お嬢様は都会よりも田舎の星を選び取る
お読み頂き有難う御座います。
サイエンスは足りない何処かの宇宙のファンタジーです。
SFを読むのは好きですが、詳しくないのでご容赦を。
やっと着いた。
家の鍵を閉めてから、此処に到着する迄溜め息が止まらない。
やはり週末はワープ空間が混んでいる。分かってはいたが、腹の中ではどうにも納得が出来ない。
自家用機が旧式だからか、どうも軽視されている。混んでるレーンに配置されている気がする……。支払い方法の字の綴りが間違っていて、多く支払う所だった……。
疲れている。
過去に刺された小さいトゲが体を苛むように、心はザワザワしていた。
しかも星間波止場も予約が取れた時は喜んだが、実際は駅からうんざりする程に遠い。
しかし、ちらりと見たら近くの波止場の料金表は、払い込んだ先程の料金とは倍程金額が違う。世知辛い。
旅行だからって底の薄いバカンス用の靴を履いてくるんじゃなかった。
ワープ空間に近いせいか、地表が熱くて靴底がゲル化しそうだ。と言うか、つま先が溶けている。華奢な足に憧れていたが、この時ばかりは足の裏が頑丈で良かったかもしれない。
しかもカート置き場が遠くて持って来られず、殆ど自力で荷物を引っ張る羽目になる。
誰か連れが居るなら持って来れるけれど、あんな距離、とても往復なんて出来ない……。
ゼエハアと息が切れそうな程歩いて歩いて歩いて、やっと着いた。
駅の壮麗さに感動する気力すらない。
全速力で移動した結果、滴る汗のせいで虹彩認証が誤作動したらしい。
何度やり直しても首をひねっても位置を変えても、中々ゲートをすんなり通してくれなくて参った。
バカンスに行くのに出発から疲れている。
何処か、駅にしかないカフェにでも寄って限定のメニューを頂くとするか……。と歩を進めると
ポロピラッ。
……手元で古風なアラーム音が鳴った。
……もしかしてスケジュールに何か入れ忘れたのたろうか?
嫌な予感に苛まれて、恐る恐る呼び出し音の端末を触った。
音もなくホログラムが空間に浮かびそうになるが、プライバシー保護の為、駅ではホログラムが禁じられているのを思い出す。慌てて荷物から引っ張り出した古い端末を操作し、何秒か後にディスプレイにメッセージを映し出せた。
『お試し期間が過ぎましたので、後30分にて第四メメクレハハラド語の月契約を更新します』
「待って!」
……行き交う人々が私をぎょっとした目で見ていく。
不審なのは分かっている。
一人旅の女がスケジュールディスプレイ(旧型)に悲壮な声上げてるなんて、かなり不審だ。他人ならガン見するだろう。
「待って待って待って! え、私、こんな行ったこともない星の言語なんで……! あー!?」
思い出した!
流行りのドラマを観る為にサブスクリプションに契約した時、一緒に着いてた語学アプリケーションを解約するのを忘れていたのだ!!
そしてドラマもワンシーズン3話しか結局見ていない。予告は面白そうだったのに、好みじゃなかったからだ。
主人公の恋人がアンドロイドだって聞いていたのに、序盤から18股するなんて聞いていない。
血が通ってようが無かろうが、股がけは直ぐにスクラップにした方が良い!
『解約には規定を最後までお読み頂き、解約ボタンを押しパスワードを入力してください。四次元認証は……』
「解約ボタン!? ど、何処に……」
余程解約させたくないのか、小さい文字と目に痛い程の明滅に気が散って、ボタンが押せない。
そもそもパスワードは何だっただろうか。四次元認証をするには、此処はホログラム禁止区域。
しかも乗船時間迄もう少しで、通信も遮断されるから本当に時間がない……!
後十分で……!
「エトワールお嬢様!」
「!」
急に名前を呼ばれ、誤タップした。
ちらっと映った古代ミュンゼラン語って何だ。 まさか違う変なサイトに飛んだのだろうか。更なる知らない語学は学びたくない。
間違いであってほしい、と恐る恐る小さな端末を起動し直すと。
『ご契約が完了致しました。よい学びを』
「イヤアアア! 小さくてブレて見えないのよおおお!」
「ひ、ひえっ!」
「……! いやっ! ……?」
周りには遠巻きに此方を怯えながら見ている旅行客。
そして、怯えに怯える老齢の執事だった。
彼はエトワールが一方的に婚約破棄された家の執事だ。
本来なら、この旅は婚約者と行く予定の旅行だった。
「……何か御用?」
「ま、間に合って良うございました」
「そう。もう船の時間だからさようなら」
「お、お待ちください……。我が当主がその、お詫びしたいと仰せです」
だからおとなしく着いてこい、とでも言うのだろうか。
しかし、エトワールにその気はない。波止場の料金に語学のサブスクリプションも払い込み済みだ。
全てを無に帰した元婚約者の為に、コイン1枚とて無駄にする気はなかった。
それに、サブスクリプション解約失敗はとんだ失敗だったが、これを期に語学を学ぼう。自分磨きの為語学に力を入れるのも悪くない。
そうエトワールは決意した。
「あんな方とやり直しなど御免なの。お断りするわ」
「……へっ?」
「だって、カビみたいな毒しか撒き散らさない方とまた顔を合わせなくてはならないなんて、嫌」
「いえあの……」
「私はバカンスに行くの! モーベラン星系は涼しいってお兄様が言ってたわ!」
エトワールは、寒い地域は苦手だが暑い地域も嫌いだった。
テンションが上がってズウンズウン進む足音も軽やかに聞こえる。
それにもうすぐ船が着く。店内ショッピングも楽しみだった。
「楽しみ。ねえ、船員さん。私に合うサイズの靴は売店に置いているかしら?」
「ヒエッ……、み、三つ首竜!? のえ、ええと? 何……ですか? その、言葉が……」
何故か体を震わせる船員にエトワールが小首を傾げていると、慌てて他の船員が走り寄ってきた。
「……お、お嬢様! 勿論で御座います! 当船の商品は靴からお帽子まで幅広いサイズを取り揃えておりますので!」
「靴!? せ、先輩……。流石に」
「有るって! 倉庫だよ! 着艦前に早く取ってこい!」
フルフル震えているように見えるが、小さい船員同士、仲がいいらしい。
エトワールからしたら尻尾の長さくらいしかない種族のようだが、疑問に直ぐ答えてくれたし仕事熱心だ。
「お、お嬢様ーーー!」
エトワールは軽やかなつもりで歩き去った。
後に叫ぶ執事を残して……。
「先輩……。よくあんなゴーゴーしか聞こえない三つ首竜と会話出来ますね。あのちっこいオッサン竜も何言ってんのか分かんねーし。
三つ首で認証しづらいってのに、どの目登録してんのか忘れてゲート止めたのもあの竜でしょ?」
聞き取れなかった方の船員が、成人男性の腕位の大きさの靴を抱えながらボヤくと、先輩船員から肘鉄を喰らった。
「お前、ホテル艦の船員なら、語学をちゃんと勉強しろ。
あの方、宇宙史にも出てくる名門貴族の血を引く、スーパーセレブのご令嬢エトワール様だぞ」
「おれ、田舎星モンなんでセレブ知らねぇっす。
しかし、どー見てもお嬢様には見えねえな……」
田舎で粗製乱造されたパニックホラームービーを観て育った青年は、子供の頃のトラウマに身を更に震わせた。
そんな第四メメクレハハラド星系に生まれの船員の青年は、それから語学に目覚めた三つ首の竜の令嬢に絡まれることとなるとは、今は知らない。
「アナタ面白くってよ! 近う寄ってやってよ!」
「怖えんですってばああ! アンタが背後に現れると、マジパニックホラーなんだよおおお!」
サブスクを解約し忘れた夢を見て書きました。
恐ろしすぎる…。
因みにエトワールお嬢様は体長は5メートル(尻尾含む)のゴージャス系倹約家美女(同種族評)です。




