遭遇
「何だ、これは…」
クレマン達は目の前にある光景が信じられなかった。
なぜならクレマン達の眼下には一目でそれと分かる悪魔やモンスターがひしめき合い、エンディカ軍と剣を交えていたからだ。
大隊の兵士は指揮系統を含めて全員、呆けた様に静まってしまった。
しかしその沈黙を必死に破る者がいた。丘の上で手を振って呼びかけていた兵士だ。
彼は大隊長につかみ掛かり、正気を取り戻そうと揺さぶる。
「大隊長殿!驚くのは分かります!ですが仲間の命が掛かっているのです!早く大隊に指示を!!」
正気に戻った大隊長は掴まれた手を引き離した。しかし彼を咎める様なことはしなかった。その余裕がなかったのだ。
「ぜ、全員突撃!友軍を支援せよ!」
だが兵士達は目の前の光景に二の足を踏んでしまう。
そんな兵士達に大隊長は出せる限りの声で前進を促すがあまり効果はない。
そんな中エルドレッドは決意する。
「クレマン行くぞ…」
「え!?だ、だが…」
「味方の命が掛かってるんだ!」
言うが早いかエルドレッドは戦場へ走り出した。
「…クソッ!」
それに続きクレマンも思い切って駆け出す。
二人が飛び出すのを見た兵士達もようやく腹を決めて二人の後を追う。
大隊は二人を先頭にする形で丘を駆け下り、悪魔達に挑む。
最初にエルドレッドが相見えたのは牛の頭をした大男だった。
大男はエルドレッドの前に踊り出ると斧を持った大きな腕を思いっ切り振り下ろした。
エルドレッドはすかさず盾を構えたがその威力が凄まじく、盾は壊れた上にエルドレッドの手の内から吹き飛ばされてしまった。
「グワッ!!」
エルドレッドは左手に痛みが走り思わず声を上げる。
その衝撃でエルドレッドは攻撃に転じることができなかった。
だが向こうは違う。二撃目を繰り出そうと斧を横に引く。
そこにクレマンが割り込んで来て、大男の横っ腹に剣を突き刺す。
「グオォォォォ!!!!」
大男は悶え苦しみ構えを崩す。クレマンに斧を持っていない方の腕でつかみ掛かろうとするが、クレマンは剣を引き抜いて素早く後ろに下がる。
「不死身ってわけでもなさそうだな。」
「ああ。友軍がこれだけ押されている理由がわかった。こんなのが一個大隊くらいも居るんじゃこの場も長く持たないぞ」
大隊が戦闘状態に入っている時、後方ではクレマン達の大隊長が襲われていた部隊の隊長を探していた。
近くでそれらしい人物を見つけた大隊長はその人物を呼び止める。
「そちらがこの部隊の最高指揮官か!」
戦闘が真横で行われているので大隊長の声は大きい。
声を掛けられた人物は首を横に振った。
「いえ!自分はこの大隊の第二中隊隊長です。自分以外の指揮官が戦死してしまったので自分が代行して指揮を取っているので厳密には隊長代理です!」
戦っていた部隊はせいぜい中隊より少し多いくらいの規模だったが、元は大隊だったらしい。
「なら今からお前達は我が大隊に入れ!お前は第四中隊隊長だ!」
「了解しました!」
中隊長は居住まいを正して敬礼する。
大隊長も続いて敬礼し、後に戦況の把握を試みる。
「状況は?」
「は!我々は防衛準備を整えた近くの村まで撤退命令を受けているのですが引くに引けない状態が続いております」
大隊長は地図を広げて中隊長に見せる。
「何処だ?」
それに中隊長は指で指して答える。
「ここです」「近いな。よし!弓隊をある程度先に行かせて遠くから歩兵の援護射撃をさせる。その間歩兵は弓隊の場所まで退却。次に弓隊が退却。これを繰り返し、友軍拠点まで後退する!
聞いたな?」
そう言って大隊長は近くに控えていた各中隊長達に目を配る。
「「は!」」
彼らは肯定の意を示し、指示を出すために散って行った。
「弓を持った者は速やかに後退せよ!その他歩兵は援護射撃が開始されると同時に弓隊の所まで走れ!」
その時クレマンは顔がグチャグチャで涎の様な物が常に垂れている化物と剣を交えていた。
目の前の敵にひどい嫌悪感を覚えながら隣にいるエルドレッドに声を掛ける。
「あれは撤退するってことか!」
「そうだろう!どのみちこのままでは持たない!」
戦況は本当に悪かった。数の上ではこちら側が圧倒的に有利なはずが味方は次々に倒れ、見る見るうちに押されていく。
エルドレッドの近くにいた兵士が翼を羽ばたかせて飛んで来た悪魔に真上からつかみ掛かられた。
「う、うわああああ!!」
兵士はあわてふためき、剣をでたらめに振るが短刀で一刺にされて崩れ落ちる。
エルドレッドは悪魔の翼目掛けて剣を振るいそれを切り落とす。
翼を失った悪魔が地面に落ちるとエルドレッドは目一杯力を込めて蹴り飛ばす。
再び地面に顔をこすりつけた悪魔は立ち上がろうとしたが味方の斧が振り下ろされ息絶えた。
エルドレッドは荒い息を整える暇もなく、新しく切り掛かってきた敵の剣を盾で受け止める。
「援護射撃はまだか!!」
その時、エルドレッドの悲痛な叫びに答えるように敵に矢が降り注ぎ始めた。
それに合わせて味方が一気に後退を始める。
「よし、行くぞエルドレッド!」
「おう!」
二人も相手をしていた敵の剣を弾くと力一杯後ろへ走る。
だが敵も矢に気をつけながらこちらを追いかけて来る。どうやら逃がす気はないようだ。
クレマン達が後ろから斬られるかもしれない恐怖に怯えながら走っていると更なる危険があることを知った。
味方が矢に当たって倒れたのだ。
「ふ、ふざけるな!味方に当たててどうする!!」
これだけ混乱していれば仕方のないことだが歩兵部隊は納得いかなかった。
やがて歩兵は弓隊の所までたどり着き、振り返る。
敵を迎え撃たなければならないからだ。
助走をつけた敵は物凄い勢いで兵士達にぶつかる。
さっきのとは違う牛頭がぶつかった所では兵士が宙に浮いたほどだった。
そこでまた中隊長の指示が出る。
「弓隊は後退!近くに防衛準備を整えた村がある。そこまで持ちこたえろ!」
しかしこれが後何回も続くと知り、一部の歩兵達が命令を無視して逃げ出した。
それが全ての歩兵に伝染し、瓦解が始まった。
「止まれぇ!逃げるなぁ!」 中隊長がいくら声を張っても聞く耳を持つ者はいない。
「大隊長!歩兵が!!」
「ええい!こうなったらもうどうしようもできん!ただ村へ向かうように伝えろ!!」
「は!」
そして大隊長らも村へ急ぐ。
大隊長達は馬に乗っていたので大隊の一番前を走っていた。
戦略的撤退が敗走に変わってしばらく経ちようやく村が見えてきた。
「大隊長見えて来ました」
「よし、向こうの友軍に受け入れの準備を…」
大隊長が言いかけた所、道端から悪魔達が出て来て大隊長や中隊長に襲い掛かった。
大隊長は最初に槍で刺され、馬から落ちてしまった。
「だ、大隊長殿!!」
部下の声と自分の意識が薄れていく中、大隊長が村の方をよく見て見ると煙りが上がっていた。
大隊が目指していた村はもうやられていたのだ。
自分、自動ドアに挟まれたことがあるんですがかなり痛かったです…。
何か自分が人として認識されてないんじゃないかと思えて心に傷を負いました。
痛かったです…。