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13.タダ券を断った

 次の週末は、瑠斗と梨衣南のデートを予定している。

 咲楽とのデートは中々良い雰囲気で終わった様に思う。彼女が特撮好きで、日曜朝のシリーズは毎週欠かさず見ているという情報は衝撃ではあったが、しかし良いニュースでもあった。

 聞けば瑠斗も特撮をよく見る方で、咲楽とは随分と会話に華が咲いたという。


(エエ感じや……こーゆー切っ掛けは大事やで……)


 放課後、掃除当番を終えてひとり教室に残っていた刃兵衛は、今夜のおかずは何にしようと考えながら帰り支度を進めていた。

 その時、見知らぬ男子生徒が教室の出入り口にふらりと顔を出した。

 イケメンという程でもないが、かといってブサメンでもない。要はフツメンだ。しかし派手な髪色や制服を着崩した外観から見て、恐らく陽キャの部類に入る奴だろう。

 しかしクラスメイトではない。他所のクラスから誰かを探しに来たのだろうか。


「よぉー、阿須山、居ねぇ?」

「お、阿須山君?」


 意外な名前が飛び出してきた。

 クラスの中では刃兵衛以外の男子生徒と話しているのを、ほとんど見たことが無い。にも関わらず、この他所クラスの派手なチャラ男系は瑠斗の名を当たり前の様に出してきた。

 もしかしたら、他のクラスで新しい友達を作ることに成功したのだろうか。

 それならそれで僥倖なのだが、どうもこのチャラ男君、何となく視線の中に妙な違和感を覚える。

 刃兵衛の暗殺者としての直感が、何かを告げているのかも知れない。

 しかしここはまだ相手の出方を見るべきだ。刃兵衛は瑠斗なら先に帰ったと告げた。


「あー、マジかー。んじゃあ、しゃーねーな」


 そのチャラ男は、わざわざ応対してやった刃兵衛に礼もいわずに去っていった。どこか上から目線であり、ひとに何かをして貰っても感謝の念すら抱かない俺様系なのかも知れない。


(阿須山君、変な奴に引っ掛けられんかったらエエんやけどな)


 そんなことを考えながら、刃兵衛は自身のスマートフォンを取り出した。

 そしてつい先程、顔を覗かせていた他所クラスのチャラ男の個人情報をじっと見入った。


(2年C組の大森隆義(おおもりたかよし)ね……)


 そこに映し出されているデータは、先程のチャラ男、即ち隆義のスマートフォンにブルートゥースで強制ペアリングを仕掛けて抜き取った個人情報だった。

 刃兵衛の兄、厳輔は凄腕のハッカーであり、情報戦の達人でもある。

 その厳輔は刃兵衛のスマートフォンに、他人の携帯端末にブルートゥースで強制的にペアリングを仕掛け、その内部の情報を全て抜き取る極秘情報戦用アプリケーションを導入させていた。

 将来的に内閣官房の秘密実働部隊に所属し、裏の世界で生きてゆく為には、今の段階から他者の情報を抜き取り、それらを徹底的に分析する修練を積んでおかなければならない。

 表沙汰になれば間違い無く個人情報保護法違反になるが、刃兵衛には絶対にバレないという自信がある。

 それ故、彼は少しでも顔なじみになったり、或いは敵対する可能性があると踏んだ相手には片っ端から強制ペアリングを仕掛け、その情報を全て抜き取ることにしていた。

 そしてあの隆義という男、どうにも胡散臭い。

 警戒しておいて損は無いだろう。


(ま、杞憂に終わってくれたら、それでエエ話やねんけどな)


 刃兵衛はスマートフォンを尻ポケットに押し込みながら教室を後にした。


◆ ◇ ◆


 翌日以降も、隆義はちょくちょく2-Fの教室を訪ねてくる様になった。瑠斗は随分と嬉しそうな笑みを湛えながら、どう見ても住む世界が違い過ぎる隆義と連れ立って廊下に出ていくことが多くなってきた。


「阿須山君、新しい友達かな?」


 咲楽も不思議そうな面持ちで、教室を出ていった瑠斗の背中を視線で追った。


「何だよ。阿須山ってジンベーの友達じゃなかったの?」

「いやいや、そらぁ他にも友達ぐらい居てはるでしょ」


 梨衣南に笑みを返しながら、しかし腹の底ではどうにも疑惑の念が尽きない刃兵衛。

 あの隆義が何を目的として瑠斗に近づいてきたのかは、昨日抜き取った彼のスマートフォンからの情報で大体掴めている。

 問題は、奴がいつ、牙を剥くかだ。


(まぁ、もうちょっと泳がせとこか。舐めた真似したら、そこで始末付けるけど)


 そんなことを考えていると、瑠斗が妙にほくほくした顔で返ってきた。その手には、何かのチケットが握られている。

 どうやらボーリングのタダ券らしい。それがペアでふた組、つまり四人分だ。

 次の週末、隆義がボーリングに誘ってくれたらしく、そのついでに友達も是非読んで来いとのことで、ペアふた組分のタダ券を譲ってくれたというのである。

 しかしこの場には美少女三人と刃兵衛、そして瑠斗の計五名。

 誰かがあぶれる計算となる。


「あー、ほんなら僕はパスしときます。お嬢さん方、阿須山君とイチャコラしてきて下さい」

「んお? 笠貫っちはそれで良いのかい?」


 奏美が妙に気を遣って覗き込んできたが、刃兵衛は全然OKですと笑顔を返した。


(ちょっくら、あの大森君の出方を見てみようやないの)


 どうにも胡散臭い。

 しかし瑠斗は心の底から喜んでいる。ここでわざわざ刃兵衛の疑念を口にして、彼の嬉しそうな顔を曇らせる必要は無いだろう。

 何かあれば、刃兵衛自身が陰で動けば良いのである。


(んなこたぁ無いと信じたいけど……)


 咲楽、梨衣南、奏美にボーリングのタダ券を手渡しながら、本当に御免と刃兵衛に頭を下げる瑠斗。

 こういう気遣いの出来る青年が、あの上から目線の俺様系チャラ男と、どうやって友人関係を結んだのだろうか。

 寧ろそっちの方が気になった。


(余計なお世話かも知れんけど、一応念の為や。僕も動くか)


 刃兵衛は瑠斗に申し訳ないと思いつつ、秘密裏に行動する腹を固めた。


(あれ? でも次の週末はリー姉さんとデートやのに……忘れてんのかな?)


 内心で小首を捻った刃兵衛。

 それ程に、あの隆義と友達になれたことが、嬉しかったのかも知れない。

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