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魔法使いと魔女  作者: 東耕市朗
那由他様
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魔との邂逅

勤労少年阿蘇品一樹は、今日もバイトに勤しんだ後、帰路を急ぐ。

バイトに行く前に、須藤と靴箱のあたりですれ違った。

須藤は「今日もよろしくね」とだけ言って俺の返事も聞かずにすたすたと歩き去ってしまった。

バイトのある日は遅くなるからそれだけでも伝えておきたかったのだが、須藤のことだから、家の前で何時間も待つのだろう。さすがにご近所様の目が痛い。それになにより、いくら須藤でもあんなところに立たせっぱなしはあんまりだ。

かといって、そんな事情でバイトを休むわけにもいかず、せいぜい賄いを断って少しでも早く家に着こうと努力するのが精いっぱいだった。うーん。マスターの賄い美味いんだけどなぁ……


今日は雨も降っていないし、満月のため道も夜にしては走りやすい。それになぜか今日は、車通りも人通りもほとんどなかった。

時間は午後11時。確かに遅くはあるが、深夜コンビニなども増えて夜間の行動が多くなった現代人のこと。これほどまでに人気がないのは珍しかった。普段なら道路には車が走り、信号には2,3台が止まっていて、塾帰りやランニング途中の人とすれ違う。そのくらいの時間帯だったはずなのだ。

しかし俺は急いで帰ることに気がいっていて、そういったことはあまり気にならなかった。


それとは別におかしなことに気が付いた。

俺は片側二車線の道路のさらに外側に設置された、自転車専用道を走っていた。

歩行者兼自転車用の信号が青から赤に変わり、車が来る気配はないが一応止まる。その時、車道を挟んで反対側の自分と並行に走っている歩道に、女の人が一人立っているのが見えた。

こんな時間に女性の一人歩きは危ないなぁなどと思う。

しかし、この道路は非常に見晴らしがいい。こんなところで乱暴狼藉に及ぼうなんて考えるやつはいないだろうか、ら逆に安全なのかもしれない。

進行方向は俺と同じのようだ。こちらは気づいたが、向こうはこちらを気に留めていないらしく、じっと前だけを見ている。上半身はニットを着込み、下半身はジーンズの様だが、背中のニットは何か違和感があった。背中を曲げているのか、何か膨らんでいる気がするのだ。

その様子を見ているうちに信号が変わり、俺は女性を気に掛けるのをやめて自転車を漕ぐ。

タイミング悪く、数百メートルいったところで次の信号にも引っかかってしまう。どうせ車も来ないし、行ってしまおうか、と思って横を見たところでぎょっとした。

道路を挟んだ向う側に、さっきと変わらぬ様子の女がいた。

こちらは自転車だ。走らなければ並ぶはずもない。

もちろん、こちらがスタートした時にはそんな様子はなかった。息せききっているわけでもない。よっぽどのスポーツウーマンなのだろうか?女性をじっと見ていてもその体躯は凍ったように動かず、血の気を感じさせない口元だけが月明かりに照らされて赤い唇と共にちらりと見えていた。

ふと、その髪の端からちらりと見える横顔に見覚えがあるような気がした。


また信号が変わる。

俺は急いで自転車を漕ぎ始めた。

なんとも言えない不気味さを感じたからだ。女は信号が変わったというのに動き始める様子はない。当然のことながら、その姿は周囲の景色と一緒に後ろへと流れていく……と思っていたのだが。

俺は目を疑った。

女は仰向けになり、四つ足で俺の横を並走していた。と言っても、女の体はどこもまともに動いていない。手足はだらりと糸の切れた人形のように下に垂れ下っている。

女の体を進めているのは、背中の物だった。それは足だ。人の腕ほどもありそうな節足動物の足が女の背中、特に腰のあたりから無数に生えていた。さっき背中が膨らんでいるように見えたのは、あれが丸まっていたのだと分かる。

その足に振り回されるように女の体は移動する。段差を超えるたびに女の首もがくがくと揺れる。生きているのか死んでいるのかすら定かではない。焦点の定まらぬ目は空を仰いでいた。

俺が恐ろしかったのはその異様もそうだが、そいつが俺の自転車の速度に合わせて動いているということだ。先に行くでもなく、遅れるわけでもない。俺の自転車の速さにぴたりと合わせてくる。速度を合わせられる、ということは向うの方が速い、ということだ。

そして、その危惧はすぐに現実となった。

女は……もう女と呼んでもいいのかどうかも分からないそれは、無人の道路を渡り、俺の方へと近づいてきた。


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