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「いやーついたね!北海道!まさか、2人で旅行とは」

葉月がいうのは最もだ。今回の旅行は一応家族旅行と称した、父親の取材旅行だ。

とはいえ、普通に遊べるはずだったのだが、これまた父親の締切が突然早まったとかなんとかで、急ぎで記事を書き上げなければならなくなったらしい。おかげで、母親もその手伝いにいき、子供2人は旅行を楽しめと…そう言われて現在に至る。

ちなみに、宗兵衛とホムラをこっちに呼ぼうとすれば、せっかくの旅行なのだから、普通に楽しめといわれてしまった。確かに、観光ともなれば、入場券など色々と人数でめんどくさいことにはなりそうだ。

「さーて…どこ回ろうか」

グルメガイドを片手に葉月が吟味し出していた。


~~♪


「?お母さんかな?」

葉月の携帯が鳴り、取り出せば「非通知だ…」といって、電話にでた。スピーカーにしているのか、睦月の耳にもそれは届く。

「もしもし?私メリー」

いたずら電話だろうかと、一瞬頭によぎった。だが、続けて聞こえる言葉は、どうもスピーカーとは思えない肉声に近い声だ。

「今、あなたの後ろにいるのっ!!」

「うわぁ!?」

その声と共に現れた男は、葉月に飛び蹴りをしたのだった。そして、電話に向かって一言。

「私メリー。今、あなたの目の前にいるの♪」

「い…じゃなくて、一さん!?」

「おう。一仲間!」

「一仲間?」

「睦月だろ?一月の」

「あぁ…」

「あと、言いにくいなら、飛鳥でいいからな。今度言い間違えそうになったら、ジンギスカンキャラメルな」

「す、すみません!!」

その笑顔は本気でやる人の笑顔だ。

「びっくりしたよ…いっちゃん。って…あれ?札幌じゃないよ?ここ」

「夏休みくらい、実家帰らせろよ…」

「え…札幌じゃないの?」

「ちげーよ。どうせならいい学校って、向こうの寮に入ってるだけで、家はこっち」

「そうなんだぁ」

「てか、こっちの方がびっくりだよ。飯買いに行ったら、葉月いるし、びっくりして、ついメリーちゃっただろ?」

「メリーさんって、飛び蹴りしましたっけ?というか、それ、びっくりしたらするものなんですか?」

「旅行なんだよーそうだ!暇なら案内してよ」

「スルーすんの!?」

先程の飛び蹴りはすっかりなかったことにされたのか、葉月が案内を頼む。

それは、睦月にとっても嬉しいことで、道に迷う心配はなさそうだ。

だが、飛鳥は笑顔で

「断る!」

きっぱりと断られた。

「ケチ」

「フハハハ!なんとでもいえ!辛辣な言葉の槍など痛くも痒くもないわ!!」

まさしく悪役の様に腕を組み高笑いをしている。心の中だけで、やけに似合うな…と思ったが、何も言わないでいた。

「まっ、案内してやりたいけど、普通に俺、塾があってさ。今も昼休みだし」

「え?あ、そうだったんですか」

「いっちゃん結構、真面目だよねー」

先程のただの悪役から一片、テイマーの特権があるにもかかわらず真面目に勉強している真面目な先輩に睦月の中の印象が変わりつつあった。

「そりゃ、むかつく奴に運動だろうと、名声も金も頭も下になりたくねーしな」

「きっとその理由は言わないほうがモテると思うよー?」

また心の中だけで葉月に同意していた。飛鳥は葉月から周辺のパンフレットを借りると、ある場所に印を付けた。特に何も書いていない場所だ。

「とりあえず、ここで軽くラーメンでも食って待ってろよ。午後はテストとその補習だけだから、すぐ行くから」

テストとなれば、途中退出は出来ないだろうし、補習だってそれなりの時間がかかるはずだ。すぐ行けるはずがない。睦月も葉月も同じような顔をしてたのか、飛鳥が察したようにニッと笑い

「満点とりゃ補習なんていらねぇよ」

「うわぁ…サラっとすごいこと言ったよ…この人」

「満点ってそんなに簡単に取れるものでしたっけ…?」

「ただの微分のテストだからな。計算ミスさえしなきゃ楽勝だ」

その計算ミスが一番大変だと思うが、飛鳥は任せろ。とだけ言って、行ってしまった。葉月に目を向ければ「数学得意だから大丈夫じゃない?」とだけいって、その地図を見た。少しだけ遠い場所だ。

バスに乗りながら、テイマーでも塾に通う人がいることがいるのかと聞けば、葉月は意外にいると答えた。

「玲香さんとかは家庭教師っぽいよね」

「別格だからねーお嬢様は。そうだなぁ…会長さんも通ってるよ?ほら、夏期講習って言ってたじゃん」

「そういえば…普段も通ってるの?」

「確か。今みたいにずっとテイマーでいられないから、その時のためにやりたいことを見つけて、それをやるための力をつけるんだって。模範的でしょ?」

「うん。すごく」

先程とは大違いだ。


そして、地図を頼りにそのラーメン屋を探していると、威勢のいい声が聞こえる。どうやらあそこのようだ。

「…穴場?」

「結構、繁盛してるね」

観光客というか、地元の人に愛されてる感じだ。とりあえず、中に入ってみれば威勢のいい声と共に、見たことのある顔が振り返った。

そして、3人でしばらくその場所に固まった。一番最初に動いたのは、葉月で飛鳥の狙いが分かり、笑っていた。

「え…え…?えぇ?」

驚きながらも近づいてくると、葉月の肩をつかみ

「葉月ちゃん?」

「違うよー?」

「え?あ、そっか。すみません。人違いでした」

「いやいやいや!?葉月で合ってますよ!?」

素直に受け入れる優真に慌てて睦月が訂正すれば、だ、だよねー!なんて笑顔で言う。本気で信じていた人の顔だ。

飛鳥の時と同じように何故いるのかと、色々話し、昼のピークが収まってきた辺りで、飛鳥が到着した。

「ちわーっす」

「あら、飛鳥君。いらっしゃい」

「マジで早いな…」

時計を見れば、どう見ても補習を受けてきた時間ではない。宣言通り満点を取ってきたのだろう。

「おばさん。優真と2人で、友達にこの辺案、内して来ても大丈夫?」

「いいわよ。せっかくきたんだもの。いっぱい楽しんできなさい」

「ありがとうございます。よし!優真、10秒で支度しろ!」

「無理だから!!」

そう言いつつ、小走りで店の奥に行った。飛鳥も何か思い出したように店の奥に行くと、しばらくしてから2人で出てきた。先程まで持っていた大きめのバックがウエストポーチひとつになっていた。

「お待たせー」

「おばさん。自転車後で取りに来るから置いてっていい?」

「いいわよー」

そして、4人の旅行が始まった。突然決まったことだというのに、飛鳥はどんどん近くの観光名所を抑えつつ回っていく。本人曰く、地元だからこそ観光特別価格で買う気が起きないから、名物はそれほど食べないし、名所もそれほど興味がなくていかないらしい。

「小学校の校外学習以来だね」

「あの弁当食いに来てるだけのアレか」

「そーゆーのは言っちゃいけないんじゃない?」

「でも、確かに感想文とか、すごかった。としか書けないですよね。原稿用紙埋まらなくて苦労した覚えが…」

「そうそう!睦月君もわかる!?飛鳥って、そういうのさらって書いちゃうからさ!テキトーに書けばいいだろ。なんて言ってさ!無理だよね!」

「それができないから大変なんですよね。姉貴もすごいものはすごかったです。でいいじゃんとか言ってて!」

なにやら、後ろで散々悪口のようなものを言われている2人はというと、全く気にしてなかった。すでに次の目的地で何を食べるかの話をしている。

「暑いし、アイスでも食うか」

「え?そんなに暑い?アイスは食べるけど」

「暑いだろ。25℃だぞ!?25!」

「そんなに暑くないでしょ…夏なら30いくこと多いし」

「それは地獄だ」

4人でそれぞれアイスを買ってからというもの、その日一番騒がしかったと思う。

受け取って10秒経たないうちに、クリームの部分だけ地面に落ち、悲愴感たっぷりの表情をする優真に定員がさすがに同情して新しいのを作ってくれたり、その新しいアイスの半分を飛鳥に持っていかれたり。睦月が少しだけ分ければ、泣きそうな顔で喜ばれ、間接キスだと葉月に笑わた。

しかも、飛鳥と葉月は互いのアイスを食べ比べしていて、優真にいちゃつくな!!と言われ、彼女or彼氏いない歴=年齢である4人は自分で自分の首を絞める結果となり、飛鳥の八つ当たりの矛先は、当たり前のように優真に向いた。

「なんで俺いつもこういう役回りなのぉ…」

「そもそもお前がいちゃつくとか言わなきゃ、始まんなかったんだよ!」

「それなら、姉貴の間接キスが発端じゃ」

「…確かに」

「そーじゃん!葉月ちゃんだよ!発端!!って…アレ?葉月ちゃんは?」

気が付けば、いたはずの葉月はいなくなっていた。トイレだろうかと、思っていたが中々帰ってこない。

睦月が端末を開けば、ホムラが首をかしげる。バグに引き込まれたというわけではないらしい。

「もしかして…」

飛鳥が心当たりがあるのか、端末を操作すると、近い場所に点滅する点があった。


気が付けば、随分ときれいな場所にいた。周りに、睦月たちはいない。昔から変わらないその状況に、振り返り宗兵衛を探すが、宗兵衛もいない。空を見上げれば、真っ暗だ。ここが明るいのは、周りの草花がほのかに光を放っているからだろう。

「きれい…」

蓮が一面に咲いていた。幻想的な風景だ。その蓮を近くで見ようと屈めば、声がかかる。

「近づきすぎると身を滅ぼすぞ」

その小さな体のエネミーは知っている。優真のエネミーだ。

「どうしてここに入ってこれたのかは知らないが、そこから先は危険だ。見るだけにしとけ」

「見るだけならいいんだ」

「幻想は見るものだろ」

しばらく時間を忘れてそこを見ていた。


睦月たちは、飛鳥の案内で、ある場所に来ていた。そこは立入禁止の札。観光客もそこそこいるが、立ち入り禁止とあって、その場所には人はあまりいない。

飛鳥はその立ち入り禁止の札の横を躊躇なく通り、奥に進む。

「え!?い、いいんですか!?」

確かに先程教えてもらった、ほかのテイマーの端末の場所がわかる機能を使って見る限り、葉月はこの先にいる。だが、立入禁止の場所なのだ。

「この先ってことは、アイヌの森?」

「たぶんな。ったく…あいつ、こういう場所にも引かれるのか…」

「あ、あの!それって、どういう…!?」

「とりあえず、ここまでくりゃ、大丈夫だろ。行くぞ」

飛鳥の声と共に、睦月もわからないまま裏世界に行く。

すると、目の前には荒廃しているはずの裏世界とは思えない、明るくきれいな場所があった。睦月が見入っていると、優真がそこについて教えてくれた。

「あれが、アイヌの森。まだ神がいる神聖な場所だよ」

「でも、なんで姉貴が」

「あいつが引き込まれやすいのは知ってんだろ?それと一緒で、こういう神聖な場所にも引き寄せられやすいんだよ。って、あそこにいるの、宗兵衛じゃね?」

確かに、森の前に宗兵衛が上を見上げて立っていた。近づくと、振り返り

「睦月たちか」

「どうしたんだよ?奥に葉月いんだろ?」

「そうなんだが…」

見上げる先には、大きなフクロウがいた。

「この森に入ることを禁ずる」

「出禁かよ…じゃあ、俺たちが――っと!?」

強い風が吹き、足が止まる。

「人の子がこの森に入ることをは、許されぬ」

つまり、意地でも入れないということだ。葉月が自分で出てきてくれるのが一番早いが、動く気配はない。

「しかたねぇ…優真。お前1人で行ってこい」

「や、やっぱりそうなるの?」

「仕方ないだろ。お前しか入れないんだし」

「え!?優真さんはいれるんですか!?」

「こいつ、一応アイヌの血入ってるし、これでもアイヌの神子だから入れるんだよ。知らないか?こいつのエネミー、コロポックルっていう小人だぞ」

そういえば、小人のエネミーがいた気がする。

何故か、試合で活躍していた覚えがないが、記憶に残ってはいる。しばらくして、納得した。玲香に2年連続で一番最初に瞬殺されている人だ。ただ、本人が目の前にいることを思い出し、言葉は寸のところで止まった。

「わかったよ…カムイ。葉月ちゃんどのへんにいるの?」

「蓮畑のすぐそばだ」

優真も1人で森の中に入っていった。

「てか、葉月も人だろうが。なんで入れてんだよ?」

「奴の神子としての力は偉大」

「じゃあ、神子の友達の俺とか、睦月なんて弟だぞ」

カムイと呼ばれたフクロウにそう聞けば、いきなり強い風が吹いた。何となく察した。威嚇されていると。

「神殺之炎、破壊之斧。皆、危険」

こうも威嚇されては、動けず、待つことにしたのだが、飛鳥が一番そわそわしている。

「飛鳥さん?」

「…」

「大丈夫ですよ。優真さんが迎えに行ったわけですし」

「あの優真アホは実力以上のドジだぞ」

アホの上にドジと評された優真はというと、まずは葉月に合流できていた。

だが、飛鳥の不安は的中し

「帰り道どっちだっけ?」

「うわー…いきなりだねー…」

帰り道がわからなくなっていた。

「こ、ここに来るまではわかりやすいんだけど、帰り道はホント普通の森でさ!」

「わかったわかったーとりあえず、歩く?」

「それ、遭難者がよく出す結論だけど、大丈夫か?」

足元でコンルが呆れたようにため息をついた。

「仕方ない…出口だろ。そこまで案内してやるから」

「ありがとーーー!!!コンルーーー!!」

「うるせぇ。抱きつくな。暑苦しい」

抱きつくというよりも、握られているコンルに、葉月もさすがにここでそれを言ったら帰れなくなるのはわかっているので、珍しく空気を読むことにした。

そして、コンルのおかげで、どうにか出口につくと、真っ先に葉月が叩かれ、ついでに優真も叩かれた。

「大丈夫か?葉月」

「それはどっちの意味で?今の?それともさっきの?」

「さっきのだ」

「できれば今のを心配して欲しかったかなー…」

そういいつつ、大丈夫だとピースするのだった。

こうして、少しだけ騒がしい旅行1日目が終わった。だが、2日目があれほど大変だとは、今の睦月たちは誰も気づいてはいなかった。

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