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真緒と昴

作者: 灯月樹青

「毎年毎年嫌だなぁ〜」

いっこうに降り止まない雨を窓に張り付いて見つめるが、もちろんそれで天気が変わる訳じゃない。

「折角の誕生日なのにな」

後ろで聞こえる若干呆れているだろう声。

そろそろ付き合ってから6ヵ月になるであろう彼氏のスバルだ。

「梅雨真っ只中なんてツいてなぃよぉ〜」

昴の方が年上だからか、ついつい彼といると自分を幼く感じてしまう。

実際会社の後輩とかからは『姉貴』で通っているんだけど……(笑)

真緒マオおいで」

まだ窓から離れる事なく雨をじっと睨んでいた真緒だが、その一言でソファーに座っている昴に抱き着く。

平均よりも少し背の低い真緒と、平均よりずば抜けて背の高い昴が並ぶと、真緒が実際より小さくみえる。

そんな真緒を抱き留め、真緒よりもかなり大きい手で真緒の頬を包み込む。

「誕生日おめでと。忙しくて構ってやれなくてごめんな」

「そんなのお互い様でしょ〜」

本当に済まなそうにそういう昴に、真緒は呆れたような顔を浮かべる。

確かに昴の仕事は残業が多く、それに加えて役職についている彼の仕事量は図り知れない。

それに彼ほどではないにしても、真緒だって残業がある。

同じ会社なのだから当たり前といえば当たり前なのかもしれないが…。

「そうだとしても…だ。付き合ってるのに殆ど出掛けてはいないからな」

「何処行ったんだっけ?」

「付き合い始めに公園とか美術館行ったぐらいだろ」

確かに付き合い始めた週末に無理矢理休みを合わせたんだっけ。

ただそのせいで前日ギリギリまで仕事してたから…かなりまったりなデートになったんだ。

「でも、毎日顔は合わせるし」

部署は違うけどフロアは一緒だから顔を合わせないことはない。

話すことは少ないけれど…。

「真緒の名前も呼べないのに?」

「それは…社内恋愛禁止だもん」

そう、このご時世どうかとは思うのだが、うちの会社は社内恋愛が厳禁なのだ。

意識を仕事に持って行く為とはいうが、恋愛をしているからと言って仕事に支障が出るとは思わない。

まぁ…私達の部署だけだとも思わなくはないけど…。

「じゃ、久々の休みを有効利用しよっか?」

真緒の返事を待つ事なく、昴の顔が真緒にかかる。

爽やかで優しい香水の香りに包まれるのと一緒に、真緒は目を閉じる。

しとしとと降る雨音が、とても大きく聞こえる。

同時に飛び出してしまうのではないかと思うほど高鳴る心臓。

惜しむように顔を離す昴の口が言葉を紡ぐ。

「真緒……好きだよ」

と。

高鳴ると同時に、えもいわれぬ幸福感に包まれる。

「……昴――私も……好き」

自然に紡いだ言葉。

昴は外では絶対に言わないであろうその言葉。

私も絶対に言わないであろうその言葉。

でも今。

特別な日に二人きり。

雨はさながら、二人を隠すカーテンのよう…。

「ねぇ……、――昴」

「ん?」

「たまには――雨もいいかもね♪」

そこから始まった笑い声は、いつしか吐息へと変わっていった。


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