14.自分を分析した
その日の帰り際。
刃兵衛は機嫌良さげに通学鞄を抱えて席を立った瑠斗に、それとなく声をかけた。
「阿須山君、最近はどこで遊んではんの?」
「僕かい? んっと、そうだね……」
曰く、ゲーセンだったりファミレスだったりカラオケだったり、或いは街中で他校の女子をナンパしたりなどと色々忙しい。
そう語る瑠斗の笑顔は、微妙に不自然だった。
(ホンマに楽しんでんのやろか……?)
そこが少し、気になった。
隆義と色々なところに遊びに出かけることに対しては瑠斗も心躍らせている様に見えるのだが、では実際に隆義と一緒に遊ぶ際には、本当に心から楽しめているのか。
この時、瑠斗が見せた笑みにはそんな疑念を抱かせてしまう違和感が溢れていた。
(今までぼっちで居ったんなら、他人との距離感が掴めてへんのかも知れへんな)
ふと、そんな気がした。
瑠斗はこの後、隆義と約束があるということで教室を出ていったが、梨衣南と咲楽がその余りの急ぎっぷりに若干呆気に取られている。
「ホントに、仲良いんだね……」
「うちらのフェイクカレシ、マジで大丈夫なん?」
どうやら彼女らも多少、気になっているらしい。
であれば、少しばかり先行して裏を取って見てみるか――刃兵衛も通学鞄を背負って立ち上がった。
咲楽と梨衣南も一緒について行きたさそうな顔を見せていたが、今日のふたりはそれぞれ、別件の用事がある為に同行は出来ないらしい。
と、その時、
「おーい、笠貫っち。どこ行くんだーい? あちきも連れてけよー」
奏美がツインテールの黒髪を揺らしながら、同じ様に通学鞄を背負ってとことこと歩を寄せてきた。
刃兵衛は一瞬どうしたものかと考えたが、ふたりで連れ立って歩いている方が不自然さを多少なりとも消すことが出来ると判断し、小さく頷き返した。
そうしてふたりが向かった先は、駅近に大型店舗を構えるゲーセンだった。
瑠斗は隆義の他に、三人の見るからに陽キャっぽい男子生徒らと一緒に居た。遠目から見ると普通に男子五人でつるんでいる様にも見えるのだが、瑠斗の笑みに感じられるぎこちなさは、相当に半端無かった。
「のぅ、笠貫っち。阿須山っちのアレって……」
「湯殿さんも、気付きましたか」
クレーンゲームの筐体の陰に身を隠しつつ、刃兵衛は渋い表情で頷いた。
瑠斗は何度も財布を開いて小銭を取り出しては、隆義や他の三人に笑顔で手渡している。
隆義達は一見すると瑠斗と友達付き合いをしている様にも見えるが、あれでは完全にただのタカリだ。
「財布にされちゃってるのぅ」
「何や、おかしい思うたんですよ」
瑠斗に楽しいかと問いかけた時に返してきた、あの違和感たっぷりの笑み。
矢張り彼は、心から楽しんでいるとはいえなかった様だ。
「けどよぅ、何であんなこと、してるんかのぅ?」
「……友達とは何ぞやってことをちゃんと理解せんまま一方的に友達、友達いわれて、勘違いしてしもうたんですかね」
瑠斗は頼まれれば断れない性格らしく、更に彼は、友人の為にならば少しでも役に立とうというひとの好さを持ち合わせている。
そこを上手く、付け込まれたのかも知れない。
「今度のボーリングも、あいつらと一緒かのぅ?」
「まぁ、そうちゃいます?」
刃兵衛の応えに、奏美は腕を組んで考え込む素振りを見せた。矢張り、あんな場面を見てしまっては悩むのが当然だろう。
しかし数分後には、奏美は意を決した様子でその美貌を刃兵衛に向けた。
「こりゃどうも、あちきらで阿須山っちを守ってあげる必要がありそうだのぅ」
「こらまた随分と男前っすねぇ」
刃兵衛は奏美の、男気溢れるひと言に素直に感心した。
彼女は外見こそは元気系美少女ではあるが、ここぞという時には強い意志で前を向く根性があるらしい。
そのつぶらな瞳には、絶対に瑠斗を助けてやるという決意の色が見て取ることが出来た。
「けど、あちきらだけじゃあ、ちょっと不安かも」
「僕が後方支援に入りますよ」
刃兵衛が頷き返すと、奏美は幾分ほっとした表情で笑みを湛えた。どんなに勇気があるとはいえども、相手は得体の知れない男が四人。女子三人だけで、どこまで立ち向かえるかは甚だ疑問だ。
不安に駆られるのも当然であろう。
「梨衣南っちと咲楽っちにも、この話はあちきから通しとくよ」
「お願いします。ちゃんと認識合わせとかんと、いざって時に連携取れん様になりますしね」
刃兵衛はもう一度、瑠斗達に視線を流した。
隆義と他三人の陽キャ男子達は随分と楽しそうに大声で笑っていたが、瑠斗はほんの少し困った様子で笑みを浮かべている。
どう対処して良いのかも分からず、困惑している風にしか見えない。
それでも彼は、隆義達と遊ぶのが楽しいのだという。何故、そんな風に思い込もうとしているのか。
その点についても突き止めておく必要がある。
(僕が気付いていない何かが、あるんやろうか)
刃兵衛は暗殺拳の使い手であり、情報収集や分析にも長けていると自負はしているが、ひとの心の奥底を覗き見ることだけはどうにも苦手だ。
それは、元カノと付き合っていた当初から常々、感じていた。
(僕はホンマに、相手の本心ってのをちゃんと理解すんのにめっちゃ時間かかるからなぁ)
これだけはどうにもならないと、心の中で小さくかぶりを振った。
そして、次の週末。
瑠斗は咲楽、梨衣南、奏美を連れて件のボーリング場へと出向いていった。




