13
睦月は隣を歩く郁弥に旅行でのことを話していた。
「旅行なのに大変でしたね…」
「そうなんだよ…」
郁弥は特に何もなかったという。普通の旅行だったと。それが当たり前なのだが。
「そういえば、郁弥はいつからテイマーになってたんだ?」
「えっと…一応、小学生の時、ですかね?僕は父や友達のこともあって、中学に入るまでテイマーって存在のこと勘違いしてたんですけどね…」
「勘違い?」
「はい」
恥ずかしそうに頬をかくと、
「バトルゲームのこと、父は好きじゃなくて昔は見れなかったんですよ。ただの見世物だって」
「確かに見世物ではあったけど…」
本来の目的とは全く違うこと。だが、玲香はそれでも戦うための予行練習にはなると言っていた。確かにいきなり戦えというのは、難しい話ではある。
「ってことは、バグ見たことあったんだ」
「…はい」
「?」
一瞬だが暗い顔をした郁弥に、何か悪いことを言ったかと首をかしげれば、郁弥は慌てて手を振り違うと否定した。
「バグを見ると、いつも友達が来て…」
「友達…?あぁ…前に言ってた」
バグに殺されたという友達の話。郁弥は頷くと、その神社の脇にある名前を見ると、持っていた地図にチェックを入れた。
「いつも1人で頑張ってて…」
郁弥はその文字を見て、勢いよく睦月を見上げると
「あ、あの!ちょっと寄りたいところがあるんですけど!いいですか?」
「え?あ、う、うん。全然いいけど…」
「ありがとうございます!」
そこは、孤児院のようだった。郁弥がのぞき込めば、優しそうなおばさんが近寄ってきた。
「郁弥君?」
「おばさん!お久しぶりです!」
「ひさしぶりねぇ。大きくなって」
「そ、そんな…」
「前の試合見たわよ」
「ありがとうございます」
恥ずかしそうに答える郁弥を後ろで見ていると、睦月は突然小さな男の子に見られそして後ろに回り込まれると足をつかまれ
「わたし、きしゅーがとくいなの!」
「えぇ!?」
随分最近聞いたことのある言葉が、舌足らずな言葉で紡がれた。何かよくわからないかったが、周りの子供たちもそれに気がつくと、口々に驚いた言葉を上げる。
「ぬれぬれのお兄ちゃんだ」
「ヌルヌルだ」
「ぬめぬめー」
「あの女の子って冷たいの?」
「スライムにつかまれた人だー」
「な、なに!?」
突然の質問攻めに何が起きているのかしばらく理解できなかったが、徐々にそれが前のバトルゲームのコトを言っているのだとわかってきた。だが、足に絡んでマネをする男の子の対処までは思いつかない。
「お客さんが困ってるでしょ。離れなさい」
「はーい」
「ごめんなさいね。前の試合とってもかっこよかったわよ」
「あ、ありがとうございます」
面と向かって言われたのは初めてで、睦月もはにかみながら返した。すっかり忘れていたが、バトルゲームは基本的に、撃破数は1か2だ。初ともなれば、隠れるだけで精一杯や、そもそも敵と出会わないというのも多い。その中で、初にして撃破1だ。引き分けではあったが、有名にもなっていた。
ただ覚えられ方が、作戦の指示などではなく最後の捕まったところというのが悲しいところだが。
「アレ?郁弥は?」
「あの子なら、和美ちゃんのところよ」
「和美ちゃん?」
「昔ここにいた子でね。事故で亡くなったの…身寄りのない子だから、立派なお墓も作れなくてね」
バグに殺されていたと聞いていたから、そのように処理されたことも予想できた。おばさんは中に案内してくれると、子供たちの世話に戻った。
位牌の前に郁弥が座っていた。
「前に、バグに殺されたことは言いましたよね」
「あぁ」
「だから、骨もないんです。でも、国から事故だって告げられて、お墓は作ってもらえたんですけど、おばさんにはずっと嘘をついてるって考えると、ちょっと悪い気がして」
「…」
「その子が殺されるところを、僕は見てるしかなくて…」
思い出されるのは、自分が襲われた時のことだった。あの時も座り込んでいるだけで、葉月の手も取れず、ただ呆然と座っているだけだった。
「仕方ないよ」
そういうことしかできなかった。
「…そう、ですね。僕はもう弱虫じゃ、ダメなんですよね」
「?」
「テイマーになったんだから、皆さんと同じ場所に立っているんですから、僕だっていつまでも弱虫じゃだめですよね」
郁弥のその目は前の旅行で見た、飛鳥や優真と同じ信念をもった強い目をしていた。
「まずは、目先のこの自体の調査から!ですね」
「…あぁ。よし!がんばろう!」
それが遠い存在ではなく、自分もそうなのだと理解すると、睦月は大きく頷いた。2人の目には確かな力が宿っていた。
ガレキの中、何かの気配に銃を構えれば、薄ぼんやりとしたその少女は立っていた。
「あなたは誰?」
ホムラがそう聞けば、少女は驚いたようにホムラを見ると微笑んだ。
「あの子を助けて」
「?」
「私は疑った、そして間違えたの」
「何を言ってるの?」
「あの子は間違えそうになってる。あなたならきっと」
そういうと少女は消えていってしまった。ホムラはその少女の立っていた場所に立つと、足元にそれはあった。
「カメ…?」
五円玉を糸で結って作った亀のようだ。ホムラはそれを拾い上げた。
夕方のこと、葉月が疲れたように帰ってくると、カバンを置き、持ってきたであろう鍵をテーブルの上に投げておいた。
というよりも、勢いよく突っ伏したせいで投げたように見えただけだ。
「あつーい…お茶」
「自分で出せ。てか、そんな乱暴に置いたら、割るぞ?それ」
「…」
鍵についたキーホルダーは水色の涼し気な少しだけ歪な形をしたとんぼ玉だ。昔、睦月が作ったものだから覚えているが、ガラスを固めただけの、乱暴に扱えば割れる代物だ。
葉月はそれを割れていないか確認すると、今度は静かに置いた。
「だいたい、なんでそれ姉貴が持ってるんだよ?」
「えーこれ、確か作って交換したんじゃん」
「そうだっけ?」
「そうだよーお姉ちゃんってこういう色っぽいよね!って言って作ってた。あの時の睦月君はとても純粋だった。うん。凄く汚れを知らない純粋な子だったのに…」
「まるで今の俺が純粋じゃないみたいだな」
「え?純粋な好青年の自覚があるの?」
「それは…ない、けど」
「ほらほら~」
ニヤニヤと笑う葉月に、睦月はもういい!というと、自分の部屋に戻ってしまった。
「交換したってことは…あれか?もしかして、俺も持ってたりするのか…?」
交換した記憶はないが、もしかしたらしてるかもしれないと、押入れの中を漁っていると、カラーテープで厳重に止められたアルミ缶があった。蓋には、マジックでタイムカプセルと言う文字。
そういえば、こんなものが流行っていたと、数年前のことだが思い出しつつ、振ってみれば何かものは入っているようだ。
「…何入れたっけ?」
当時の大事なものではあるだろうが、子供の時の大事なものというとあまり今では大事ではない気がする。ただ、ここまで来ると気になってしまうもので、厳重なテープをはがし、それを開けた。
「…これか!!」
キラキラとしたお菓子のおまけだったシールやレアカード、懸賞で当てたおもちゃと、予想に反しないものが入る中、確かにそのキーホルダーはあった。
真っ赤なそれは睦月が作ったそれよりも整っているトンボ玉は、まるで炎のような色合いをしていた。
「大事には、してたんだな」
覚えてはいなかったが、昔はタイムカプセルに入れてまで大事にしたいと思ったもの。
それだけ取り出すと、もう一度テープを貼りタイムカプセルは押入れに戻した。




