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玲香と葉月、睦月は伊勢がいるという避難所に行くと、美優たちもそこに集まっていた。

「みんな大丈夫なの?」

「ご迷惑をかけました。もう大丈夫ですわ」

「ホムラが帰ってくる可能性があるなら、俺が立ち止まってるわけにもいかないですから」

「睦月君…」

「ところで、神奈さんは見つかりましたか?」

「そ、それがどこにもいなくて…」

郁弥が目を伏せた。

「おばさんも心配してて…もしかしたらって考えたら」

「だ、大丈夫だって!ネ!睦月君!」

やよいが慌ててそういえば、睦月も頷いた。

「大元の場所もわかってるんだし、俺たちが信じないと」

「…」

「信じるなど、現実味がない言葉ではもはや、此奴の疑問を拭うことなどできぬ」

ベリアルは郁弥を見て嗤うと

「神奈という娘とエネミーの力は五分五分だ。互いが互いに攻撃ができる状況下であれば、恐らく共倒れであろうな」

「!!」

「ちょっ!?もっといい励ます言葉ないの!?」

「共倒れなんて…!!」

「可能性としてないとは言えないであろう?」

今までのことを考えると否定はしきれなかった。だが、それを否定したのは、伊勢だった。

「これは、あくまで可能性の1つですが…テイマーが向こう側にいるかもしれません」

それは、バグと化したエネミーが表世界に来たことだった。あれは、やはり端末による具現化と同じ方法であり、それを使えるのはテイマーだけだ。

つまり、テイマーがこの事件を引き起こしている可能性が大きくなった。

「数名のテイマーが今だ所在がつかめていません」

「その中の1人…いや、何人かいるかもしれませんわね」

「この人たちってまだ裏に行ける人なの?」

「これだけのバグが発生している状況ですから、すでに行きづらくなった人であっても引き込まれる可能性は十分にあります」

「…そっかぁ」

「珍しくやる気ね」

「そう?いやー褒められちゃった」

「その調子で頑張ってください」

「う゛…」

変わらない調子の葉月に、玲香はため息をついたが、状況は変わらず深刻である。早急に解決しなければ、もっと死傷者が出てしまう。

それに避難所にいる人には、テイマーやバグのことを伝えたため、パニック状態に陥ってもいた。今、出来ることと言えば、テイマーをできる限りパニックに陥っている人たちの前に出さないことだった。

「ご家族にお会いになるのでしたら、こちらからお呼び致しますが」

「睦月、会ってくれば?」

「え?姉貴はいいのか?」

「うん。ほら、会うときっと、いろいろ聞かれて戻るなって言われそうだし」

確かにいいそうだった。睦月も、断ることにした。

「とにかく、大元を絶ちましょう」

玲香の言葉に、伊勢も含めた全員が頷いた。

大元は分かっている。葉月と玲香が訪れた三峰神社だ。あの封印されていた部屋に納められている、鏡だ。

「あの、絶つっていってもどうやってですか?穢れを祓うって、よくわからないし…」

「穢れの祓い方はいくつも存在するわ。洗い流したり、呪いを唱えたり、その穢れを請け負ったり…それを切り落としたり」

今回やろうとしているのは、最後の切り落とすという方法だ。

「鏡…なのよね?」

「鏡なんて、割れますけど、切れませんよ」

ハンマーを使っている皐月が首をかしげると、全員がなんとも言えない表情をしたが、玲香は咳払いをすると

「正確に言うと、切り落とすというのは、その聖遺物に憑いたバグを倒すということです」

「なるほど…エネミーとバグは元は同じ、何かキーとなるものに、正反対の思いが働き、形作ったもの。バグを倒せば、負の思いが消える…ということですか」

伊勢の言葉に玲香が頷けば、集まっている全員を見た。ここに集まっているメンバーであれば、大抵のバグであれば倒すことができるだろう。

しかし、テイマーの力なくしては、避難所を守りきるのも難しい。

「美優さん。やよいさん。避難所の守りをお願いしてもよろしいですか?」

強大なバグであれば、少人数で倒せるかわからない。あまり守りに力を割くことはできない。美優と弥生の2人に任せるしかなかった。

2人と皐月も一緒に頷き、自然と視線は葉月と郁弥に向けられる。

「一緒に来てください」

「…はい」

「葉月も」

「そんな改めて言わなくても、わかってるって」

笑っている葉月の横から、睦月が声を上げた。

エネミーがいない睦月では、戦力にならないし、武器もないなら足でまといになるかもしれない。それでも、

「俺も連れて行ってください」

「でも、貴方は…」

「足でまといにはなりません!俺だって…テイマーなんです」

玲香はその言葉が、かつての自分を見ているようで、ため息しか漏れてこなかった。こうなった以上、絶対に折れることはない。

こちらが折れるしかない。

「わかったわ」

「!ありがとうございます!」

睦月の笑顔に、葉月が少しだけ眉を下げているのを、玲香ははっきりと見た。


皆が寝静まった夜。何かの音に目を開ければ、誰かがドアを閉めたところだった。

「…ん?」

誰だろうかと起き上がってみれば、サイドテーブルに水色のとんぼ玉がついた鍵が置いてあった。それはよく見慣れた、葉月に渡したとんぼ玉で、睦月も赤いものを持っている。

それを認識した時、弾かれたようにそれを手に取り、部屋を出た。またどこかに消えてしまう。そんな確信があった。

「どこいく気だよ!!姉貴!!」

追いついたのは、玄関を出たところだった。葉月は寝れないからといった散歩の服ではなかった。

「散歩だよ」

「嘘だ!」

「嘘なんて決めつけて、ひどいなぁ」

「お前はいっつもそうやって勝手に行って!!こんなのまで置いてって!」

それは先程の鍵だった。

「あげる。というか、そのとんぼ玉は返すよ。睦月がくれたやつなんだし、赤と青でいい感じでしょ?」

「あげたんだから、返してくんな!それに、これは…俺が姉貴みたいだって作ったやつなんだから」

一向に受け取る気配のない葉月は、頬をかくと

「本当にただの散歩なんだよ?睦月は部屋に帰って、明日のためにちゃんと休まないと」

「…全部終わらせる気だろ」

一瞬、葉月の視線が大きく逸れた。

「伊勢さんがいってた嶺哉って人とも知り合いだったんだろ?それに、姉貴はすごい素質があるって、みんなそう言ってんだから、俺だってわかる!

 でも…なんで姉貴は、いつもそうやって何も言わないんだよ…?」

「…」

その泣きそうな声に何も言えなかった。

「嶺哉って人が死ぬくらいのことを、なんで1人でどうにかできると思うんだよ!」

「…できるんだよ。私はさ」

「え…?」

「神様に愛されちゃったのかねー?きっと、嶺哉さんみたいに、私はできるよ」

「それ、死ぬってことだろ」

「かもしれないだよ。だから、睦月はここで待ってれば――」

門の方に行こうと振り返り歩きだそうとすれば、腕をつかまれ、困ったように顔だけ向けた。

「睦月…」

「いかせるわけないだろ!」

睦月にいえばこうなることは予想できた。葉月は力を抜いて、宗兵衛の方を見た。実力行使も厭わないつもりだった。

だが

「無理なようだ」

宗兵衛が口端を少し上げながらそう言った。

「え…?」

「お前を大事に思う弟に、友人がお前を1人で行かせるはずがなかったな」

驚いたように門の方を見れば、玲香がこちらに歩いてきていた。

「お嬢様まで…?」

「何年あなたの友人をしていると思っているの?まぁ、私は必要なかったようですが」

実際、安倍から葉月に浄化の方法を教えたという連絡を受け、備えていたのだが、どうやら当たっていたらしい。

「もうお兄様の時と同じ過ちは繰り返さないわ…絶対に」

「つーか、たまには信じろよ!人のこと!」

「あら、弟の方がいいこというわね。散々、葉月のわがままに付き合わされたから、慣れたのかしら?」

「な、なんかすごい責められてる…?」

「葉月。もういいんじゃないか?気張らなくても。1人で背負い込むことでもないだろう」

「…でも」

「こんなに手震えてんだから、大丈夫とか言うなよ!バカ姉貴!」

「う゛…てか、バカ姉貴ってひどくない!?」

「的を射てるわよ。まったく…あなた1人の問題じゃないのよ」

それはもう根負けだった。

「…わかったよ」

ため息と共に吐き出された言葉に、2人はそっと微笑んだ。

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