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犯人はあなただったんですね

作者: 2525
掲載日:2026/01/18

 私が歩く音に被せるように、少し後ろから足音が聞こえる。その足音は、私が足を早めるのと同じだけ早くなる。振り返っても誰もいない。ほぼ毎日、寮まで帰る間は毎日足音が聞こえる。

 さらに足音だけではなく、筆箱からペンが消えていたり、机の中に私のではない弁当が入っていたり……。ちなみに弁当は万年金欠の友達がかっさらっていった。


 それにしても、気味が悪い。あとペンは高かったから返してほしい。


「……はああああああああ」


 昼休みのカフェテリアで私は盛大に溜息を吐いた。いつもは中庭で昼食を食べるのだが、人目につかない場所に行くのが怖いので、最近はカフェテリアで昼食を取るようにしている。

 その時、不意に私は後ろから視線を感じた。人が多い場所でも来るの? 思わず舌打ちしながら振り返る。


「わっ、ごめんね。ご機嫌斜めだった?」

「なんだ、アンリ先輩ですか〜!」


 私の背後にいたのはアンリ先輩。学園の3年生で、私の1つ上の先輩だ。図書室の隣の席同士で勉強していたことで知り合って、昼休みもよく話すようになった。

 さらっさらの黒髪の中性的な美青年で、成績優秀でしかも紳士的。これでもかと良いところを詰め込んだような人間、もはや神とか天使みたいな人なのである。しかもまだ婚約者がいない。2人で話していても背徳感は0。


 そして、これは秘密だけど……私が片思いしている人でもある。


「何か困ってることでもあるの?」


 私の隣に座った先輩はそう尋ねながら横髪を耳にかける。かわいい。かっこいい。好き。思わず口角が天井くらいまで上がりそうなのを抑える。


「実は……」


 件の足音やペン、弁当の話を先輩はパンを食べながら最後まで聞いてくれた。私、来世はそのパンになりたい。


「いやー、ノアちゃんも大変だね」

「そうなんですよ、それで最近も眠れてなくて」


 嘘である。夜は女子寮で毎日10時間ぐっすり寝ている。


「寮に帰る時っていつも友達と一緒だっけ?」

「いえ、図書室に寄ると少し遅くなってしまって……」


 万年金欠の友達は学園近くのカフェで働いているので一緒には帰れない。他の友達も図書室に寄る時は先に帰ってもらってるし……。じゃあ図書室に行くのを辞めるかとなれば、それは話が違う。アンリ先輩の隣で勉強するのが幸せなんだから。


「じゃあ、俺が図書館から寮まで一緒に帰ろうか?」


 先輩の”俺”いいな。――違う、そうじゃない!


「え、いつも私より遅くまで勉強してるのに……。悪いですよ」


 嘘です。すごく嬉しい限りです。一緒に帰っていいんですか? 本当ですか?


「いや、テストも先週終わったから。勉強よりも後輩守るほうが大切でしょ」


 そう言って先輩はにこっと笑った。

 好き。婚約、いや結婚しませんか? 毎日一緒に帰るってもはやデートですよね!



 ということがあり、アンリ先輩は本当に毎日、女子寮まで私のことを送ってくれた。女子寮まで歩く15分の間、先輩とお話できてウハウハである。口角が上がりすぎて雲まで届きそう。ついでに付きまといもなくなった。あー、人生楽しい。


「じゃあノアちゃん、また明日」

「はい! いつもありがとうございます」


 寮の廊下を歩きながらにやけが止まらない。


「明日は何を話そうかな」


 私はそう呟きながら寮の自室の扉を開けた。



 明くる日の放課後、私と先輩はいつもどおり寮で勉強していた。今日は図書室には私たち以外誰もいない。雨が降っているから早めに寮に戻る人が多いのだろう。

 ――この問題、わからないなぁ。一旦教科書から顔を上げて伸びをしようとしたとき、手が先輩の筆箱に当たってしまった。


 がしゃん、という大きな音を立てて筆箱が落ち、中身が床に散らばる。


「!」

「あ、すみません!」


 屈んで拾おうとしたとき、1本のペンが目に入った。青い外軸に金色のクリップ。拾ってよく見ると、キャップチューブの中には紫色の花が入っている。

 うーん、これ……。


「私の……?」


 どこからどう見ても私が前に筆箱からなくしたペンである。誕生日にオーダーメイドで作ってもらったものなので間違いない。それが先輩の筆箱に入っていたということは。


「……ごめん」


 見上げると先輩は少し青ざめた顔をしていた。逃げずに潔く認める精神、好きです。一旦、椅子に座り直して先輩の話を聞くことにした。


「本当にごめん、実はノアちゃんと仲良くなりたくて」


 話をぼーっと聞きながら私は思った。いつもの「大人の余裕」みたいな感じの先輩もいいけど、縮こまってガクブルしてる先輩……かわいい。


「まぁ、何ていうか……奇遇でしたね」

「え」


 私は自分の筆箱から重厚感がある黒いペンを取り出して、指の上でくるくると回した。


「それ、俺のペン……」


 実は私も1ヶ月ほど前に先輩のペンを拝借している。ついでに勉強の時とは筆跡を変えて大量に手紙も送ったし、寮の窓辺に勝手に弁当も置いたりしている。


 とりあえず似た者同士だったということだ。

それから1年後、私は交際を経てアンリ先輩とゴールインすることに成功した。


 愛はすべてを解決する。

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