った対応に不慣れだった。
男の名はジークムント・アーダルベルト。
前国王の姉の息子であり、公爵家当主にして現在は宰相を務めるほどの人間だ。
娘の名はアルティリア・ローレンス。
侯爵家に並ぶほどの歴史と実績を持つ伯爵家の庶子だった。