09
リビングで宗兵衛を足の間にいれ、頭に顎を載せながらパンフレットを見ている葉月がいた。
「…」
見慣れているとはいえ、宗兵衛も何かいった方がいいんじゃないかと思う。
「そういえば、葉月。試験はどうだったんだ?」
「いつも通りかな」
いつも通り。それは、普通ならいい意味なのだろう。補習にも引っかからない。でも、よくはないという、普通の言葉。
ただ葉月の場合、いつも通りとは、歴史が補習になってます。の意味が含まれている。
「いつも通りじゃ、ダメじゃねーか!!」
「うわぁ!睦月…いつからいたの…びっくりするなぁ」
「さっきからいたぞ」
「宗兵衛…気づいてたら言ってよ…」
そういっても、葉月は苦手なものは苦手と割り切ってしまっているため、補習になろうが気にしていない。諦めて、葉月の持っているそれを見る。期末試験後にある校外学習のしおりだ。基本的に自由行動のため、班ごとに行く場所を決める。
「姉貴ってどこなの?」
「鎌倉」
「じゃあ、大仏とか?」
「まぁ…そうだね」
そういいつつ、葉月が開いている旅のパンフレットには、食べ歩きのグルメツアーしか載っていない。さすが、花より団子タイプの姉だ。
「そっちは?」
「横浜」
「肉まん」
一瞬にして、『横浜=中華街=肉まん』という方程式を立てたのだろう。宗兵衛も小さくため息をついていた。
「あ、そういえば、姉貴さ、柊卯月ってアイドル?知ってる?」
「なんで?」
「なんか横浜の学校に通ってる16歳のアイドルだって、アイドル好きが熱弁してたから」
葉月は両手を頭の上に持ってくると、パタパタとさせる。よくうさぎの真似でやるポーズを取ると
「うーさだよぉ~♪」
「はァ?」
「う゛…」
いきなり何を言い出すんだ。この姉は。
すると、葉月は恥ずかしそうな真っ赤な顔で、リモコンでチャンネルを変えると指を指す。
『うーさだよぉ~っ♪』
フリフリ衣装で、画面いっぱい映る少女はウインクをしている。その後、軽快な音楽が流れ出した。卯月のデビュー曲『さみしい恋はさようなら』だ。
「ほら!!ほら!!」
「あ、う、うん。わかったよ!!」
結局、宗兵衛になだめられるまで葉月のご機嫌は斜めで、それどころか睦月に同じことをやらせて恥ずかしい思いをさせようとまでしていた。
そうして、訪れた校外学習当日。中華街で買い食いをしつつ、言われた土産を買っていると、店に大きなポスターが貼られていた。
「あれだよ!アレ!!うさちゃん!」
柊卯月、通称うさのファンの1人が、興奮してそのポスターを指している。
「あー…また始まった…」
「特別コーナーだって!行こうよ!!」
どうしても回りたい場所があるわけでもないので、全員がついていく。最近、売れ始めていることもあるのか、そこそこの人だかりができている。うさちゃんと言うだけあって、ウサギのようなマスコットがいっぱいある。
「…?」
なにかの違和感に、端末を開けば光が付いていた。
「…こんな時に」
友達の様子を見れば、最初こそ乗り気じゃなかったメンバーも、結構本気で物色している。睦月が少し離れた場所にいても気がついた様子はない。
早めに戻ってこようと、睦月はそこを抜けるとひと目のない場所で裏世界に行く。前のように、目の前で入るということはさすがにしないし、今回は場所が場所だ。あまり目立つ場所では出来ない。
「こっちか?」
端末に従って向かうと、小さな腕が睦月を止める。
「ホムラ…!」
青い髪を持つ、睦月のエネミー、ホムラだ。
「いるのか?」
「…いる。でも、エネミーもいる」
「え…」
エネミーがいるなら、すでに戦っているのだろうか?その割には、ずいぶんと静かだ。それに、神奈川のテイマーは前回いなかったはずだ。
知らない人だろうかと、のぞき込んでみれば、見たことがないエネミーがいた。そのエネミーは、バグの核らしきものを握りつぶし、額に札を張り付けられた顔をこちらに向けた。
「誰だ?」
「…」
「そこに隠れてやがるやつだよ」
なぜだろうか。バグよりも怖い。まさにチンピラに絡まれてしまったような感覚だ。こういう時にいつも勇敢なのは、睦月よりもホムラの方だった。
「エネミーの方か…どーせ隠れてるなら、こっちに来んじゃねーよ。足でまとい」
「!!」
「睦月は足でまといじゃない」
「本気で言ってんのか?それ…」
札の下から呆れたような視線がホムラに向けられる。ホムラもしっかり頷けば、睦月の方を見て、そのキョンシーは指を指して、またホムラを見た。
「このビビりと?力もよえーし、武器もねーってのに?足でまといもいいとこだろ」
「違う」
「何が違うんだよ。よえー奴がしゃしゃり出てくる方が邪魔だろ。楽しく戦えねぇ」
キョンシーは睦月に近づくと、笑顔をつくりホムラの方を見た。
「そうだ!なんなら、俺が今ここでコイツを潰してやるよ。そしたら、お前も自由になれるぜ?」
笑顔だったが、目は本気だった。ホムラは静かに一丁拳銃を出すと、キョンシーに向けるが、気にした様子もなく睦月に触れ、驚いたように離れる。
「…マジか。なんか似てると思ったら…」
「?」
何かつぶやいたと思えば、手を大げさに広げ
「やーめたっ!お前潰したら、めんどうな奴ら出てくるし」
「めんどうな奴ら?」
「あーぁ…早く消えろよ」
「…」
言い返してやりたかったが、エネミーの強さはよくわかっている。その中でも、このキョンシーは性格的にも、強さ的にもあまりよくない。睦月は何も言わずに、睨むだけだった。
表世界に戻ってから、携帯が鳴り慌ててでれば、他のメンバーがいなくなった睦月を探していたらしい。
「ただいまー」
「おっかえり~」
いつも以上のハイテンションで、手を差し出す葉月の要求しているものは、残念なことによくわかってしまう。肉まんの袋を渡せば、うれしそうにレンジの方に向かった。
「太るぞ」
「うるさい」
買い食いをしたのは何も睦月だけではない。葉月もだ。その上で肉まんを食べようとしているのだから、太るのは確実だ。そう思いつつ、葉月の土産のお菓子をひとつつまむ。
「そういえば、姉貴。キョンシーみたいなエネミー知ってる?」
「ひょんひー?」
「うん」
「…」
葉月は温まった肉まんをくわえながら、テレビをつけると、チャンネルを回す。
『今日も張り切っていくよ~っ☆うさのうさうさ占いーっ』
「いやもういいよ!!」
内容はいたって普通の星座占いだ。こども向け番組らしく、星座占いがやっている。昨日の歌は、この占いの前に歌っているらしい。
「なに…?姉貴もこのうさってアイドル好きなの?」
「はーはーらー!」
「食いながら話すな!!」
頬を膨らませながら、肉まんを飲み込みそのあと
「だから、このアイドルちゃんがそのキョンシーのテイマーだよ」
「………えぇぇええ!?嘘!?」
「嘘じゃないよ…なんか、弟からの信頼薄い気がする」
「それは主に自分のせいだろ」
「人のせいにするのは感心しないなぁ~って…あれ?」
「?」
キョトンとした顔で葉月は睦月を見ると
「アイドルちゃんがテイマーってこと、内緒じゃなかったっけ?」
「知らねぇよ!?てか、内緒なの!?思いっきり聞いたけど!?今!」
「あ、お嬢様~?元気?」
「話聞けよ!!」
携帯で玲香に電話をかけている葉月は、もうつながっているらしく、騒げず文句が口から出そうになるが、なんとか収めた。
葉月は、卯月のことが秘密だったかどうかを聞いていて、やっぱり?と言ってる辺り、秘密だったのだろう。なんとなくだが、玲香の呆れた顔が目に浮かんだ。
「――え?あー…ちょっと待って」
カレンダーを見ると、葉月は大丈夫だよ。といっている。何か待ち合わせだろうか?
「わかった。じゃあねー」
電話を切ると、葉月は睦月の方を見て
「なんか、話があるから集まるって」
「え…話?玲香さんが?」
「うん」
それからしばらくしてから、端末にメールが入った。そこには、集合場所と日時が書かれていた。
そして、バグの異様発生原因について、ひとつの仮説がたったらしく、それについての話だとも書いてあった。




