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呪言(じゅごん)

作者: 和虹つづる

初投稿です!

部活で書いた作品に少し手を加えたものです。

書いたきっかけとしては僕は文芸部と美術部を兼部していて、美術部で誹謗中傷防止ポスターを描いていた時にふと思いついたって感じです。

言葉の重みをテーマにした作品で、少しでも言葉の重みというものが伝わればいいなと思います。


             

言葉には責任という呪いがある。

「馬鹿。」

「あほ。」

「クズ。」

「ブス。」

「キモ。」

「ゴミ。」

「死ね。」

そんな嫌な言葉が今の世界では軽々しく言えてしまう。

とある日の昼休み。

「おい! 豚ぁ~。金くれよ。」

「え? 嫌だよ…。」

「ああん⁉ 俺に逆らうってのか? この家畜が!本当に豚になっちまえ!」

「ヒッ!」

豚をからかってんのがこの俺、日下部理仁(くさかべりひと)。人をからかうのが俺にとっての趣味ってやつ。人をからかうことで俺は満足感が得られるのだ。

「ちょっと! 日下部君!女の子に向かって豚だなんて、最低よ!」

「ゲッ! クソメガネ委員長!」

俺に口出してきやがったのは学級委員長。いつも俺に口出ししてくるクソメガネだ。

「いじめなんて心外な。コミュニケーションってやつだよ。そうだよなぁ?豚!」

「は、はい・・・。」

「ほら! 怖がってるじゃない!」

「チッ! お前には関係ねぇじゃねぇかよ!」

「あります!」

「学級委員長だからか?」

「それもあるけど、それ以前に人間としてよ!」

「スケール大きすぎんだよ。ばぁーか。」

めんどくせぇから俺はその場を離れようとした。すると・・・、

ぐいっ!

「おい! なにすんだよ! 離せよ!」

クソメガネが俺の腕をつかんできた。力強く。

「日下部君、言葉には責任っていうものがあるのよ。」

「チッ! うるせぇなぁ! 死ね!」

俺はクソメガネの手を振り払って誰もいないであろう屋上へ向かう。

案の定、屋上には誰もいなかった。だから俺は屋上のフェンスによっかかってぶつぶつと愚痴をこぼす。

「言葉には責任がある?なんだよそれ? マジでムカつく。死ねよ。マジで。」


翌日、俺がだらだらと登校してくると何やら教室が騒がしい。

「おい、りょーすけ。なんだよこの騒ぎ。」

俺はダチのりょーすけに聞いた。するとりょーすけは青ざめた表情で

「理仁…。」

「なんだよ。」

ただ事じゃないことがわかる。俺に関わることなのか?

「理仁・・・。クソメガネが・・・死んだ。」

「は?」

「それと、久保田(くぼた)が豚になっちゃってて・・・。」

「は?」

俺は最初冗談かと思った。だけど人込みをかき分けてみると。確かに倒れたクソメガネと制服を着た豚がいた。俺は状況が理解できない・・・。するとみんな一斉に俺の方を見る。その目はまるで人ではないものを見るかのようで・・・。

「な、なんだよお前ら・・・。」

みんな黙り込んでいる。そしてだんだんと俺から離れていく。りょーすけもだ。俺はボッチになっていく気がした。

「俺はなんかしたのか?」

すると、やっとクラスの女子が口を開いた。

「全部、日下部君が言ったとおりになったんだよ。」

俺はそれからすぐに気が付いた。昨日俺がこの教室で言ったことが本当になっているということを・・・。だけどとっさに自分を守るために…

「は?なんだよ! 俺のせいなのかよ! 死ねよ! お前ら! 俺ばっかに何でも押し付けやがって!」

そういった瞬間みんながバタバタと魂が抜けるように倒れた。この教室にいる人全員が。りょーすけもだ。

「え・・・? 嘘だろ・・・?」

また「死ね」って言ってしまった。何が起こっているのか俺にはわからない。だけどこの教室にいる全員が息をしていないのは事実だ。

「俺のせいじゃない、俺のせいじゃない、俺のせいじゃない・・・」

必死に『自分は悪くない』そう自分に言い聞かせる。本当に俺のせいなのかもわからない。胸が張り裂けそうになる。なぜかわいてくる罪悪感。そして何が起こったのかわからないという恐怖。息が詰まりそうになる。俺は考えを巡らせる。どうにか生き返らせることはできないのか・・・。

「そうだ!もし言ったことが事実になるなら・・・」

「みんな生き返れ!」

俺は必死の思いでそう言った。お願いだ・・・。生き返ってくれ・・・。

だが、俺のそんな淡い願いはあっさり崩れ去る。

「そんな・・・・どうして・・・俺はどうしたらいいんだ・・・」

俺がどうしようもなく途方に暮れていると、

「おはよー。ってナニコレ・・・」

いつも遅刻してくるクラスメイト、萩原(はぎはら)さつきがやってきた。

「ねぇ、これいつも遅刻してくるうちへのドッキリ? ねぇ、日下部君ももしかしてターゲットになっちゃった系?」

なんて言ってのんきに入ってくる。

「ねぇ、いつまでみんな倒れてんの? なんか豚さんブヒブヒ鳴いてるし。いくらうちがいつも遅刻して連帯責任で放課後補習になるからってやりすぎだと思うんだけど? ね、日下部君もそう思うでしょ?」

俺はなかなか自分がやったとは言えずにいた。言えねぇよ・・・。そもそも自分が原因かもわからないし・・・。もう俺のせいしか考えられないのだが・・・。ん?

豚さんブヒブヒ鳴いてる? 死ねってみんなに向かって言ったから死んだと思った・・・。どうして死ななかったんだ?

「ねぇ、日下部君、話聞いてる?」

「あ、えっと・・・その・・・」

今更言い訳できないよな・・・

「ブヒブヒ!」

なんか豚からもせかされてるし・・・。

「あの、実を言うと・・・、俺が・・・」

「え? あぁ、もしかして日下部君が仕掛け人ってこと? おもろw。」

「いや!違うんだ・・・、その・・・、俺がみんなに…『死ね』って言っちまったから・・・」

萩原はきょとんとした表情で俺を見つめる。だけどその表情は急に真剣になって・・・

「まさか・・・日下部君・・・これは・・・」

「なんだ萩原! 何が起こったのかわかるのか⁉」

「おそらくだけど、『呪言』だろうね。」

「ジュ・・・ゴン・・・? それってあれか? 海洋生物の・・・」

「違うよ。呪いの一種さ。」

「呪い・・・?」

なんだか急にオカルト展開だ。まぁ、この状況はオカルト系ぐらいしかありえないのだが。

「日下部君、最近、人に向かって暴言とか悪口とか言ってたでしょ?」

「ええっと・・・」

改めて思い返してみると俺は人に平気で暴言も悪口も言っていたような気がする。

「それを見かねた誰かさんが日下部君に呪いをかけたんだ。それで日下部君の発する言葉に呪いがこもってしまうことになった。言ったことが現実になるんだ。まぁせいぜい反省しなよ。まぁもう反省するには遅そうだけど・・・」

「そんな・・・、俺・・・」

やっぱり俺のせいじゃないか。天罰ってやつか? 俺はこの時人生で初めて大きな大きな後悔と罪悪感に襲われた。

「どうにかこの呪いを解く方法はないのか⁉」

「さあね、うちは知らないよ。うちは面倒くさいことはごめんだね。」

そう言って萩原は教室を出ていこうとした。俺は必死に呼び止めた。

「そ、そんな! 待ってくれよ!」

すると…、

「なーんてね。うちが日下部君を見捨てるとでも思った?」

萩原はにこやかにこっちを振り向いて言った。

「さぁてと、どうするかな・・・」

「っていうか萩原は何で呪いとか知ってんだよ。」

「実はうちの家系は代々呪いを解くことを仕事とする解呪師(かいじゅし)でさ、呪いに関することが書かれた本がたくさんあるんだ。まぁ、うちは呪いなんてないと思ってたんだけどね。まさかほんとにあるなんて。これも解呪師の変な縁ってやつ?」

「マジかよ!解呪師なら呪い解けるんじゃ・・・。俺にかかった呪い解いてくれよ!」

「無理だよ。呪言は呪いをかけた本人でないと解けない呪い。かけた呪い相応の物を差し出さなければ解呪できない。本当に厄介な呪いにかかったもんだよ。」

「え、そんなぁ。そういえば、みんなに死ねって言ったのに、何でこの豚…あ、久保田…さんは死ななかったんだ?」

「呪いは二重にかけられないからね。」

「ブヒブヒ!」

「とりあえず、うちのばあちゃんに会いに行こう。なんかヒントくれるかも。」

「わかった。」

「ブヒブヒ!」

「よーし!二人と一匹で日下部君の呪いを解くぞー!」

「オーーー!」

「ブヒブヒ!」

と、そこへ、

「うわー! なんじゃこりゃー!」

先生が来てしまった。

「やべっ!」

俺は萩原の手を引き、逃げ出した。豚も俺たちの後を追うように逃げ出した。

「こら! 待て!」

先生も追いかけてくる。ごめん先生、今はとてもじゃないけど説明できない。幸い俺は足の速さには自信があった。豚も意外と足が速い。豚は時速四十キロで走ることがあると聞いたことがあるような・・・。まあいい、逃げられれば。俺と萩原と豚はとにかく逃げた。学校を抜け、街に出て、なるべく目立たないよう路地裏に入り…

逃げている途中、萩原が

「とりあえず丘の上にあるばあちゃんの家に向かおう! ばあちゃんに呪言のこと聞いてみよ!」

「わかった!」

「ブヒブヒ!」

俺たちは街を抜けて、住宅街を人の目も気にせず駆け抜け、丘の坂を駆け上る。さすがに坂を人を引っ張りながら駆け上るのは息が上がる。けどそんなこと言っていられない。もし先生が捜索願いでも出したら?警察にこの状況を説明できないし、説明できたとしても呪いなんて信じてもらえないだろう。俺は人殺しだ。必死の思いでやっと萩原の家にたどり着いた。

「ぜぇ、はぁ、」

「う、うち死ぬかと思った」

「ブヒィ」

みんなぜぇはぁ言ってる。と、そこへ、

「なんや、どうしたんや!」

「何やら、大変そうじゃのぉ。」

二十歳ぐらいだろうか、すらっと背が高く、小麦色の肌のお兄さんと杖を突いて勾玉を身に着けた、よぼよぼのおばあさんが萩原の家から出てきた。

「あ! ばぁちゃん! それになな(にい)!」

「何事や、みんなぜぇはぁやんか。学校はどうしたんや? それに豚?」

「実はいろいろあって」

萩原が状況を説明しようとすると、

「もしやこの子は!」

萩原のばぁちゃんの目がこれでもかというぐらい見開かれて俺を見つめた。

「呪言か⁉」

「あ、そうそう。そのことなんだけど」

「とりあえず中に入りなさい! 七彦、座敷へご案内して。」

「わかりました。では、こちらに。」

「お、お邪魔します。」

またもや何が何だか・・・。よくわからないまま俺はそのお兄さんに座敷に案内された。

「あ、あの、これってどういう状況なんですか?」

座敷に通された俺は思わずお兄さんに聞いた。

「僕に聞かれても・・・、(きよ)さんが何かを君から感じ取ったのはわかったけど。あ、そうだ。自己紹介がまだやったな。僕は天羽七彦(あもうななひこ)。この清さんの家に解呪師修行のために居候させてもらっているんだ。よろしく。」

「よろしくお願いします。あ、えっと俺は日下部君理仁です。」

「日下部君・・・君には厄介な呪いがかかっているみたいだね。」

「え、えっと、はい。呪言っていうらしくて。」

「呪言か・・・。誰も解けないな。やっぱり清さんに見てもらわないと。」

と、そこへ萩原のばあちゃんが萩原に支えられながら部屋に入ってきた。そして俺の目の前の座布団によたぁと座った。

萩原清(はぎはらきよ)じゃ。お前さんの名は?」

「あ、日下部理仁です。よ、よろしくお願いします。」

「はい、よろしく。日下部君、早速なのじゃが、お前さんにかかっている呪いはとても大変なものじゃ。一筋縄では解けない。」

「はい、それは聞きました。」

「そこでなのじゃが、まずは呪いをかけられるようなことをした覚えはあるかな?」

「はい、思い当たることはたくさんあります。」

俺は今まで人に言ってきたこと、今起こっていることを話した。

「ほうほう、そうか。恨みを買って呪いをかけられたと考えるのが一番原因として可能性は高いのじゃが・・・。人を殺せるほどの強さがある。どれだけ強い恨みで呪いをかけられたとしても人を殺せる強さがあるのは記録が残っている中では初めてじゃ。」

「俺はどうしたらいいんですか? 俺、このままじゃ殺人犯になっちまう!」

「そうじゃのう、クラスメイトのほぼ全員を殺したとなれば死刑の可能性もあるからのう。呪いのせいといってもなかなか信じてもらえない。そしてこの呪いは自分で償わなければならない。呪いを解く方法は人それぞれ違うからわしらにはどうにもできないのじゃ。」

「そ、そんな・・・」

と、その時、

ダンダンダン! と、玄関の扉を激しくたたく音が聞こえた。

「警察だ! 日下部理仁! おとなしく出てこい!」

警察がやってきてしまった。

「まずいことになったのう・・。とりあえず日下部君は隠れなさい。警察に捕まれば元も子もない。」

「わ、わかりました!」

「僕が説得してきます。」

「待って、なな兄。どうやって説得するのよ!」

「何とかなる!」

そう言って七彦さんは玄関へ向かった。俺はとりあえず大きなツボの中に隠れる。

ガラガラッ、

「警察だ。君が日下部君かい?」

「いえ、違いますけど? 何か家を勘違いされているのでは?」

「嘘をつけ。ここに入っていったと目撃情報もあるんだぞ。かくまっているんじゃないか?」

「いません。そもそも日下部という方も存じ上げません。おかえりください。」

「嘘をついているのはわかっているんだぞ! 早く日下部を出せ!」

「まったくしつこいですねえ、そんな方知らないって言っているじゃないですか。」

玄関の方から怒鳴る警察に冷静に対応する七彦さんの声が聞こえる。その言い合いが十分を過ぎたぐらいだろうか。そろそろ体が痛い。いくら大きなツボとはいえど、十分以上も入っていると体が痛い。そう思っていた時、

「日下部君、君は大きなツボの中にいるんだろ? 話を聞いてやるから出ておいで。」

今までは聞こえなかった声が聞こえた。誰だろう? しかも何で俺がツボの中にいることを見破った?

「・・・自分が入ろう。お前らは外で待ってろ。」

「で、ですが、危険です、臥龍岡(ながおか)刑事。」

「大丈夫だ。待機しておけ。邪魔するぜ。」

「あ、ちょっと! 困りますよ!」

俺の入ったツボに向かってズカズカと足音が近づいてくる。

「さぁて、出ておいで。」

もうここまで来られたら出るしかない。俺は恐る恐るツボから出る。そこにはベージュのコートを着て顎に少し髭を生やした中年の男がいた。

「やぁ、はじめまして。自分は臥龍岡。刑事だ。」

「は、はじめまして。俺を捕まえに来たんですよね。」

「いや、そうじゃない。どうしてこんなことになったのか。自分に聞かせてほしいんだ。」

「・・・聞いたところで、信じてもらえないし、どうぞ捕まえてください。」

俺はもうどうなってもいいと思った。生きていてもつらいだけだ。なんならいっそのこと逮捕されて死刑になった方がいい。そう思っていたのだけれど返ってきたのは意外な返事だった。

「逃げるのか?」

「え?」

「死刑になって、この罪悪感から逃げたいと思っているんだろ? 自分の責任から逃れるために死刑はあるんじゃねぇ、罪を償うためにあるんだよ。それに、信じるさ。もうこの状況でただ事じゃないからね。クラスのほぼ全員が傷一つなく同じ場所で不審死している。普通の殺人では不可能だ。自分はこの状況を『呪い』のせいだと考えているんだが、事実はどうなんだ?」

この人は的確だ。理解してくれる人がいるだけで自然と涙があふれてきた。言葉に救われるとはこういうことなのだろうか。

「はい、その、通り、ですぅ。俺、俺ぇ・・・」

俺は泣き崩れてしまった。そんな俺の頭を臥龍岡刑事は優しくなでた。

「つらかったな。一緒に解こうじゃないかこの呪いを。」

「は、はい、うぅ・・・」

泣きすぎだ。言葉がうまくしゃべれない。

「ということだー。みんな解散~。」

臥龍岡刑事以外の警察は帰って行った。

「落ち着いたか?」

「は、はい。・・・あの、何で『呪い』のことを知っていたんですか?」

「それはな、自分も日下部君とは違うが『呪い』を持っているんだ。」

「え?」

「それはな、見抜く呪いだ。」

「見抜く呪い?」

「見抜く呪いは、相手の考えていることを読めたり、相手の居場所がわかったりなどなどいろいろ見えないものが見えるんだ。」

「いい『呪い』じゃないですか。」

「まぁ、仕事柄便利だけど、日常生活の中じゃ辛いこともあるんだぜ。」

「辛いこと?」

「人の考えていることが読める、つまり人の心が読める。マイナスな感情だって読み取っちまう、そして自分は辛くなる。日下部君、君に共感しちまうんだ。『呪い』を抱えて苦しんでいる日下部君と自分が重なったのさ。自分に日下部君の『呪い』を解くのを手伝わせてくれないか?」

その言葉は俺の心を動かすには十分な言葉だった。

「ぜひ、お願いします!」

「ふふ、いい返事ありがとさん。」

「うちらも手伝うよ!」

「僕も解呪師のいい修行になると思うから手伝うぜ!」

「ブヒブヒ!」

「萩原、七彦さん、萩原のばあちゃん、豚、じゃない、久保田、ありがとう。みんな、改めてよろしくお願いします!」

と、そこへ、

ダダダダ! ガラガラッ!

「臥龍岡刑事! 大変です! 街の方で人がバタバタと倒れてます!」

と一人の警官がダッシュでやってきた。

「今、日下部君、何も言ってないよな?」

「はい。」

「どういうことだ・・・。」

「ブヒブヒ?」

「どうやら今からが、本番のようじゃのう。」

「本番? 清さんそれはどういうことですか?」

「もう一人呪言をもった者がいるということじゃ。呪いが暴走しているのを街から感じる・・・。」

「とりあえず街に行ってみよう!」

「そうだな。」

「ブヒブヒ!」

「わしはここに残る。何かあったらこの家に来るのじゃ。」

「わかったよ、ばあちゃん。」

「くれぐれもみな気を付けるんじゃぞ。」

「はい!」

「ブヒ!」

俺たちは街へ降りた。街は悲惨な状態だった。街の上空には黒くて重たい雲が立ち込め、街中を黒い臭気が漂っている。草木は枯れ、道にバタバタと人が倒れていた。街に入れば確実に死ぬ。そんな空気が漂っていた。俺たちが生きていられるのは俺と臥龍岡刑事と久保田はすでに呪いにかかっているから、萩原と七彦さんは解呪師の力を持っているため耐性があるからだろう。そんなことを考えているとき、

「キャー!」

街の西の方から悲鳴が聞こえた。俺たちは息をひそめながら物陰に隠れつつ西の方へと進んだ。悲鳴がした所の近くまで来た。物陰から店が立ち並ぶ通りを見るとそこには…

「あ、あれは…。」

そこには見慣れた姿のやつがいた。

「俺⁉」

もうその時には物陰から俺は飛び出していた。

「待って日下部君!」

萩原の声は俺の耳には入らなかった。もう一人の俺が俺に気が付く。

「よぉ、俺!」

にこにこと俺は俺に声をかけてきた。その目は闇のように黒かった。

「待ちくたびれたよ。いつやってくるかなーって。だけど来るのが遅かったおかげで、この街支配できそうだ。」

「支配、だと・・・?」

俺はこの時察した。もう一人の俺はこの街を支配するつもりだ。やがては世界レベルで支配しようとしている…のか。

「そう、支配。すべては俺の物になるのさ。俺の命令は絶対だから。」

「命令って、『呪言』のことか!」

「大正解さ。これですべては俺の物。」

「そんなことさせない!」

「なぜだい? 言葉を発するだけでなんでも手に入る、なんでも叶う。こんな幸せなんてこと他にあるかい?この力の価値を俺はわかっていないようだね?」

「言葉は、そんなためにあるもんじゃない! お前が使う言葉は力でも何でもない!価値なんてない!」

俺は俺に向かってそう言った。

「そうか、残念だよ。同じ人間として分かり合えると思ったんだけどなあ。反対するのであればそれが俺であろうと消すのみ。やれ!」

すると、路地からガタイの良い男が現れて、俺に殴りかかってきた!

「うわっ!」

俺はとっさに男の右ストレートをスレスレでかわす。だけど男はすぐに態勢を取り直し、またすぐにこぶしが飛んでくる。これはかわせない。マズイ、そう思った時、

「とりゃ!」

キラッ! というまばゆい光と同時にガゴン!と音がして男が倒れこむ。そこにはギラリと光るメリケンサックをこぶしにつけた七彦さんの姿があった。

「日下部君、ここは僕に任せてあいつを追ってくれ。」

「で、でも・・・。」

「僕なら大丈夫さ。こう見えて、武闘派解呪師だから。修行中だけどね。さあ、行ってくれ。アイツを止めるんだ!」

「ありがとうございます!」

俺はもう一人の俺を追う。さすがは俺だ。足の速さには自信がある。もう一人の俺も足が速い。もう一人の俺は路地裏に入っていった。俺もそれを追いかける。俺はチャンスと思った。もう一人の俺は知らないみたい・・・、そっちは行き止まりだということを。そしてついにもう一人の俺を追い詰めた。

「さぁ、もう逃げられないぞ!」

これは勝った。そう思っていた。だけどもう一人の俺は不吉な笑みを見せた。袋のネズミ状態になってどうしようもなく笑っているのだろう。我ながらに惨めな奴だなと思った。だけど、それは俺の思い込みだった。もう一人の俺は不吉な笑みを浮かべながら言った。

「もう逃げられないのは一緒だろう?」

「何⁉」

俺の周りに黒いぶよぶよとした物体が現れ、俺は囲まれる! マズイ!

「まんまと俺の罠にひっかかってくれたね!勝利を確信したような顔してたけど、このざまだよ! www。惨めだなぁ! www。その黒い物体はね、呪言によって呪いにかかってしまった人々の怨念やらが合体してできたものさ。今は、ネット上にもそんなのが溢れているからな。『死ね』『バカ』『クソ野郎』『消えろ』とか侮辱する言葉をあげまくって、それを見た人々にどんどん呪いが広まっていく。そしてその呪いを吸収して俺はどんどん強くなる! どうだ? 完璧なプランだろ?」

「そんなこともうやめろよ!」

「やめれるわけないだろう? 言葉だけで自分だけの理想の世界が作れるんだ! 世界征服なんて息をするようにできてしまう! 俺は最強になるのさ! さぁてと、邪魔者には消えてもらおうか。」

「さようなら、邪魔者の俺。」

俺は黒い物体に飲み込まれる! すごい力で体を圧迫される! これ・・・、マズ・・・死ぬ・・・‼ そう思った時だった。

パフューン! パァン!

すごい音がして俺の拘束が解かれる。黒い物体に穴が空いたのが分かった。

「大丈夫か!日下部君!」

「臥龍岡刑事!」

声のした方向を見ると臥龍岡刑事が建物の上からのぞいていた。臥龍岡刑事が拳銃を撃ったのだ。俺は間一髪で助かった。

「日下部君!見えたぞ!あいつの弱点は胸のあたりだ!」

「胸…。心…?」

「おのれ。クソが! あぁぁぁ! 忌々しい! いつも邪魔が入る! お前ら消えてしまえぇぇぇぇ!」

もう一人の俺がそう叫ぶと、あの黒い物体が人の形になって襲い掛かってきた! するとそこへガタイのいい男を倒した七彦さん、豚、じゃなくて久保田、萩原もやってきた。

「ブヒブヒィ!」

久保田は豚の丸い体で加速して人型の黒い物体にタックル! 黒い物体は形を崩して消えた。

七彦さんはギラリと光るメリケンサックを付けたこぶしでどんどん黒い物体を殴り倒していく!

「はぁ、ばあちゃんに教えてもらった術を使う日が来るとは・・・。()(さん)(かい)(じゅ)(ふだ)、その(じゃ)なる呪いを(きよ)めたまえ・・・。」

萩原はお札を取り出し、呪文を唱え始めた。するとお札の文字が光だし、お札が空中に浮いたかと思えば、まばゆい光の珠を黒い物体に向けて撃ち始めた。

すると黒い物体は散り散りに離散した。

臥龍岡刑事は建物の上から拳銃で黒い物体を打ち抜く。

あっという間に黒い物体は消えてしまった。そして残るはもう一人の俺、わなわなと震えだし力が抜けたように膝から崩れ落ちた。俺はもう一人の俺に近づいていく。崩れ落ちたもう一人の俺の姿は惨めだった。俺もあのまま人の悪口を言い続けていたらこんな惨めな姿になってしまっていたのだろうかと考えると恐ろしい。俺はやっとわかった気がする。『言葉には責任がある』あの学級委員長の言葉の意味が。やっと今わかった。悪いことを言えばその分自分に返ってくる。もう一人の俺のこの状況がまさに、だ。俺はもう一人の俺に言った。

「もう一人の俺、気づかせてくれてありがとう。『言葉には責任がある。』『言葉は使い方によっては人を殺す凶器になる。』思い知らされたよ。言葉の重みというか恐ろしさを。」

「なんだよ、惨めな俺に対する皮肉か?」

「あ、ごめん。そんな風にとらえちまうかもな。『言葉の伝わり方は人それぞれ。』

言葉ってやっぱ難しいな・・・。決して皮肉とかじゃないんだ。ただ純粋に俺の言動が間違っていたことを気づかせてくれたことに対する感謝だよ。」

「フン! なんだよ、それ。」

「俺、もう一つ気づいたことがあってさ、俺は自分で自分に呪いをかけてたんじゃないかって。それが形として現れたのがもう一人の俺だったんじゃないかって。」

「そうなのかもな・・・。じゃあ俺はもう存在する必要は無いな。じゃあな、俺。」

そう言ってもう一人の俺は去って行こうとする。それを俺は止める。

「待って。いていいんだ。」

「え?」

「俺の中にいていいんだ。意地悪な俺も俺だから。俺が俺を受け入れることが、俺が反省して意地悪な俺だったことを認めることが、俺の呪いを解くことだと思うんだ。」

「いいのか? こんな俺がいても。」

「うん。」

「フッ! 本当に変わったやつだぜ。俺は。」

そう言ってもう一人の俺は光に包まれて光の塊となり俺の胸の中に戻っていった。するとあんなに重たかった曇天が一気に澄んだ青空へと変わった。日光が街に届き、街の人々は息の根を取り戻した。

「あれ、何で私こんなところに寝ていたのかしら・・・。」

「ほんとに何でかしらねぇ?」

「あら、お隣の奥さんも⁉」

「ほんと、どういうこったい! まあいいや、奥さん。今日は鯛が安いよ!」

「あらじゃあ、気分がスッとしたし、なんだか気持ちいいから買っちゃおうかしら!」

「毎度あり!」

街は賑わいを取り戻した。そして俺の後ろでは、

「戻ったぁ! やったぁー!」

豚になっていた久保田がもとに戻った。

「ごめんな、久保田。今まで豚とか言っていじめて・・・。本当にどうお詫びしたらいいか・・・。」

「いいの、わかってくれたら。それに私だって痩せたいって思っていたから。あのさ、今度良ければ一緒にダイエットのために走ってくれない?日下部君、走るの速くて、走ることを楽しいって思ってそうでさ。教えてほしいの! どうやったら走ることを楽しめるのかを・・・。」

「うん! わかった! 走ることなら俺に任せろ!」

みんなの呪いがどんどん解けていく。ということは、教室で倒れているみんなも・・・。

「さぁ、学校に戻ろー! 学校まで競争だー!」

と萩原はフライングスタートを決める。

「あっ!ずりぃぞ!俺に勝てると思うなよ!」

俺も走り出す。

「あっ!待ってよー!私まだ、走れない・・・。」

久保田は久保田なりに俺たちの後を追う。俺たちは学校まで走り続けた。競争の結果は案の定、俺が一位で萩原が二位、久保田が三位。そんなことより、俺たちは自分たちの教室に一目散に向かう。

「みんな元通りだといいけど・・・。」

そう思って教室へ飛ぶように入ると、・・・

「えっ⁉ どうして?」

「そんな・・・。」

「私の呪いは解けたのにまだ解けてないの?」

なんと予想外。まだみんなは倒れていたのだ。先生もなぜか倒れている。どうしてだ? そこで俺はハッ!と思い出す。呪いを解くにはそれ相応の物を差し出さなければならない。

「やっぱり、俺は命で償うしかないのか。そうだよな・・・あれだけ大声でみんなに向かって軽々と『死ね!』って言っちまったからな・・・。当然の報いってやつか・・・。萩原、家庭科室から包丁持ってきてくれ。腹切って詫びる。」

「で、でも・・・。」

「いいんだ! 俺がやったことだから。『言葉には責任がある』、それを理解していなかった俺が悪いんだ。」

「わ、わかったよ・・・」

「え! ほんとに腹切るの⁉ ダイエットの約束はどうなるの⁉」

「ごめんな、久保田。最後まで久保田の約束破っちまうなんて、情けない。」

「持ってきたよ。本当にやるの?」

「ああ、もう覚悟はできてる。じゃあ、萩原、久保田。あ、あと七彦さんと臥龍岡刑事も。ありがとな。」

そうやって俺が包丁をおなかに突き刺そうとしたその時だった。

「ちょ! ストップストップ!」

「はえ?」

なんと、学級委員長がスパッと起き上がり俺を止めた。そして次々とみんなも先生も起き上がって・・・。

「せーのっ!」

「「「ドッキリ大成功―!」」」

「ドッキリ⁉」

なんと、みんなすでに意識を取り戻していたみたいだ。

「みんな意識を取り戻してから、話し合ったの。日下部君にみんな意識戻って

 ないまんまっていうドッキリを仕掛けて、日下部君をきっちり反省させようってね。」

学級委員長はそういった。

「まあ、本当に腹切って詫びようとしたときは驚いたけどな!」

と、りょーすけ。

「どう?反省したかしら?」

学級委員長は少し意地悪な笑みを浮かべながらそう聞いてきた。その問いに俺は、

「今まですまなかった! こんなことになってしまって! もう言わない! もう軽々しく『死ね』なんて言わない! 人の悪口も! 本当に反省してる!今まで迷惑かけてた人間の言葉なんて信じられないかもしれないけど! この通りだ!」

俺は全力で誤って土下座した。

「「「あははははは!」」」

すると、みんなは大笑い。先生やほかのクラスのやつらも廊下に出てきて俺を笑った。俺は恥ずかしくて体温が上がるのを感じた。

 その日の放課後、俺は学級委員長に話したいことがあって学級委員長と誰もいない夕暮れ時の屋上へやってきた。

「何よ、話って。」

「その、あの、俺さ、やっと学級委員長が言ってたことわかったよ。『言葉には責任がある』身にしみてわかった。言ってくれて、ありがとな。」

「わかってくれたらそれで良しだよ。」

お互いに夕日を見ながら微笑みあった。

 言葉には責任という呪いがある。その呪いは自分から生み出すもので自分にしか解けない。嫌な言葉が簡単に言えてしまう現代。その言葉でどこかの誰かが苦しみ、罪もない人が亡くなる。理不尽で無責任。俺は身にしみて感じ、学んだ。言葉の呪いというものを。

 そんな言葉というものは紙一重なもので、時には人を殺す呪いにもなり、時には人を助けるヒーローにもなる。


 十年後、俺は一人の呪われた男子高校生の前に解呪師として座っている。

『俺は言葉で誰かを救えるヒーローになる。』

それはこれからも続いていく俺の人生の目標だ。俺の物語はまだ始まったばかりだ。俺は言葉とともに生きていく。

                            


最後まで読んでくださりありがとうございます。

小説家になろうに初投稿どころかネットにあげるのも初めてで、わからないことだらけで、つたない文章になってしまいました。こんな作品を最後まで読んでくださり本当にありがとうございます。

作品のテーマである言葉の重みが伝わっていたら幸いです。

部活で書いた時は字数制限でカットになったシーン(ほぼ後日譚)もあるので今度まとめて投稿するかもです。

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