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異世界恋愛ご令嬢、なろうキーワードUFOキャッチャーをやってしまう

掲載日:2026/03/14

 



 それは天気の良い日の午後──



 ハベルルブ伯爵の許嫁(いいなずけ)でもある

 アマランド伯爵令嬢メリル・アン・シャーマルは噴水のそばの長方形の箱のようなものに目を留めた。

 上半分は透明なガラスで中が見える。中には何やら、ブラブラと(エル)字型に曲がった器具が上から垂れ下がっている。


「これは…………?」


 思わず問いかけると、ショッピングの荷物持ちに付き合ってくれていた執事のダインが後ろから


「こちらはUFOキャッチャーでございます、お嬢様」


 と教えてくれた。ダインは前に歩み出て、そのUFOキャッチャーなるものの横に立った。


「こちらは特に()()()キーワードUFOキャッチャーなるものですね。中をのぞいて見て下さい」


 ダインに言われてメリルは自分の背丈より大きな、そのケースに歩み寄る。ガラス越しに見てみると、中には丸くてプニョプニョしたゼリーのようなもの達が沢山あった。その一つ一つの中にはプレートが入っている。プレートには──


『ざまぁ』『婚約破棄』『悪役令嬢』『転移』『転生』『チート』『スローライフ』『魔法』『勇者』『白い結婚』『身分差』『ハッピーエンド』『ほのぼの』『ラブコメ』『冒険』『超能力』『R15』『現代』『ボーイズラブ』……

 などの さまざまな言葉が書かれている。


「これをやるとどうなるの?」


 メリルは取り憑かれたかのように、プニョプニョしたスライムに見入りながら聞いた。


「やってみますかな? お嬢様」


 ダインはクルリと手品士のように手首をひねった。握った拳を広げた時には一枚の金貨が手のひらに乗せられていた。


「お前、一体……」

「さあ! これでやることが出来ますぞ! お嬢様」


 貯金箱のコインの投げ入れ口のようなところに、ダインは金貨を差し入れる。

 すると何やら軽快な音楽♩〜が流れ出した。


「お嬢様、こちらのレバーでクレーンを動かして下さい。そして、運命スライムをアームで取るのです」


 音楽に誘われて、メリルはワクワクしてきた。丸いポッチのついているレバーに手をそえて動かすと、クレーンはアームをブラブラと揺らしながら近づいてくる。


「レバーを左右に動かすと、その通りクレーンが操作できます」


 ダインに言われて、試すように左に右にレバーを倒すとクレーンも左に右に動く。


(面白い!!!)


 メリルは夢中なって右に左にレバーを動かしていた。レバー操作で前後にも動かせる。だが、スライムは全然見ていなかった。

 やがて、流れていた曲調が変わり♫クレーンは動かなくなり、ゆっくりと下へと降り出す。


「え? 私、右へ操作しているのに?」


 メリルの問いにダインは答える。


「時間切れにございます、お嬢様。あとは運命スライムが取れるか──ですな」


「え? え?」


 メリルが戸惑っているうちに、UFOキャッチャーのブラブラのアームは、プニョプニョのスライムを一つ引っ掛けた!


「取れたわ!!」


 持ち上がったスライムに歓喜するメリル!

 ダインも微笑んで賛辞を贈る。


「やりましたなお嬢様!! UFOキャッチャーはやはり取れると楽しいものです」


「そうね!」


 メリルは大きくうなずいて、にょろん……⭐︎と、景品取り出し口から出てきたスライムを持とうと触れた。するとその途端に透明なスライムは、パッと はじけて消えてしまった。

 後に残ったのは、スライムに包まれていたプレートだけ。


 "婚約破棄"


 の文字が、その時光り出した!


「こ、これは!?」


「"運命改稿"でございます! お嬢様!」


 ────するとどこからともなく、メリルの婚約者であるハベルルブ伯爵ロマロ・マロ・ベーが現れ、噴水まで降りてくる階段の段上に立っていた。

 ロマロは腰に手をあて、もう一方の手でメリルを指差すと


「アマランド伯爵令嬢メリル・アン・シャーマル! 僕は君との婚約を破棄する! 君にはずっと我慢がならなかった。全てだ、全てにおいて、僕は君とは合わないと感じていた! 僕の運命の人は必ずどこかにいる! 君ではなく!!」


 と、演説のようなセリフを叫んでいる。


「こ、婚約破棄だわ! 婚約破棄が起こってしまったわ! どうしましょう。こんなことになるなんて……」


 メリルは驚愕して真っ青になってしまっていた。


「どうか落ちつかれて下さい、お嬢様。ハベルルブ伯爵のことは、名前が()()だとは思っておりました。容姿はまあまあですが、性格もアレです。────ですから、さほど気になさることはございません」


 ダインの冷静な言葉にメリルも同意──するしかなかった。


「確かに…………結婚したらアレになるのかとは……思っていました。……よく考えてみましたら父様に決められただけですし、未練はあまりないかも……」


 なんとか心を落ち着かせ、メリルは再び、目の前のナロウキーワードUFOキャッチャーを見つめる。

 そして今度は自分のスカートのポケットから金貨を取りだし、数枚投げ入れた。


「お嬢様!! そ、それは……」


 軽快な音楽の中で、深刻なダインの声が響いた。


「黙っていてダイン! 私はここで素敵な殿方をゲット致します! ずっと憧れていました! でも私には無理な夢だと。

 …………ここで、ここで……今こそ運命改稿です!!!」


「お嬢様────────っ!!!!!」


 ダインの絶叫と共に曲調は変わり♫〜アームが降りる。

『ダーク』『白い結婚』『ざまぁ』等をすり抜け、アームは一つの運命スライムを掴み取った。


「取れたわ!! ダイン!!」


 運命スライムはまた にょろん……⭐︎と景品取り出し口から落ちてきた。メリルがそれに触れるとやはりスライム部分は消え、プレートだけが残る。

 プレートには


 "勇者"


 と文字があった。


「やった!! やったわ!! 確実に真の(おとこ)を捕まえました!! 私はやった!」


 文字は光出し、そして今度はメリルも光っていた。

 それが終わった時、ダインは主人の娘に呼びかけた。


「勇者……殿」


「え? ええ!? 私、私が勇者なの? 私なの!?」


 メリルは黄金の甲冑に美しい剣を携えた"勇者"になっていた。


「ご立派なお姿です」


 ダインは胸に手を当ててお辞儀する。


「適応が早すぎるわよ、ダイン。ああ……甲冑ってなんて重いの。だけど、この重さには負けません。私は諦めませんわ。この運命をなんとか……なんとかします!」


 メリルはガシャガシャと音をたてながら、倒れ込むようにして──しかしUFOキャッチャーのレバーだけは力を込めてしっかりと握った。

 音楽が流れ♩♫ユラユラアームは動き、下におろされプニョプニョスライムをすくい取った。

 プレート部分が下になっていて、文字が見えない。


「これは良い運命と祈っております!! 勇者殿!!」


「その呼び方、やめて下さいダイン。しかし祈りには感謝します!」


 アームからスライムが放れて落下した際、もう一つのスライムに当たった。すると────そのスライムもにょろん……⭐︎と落下してしまった。


「「…………!!!!!」」


 2人はその運命スライムに絶句した。取り出し口からは2つのスライムがプルプルと艶やかな輝きを放って溢れ出ている。


 メリルは


「触らない。私……触らないわ」


 と激しく首を振りながら言った。

 しかし、ダインの言葉は無情だった。


「勇者殿、あなたが尻込みしてはいけません」


「だから私は勇者ではありません」


「──と言いますか、触らなくても外気に触れていると運命スライムは(はじ)けて気化するので……」


「ゔぇぇえ!?」


 その瞬間、2つのスライムはパッと散り残ったプレートが輝きだした。


「キャ──────」


 メリルの足元に黒くて丸い影ができ、彼女はそこに落下するかのように吸い込まれた。

 ダインは手を伸ばしたが、もはやどうすることも出来ない。


「運命……改稿……」


 一瞬で閉じた黒い穴────先程まで勇者のいた場所に、ダインはただ呟いた。

 しばしそうして、やがて気がついたように道端に落ちる2枚のプレートに駆け寄った。

 一つは目をやっただけで書かれた文字が分かった。


 "転移"


 裏返っていたもう1枚のプレートをひっくり返す。

 ────そこには、確かにあった──



 "ハッピーエンド"



 の輝く文字!!!!!


 ダインは頭上に広がる青空を見上げた。ポケットから白いハンカチを取り出すとそれを広げ、空に向かって振る。


「勇者よ! 幸あれ!」











 やがてハンカチで目頭を抑え、ダインは白くなりつつある髭を撫でた。そうして上空から視線を戻した際、彼はあることに気づいた。


 ナロウキーワードUFOキャッチャーのゲーム回数に"1"の表示が点滅していた。


(お嬢様が入れた金貨がまだ残っていたのですね)


 よく見てみたが、どうもコイン返却の機能は無いようだ。

 ダインは


「仕方ないですね……」


 と小さく呟くと丸いポッチに手をかけ、レバーを動かしだした。軽快な音楽が流れ♩アームが降り始めると、どうしてもワクワクした気持ちが湧き上がる。


 アームは『身分差』のキーワード運命スライムに引っかかった。

 ダインは


(おぉ!!!!)


 と胸の内で歓声を上げていた。


 しかし持ち上がりかけた『身分差』運命スライムは、景品取り出し口付近にあった別の運命スライムにぶつかり、その衝撃でアームから落ちてしまった。

 そして、代わりに景品取り出し口付近にあった運命スライムが にょろん……⭐︎と落ちる。


(…………!!)


 何のキーワードが落ちたか全く分からないダインは慌ててスライムを手にした。瞬時にスライムは弾け消える。

 ────その時、背後に立つ人の気配を感じた。

 ダインが振り返ると、そこにはハベルルブ伯爵ロマロの姿があった。



 降り注ぐ陽光

 (きら)めく噴水の飛沫(しぶき)

 2人の間を風が通り抜ける────



 ダインの手のひらにのっていたプレートが輝きだしていた。




 "ボーイズラブ" ₊˳✧༚








 運命改稿……

 運命改稿……

 運命改稿……⭐︎



お読みいただきまして、誠にありがとうございます。


※小説家になろうにおいて、異世界転移については正しくは


主人公が「現実世界」から「異世界」へ転生もしくは転移する要素が存在し、主な舞台が「異世界」である。


という定義があるようですが、今作の中ではキャラクターが今存在しているところを現実世界と認識しているコメディネタとして読んで頂けますと幸いです。他のキーワードについても寛容な定義でとらえて頂けることを願います。


読んで楽しんでもらえましたら嬉しい限りです。

執筆から励んでいきたいと思います。ʕ•ᴥ•ʔ

                  シロクマシロウ子

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