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16.御役御免になった

 それから数日が経過して、瑠斗の周辺は再び、静かになった。

 彼はどうやら咲楽や梨衣南、或いは奏美の三人から猛烈な勢いで説得され、隆義らとの友人付き合いを本当に諦めてくれた様だ。

 しかしそれにしても、何故瑠斗はあれ程に隆義達との時間を楽しもうとしていたのか。

 放課後、たまたま教室で瑠斗とふたりになる時間が出来た為、刃兵衛はここぞとばかりに訊いてみた。

 すると意外な答えが返ってきた。


「大森君は中学二年ぐらいまで、僕をいじめてたんだ」

「え……何でまた、そんな奴と?」


 思わず絶句した刃兵衛。

 そんな彼に対し瑠斗は自嘲気味に、そして寂しそうに薄く笑った。


「彼の方から声をかけてきてくれたんだよ。今までのことを反省して、本当の友達になりたいって」


 だから当初は瑠斗も本当に嬉しかったし、心から隆義と友誼を結びたいと思ったらしい。

 しかし改めて友達付き合いをしてゆくうちに、これは何か違うと瑠斗自身も気付いていた様だ。

 それでも彼が隆義やその友人ら三人との時間を優先する様になったのは、陽キャとしての遊び方や振舞いを学びたかったということらしい。


「ほら、折角さ、僕がフェイクカレシとして九里原さん達の役に立てることになったんだし、少しでも良い成果を出せる様に、僕も色々勉強しなきゃって思って」


 そういうことだったのか――刃兵衛は思わず天井を見上げてしまった。


(阿須山君があんなに苦労してはったのは、全部僕の所為やんか……何してんのや、ホンマに)


 刃兵衛は自分で自分を殴り飛ばしたくなった。

 瑠斗が本心を押し殺し、更には身銭を切ってまで隆義達との交友を進めようと頑張っていたのは、全て刃兵衛が計画した美少女三人達とのハーレム計画に応えようという意思から出たものだった。

 つまりは刃兵衛が、余計なことを考えなければ瑠斗もあんな苦労を背負い込むことは無かったのだ。

 最初に恋人偽装をいい出したのは梨衣南だったが、そこに悪ノリして、瑠斗をラブコメ主人公の如く仕立て上げようと必死になっていたのは間違い無く刃兵衛だ。

 瑠斗は刃兵衛のそんな思いを体現しようと、彼なりに頑張っていたのである。

 これは刃兵衛自身の、大きな失点だった。猛省しなければならない。


「阿須山君……何か、御免なさい。僕の勝手な希望で先走ったことしたから、阿須山君に要らん苦労をかけさせてしもて……」


 刃兵衛は素直に頭を下げた。これはもう、謝る以外に無い。

 しかし瑠斗は、気にしないで欲しいと穏やかな笑みを返した。


「最終的に判断したのは僕自身なんだから、笠貫君はそんな風に責任を感じることは無いよ。これは全部、僕の意思でやったことなんだから」


 だからといって、刃兵衛自身の罪が消える訳ではない。

 少なくとも、隆義達に巻き上げられた金銭分は、刃兵衛が何らかの形で補填すべきであろう。


「僕は今まで通り、笠貫君と仲良く出来たら、それで良いよ」

「ホンマにすんませんでした。これからは要らんことせんと、普通に生きていきます」


 と、そこへ職員室から戻ってきた梨衣南が、一体どうしたのかと小首を傾げた。刃兵衛と瑠斗の間に流れていた微妙な空気を察知したらしい。

 刃兵衛は神妙な表情で頭を掻いたが、瑠斗は何でもないとかぶりをふった。

 が、どうやら梨衣南は刃兵衛の顔つきから大体のことを察したらしく、苦笑を浮かべて小さく肩を竦めた。


「ま、どうせジンベーが余計なことやらかして、それで謝ってたってなとこ? けどさ、ジンベーも悪気があってやった訳じゃねーんだろうし、阿須山もさ、そこは大目に見てやってよ」

「うん、それはもう、ちゃんと分かってるから」


 瑠斗は穏やかに笑った。

 そんな瑠斗に刃兵衛は、本当に頭が上がらない気分だった。


「てかさ、丁度良いメンツが揃ってんじゃん。メディアトピア、行かない?」

「あ、良いよ。僕も見たいグッズあるし」


 そんな訳で三人は、連れ立って教室を出ることにした。

 ところが、足を運んだ先で思わぬ人物ふたりと出会った。咲楽と奏美だった。

 どう見てもサブカルチャーとは無縁の彼女らだけに、刃兵衛も瑠斗も驚きの色を隠さずに顔を見合わせた。


「あれー? ふたりとも、咲楽と奏美も結構なオタクだってこと、知らなかったカンジ?」


 梨衣南が可笑しそうに肩を揺すった。

 咲楽が特撮好きだという話は以前から聞いていたが、奏美は何のファンなのだろうか。


「おぅ、あちきはねぇ、アメコミだぞなもし」


 レジェンダリーコミックという有名なアメコミブランドが大好きで、レジェンダリーユニバースで展開されている諸々のキャラクターグッズを漁りに来店していたのだという。

 確かによくよく見てみれば、奏美の通学鞄にはレジェンダリーコミックのヒーロー達のキーホルダーが幾つもじゃらじゃらとぶら下がっていた。

 一方、咲楽は毎週日曜の朝から放映されている特撮ドラマ『魔神レイダー』シリーズのグッズを買い求めに足を運んでいたらしい。

 以前はわざわざ変装して同店舗を訪れていたという咲楽。

 しかし刃兵衛や瑠斗が梨衣南と一緒に堂々と足を運んでいる姿を見て、周囲の目を気にするのが馬鹿馬鹿しくなったのだという。


「やっぱりさ、自分の好きなものを愛でるのに、他人の目を気にするなんておかしな話だもんね」


 その勇気をくれたのが、刃兵衛であり瑠斗だと咲楽は嬉しそうに笑った。


「でもまだちょっと恥ずかしいから、ガッコではあんまり大っぴらにはいわないでね」

「うん、そこは僕も気を付けるよ」


 拝む様な仕草を見せる咲楽に、瑠斗は穏やかな笑みを返した。

 成程、これなら余計なことをするまでも無かったか――お互いに心の底からの笑みを交わし合う瑠斗と咲楽の姿に、刃兵衛は今更ながら、己の無駄な先走りを改めて反省した。

 気が付けば、瑠斗の周囲には美少女三人組による交流の輪がしっかり出来上がっている。

 それなのに自分は一体何故あんなにも焦って、瑠斗と彼女らを無理にくっつけようなどとしていたのだろう。本当に無意味で、馬鹿げた話だった。


(これで僕も御役御免やろな)


 内心で苦笑を漏らしながら、ひとりライトノベルコーナーをぶらぶらしてみる。

 ところがいつの間にか、傍らに梨衣南の姿があった。


「ジンベーさ、これマジでオススメだから、いっぺん読んでみ?」

「へー、最近出始めたシリーズなんスね」


 刃兵衛は梨衣南お勧めの一冊を手に取って表紙を開いたが、最初の扉絵でいきなりエロ満開だった。


「またエラいの、勧めてきはりますねー……」

「えー、イイじゃん。エロ」


 当たり前の様にしれっと口にする梨衣南に、刃兵衛は今度こそ苦笑を滲ませた。

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