第九話 だれかのために
森には
やわらかい光が差し込んでいました。
葉っぱが
さらさらと揺れています。
その中を
ベウルが歩いていました。
今日は
きのこを探しに来ています。
かごの中には
いくつかの実と
少しだけ
きのこが入っていました。
そのとき――
がさっ。
草むらが揺れます。
「……ん?」
ベウルが
顔を上げました。
そこにいたのは
「……いってぇ……」
「だから言っただろ……」
「足が痛いのぉ……」
ぼろぼろの三人組でした。
ベウルは
少し驚いたように目を丸くします。
「……どうしたの?」
三人は
顔を見合わせました。
「いや……その……」
「まぁ……ちょっとな……」
「色々あってのぉ……」
そのまま
黙り込みます。
ベウルは
少しだけ首をかしげました。
「……?」
しばらくして
一匹が
ぽつりと言いました。
「……あいつ」
「子狼のやつ」
「ちょっと元気ねぇぞ」
もう一匹が
続けます。
「朝から寝てる」
「遊びにも来てねぇ」
最後の一匹が
小さくうなずきました。
「熱もありそうじゃったのぉ」
ベウルの表情が
少しだけ変わります。
「……そう、なんだ」
ベウルは
少しだけ
眉を寄せました。
三人組は
なんとなく気まずそうに
視線をそらします。
森の中に
少しだけ
静かな時間が流れました。
ベウルは
そのまま少しだけ考えて
それから
ふっと
顔を上げます。
「……教えてくれて」
ぎこちない笑顔で
「ありがとう」
三人組は
一瞬だけ目を丸くしました。
「……お、おう」
「別に……」
「たまたまじゃしのぉ」
ベウルは
かごを持ち直します。
「ちょっと」
「行ってくるね」
三人組が
首をかしげました。
「どこに?」
ベウルは
少しだけ振り返って
「きのこ」
小さく答えます。
「体にいいやつ」
そう言って
森の奥へ
歩き出しました。
森の奥へ
少し進んだところで
ベウルは
足を止めました。
「……?」
視線の先
木々の間で
二匹の狼が
行ったり来たりしています。
「あれ……」
ベウルは
少し首をかしげて
近づきました。
「姉さん?」
声をかけると
二匹は
ぱっと振り向きます。
「あら」
「ベウル?」
姉さんが
少し驚いたように目を丸くしました。
カヤは
じっとベウルを見て
「……いいところに来た」
短く言います。
ベウルは
きょとんとしました。
「どうしたの?」
姉さんは
少し困ったように笑います。
「それがね」
「子狼ちゃんに良さそうなきのこを探してるんだけど……」
「どれがそうなのか、よく分からなくて」
カヤが
周りを見ながら言いました。
「似たのが多い」
「間違えたらまずい」
ベウルは
少しだけうなずきます。
「……うん」
そして
足元のきのこを
そっと見て
「こっち」
静かに言いました。
ベウルは
足元を確かめながら
ゆっくりと
進んでいきます。
森の奥は
岩が多く
少し滑りやすくなっていました。
そのとき
「……っ」
足が
すべりました。
体が
ぐらっと傾きます。
「ベウル!」
その瞬間
がしっ
カヤが
素早く腕を引きました。
「危ない」
短く言います。
ベウルは
少し驚いたように目を丸くして
「……ありがとう」
小さく
笑いました。
カヤは
ふっと視線をそらします。
「別に」
その少し先で
「これじゃない?」
姉さんが
一つのきのこに手を伸ばしました。
白くて
きれいな形をしています。
ベウルは
それを見て
「……あ」
一瞬で表情が変わりました。
「だめ!!」
思わず
声が出ます。
姉さんの手が
ぴたりと止まりました。
「え?」
ベウルは
少し息を整えて
「それ、毒だよ」
静かに言いました。
姉さんは
目を丸くします。
「えっ……そうなの?」
カヤも
そのきのこを見て
「……見分けにくいな」
低くつぶやきました。
ベウルは
うなずきます。
「似てるのが多いから」
少しだけ
周りを見て
「声かけあって」
「気をつけよう」
やさしく言いました。
しばらく
三人で探していると
「……あ」
ベウルが
足を止めました。
少しだけ
しゃがみこんで
木の根元を見つめます。
湿った土の中に
ひっそりと
小さなきのこが
生えていました。
淡い色で
少しだけ
光を含んでいるように見えます。
「これ……」
ベウルが
そっと指さします。
「子狼ちゃんにいいやつ」
姉さんとカヤも
近づいて
じっと見つめました。
「これが……」
「見分けつかないわけだ」
ベウルは
うなずきます。
「うん」
「ここじゃないと生えないから」
カヤは
周りを確認して
「足場、気をつけろ」
短く言いました。
姉さんも
静かにうなずきます。
「落とさないようにね」
ベウルは
そっと手を伸ばしました。
慎重に
ゆっくりと
きのこを
摘み取ります。
ぽろり
土から
きれいに離れました。
「……とれた」
小さく
息をつきます。
姉さんの顔が
やわらかくなりました。
「よかった」
カヤも
短く言います。
「間に合うな」
ベウルは
きのこを大事そうに持って
少しだけ
笑いました。
「早く持っていこう」
それから
少しだけ
考えて
姉さんとカヤを見ます。
「これで」
「シチュー作るから」
「……よかったら」
「一緒に作らない?」
やさしく
そう言いました。
姉さんは
ふっと表情をゆるめます。
「いいわね」
カヤは
少しだけ目をそらして
「……手伝う」
短く言いました。
ベウルは
うれしそうに
「うん」
小さくうなずきました。
森の中に
やわらかな香りが
広がっていました。
ことこと
小さな火の上で
鍋が揺れています。
ベウルは
そっと中をのぞきました。
「……もう少し」
静かに
つぶやきます。
姉さんは
隣で
具材を整えながら
「いい香りね」
やさしく言いました。
カヤは
少し離れたところで
火の様子を見ています。
「焦がすなよ」
ぽつり。
ベウルは
くすっと笑いました。
「うん」
やがて
ふわっと
あたたかい湯気が
やさしく立ちのぼります。
「できた」
ベウルが
小さく言いました。
子狼ちゃんは
ベウルのそばで
くんくん
くんくん
一生懸命
匂いをかいでいます。
「いいにおい……!」
目が
きらきらしています。
ベウルは
少ししゃがんで
「まだ熱いからね」
やさしく言いました。
それから
ふーっ
ふーっ
と冷まして
「はい」
スプーンを
そっと差し出します。
子狼ちゃんは
ぱくっ。
「……!」
一瞬止まって
「おいしいーー!!」
ぱぁっと
笑顔になりました。
姉さんとカヤにも
シチューが分けられます。
姉さんは
ゆっくり口に運んで
「……やさしい味ね」
と微笑みました。
カヤも
ひとくち食べて
「……悪くない」
ぽつり。
でも
そのあと
少しだけ食べるのが
早くなっていました。
子狼ちゃんは
「もっとたべるー!」
と元気いっぱい。
ベウルは
くすっと笑って
「ふふ……」
「たくさんあるよ」
やさしく言いました。
森の中に
あたたかな時間が
流れていました。
次の日――
森には
やわらかな光が差し込んでいました。
風が
葉っぱを揺らします。
その中を
「ねぇさーーん!!」
元気な声が
響きます。
ぴょんっ
子狼ちゃんが
駆けてきました。
姉さんの前で
ぴたっと止まります。
「ありがと!!」
にこっと
満面の笑みです。
姉さんは
少し驚いて
それから
やさしく笑いました。
「元気になったのね」
カヤも
その様子を見て
「……よかったな」
小さく言います。
子狼ちゃんは
うんうんと大きくうなずいて
くるっ
振り返りました。
その先に
ベウルがいます。
「ベール!!」
ぴょんっと跳ねて
駆け寄ります。
「ありがとーー!!」
ぎゅっ
しっぽに
抱きつきました。
ベウルは
少し驚いて
それから
くすっと
笑いました。
「……うん」
少しだけ
照れたように
目を細めます。
しっぽが
ぽん
ぽん
と
やさしく揺れました。




