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[双子百合]うまれる前から永遠に  作者: 唯凜
わたし達の高校生活
1/4

第一話

「もうだめ......。わたし達、ここまでだね......今までありがとうお姉......」

血の気が引いていく。 絶望のどん底に叩き落される。希望などもうどこにも存在しない。


 今までの十五年くらいの人生が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。楽しかったこと、嬉しかったこと。成し遂げられなかったこと、数々の後悔。


 どこで間違えてしまったのだろうか。なぜこうなってしまったのか私には皆目見当もつかない。

 今はただこの世界が憎い。憎い、憎い、憎い、憎い憎い憎い憎い憎憎憎......


「こ~らっ」

 ビシッ!

「あいたっ!!」

「また何か変なこと考えてたでしょ」


 彼方へ意識を飛ばしていたところにいきなりやってきた頭部への衝撃に、現実へと引き戻される。


「この世の終わりみたいにしてるけど、クラスが別々になっただけでしょ。まったく、大げさなんだから」

「大げさじゃないよお姉! クラスが別々なんて死活問題だよぉ!」


 四月初め、桜が満開に咲き誇る今日は私たちがこれから通い始める高校の入学式。わたし達一年生にとって、先月に中学の卒業式で別れがあり、まさに出会いと別れの季節と言ったところだ。


 わたし達「藤咲円樺」と「藤咲環樺」は双子の姉妹。

 同じ高校に進学し、これから希望にあふれた高校生活を送るはずだったのだが、まさか初手の初手でクラスが別になるというとてつもなく強大な障害にぶつかってしまった。


 わたしたち二人の運命力をもってすればクラスなど一緒になるのは当然のことで、クラス分けのことなど心配するどころか意識すらしていなかった。


「別に、クラスが別になるなんて今までにも何度かあったでしょ」

「そうだけどぉ! 高校生活最初の一年目だよ!?ていうか、お姉はなんでそんなに平気そうなのさ!寂しくないの!?」

「そりゃ寂しいのは寂しいけど......」

「そうだよね!? よし、わたし今から直談判してくる! どこにいけばいいんだろ、職員室? 校長室? 理事長室かな!?」

「やーめーなーさい」

「あいたっ!」


 ビシッともう一度頭に衝撃が来る。


「たとえクラスが別になったとしてもそれだけで私達の関係は変わらないでしょ?」

「ぐぅ......それはそうだけど......」

「私はどこにいたって環樺が一番大切だけど、環樺はそうじゃないの......?」


 お姉が悲しそうな表情になる。


「わたしだってお姉が一番に決まってるよ! そうだよね! クラスが別になるくらいわたし達にはなんてことない!」

「でしょ? ほら、いつまでもこんなところでこんなことしてても周りに迷惑だし、とりあえず移動するよ」


 お姉の表情がなんともなかったかのように戻り、先にスタスタと歩いて行ってしまう。くそ、やられた!


「ちょっと待ってよ~お姉~!」


 いつまでもしょぼくれていてもしかたない。このままじゃ置いて行かれてしまうので、ひとまず気持ちを切り替えて小走りでお姉の隣に行き、並んで歩く。

 そうして少し歩いたところでわたしの右手がギュッと握られる。考えるまでもなく、隣にいるお姉の手だ。

「んふふ~、どうしたの? お姉」


 ついニヤけながらお姉の顔を覗くと照れくさそうにしながら見つめ返される。


「私だって寂しいって言ったでしょ......。ほら、ちゃんと前見てないとぶつかるよ」

「は~い」


 軽い返事をして前を向く。きっとお姉も緊張しているんだろう。

 社交的で誰とでも仲良くなれるタイプではあるけれど、こういう新しい環境に身を投じるのは誰しもが不安を抱えるはずだ。

 色々思うところはあるが、さっきお姉がいったようにわたし達の関係はクラスが分かれてしまったくらいでどうにかなってしまうほどの薄っぺらいものじゃない。

 わたしにはお姉という存在があるだけで、もうどうにでもなるようになってしまえ、と思えてしまうある種の無敵感がある。

 ただ、もちろん一緒のクラスであった方がお姉のことを近くに感じられるのは当然のことで。

 こうなってしまった以上はこれから身を投じる環境で少しでも楽しい生活が送れるように願うしかない。


「良い高校生活になるといいね」


 そう言ってお姉の手を握っている右手に少しだけ力を込める。すると、同じだけの力で握り返されて。

 それだけで嬉しくなって安心する。


「そうだね。いい? ちゃんと先生の言うことを聞いて、授業中は居眠りとかしないようにね?」

「もー! 今はそういうこと言わないでよぉ!」



 そうしてじゃれ合いながらしばらく歩いているとお互いの教室の前まで来てしまう。


「はぁ......もう着いちゃったぁ。じゃあホームルームが終わったら連絡するね」

「はいはい。じゃあまたあとでね」


 惜しみながらも手を離して別れる。もう少しゆっくりしていたかったが着いてしまったものは仕方ない。

 わたしは3組でお姉は4組だ。隣の教室なので休み時間や移動の時にチラッと覗いていきやすいのは不幸中の幸いだったのかも。

 手を振って、お姉が教室に入っていくのを見送ってから自分の教室に入る。


 すぐに身体にまとわりつくような重い空気、入学初日の緊張感を感じる。

 会話もほとんどなく周りの様子の探り合いのようなものを感じながら扉を閉めて中へと進む。

 黒板にクラス全員分の座席表が書かれていた。名前を見るに、うちの高校は男女交互に名前順に出席番号が割り振られているらしい。前後は異性になっているが、両隣は同性になる、といったかたちだ。

 自分の名前を見つけてから、振り返って実際の自分の席を確認してその場所まで移動する。

 まだ時間があるから席の埋まり具合はまばらだ。わたしの周りにも居たり、居なかったり。

 入学時、クラス替えなどが行われるたびに強く思うことになるが、最初の席というのは大事なもので、それによって学校生活が左右されるといっても過言ではない。こればっかりは運によるものが大きいのでわたしにできるのは祈ることだけだ。


(せめてお姉が同じクラスにいてくれれば......)


 どうにもならないことだと分かってはいても思わずにはいられない。

 手持無沙汰ですることもないので事前に配られている今日の一日の予定やその他色々なことが書いてあるしおりに目を通して時間をつぶそうかと考えてカバンを机の上に置いて中を漁る。


 コンコン。 


 と、不意に隣から手が伸びてきて机をノックされる。


「や~ごめんねいきなり。こういう雰囲気の場所にいるのどうにも苦手でさぁ、よかったら話し相手になってくれないかなぁ?」


 あはは~と気まずそうに笑いながら話しかけてきた。


「あ、うん、もちろん。わたしも話してた方が気がまぎれるし、ありがたいよ」

「よかったー! えと、私、高橋明奈! よろしくね」

「わたしは藤咲環樺。こちらこそよろしくね」

「このクラスに知り合いとか一人も居なくてさぁ、どうしようかなって思ってたんだぁ」

「わたしも、中学の仲が良い子は皆他の高校行っちゃって話せる人とか居なかったんだよね」


 友達が少なかったわけではないとは思うのだが、それぞれの事情の噛み合いによりこの高校に進学した知り合いは居なかった。

 もしかしたら同じ中学の人は何人かこの高校に来たりしているのかもしれないが、わたしやお姉と仲が良かったり、お互い面識があるような人は居なかったはずだ。


「そうなんだ、奇遇だね! って、喜べることではないけど」

「そうだね。でも、登校初日から誰とも話せなかったらどうしようって考えたりもしたから、その心配がなくなって良かったな」

「こっちこそホント助かったー!」


 それでもこの高校を選んだのは単純な理由で、家から通いやすいからだった。

 もう少し付け加えるなら、家から遠くなく通いやすい環境のここが一番お姉との時間を大切にできると思ったから。

 これは二人で話し合ってのことだった。どこにしよっか、と私が聞いて、お姉が通いやすいからここが良いな。じゃあそこにしよ! といったような簡単な話し合いではあったが。

 

 両親に確認すると近いし二人で一緒の学校に通ってくれるのはこちらとしても安心できるし助かる。ということで大賛成だった。

 まぁ、両親はわたし達の意思を一番に尊重してくれているのでどこに行くと言ったとしても賛成してくれていたとは思う。


 そういう理由で選んだ高校ではあったが、それ以外ですごく魅力的なことがあって、それはというとーー


「てかさてかさ、ここの制服マジで可愛くない!? わたし、ここを選んだ理由って制服が一番好きだと思ったからなんだよね!」

「そうだよね。わたしも、可愛すぎてこれから毎日これを着て学校に通える日が始まるのすっごく楽しみにしてた」


 そう。この学校は制服がすっごく可愛い。

 それはわたし達女の子にとってはとても大事なことであると思う。


 なんと言ってもお姉の制服姿が可愛すぎる!!

 濃紺色のブレザーと、白に近いグレーに赤と白のラインのチェック柄のスカートで爽やかな可愛さを演出している。

 夏には長袖か半袖かを選べる紺色のポロシャツ風のものになったり。

 首元はリボンかネクタイかを選べるけど、入学式ということで二人でビシッとネクタイを付けてみたら思いのほか気に入ってしまったのでこのままネクタイでいるかもしれない。

 これから毎日楽しみなのは自分が着るよりもむしろお姉がこの制服を着てるのを見れることの方かも!


「でも、可愛さだけで選んじゃったから家から遠くて通うの少し大変なんだよねぇ......あはは......」

「それは大変だね......わたしはむしろ家から近いから運が良かったな」

「えーいいなぁ」


 そんなことを話しつつ、ふと周りを見渡すと教室内の空いていた席がほとんど埋まってきていた。

 黒板の上に設置されている時計に目をやる。


「もうそろそろ時間になるね。入学式って何するのかな。」

「う~ん、とりあえず話をずっと聞いてるだけで私達は何もしなくていいんじゃない?」


 念の為さっき取り出したしおりに目を通してみる。

 校長先生のあいさつや生徒会長、新入生代表のあいさつ等でわたし達は特に何もしなくて良さそうだ。


「校歌もまだ知らないし、ホントにすることなさそう」

「ボ~っとしてたらすぐ終わるっしょ」


 それから話を続けているとキーンコーンカーンコーンとすぐ予鈴のチャイムが鳴り響く。

 

「そろそろ担任の先生もくるかな? 怖い先生じゃなきゃいいなぁ」

「そうだね。それは大事かも」


 元からあまりうるさくはなかった教室だが、予鈴が鳴ったことでさらに静まる。

 これ以上話せる雰囲気でもなくなったところで高橋さんも「じゃ、また後でね」と前を向き自分の机と向き合う。

 

 手持無沙汰なので再び手元のしおりに目線を落とし、流し見しながらお姉の方は上手くやれてるかなぁ......とか別のことを考えて時間を待つ。


 しばらくして教室の扉が開き、担任の先生と思われる人が現れる。

 そこから自己紹介や今日一日の流れ等を説明されたりなんやかんやあり、入学式の為に体育館に移動する。


 教室まで来たときはお姉と話すことの方に夢中になってたからあまり周りを気にしていなかったなぁと思ってさっきよりも校舎の雰囲気を感じながら歩いていく。

 体育館につながる渡り廊下を通り中に入っていく。中学のものと同じような体育館特有の匂いや空気感を感じつつも全然違う景色が広がっている。

 式典仕様で体育館の壁は一面紅白幕で覆われているため全容を知ることはできないが、高さや広さ、照明の明るさや色などあらゆるところで違いを感じられる。


 なんか不思議な感覚。と思いながら前の人に続いてうちのクラスが待機するであろうと思われる方向へ進み続ける。


 ふと、視界の端に見覚えのある存在が映った。

 すぐに焦点を合わせると思った通り、お姉だ。

 体育館の場所の関係で後ろの方のクラスからの移動だったらしく、もう移動し終えて位置について座っていた。


 気付いてくれないかなーと思っているとその思いが届いたのかお姉がこちらに気づいて目が合った。

 嬉しくなって声を出して呼びたくなってしまうが、そんなことをすると変に注目を集めてしまうのは必至なので流石に我慢する。

 ニコッと笑って周りに気付かれないくらいに小さく手を振ってみる。

 そうするとお姉も優しく微笑み返してくれた。


 すると、周りの人に声をかけられたのかすぐに目を逸らして反対の方を向いてしまった。


(ん~お姉もちゃんと話できるひとができたのかな。よかったよかった)


 わたしも目線を前に戻し少し歩いて自分の場所に着いて座る。

 軽く身だしなみを整えて式に向けて気持ちを入れる。


 時間が経って全校生徒が移動し終えてから少しして、保護者の案内が始まっていた。


 我が家からは両親ともに参列してくれることになっていた。

 わたし達が小学校高学年の時に、両親は二人の夢だったという喫茶店をオープンさせ、それからはしばらく忙しくしていたので中学の入学式はお母さんのみ、小学校の入学式時点ではお父さんは会社員で休みを取れずお母さんだけだったので、今回は経営に慣れてきたのもあって休みにも少し融通が利くようになったらしく、両親が揃って参列してくれたのは今回が初めてで嬉しかった。

 お父さんもお母さんもここ最近ずっと張り切って楽しみにしてくれていて、朝も車で一緒に学校まで送って行きたがっていたのだが、初登校はお姉と二人でこれから高校生活が始まるぞ! という気持ちを噛みしめながら歩いて行きたかったのでそれは断ってしまった。


 少し周りを見回して両親の姿を探してみるが、まぁ案の定人が多くて見つからなかったのですぐに諦めて前を向く。

 向こうはわたしとお姉を見つけられているだろうか。


 人が入れば入るほどもうすぐ式が始まるという雰囲気も強くなっていく。

 まだ春も始まったばかりでひんやりとしていた体育館の空気もほんのり熱を増してきているような気がした。


 時間が近づくにつれてざわざわとしていた会場が少しずつ静かになっていき、ほとんど話し声が聞こえなくなって間もなく、わたし達新入生を迎える為の入学式が始まった。

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