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02

その夜、佐倉家の風呂場で、楽しげな声がしていた。

「ホムちゃん、風呂の知識はあるよね?さすがに」

「ある。問題ない」

「それはよかった」

ホムラも端末が来るまでは連絡を取れないと不便だからといって、具現化させていたのだが、猫又の宗兵衛とは違い完全に人間型。母に風呂に入って来いと言われ、ついでに何を勘違いしたのか風呂のはいり方も教えろと言われてしまった。

ちなみに、宗兵衛を具現化させていることが多かったおかげで、母は特に気にすることはなかった。むしろ、動物ではなく、人間だった分受け入れるのが簡単なのだろう。

「はぁ…これって憧れだよねぇ」

ホムラを足の間に入れて、湯船に浸かっていた。ホムラも別に嫌ではなさそうだ。じっと、葉月の腕を見ている。

そのまま腕を追っていき、左胸、心臓の辺りの黒い箱のような刺青まで行くと、くるりと前に向かされた。

「ハハハ。これ以上は有料ですよー?」

笑いながらそう冗談をいえば、ホムラは大人しく腕に触れる。

「傷」

「…あー。まぁね」

「バグとの戦闘?」

「うん。ま、これでも私はニートしてるから少ないんだけどね。ねぇ、ホムラちゃん」

振り返って首をかしげるホムラに、少し迷ったあと言うことに決めた。

「別に口止めしてもすぐバレるんだけどさ。バグのことしばらくは睦月に内緒にしてて?」

「どうして?」

「睦月…というよりも、なんていうの?日本では、あんまりバグってのを表立って言いたくないらしいんだよ。少しだけでいいからさ」

「…わかった」

しばらくして、2人は出てきた。ホムラには葉月のTシャツが渡されていた。サイズ的な問題でシャツというよりもワンピースになっていたが。

どうやら葉月が髪を乾かしたらしく、ホムラの髪は既に乾いている。

だが、葉月の方は寝間着を着て髪をタオルで拭くこともなく、頭に乗せたまま出てきた。睦月が呆れながらも、ホムラに冷たいお茶を入れようと立ち上がる。

「それにしても感慨深いな。睦月までテイマーになるとは」

「そう?」

事情が事情であるため、葉月のエネミーである猫又、宗兵衛も今日は具現化していた。今まで、省エネモードではあったのだが、葉月のそれを見て、本来のサイズに戻り、葉月の元に行く。

そして、椅子に座った葉月の頭に乗ったタオルで丁寧に髪を拭いた。

「いくら夏前とはいえ、濡れたままでは風邪をひくぞ」

「バカだから、大丈夫だって」

といいつつ、なされるがままの葉月に母が呆れたようにため息をついた。

「あんたねぇ…テイマーっていうのは、そういうことをするためにエネミーを使役するわけじゃないのよ?

 こういうテイマーが――」

その説教が始まり、宗兵衛と葉月は目を合わせるとお互い音も無くため息をつき、適当に聞き流した。

睦月も、少しだけ母の意見には賛成していたが、ここでいうほどのことではない。

「じゃあ、お母さんも入ってくるから」

「はーい」

やっといったよ。と思いつつ、葉月もお茶を飲もうと冷蔵庫に向かった時、携帯が鳴る。

着信音は電話だ。首をかしげつつも近づき、表示された名前を見て、数瞬考えると通話ボタンを押し、そっと机の上においてからお茶を取りに行った。

「でろよ!?」

睦月の反応は最もではあったが、携帯からいきなり怒声が聞こえてくればこの行為の意味がよくわかった。

呆れた顔の宗兵衛に、驚いて携帯を見てるホムラ。散々、騒いだ声が響いたあと、静かになったところでようやく葉月が携帯を手にとった。

「Hi!!」

始めて返事を返せば、また怒鳴り声。

『あなたねぇ!!!返事しないってどういうことなの!?』

「いやぁ…お嬢様の最大ボリュームのお説教を聞いてたら鼓膜がK.O.されるので、自己防衛だよ」

『ああいえばこういうわね…本当に』

「ハハハ!褒めても何も出ないよ?」

『褒めてませんわ。それで、先程書類がこちらに届きましたが、ご説明をいただけます?新テイマーのお・姉・さ・ま?』

「いやだなぁ。お嬢様にお姉さまと言われる趣味は持ち合わせてないんだけどなぁ」

『いいから答えなさい』

えーという文句を言いつつも、いろいろ端折りつつも昼間の出来事を答えれば、最後に驚くべきことを言われた。

『では、睦月も公開演習にエントリーしておきますわ』

「…はぃ?あ、そういうことね!私が休め――」

『るわけないでしょう?』

「そこをなんとか。演習なんてめんどくさいし、別にやる気のある弟を生贄するから!」

『そうですか。それはよかった。それと、生贄なんて言い方が悪いわよ』

睦月には葉月の言葉しか聞こえてないが、内容は察しが付いた。

「だって。よかったじゃん。あのクソめんどくさい演習に出れるってさ」

「いやいや!?俺まだテイマーになったばっかなのに出ちゃまずいだろ!?」

「大丈夫だよ。決定権は全部お嬢様が持ってるわけだし。お嬢様の言うことは絶対だから」

『あなた…聞こえてますわよ?』

「あ、うん。てか、演習いつだっけ?」

電話の向こうの声をさらりと無視して、カレンダーの方を見れば、

「6月28日だ」

その質問には宗兵衛が答えた。カレンダーには母が書きこんであった。娘の晴れ舞台だからか、なかなか熱心である。

「28ーにーはー…あった。あら…明後日じゃない」

「そうだよ!!なんで、姉貴が覚えてないんだよ!?」

『一応、またフォンティーネの寮を一部借りることにしましたわ。私の家でも良いとも思いましたが、寮程度の方があなた方にはよろしいかと』

「…どっちも庶民から見ると変わらないんだけどなぁ」

『それと、端末に全地方の今回のメンバーを送っておきましたわ。確認しておいてくださいまし』

「ハイハイ…」

携帯を切ると、既に聞こえていたであろう睦月にもう一度、演習の話を言うと、そのまま部屋に戻っていった。

ひとり残された睦月は口を開けたまま固まっていた。

「睦月?」

「あ、えぇぇええ!?」

「?どうしたの?」

淡々と首をかしげるホムラの肩をつかむと

「だって、あのバトルゲームだぞ!?全国のテイマーが集まる!」

「わからない。テイマーが集まって何するの」

きょとんとするホムラに、バトルゲームについて説明した。バトルゲームと呼ばれるそれは、日本全国の中学生から高校生までの優秀なテイマーが集まり戦うというものだ。

ナンバーワン・テイマーがこのゲームで決まる。地方ごとにチームを組み、チーム戦を行うのだが、撃破数の一番多いテイマーがナンバーワン・テイマーとなる。

そんな重要な試合に、成り立ての睦月が出るのはおかしいと、そこまで丁寧に教えれば

「そうなの?」

「そうなんだよ。今度は、俺たちが出るらしいけど…」

「…」

「ダメだよな…わかるってるよ…やっぱ、俺断ってくる」

結局、無理と一蹴されて終わるのだった。


翌日、端末が支給され正式にテイマーとなった睦月はすでに話題となっていた。主な原因は、今日発表された、明日行われるバトルゲームの名簿に睦月の名前があったことだ。

おかげで、昼休みともなればクラスメイトに囲まれ質問攻めに合い、そして、その流れは放課後まで響いていた。

「明日の試合にお前出んだろ?」

「あ…うん。そうなんだよ」

「なんだよーだいたい、お前、いつからテイマーになったんだよ?」

「え…あー…昨日…?」

「はァ!?昨日!?マジか!?あ…まさか、体育の後に運ばれたのは、才能の開花が原因…!?」

友人があることないこと妄想していたが、頃合を見て、切り上げて駅に向かう。校門にいなかったところを見る限り、待つのがめんどくさくて先に行ったのが妥当だろう。

こういう時に葉月のテキトウさにイラつく。

「まったくさぁ…!初めての奴置いてくかよ!普通!」

そういえば、と端末を取り出して起動しようとすれば、何故かすでに付いていた。

「?」

すぐに画面が映ると青い髪のホムラがいた。ホムラも睦月に気がつくと、そっちにいく。と言い出した。

「あ、うん」

昨日、葉月から習ったエネミーをこちらに具現化すれば、手のひらサイズのホムラが肩に乗った。

改めて、駅に向かって歩いていけば、駅前の小さな本屋に入るその姿に走り出す。

「姉貴ィ!!」

「っ!!!び、びっくりした…」

「置いてった奴が言うな!」

「置いてった?元から一緒に行く気なんてなかったんだけどなぁ…」

「そっちのほうがなお悪いわ!!てか、なんで本屋に入ってんだよ!?」

「そりゃ、本を買いに…」

「は…?」

「本の発売日だし」

「…明日試合なのに?」

「いいじゃん。細かいことを男が気にすんな。モテないぞ」

「いや、そういう問題じゃないだろ」

結局、葉月の買い物に付き合い、駅に行けば自販機に端末をかざして飲み物を買っている葉月に、少しだけ羨ましそうに見る。

「何…買いたいなら買えばいいじゃん」

「いや、金ねぇし」

「お小遣いは?」

「たかが飲み物で使いたくない…」

小遣いはもらってはいるものの、のどが渇いたからといって紙コップ飲料を買えるほどではない。

いっそのこと、500mlのペットボトルを買ったほうが安上がりだ。

「んー…」

端末を振りながら、言葉を選んでる葉月に違和感を覚えたが、聞かないでいれば端末を見せびらかしながらニヤリと笑い

「仕方ないなぁ~哀れな弟のために、姉ちゃんが端末で買えばほとんどただのドリンクを買ってあげようじゃないか」

「って、それもテイマーの特権かよ!?」

「まぁね~お前もできるけど。それで?何の見たい?炭酸?ホムラちゃんも飲みたければ買ってあげるよー?」

「このサイズで、その量はいらない」

「んじゃあ、睦月と分ける?それとも、私のでいいなら飲む?」

「睦月のもらう」

「オーケー。さて、どれにすんの?」

結局、コーラーを奢ってもらったのだった。

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