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翌日、昨日と同じように飛鳥と優真が案内をしてくれるということで、朝から集まっていた。

飛鳥が休みというのは少々驚いたが、息抜きだよ。と、裏がありそうな笑みで答えられ、それ以上は聞けなかった。

今日は別にいいんじゃないかという、飛鳥の言葉によって、ホムラが普通に隣に座っている。というよりも、飛鳥自体、地元のテイマーとして有名なため、エネミーが横にいても違和感がないらしい。

「宗兵衛もこっちにくればいいのにー」

宗兵衛は、こちらにはいない。ホムラと違い、ネコだから気にしているのだろう。葉月は端末の画面に触れながらからかっている。

「ホムラ。疲れてないか?」

「大丈夫」

現在、朝からちょっとしたハイキングをしていたので遅い昼飯ついでに休憩中だ。

ホムラを見れば見るほど、人じゃないというのを実感する。汗もかいていなければ、現実離れした透き通った青の髪ととんぼ玉のような瞳。

それに畏怖はしない。ただ、今までとは違った現実で、憧れていた世界だ。

「睦月、疲れた?」

「少し」

「さすが都会っ子!もやしだな!」

「都会じゃないですけど…」

その隣の県だ。飛鳥にはここから見たら、変わらねぇよ。と一蹴されてしまったが。

その時、後ろで思いっきり誰かが転ぶ音がした。その音に、飛鳥の顔が人に見せられないような恐ろしい顔になったが、見なかったことにした。この2日でずいぶんと慣れたことだ。

「大丈夫ですか?」

「う、うん…」

派手に転んだ優真は、バックの中身すら床に散らばせていた。睦月とホムラが拾うのを手伝い、近くにいた女の子も一緒に拾ってくれる。

そして、女の子が端末に触れた瞬間


突風が吹いた。


その突風はそのまま葉月たちの元に行くと、派手に音を立て、葉月のバックと飛鳥の携帯を盗んでいった。


しばらく時間が止まったかと思った。だが、飛鳥は状況を理解すると、その影に振り返り

「待て!クソザル!!!」

その盗んだ猿を追いかけていったのだった。葉月もさすがにバックを取られたこともあり、飛鳥に続く。

「あ、飛鳥ぁ!?葉月ちゃんまで…!?というかなんでサル!?」

「さ、さすが北海道…」

「いや、確かにそっちよりは出るかもしれないけど、さすがにあんなサルいないよ!?」

とにかく2人を追いかけようとすると、腕をつかまれた。振り返ると、ホムラがじっと見ていた。

「ホムラ?」

そのころ、飛鳥と葉月は商店街の方まで猿を追いかけていた。素早い猿に追いつくのは至難の技で、飛鳥が胸の前に拳を作り出していた。それを止めたのは葉月だった。

「こんなところで、飛鳥の武器だしたら大変なことになるから!!」

それはさすがに自覚しているのか、さすがに出すまではしない。だが、その手は出したそうにかすかに震えている。そんな飛鳥を抑えているうちに猿を見失ってしまった。

汗だくの飛鳥と葉月は、辺りを見渡すが、猿の被害に遭っている人はいないらしい。

「どこ行きやがった!?携帯返しやがれ!」

「サルにいっても…というか、私、鞄全部取られた…」

手に残っているのは端末だけだ。あまりこういうことで迷惑はかけたくないが、足の速さで言えばこの中で一番早いだろう。宗兵衛をこちらに呼べば、渋い顔をしていた。

「ごめん。でも――」

「いや、そうじゃないんだ」

「?」

「葉月たちが追っているのは、ただの猿じゃない。エネミーだ」

その言葉に、しばらく2人は固まり、確認すると、頷かれた。そして、飛鳥の口元が歪んだ。


その猿はというと、屋上を走っていた。気配に飛び退けば、宗兵衛がいた。

「すまんが、それは返してもらうぞ」

「これは、我にも必要なのだ」

2匹が構えた時、猿の足元の影が膨らみ包み込んだ。

「なっ!?」

気が付けば、ずいぶんと見慣れた暗い空の元に帰ってきていた。荒廃した屋上に着地すると、状況を理解するよりも早く斬撃を避けることになる。狐の面を被った女。

「若造が…汝もか」

「…」

何も言わず構え、その携えた日本刀で切りつける。

「盗んだ詫びならしよう。だが、其れも是が終わってか――」

その言葉は突然落ちてきた壁の衝撃で、止まることになった。

「詫びならいらねェよ」

すかさず、日本刀が首を捉え、寸止めで止まる。

「詫びても許さねーから」

悪魔より悪魔らしい笑顔の男が、猿の後ろで壁となっている戦斧に寄りかかり言った。


「にしても、その武器いいよなぁ…」

「でしょー?」

裏世界で猿を縛るのは黒い何か。葉月の固有武器「漆黒箱ブラックボックス」だ。その箱の大きさであれば、形は自由自在だ。しかも、強度は十分。エネミーだって逃げられない。

「んじゃ、とっとと利子つけて返してもらうか」

飛鳥がそんなことを言った瞬間、熱気と耳をつんざく音が響いた。


2人を追いかけていた睦月と優真は、ホムラから猿がエネミーだと聞き、驚きながらも2人のいる場所に向かって走っていた。

「なんか暑くないですか?」

いくら北海道とはいえ、夏だ。多少暑いだろうが、少し走っただけで汗だくにはならない。

優真も、さすがにおかしいと思ったのか、足を止めて首をかしげた。

「そうだね…こんなに暑いの初めてかも…」


ビーーーーーーー!!!


手の中でサイレンが響く。

「うわぁあ!?」

優真もホムラも驚き、ホムラは目を細め何かをじっと警戒し、優真は真剣な表情になると自分の端末を見る。優真の端末もサイレンが鳴り続けている。さすがに周りの視線が、不審になっていく。

「…睦月君。ちょっとこっち!」

優真が睦月の手を掴み、路地裏に入る。未だに鳴り続けているサイレン。

「な、なんなんですか!?これ!」

「バグ」

ホムラの言葉に、優真が頷いた。

「しかも、危険度A級」

そういえば、昔、説明会の時に危険度が高いとサイレンが鳴ると言っていた。これかと、納得したが、それよりもこの状況に問題があった。

「それなら、早く倒さないと危ないんじゃ!?」

優真が見せてきたのは、バグの検出画面で、辺り一面が赤くなっていた。今いる場所も赤い中に入っている。

「こ、これって…」

前に見たバグは、赤い点が一つだけだったはず。こんなに広範囲ではない。

とにかく、何が起きているかわからないが、優真が動こうとした時、道の方で大きな音と悲鳴が聞こえた。

「な、何!?」

「行ってみよう」

2人はその音が鳴った方に走った。


猿はその状況に、失敗したことを悟った。辺り一面が赤に光る。自分の周りだけが燃えていないのは、足元に広がる黒い何かのおかげだろう。ついでに、ずっと響くサイレンがうるさい。

「ほぼ同時じゃねぇか!!」

「宗兵衛が気付かなかったら、アウトだったかも…」

「てか、A級だぞ。どうするんだよ」

周りの炎は意志をもったように蠢いている。時折向かってくる炎は、飛鳥のエネミーのヨミが切るが、ダメージはないらしい。キリがない。

このまま消耗戦になれば負けるだろう。宗兵衛が臭いで相手を探そうとするが、どうやら炎全部がバグらしい。

「これの核探すのはやべぇな…てか、サル!お前が言ってたの、これか?」

「そうだ。貯まりに貯まった憎悪の炎が意思を持つのは、最早時間の問題だった。だからこそ、我が浄化する為――」

「浄化できんならとっととやれよ」

「力が足りんのだ!その力を汝らから借りようと」

「さっき盗んだ詫とか言ってなかったか?」

「そ、それは言葉の彩だ!返すつもりはあった」

「へぇ~“つもり”ねぇ~」

猿の顔は徐々に歪んでいき、飛鳥の顔は徐々に楽しげな顔になってきている。

「あーもー!話が進まなーい!」

葉月がその状況に1人と1匹に向かって、そう怒鳴れば、隣にいた宗兵衛も呆れたような顔になった。

「そもそも、汝が大人しく渡していればよかったのだ!」

「絶対それは責任転換だよね!?」

「責任転嫁な」

「あれ?」

「間違えやすい日本語で有名だろ…って、まぁ、確かにその力とかはわかんねーけど、それがあればどうにかできんのか?」

「無理だ」

「…葉月。こいつ放り出さねぇか?」

飛鳥をなだめると、盛大にため息をついたあと、一つだけ方法があると言い出した。

「ただし!重大な問題がある」

「それでいいんじゃないの?ねぇ?」

「あぁ。それで、その方法はなんなんだ?」

「お、おい!問題があるんだぞ!?」

「いやーだって、それしかないわけだし?」

猿は宗兵衛に目を向けるが、やると決めたらあまり言うことを聞かないからな。と慣れたように笑う。

結局、今だに納得いかない猿は、飛鳥に強制的に頭を抑えられ黙ることになった。

「優真のエネミーが氷を使うエネミーだ。勢いを弱められるかもしんねぇ。ただ、基本やる気0のエネミーと超ドジの優真だっていうのと、コンルの氷がどのくらい効くかわかんねぇ」

それは確かにそれは問題だ。

しかしそれ以外に打開策も見つからず、優真とコンルにしかこの状況を打破できないのならと、端末を開くと、優真は裏世界に来ているようだった。隣に光っているのは睦月だろう。飛鳥が優真に入れようとしたその時、足元がぐらついた。

「おい…嘘だろ?」

足元は葉月が被っているので、燃えないが、足元の建物は燃える。つまり、溶けるわけで

「崩れ――!!!」

る。という言葉を言い終える前に足元は完全に浮いた。

互いのエネミーが自分のテイマーを抱え、飛んだが、足元は全て火の海。獲物を待ち構えるように意志をもって蠢いていた。その火が食らおうとした瞬間


全てが止まった。


先程までの肌が焼けるような熱を放っていた火は、今は火照った体に心地いい冷気を漂わせていた。全てが氷の世界になっていた。

何が起きたのか、全員が理解できなかった。すると、遠くから騒がしい声が聞こえてきた。

「あーすーかー!!大丈夫ーー!?」

手を振って氷を滑ってくる優真は、そのまま葉月の前を通過して、飛鳥の前も通過して、ガレキに突っ込んだ。助けてもらったとはいえ、いきなりその状況になり、飛鳥の顔が恐ろしいことになっていたが、呆れたように笑うと救出に向かったのだった。

そのずっと後ろの方で、おっかなびっくりに氷を滑っている睦月も転んだ。

「睦月どんくさーい」

「う、うるさいな!」

「大丈夫?」

「う、うん」

ホムラに起こされ、ようやくたどり着けた。だが、飛鳥に手伝ってくれと言われ、ゆっくりと滑りながら、葉月を見た。

「怪我とかしてないか?」

「へーき。そういえば、表は大丈夫だったの?」

「あー…なんか、看板が溶けて落ちてたかな…」

「うわ…まぁ、熱かったもんねぇ」

「そういう問題!?」

「詳しいことは、お嬢様とかがやってくれるから。にしても、ここまで氷漬けにできるってことにびっくりだよ。なんで、最初にお嬢様にやられてるんだろ?」

「なんか、普段はめんどうで本気出さないんだって言ってたけど…」

数分前、裏世界にやって来た睦月と優真は、どこからか現れ優真の頭に乗ったコンルになんとかできないかと聞くと、しかたないなぁ…の一言で、火の海の前に立ったという。

『優真。御印に力込めろ』

『え?あ、うん』

何か彫ってある木の板を取り出すと、優真は願うように力を込める。すると、コンルは火の海に向き直ると、どこからかフキの葉を出すと、その葉の上の雫を一つ火の海に飛ばした。

すると、一瞬で一面が凍りついたという。その睦月が見たという、御印は先程ガレキに突っ込んだ際に、手から離れ猿の前に転がっていた。

「触んな」

猿は無言でそれを拾おうとすると、上から声が降ってきた。慌てて見上げれば、フキの葉を傘のように携えた小人が見下ろしていた。

「山神なら、神子の御印を奪えばどうなるかわかってるだろ」

「っ」

コンルは御印を拾うと、優真の元に持っていった。今だに優真救出は終わっていないらしく、睦月とホムラも混ざって、ガレキをどかしている。

猿は隣を滑って通過しようとする葉月を見て、呼び止めた。突然声をかけられ慌てて止まったが、滑り慣れていないおかげで転んだ。

「いったー!なにさ…急に」

「汝は神子でもなかろう?」

「は、はぃ?」

「なれば、その力の源は御印でもなかろう。どうか譲ってはくれぬか?鞄全てではない。それだけが欲しいのだ」

「え、えぇ…」

詰め寄る猿に、さすがにどうしようかと迷うが、先ほどとは違う気迫に押し負けていれば、宗兵衛が間に入った。

「無理強いをするな」

「汝も同族であるならばわかるだろう?今、我々の力は衰えている。これでは、土地すらも守れぬ」

「だが、他人のものを盗んでいいことにはならない」

「ならばこそ、頼んでいるのだ」

「ちょ、ちょっと待った!私、そもそもそんな力の源なんてもってないよ?」

「気づいていないだけだ。見せてみよ」

今、逃げたところですぐに捕まえられると、鞄の中を見せれば、2つを指さされた。1つは古い御守、もう1つは手作りの水色のとんぼ玉。

「それだけでいい。いや、どちらかでもよい!頼む」

「ダメ。この2つは大事なものだから」

「それは分かっている。力在る者の其への思い入れが、その力となる。せめて、そのとんぼ玉を貸してはもらえぬか?御守に比べ、ずっと弱い力だ。それならば」

「ダメ!どっちも人には貸さないし、あげない」

「諦めろ。山神。無理に奪うならば、俺も黙ってはいない」

「ッ…なぜだ。貴様とて、土地を守るための力が必要であろう。何故、巫女でもない少女を守る」

「守ると誓った。それだけだ」

やだ。かっこいいーと喉元まで来ていたが、空気を読んで飲み込んだ。だが、猿の眉間にシワが寄り、今にも噛み付きそうなその状況で、葉月以上に空気を読まなかった男が1人いた。

「ちょっといいか」

飛鳥だった。後ろで優真と睦月も苦笑いになっている。

「すっかり忘れてたけど、優真アホがやらかした時に端末拾ってくれた女の子いただろ?」

葉月は覚えていなかったが、睦月と優真は思い出したようで頷いた。

「あの子が触って、こいつが出てきたってことは、その子もテイマーの才能あるってことだよな?」

「「……あ」」

「ん?ってことは…」

全員の頭の中に、自分の過去のことが思い出されていた。

「「「「探さないと!!!」」」」

全員の予想通り、やはり少女は引き込まれていて、どうにか状況を説明して、表世界に連れ帰ったのだった。それと同時に、猿にはまた少女が引き込まれた時に、すぐに助けに来てやれと飛鳥による命令が下ったのだった。


こうして、命の危機に陥った旅行も無事終わった。

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