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私は、いつだってひとりぼっち。

だれも、私のそばにはいてくれない。

いつも簡単に開く扉は、もう開くことはなくて、帰ろうにも、後ろに道なんてなかった。

私はただ、そこにいた。


黒いエネミーがまた霧散して消えた。

「格の違いってやつ?おめーら、喧嘩売るにしてはよえーんじゃねぇの?」

そういって、キョンシーは指を鳴らしたが、目の前の黒いエネミーの次の行動に一瞬反応が遅れた。穴に落ちていった。その先は、表世界。

「あ゛!?ふざけんな!」

表世界はパニックに陥っていた。目の前に現れたバグに、誰もが逃げ出す。

「な、何!?どうして、バグが」

やよいは端末のけたたましい音に端末を出せば

『とっととそっちに出せ!』

キョンシーの言葉に頷き、すぐにキョンシーを召喚する。

「もう逃がさねぇぞ!」

「な、なんなのよ!?急に!」

そういいつつも、やるべきことは分かっていた。とにかく大声で避難を促した。

キョンシーが逃がした一匹倒したと思えば、また増えた黒いエネミーにキョンシーが殴りかかろうとした時、弾かれた。

「あ゛!?なんでてめぇが…」

それは宗兵衛だった。隣にはフィオナも。遅れて現れたテイマーの2人は、双方青い顔をしていた。

「先輩!?どうしたんですか!?」

玲香にいつもの自信満々な笑みはなく、自分を抱いて震えていた。葉月も荒い息をしていた。

「おいおい…あのスゲー見覚えのある顔がカラーリングが変わってんだが、ありゃ、殺していいのか?」

先程の黒いエネミーと同じような色になっている宗兵衛とフィオナを指さしながら聞いてきた。

「だ、ダメに決まってんでしょ!」

「とはいえ…!!」

フィオナの攻撃を弾いたキョンシーは、一度距離を取りため息をついた。

「あちらさんはその2人殺す気満々だぞ?」

「でも!」

「俺に向かってくるならまだしも、庇うってのはどうにも性に合わねぇ…」

やる気なさげに言うが、フィオナと戦闘には楽しげに攻防を繰り広げていた。そして、一匹が動いた。

「おい!そっちの猫いったぞ!」

「あーもうっ!」

メガホンを宗兵衛に向けるが早すぎて射程内に入らない。

「やばっ…!」

近いと思ったときにはもう遅い。爪が葉月の喉を狩ろうとしている。


キンッ


だが、その爪は黒いそれに阻まれた。まだ青い顔をした葉月は、ブラックボックスを操り、一度弾くと2人の前に出る。手も足も震えていた。それを必死に抑えて、攻撃に備えてブラックボックスを展開する。

「私が、やらなきゃ」

大事にしていた古いお守りをそっと握りしめた。向かってきた爪は、板のようになったブラックボックスが防ぐが、隙間伸びてきた爪が葉月の腕に刺さる。

赤い滴が宙を舞った。

「宗兵衛…」

ブラックボックスが宗兵衛に絡みつき、動きが鈍る。そのまま、宗兵衛を抱きしめた。


遥か昔から、この地方に住む人間に神と崇められ、力を貸してきた。人間は、ただひたすらに助けを求めるばかりだった。そして、時が経てば土地神など忘れさられ、神と崇められたその証拠であるお守りを持つのは、1人になった。その彼女でさえ、歳をとり、俺のことを見ることはできなくなった。

だが、彼女への守護の約束は今でも守っている。

「猫神さん…」

人間は死の間際、もう一度だけ俺たちを見ることができるものもいるという。千代もどうやらその人間だったらしい。

「100歳に、なれそうにないわね」

「…お前というやつは」

「ふふ…ねぇ、猫神さん」

「なんだ?」

「あの子のこと、頼んでいいかしら」

「よく来ている、少女か」

「葉月ちゃんよ」

彼女がお守りを持っていることは知っていた。だが、会ったこともない彼女を守るとは約束できなかった。

「大丈夫。猫神さんと、葉月ちゃんは似た者同士だもの、きっと仲良くできるわ」

千代との会話はそれが最後になった。

「人…か」

小さな祠の裏手に姉弟がいた。

そして、今ではバグと呼ばれるそれも。弟の方は気づいていないのか、眠ってしまっていて、姉の方はバグと弟の間に立ってじっとバグを見ていた。震える足で、弟の前に立っていた。

「…」

その少女が葉月なのは分かっていた。だからこそ、助けるかどうか迷っていた。だが、そんな健気な姿を見て見殺しにするというほうが、俺には合わなかった。

バグを狩り、葉月の方に向き直れば

「にゃんこ…」

「…大丈夫か?」

頷く葉月は徐々に涙を貯めると

「にゃんこぉ~こわかったぁ~!!こわかったよぉ~!!」

泣き叫び出した。いきなりのことに、慌てて頭を撫でれば今だに涙は止まらないが、叫ぶのはやめた。

「よくがんばったな」

「…おねえちゃんだもん」

またボロボロと大粒の涙に変わると

「おねえちゃんだからまもるのあたりまえだも~ん!!」

「あぁ…いいお姉ちゃんだな」

しばらく泣くとようやく収まり、赤い目を擦りながら

「にゃんこ…だれ?」

「宗兵衛だ」

「そーめんみたい…おいしそう…」

「宗兵衛だ」

小さくため息をつくと、葉月がじっとこっちを見ていた。

「どうした?」

「わたし、はづき。はじめまして!そーべー」

久々に呼ばれた名前は、神としてではなく、俺として見られているそんな気がした。


「先輩後ろ!!」

やよいの声に葉月が振り返る前に、そのエネミーは2つに切れた。そして、葉月の背中を守るようにして、地面に立つのは黒くはない、いつもの宗兵衛だった。

「すまない…葉月」

「んだよ…戻んのはぇな…」

ぼやきながらも、フィオナに蹴りを入れて奥でただ立っている奴らに向かって飛ばした。振り返った葉月は、地面にも関わらず座り込むといつものような抜けた笑いで

「どっかの誰かさんのせいで怪我してフォローも何もできないなぁ」

いつもの調子の葉月に宗兵衛はいつものように苦笑いになる。宗兵衛は刀を構え直した。

「とにかく、ここで止めなければな」

「おいおい。お前、そんなの持ってたか?」

「あぁ。元から俺のものだ。お前のその封印と同じようなものだ」

「あーーなるほどなァ…」

キョンシーはチラリとやよいを見てから、大げさにため息をついてから視線を戻す。あの黒いエネミーを倒さないことには始まらない。構えた時その時だ。

地面から鎖が生え、黒いエネミーを捕まえた。そして、地面に沈んでいく。

「あ゛!?二度は逃がさねぇぞ!!」

キョンシーは一気に駆け寄るが黒いエネミーたちは消えた。

「チッ」

「…お前、仲間とかそういうのは気にしないのか」

「さっきまで殺す気満々だったやつだぜ?だいたい、あの様子じゃ、敵だろ」

「そうだが…」

まだ何か言いたそうな宗兵衛に、嬢ちゃんのことはいいのかと言われ、大人しく葉月の元へ向かった。止血はしたようだが傷が深いようだ。地面に赤黒い染みが広がっていた。

自分がそれをしたのだと考えれば考えるほど、悔しくなる。意識はあったが、葉月を殺すことに躊躇はなかった。

「ねぇ、宗兵衛」

「なんだ?」

「なんか騒がしくない?」

葉月の言うとおり、公園の外に人が荷物を持ってどこかに向かっていた。そんな中、燕尾服を着た初老の男が公園に向かって走ってきていた。

「お嬢様!!」

「だ、誰!?」

「お嬢様の執事さんだよ」

「え!?あ、本当にいるんだ…」

やよいが変なところに納得しながらも、執事は玲香の様子に一瞬足を止めたが、すぐに状況を説明してくれた。

「政府から避難勧告が出されました」

「避難?」

「避難なァ?一体どこに避難しようってんだ?もう表と裏ってのはつながってんだぜ?」

「そうだな。奴らは自由に行き来ができるようだった。どこにも安全な場所はないはずだが」

「いえ、いくつかの大型の学校や施設であれば、バトルゲームの中継地点があります。そこは、裏世界での影響を妨害する装置が設置されていますので、現在はそこが避難場所となっています」

「なら、私たちも」

「…いえ、私の家にしましょう」

「え?なんでですか?」

「今、私らが避難所に行ったらいろいろ聞かれるし、そうなれば機密情報も聞かれるだろうけど、それでも黙っていられる?

 …それに、葉月の怪我もこれからのことを話し合うのだって、ほかの方々を巻き込むわけにはいかないわ」

玲香の家に行くことが決まり、執事が運転してきた車で家に向かった。相変わらずの豪邸ぶりに葉月が何かをいう元気はなかった。

執事はすぐに医務室に向かうように言う。すでにかかりつけの医師を呼んでいるらしい。

「レバーを食べとけばなんとかなると思うんで、大丈夫だと…」

注射が苦手な葉月は、きっと縫合と輸血は避けられないと自覚しているからか、嫌そうな顔で執事に聞くが

「私もそれほど医学に精通しているわけではありませんが、その傷は無理かと」

「…ですよね…はい。ありがとうございます」

諦めて待つことにしたのだった。医者には意外だと笑われた。


その後、睦月たちも合流し、今までのことを報告しあったが、神奈だけは今だに連絡がつかないでいた。どこかの避難所にいる可能性も踏まえ、今日は休むことになった。

「お前は平気なのか?」

宗兵衛がキョンシーに聞けば、半分呆れ、半分笑いながら答えた。

「あいつはポジティブ過ぎて悩むってのがねぇんじゃねぇの?おかげで、このクソみてねぇな毒が発動しねぇみたいだけどな」

「そうか」

「あーぁ…リミットは外してぇが、あのバカ能天気なアイドルちゃんとパスが強くなんのは勘弁して欲しいぜ」

「だが、お前も彼女のエネミーだろう?」

「お前みてぇに誰にでも尽くしてやるほど優しくねぇってんだ。俺はただ戦わせてくれるなら、誰でもいいさ」


その夜、視線を感じて目を開ければ宗兵衛がいた。

「ん…一緒に寝る?」

「いや、一緒に寝たら潰されそうだからな」

「失礼な…ベッドでは寝相がいいんだぞ?」

「前に枕が飛んでいたが」

「わかった。潰しはしない。吹き飛ばしはする」

「やめてくれ」

裏世界にエネミーを置いておくのは危険だと判断し、全員が表世界にエネミーを置くことにしていた。

「そう。なら、早く寝よう?宗兵衛だって怪我してるんだから」

そういって、もう一度布団に潜り込もうとする葉月の頭をなでる。

「すまなかった」

「~~っ」

「!?」

突然大粒の涙を流す葉月に、慌てながらも昔と同じように泣き止むまで頭を撫で続けた。

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