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寒い夜だから

作者: 高橋まやむ
掲載日:2026/02/21

深夜、ホテルのツインルームでオレは、人の動く気配にふと目を覚ました。


「どうした?」

テーブルのそばに、カップを持って彼女が立っている。

「ごめんなさい、起こしてしまった?」

「いいけど……何してんだ?こんな時間に」

オレはベッドを出て歩み寄った。

湯気のたつカップを包み込むように持ちながら、彼女は中身を飲み干す。

「白湯を飲んでいたの。短時間で身体が温まる効果があるから」

「寒いのか?」

確かに季節は真冬。夜間ともなると一気に気温が下がり、室内だというのに、吐息が白く視認できる。

しかし彼女は首を振って笑った。

「私の出身地は寒さが厳しかったから。それに比べると、ここははるかにマシよ」

そう呟く彼女の手にオレは触れる。

白い指先は暖かいカップを持っていても氷のように冷たい。

「ホントだ。ずいぶん冷たいな。お前、末端冷え性か?」

「何それ」

手だけでなく、身体ごと包む込むようにオレは、背後から彼女を抱きしめる。

「寒いんなら、暖めてやるぜ」

優しさから出た言葉ではあるが、含まれる下心は否めない。

当然彼女は即座に察知し、腕からするりと逃れた。

「明日は朝が早いのよ。もう寝なくちゃ」

やわらかな口調ながら明白な拒否に、オレは肩を落とす。

彼女はカップを置き、再びベッドへ戻ってゆく。

オレも残念そうに溜息をつき、自分のベッドへと戻った。


「ねえ」

ふいに、澄んだ声がオレを呼ぶ。

振り向くと、彼女は毛布の上掛けを少し開けた。

「こっちへ来ない?」

「えっ♡」

オレは思わず喜色満面の声を上げる。

「言っておくけど貴方は体温が高くて暖かいから、そばにいた方がよく眠れそうだと思っただけよ。――― 今夜は寒いから」

即座に釘を刺され、オレの期待は一瞬にして消え去った。

「オレは湯たんぽですか…」

こぼしながらも、枕をかかえて隣のベッドへ移動する。

そして寝転がると、擦り寄るようにして彼女もコロンと横になる。

しなやかな感触と甘い体臭が、オレにとっては嬉しくも辛い。

「…けっこう拷問だな、コレ」

「だったら隣のベッドへ戻る?」

「……がんばります」

クスクスと笑う彼女を多少恨みがましく思う。それでも一人寝よりはずっと良いので、オレは苦笑いをしつつ、彼女の肩を抱き寄せた。

互いの体温が伝わり、暖かな空間が二人を包む。

「やはり暖かい」

「南国生まれの男は、ハートに太陽が宿ってるからな♪」

オレの気取った台詞に、彼女はまた笑った。


次第に上昇するのは、物理的な温度だけではない。

愛しい相手の体温を感じる。

それは心までも、ぬくもりに満たしてゆく。

嬉しくて、穏やかで、なんだかとても幸せな気分になる。

安堵と心地よさの混じったまろやかな感情が睡魔を誘った。


「…なぁ、せめておやすみのチューくらい…」

だが視線を移すと、彼女は既に瞼を閉じている。

「もう寝たのかよ?」

返事は無い。

この状況下で、なんというつれない相手であることか。

もう少し甘い展開があっても良かろうに。


それでも安心しきった表情で静かな寝息をたてる彼女に、オレは保護者の心境で満足気な微笑を浮かべる。

そして白い頬に唇を寄せ、ささやいた。

「……おやすみ」



 寒い夜は二人でいよう。

 そばにいて、抱きしめて、暖めて。

 一緒に幸せな夢を見よう。


END

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