開戦
ここアブゼルス大陸に存在する二つの大国、ゾンゼンとエンディカの歴史は戦争の連続だった。
大規模な戦闘と国力の衰退による一時の休戦。その繰り返しは今もなお続いている。
広い平地にそれぞれ赤が基調の軍服を着た軍勢と青が基調の軍服を着た軍勢が睨み合っていた。
赤が基調の軍服はゾンゼン兵であり、青が基調の軍服はエンディカ兵である。
これは兵士達が戦場で敵味方を区別できる様にした工夫だ。
緊張して鎧を固定するベルトの確認を何度も繰り返ししていたエンディカ兵はその緊張を和らげようと自分と同様に鎧や盾、剣などで武装した知り合いに声をかけた。
「なあ、エルドレット。もしこの戦闘に昔の英雄を引っ張り出せるとしたら誰がいい?」
その知り合いはちょうど隣に居た。ゾンゼン軍もそうだがエンディカ軍は今敵を前にして隊列を組んでいるのだ。
「それってあれか?英雄が戦場で倒れるとヴァルハラに行って世界に終わりをもたらす戦いに備えて鍛えてるっていうあのおとぎ話の」
エルドレッドと呼ばれた男は敵から目を離さずにそう答えた。
「あれはお伽話と言ってしまっていいのか?」
このヴァルハラの話はいささか宗教的な物の様な気がしてこの男は難色を示した。
「クレマン。あれは間違いなくおとぎ話だよ。ヴァルハラなんて有るはずがない。それにもし存在してたとしてもこの戦いが世界に終わりをもたらすとは思えないが?」
「いいんだよ。この場に誰が居たら心強いかってだけの話だし。
でも、この戦争であの野蛮な連中が勝てば世界中がメチャクチャに…それこそ世界に終わりが来ると思う」
クレマンは前方の敵を睨んだ。
彼の言葉を聞いたエルドレッドは顔をしかめた。ゾンゼンとエンディカの罵り合い決しては珍しくないものだが彼はそれを嫌っていた。
「突撃よぉーーい!!」
クレマンとエルドレッドの上官である中隊長が右手を振りかざし、声を張る。 あの右手が振り下ろされ突撃の号令が聞こえれば二人は他のエンディカ兵と共に敵へ蛮勇を振るって突き進まなければならない。
「…アーヴィンドだ」
途絶えたと思った会話をエルドレッドが唐突に話し始めたのでクレマンは思わず彼を見た。
そのとき彼の表情は不安に変わっていた。それを見たクレマンは彼がこの会話が最後になることを危惧していると分かった。
しかし、エルドレッドとは対照にクレマンの表情は明るくなった。
自分かエルドレッドのどちらか、あるいはその両方が死ぬかもしれないということよりエルドレッドが最後の会話ぐらいはまともにしたいと思ってくれたことがうれしかったのだ。
「やっぱり六大英雄か。でも俺だったらエンゲルブレヒトを選ぶね。彼の方が多く敵を倒したからな」
六大英雄とは100年程前にあったゾンゼンとエンディカの戦争で活躍した六人の英雄達のことだ。
両国に三人ずついて、この時の戦争は彼らが中心に回っていたとも言われている。
「アーヴィンドは考えて戦い兵を有効に使っていた。少なくとも無駄死にはしないだろう」
「そーかい」
クレマンは降参だとばかりに肩をすぼませた。
そうこうしている間に敵が先に進行を開始し、大声を上げて迫って来る。
中隊長に慌てて意識を向けると彼は出せる限りの大声で叫んだ。
「とつげきぃーーーー!!」