第六話 歌う森 ー群れの大合唱ー
森には
やわらかい風が吹いていました。
葉っぱが
さらさらと揺れます。
その中を
ベウルが
ちょこちょこと歩いていました。
ベウルは
森の実を探しています。
「ふんふ〜ん」
小さな鼻歌が
森に流れます。
ベウルは
赤い実を見つけると
嬉しそうに拾いました。
「これ、きっと甘い」
かごの中に
そっと入れます。
そして
また歩きながら
「ふんふ〜ん」
少し音程の違う鼻歌。
そのとき
がさっ。
草むらが揺れました。
「ベールみっーーけ!!」
どたどたどた!
子狼ちゃんです。
ベウルのところまで走ってくると
ぎゅっ。
足に抱きついて
顔をぐいっと見上げました。
「あしょぼーー!!」
ベウルは少しびっくりして
それから
困ったように笑いました。
「ふふ……」
「いいよ」
子狼ちゃんは
嬉しそうにぴょんぴょん跳ねました。
「わぁーい!」
そして
ベウルの横で
一緒に歩きはじめます。
ベウルが
また鼻歌をうたいました。
「ふんふ〜ん♪」
子狼ちゃんも
まねをします。
「ふぉんふぉ〜ん♪」
……。
ベウルは
一瞬だけ止まって
それから
くすっと笑いました。
その鼻歌を聞いて
木の上から
「ぴち」
小鳥が顔を出しました。
ベウルは
少しだけ上を見ます。
すると
「ぴちち!」
もう一度
小鳥が鳴きました。
まるで
「きたよー!」
「まぜて!」
と言っているみたいです。
子狼ちゃんは
ぱっと顔を上げました。
「ことりしゃん!」
小鳥さんの
きれいな歌声を聞いて
リスやうさぎも
集まってきました。
リスは
ぱちぱち
ぴょんぴょん
と手を打ったり
飛び跳ねたりします。
うさぎは
ぴょこ
ぴょこ
小さなジャンプを
くり返しました。
ベウルと子狼ちゃん
森の小さなお友だちと
楽しく
歌っていました。
そのとき――
「おーい!ベール!」
「何してんだ〜?」
突然
ベウルを呼ぶ声が
森に響きました。
声のした方から
姿をあらわしたのは
群れの仲間たちです。
おちゃらけた雰囲気を持つ
三人組の狼。
ベウルは
少し困ったように笑いました。
子狼ちゃんは
まだ気づかずに
「ふぉんふぉ〜ん♪」
と歌っています。
そのとき
ばさっ。
小鳥たちが
一斉に飛び立ちました。
リスは
ぴょんっ!
うさぎも
ぴょこっ!
あっという間に
森の小さなお友だちは
散ってしまいました。
子狼ちゃんは
きょとんとします。
そして
くるっ。
三人組の狼を
見上げました。
「ことりしゃん
にげちゃった!!」
「リスしゃんも
うしゃぎしゃんも!!」
ぷんぷん。
子狼ちゃんは
怒っています。
三人組は
顔を見合わせました。
「えっ……」
「俺ら!?」
「俺らのせい!?」
子狼ちゃんは
まだぷんぷんしています。
ベウルは
少し困った顔をしました。
それから
ぽふっ。
自分のしっぽで
子狼ちゃんのほっぺを
やさしく揺らしました。
まるで
「機嫌なおして」
と言っているみたいです。
子狼ちゃんは
ぴたっと止まりました。
そして
「わぁ!」
しっぽに
ぎゅっと抱きつきました。
「もふもふのしっぽ!!」
さっきまでの怒りは
どこへやら。
子狼ちゃんは
きゃっきゃっと
しっぽで遊びはじめました。
三人組は
ほっとした顔になります。
「よかった……」
「怒られなくて済んだ……」
「助かったな……」
そのとき
「……あなたたち」
後ろから
静かな声がしました。
三人組の耳が
ぴくっと動きます。
ゆっくり
振り向くと――
そこには
シエラが
立っていました。
三人組は
一瞬で顔が青くなります。
「……あ」
「シ、シエラ姉さん」
「ち、違うんすよ」
三人組は
あわてて言いました。
シエラは
静かにため息をつきます。
その後ろから
もう一匹の狼が
顔を出しました。
赤みがかった
灰色の毛並み。
少し大きめの
若い雌狼です。
カヤです。
カヤは
きょろきょろと
周りを見ました。
そして
木陰の方へ
視線を向けます。
「……あ」
そのとき
木陰から
もう一匹の狼が
ゆっくりと歩いてきました。
落ち着いた足取り。
灰色の毛並み。
レグルです。
カヤの耳が
ぴんっと立ちました。
「レグル!」
嬉しそうに
駆け寄ります。
レグルは
ちらっとカヤを見て
「……どうした」
静かに聞きました。
そのとき
ふと
視線が横へ向きます。
ベウルの隣で
子狼ちゃんが
しっぽに抱きついて
遊んでいました。
レグルは
少しだけ口元をゆるめます。
その様子を見て
三人組が
騒ぎ出しそうになりました。
しかし
レグルは
ちらっと三人組を見ます。
牙が
ほんの少しだけ
のぞきました。
三人組は
ぴたっと止まります。
レグルは
小さくため息をつきました。
そして
顎で
子狼ちゃんの方を
しゃくります。
「……周りを見ろ」
三人組は
そっと視線を向けました。
ついさっきまで
しっぽで遊んでいた子狼ちゃんは
今は
べウルのしっぽを抱えて
すやすや眠っています。
三人組は
顔を見合わせて
小さく
うなずきました。
おちゃらけ達は
すっかり静かになりました。
騒がせて悪かったと
シエラ達と戻っていきました。
森は
また
静かになりました。
ベウルは
小さく
鼻歌をうたいました。
「ふぉんふぉ〜ん♪」
レグルは
その鼻歌を聞いて
少しだけ
口元をゆるめました。
しばらくして
ぽつりと
つぶやきます。
「……悪くない」
今日は
ベウルの隣に
ちょこんと子狼ちゃんもくっついています。
ベウルのしっぽは
鼻歌と同じリズムで
ふわっ
ふわっ
と揺れました。




