05
ホムラが撃つ銃弾はなかなか当たらない。
「ホムラ!もう少し下がろう!」
「わかった」
水に銃弾を当てるなど難しい。そもそもダメージがあるかどうかすら謎だ。
だが、別にあいつを倒す必要はない。倒すべきなのは、ビルの上にいるテイマーだ。
「どうにかしないとな…」
「足止めならできる」
「でも…」
テイマーと対峙したところで、ジュエルを破壊できるかどうか、なにか破壊する手段を持っているわけでもない。
「いくしかないか…!!」
覚悟を決めたのか、睦月はビルの方へ走り出す。ホムラも合わせてエネミーの足止めをする。
郁弥はあの奇襲の後から敵とあっていなかった。物陰に隠れて、端末で情報を見ていた。
「脱落者も増えてきてる…人の気配もしない、んだよね?」
「あぁ」
「…運がいいってことかな?」
「つまらん」
「いいことだから!」
あの時の奇襲の恐怖はまだ忘れられないでいた。
「む…」
ベリアルの声に顔を上げれば、どこかをじっと見ていた。その視線を追えば、その先に黒と白のモノクロの化け物。
その姿に、足が震えだす。
「ほぉ…珍しい来客だな」
「あ、あれって…」
ずいぶんと長い間、あの化け物を見ていなかったが、忘れることはない。
ベリアルが刀を構えたその時だ。そのバグは飛び降りてきた何かが振り下ろした何かに潰された。
「は、はわわ…間に合いましたっ」
「皐月さん?」
小さく小柄な少女が持っているのは、身長よりも大きなハンマー。
「誰だ」
「榊先輩のエネミーだよ」
そう教えたのと同時に、美優が走ってきた。
「大丈夫?怪我してない?」
「あ、はい。それよりも、あれは…」
「あ…えっとね…」
美優は言葉を濁したが、
「あの化け物は、前に見たことがあります」
「そっか…じゃあ、隠す必要もないのね」
いずれにしろ、このあと教えるのだ。今教えたところでそう変わりないだろう。演習がここの映像を流していないことを確認すると、語りだした。
「あれは、バグっていって、本来、私たちテイマーとエネミーが共に倒すべき、敵なの」
「ぇ…」
「この演習も戦う事に慣れさせるための訓練」
その初めて知った事実に郁弥は言葉を失った。
「でも、おかしいです。この演習の時は、絶対にバグは発生しないはずです」
「…そのへんはわからない。玲香ちゃんに連絡してみるけど…」
バグの存在は発生すればすぐに端末に映る。もちろん、玲香もすでに気がついていた。近くに美優がいたため、向かうことはしなかったが。
「どういうこと…?」
ここでの戦闘が表世界へ影響しないように、繋がりはほぼ全て切断されている。それに周辺の裏世界からも侵入がないように、テイマー自身は裏世界にこれなくなっていても、エネミーが消えていないエネミーたちに相談して、警備を固めてもらっている。ただのバグが、そう簡単に超えられる警備ではない。
「でも怪我が無くてよかった。また現れても、私たちで倒すから、神奈ちゃんだっけ?君もこっちにきたら?」
「え!?神奈いつからいたの!?」
「さっき。あんたが襲われそうになってた時から」
隠れていても、エネミーの気配は同じエネミーであればわかる。さすがに誰というのはわからないが。
「…」
「いやはや…どうして僕たちだと?もしかしたら、違うチームだったかもしれないじゃないですか」
「違うチームだったら、もう襲ってるでしょ?だから、きっと同じチームだなぁ…って」
睦月は置いておいて、あの状況で出てこないとなれば玲香や葉月ではない。ただの消去法だ。
「よかった…神奈が無事で」
「さっきまで、死にそうだったアンタが何言ってんの」
「うん。そうだね…」
相変わらず、冷たい神奈に何も言えなくなった。
葉月は睦月たちの戦いを、建設途中のビルの鉄柱に座りながら見ていた。宗兵衛も辺りを警戒しながら、その様子を見ていた。
「頑張ってる。頑張ってる」
笑いながら、また袋からグミを取り出して食べる。
「…葉月」
「お腹減ったの。デブじゃない」
「いや、人だ」
「ん?」
振り返れば、出来上がっている中で一番上の階に、見上げている男と狐の面を付けた黒髪の女がいた。腕には光る青いジュエル。
手を振られ、振り返せば階段を上ってきた。
「よぉ!」
「やっほー」
「何食ってんだ?」
「初恋の味グミ」
「ハズレくせぇ」
「食べる?」
「お、マジで?食う。じゃあ、代わりにこれやるよ」
「ありがと」
そういって手に落とされた銀色の包み。葉月はそれをじっと見たあと、ポケットに入れた。
「なんだよ?食わねぇの?」
「後で弟に上げることにするよ」
「…チッ」
「誰が某有名なキャラメルを食べるか!」
「何回やっても引っかかるバカがいるからな」
ニヒルに笑う男に、笑いながらひどい友達だななどと言っている葉月に、宗兵衛は人知れずため息をついた。
隣にいる無言佇む狐の面を付けたセーラー服の彼女の様子を伺ってみても、なにも仕掛ける様子はない。
毎度のことながら、この2人は戦う気はないらしい。
「そういえば、お嬢様にやられたのって、またあのコロポックル使ってる奴?」
「多分な。電話したら、無駄にテンション高かったし。そーだ!お前、まだ1人も撃破出してないけど、大丈夫か?」
端末で撃破数を見れば9人、大体各チーム1.2人の脱落者がいる計算だ。その地方もリーダーが撃破1を出している。
「ん~まぁ、大丈夫でしょ」
「なら、いいけど」
2人でグミを食べながら、新テイマー2人の戦いを見ていた。
睦月は階段を駆けあがり、その人を見つけた。小麦色の肌に、タンクトップ姿の女。腕には、橙色のジュエル。
「ありゃ…来ちゃったよ」
ここからが勝負だった。腕についている橙のジュエルを壊す方法を考えないといけない。
睦月が到着した直後、テイマー2人の間に現れたエネミー。
「私、ディフェンスは苦手なの」
「わかってるよ…そんじゃ、やるか!」
女が胸の前で拳を作ると
「的中槍」
拳から漏れる光が形作り、槍となった。
「ぇ…?」
「驚いたか?まさか、初参加で武器を作れると思わなかったか?」
テイマーが固有で使える武器のことは知っていた。だが、普通初参加のテイマーが使えることはなく、のちのち練習していけば使えるものだと思っていた。だからこそ、対峙しても勝てるかもしれないという希望があった。
しかし、武器を持った相手に、素手で立ち向かうなど無理だ。
「それじゃ…行くよっ!!」
槍が投げられ、睦月のジュエルを狙う。ホムラがいち早く反応し、睦月を連れて回避する。
壁に突き刺さった槍は、くくりつけられた縄で女の手元へ戻る。
「あんま、大きく逃げられると、間違って殺しちまうかもしれないだろ?」
「ホムラ」
「?」
「縄、切れるか?」
一度投げたら、回収しないといけないなら回収させなければいい。ホムラが頷いたのを確認すると、震える足を叩いて立ち上がる。
「そんじゃ、もう1回っ!!」
狙っているのは一点。それなら、そこだけ避け、近づけばなんとかなるかもしれない。
ただそれだけだ。睦月はそれにかけて、もう一度投げられた槍を避け、女に走った。
後ろでなった銃声は、きっと縄を撃った音だろう。
「!っとと…」
こちらも狙っている部分は同じ。当たり前だが、回避は簡単だ。そして、避ける方向もおおよそ予想がつく。
そこに、ホムラが飛び込むのは容易だ。
「「ッ!」」
2人の息を呑む音がした。
「私、奇襲が得意なの♪」
全身に形のある水がまとわりつき、ジュエルを被った。
ジュエルは同時に砕け散った。
「…今のは、どうなるんだ?」
「さ、さぁ…」
2人して端末をのぞき込み、互いに撃破数1になっていた。
「引き分けってこと…?」
「みたいだな」
一気に疲れが出たのか、2人は座り込むと、エネミーを見た。
「ホムラ。ありがとうな」
「ううん」
目の前に座るホムラの頭を撫でると、隣でエネミーに何か文句を言われているテイマーがいた。
「負けはあなたのせいよ!あなたの!あんなの、的中槍(笑)じゃない!」
「そっちこそ最初の奇襲で失敗したくせに…!!なぁにが、『私、奇襲が得意なの♪』だ」
「なっ!!」
そんな2人の口喧嘩を苦笑いで見るしかなかった。誰もあの間に割って入ろうなんて考えなかった。
そして、バトルゲーム開始から、2時間。端末から試合終了のブザーが鳴り響いた。




