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3 少女放逐

 例え粗末であっても、個人の空間があるというのは大切なことだ。人との交流が生活に必要なように、一人きりの隔絶された時間というものも、また不可欠だと思う。


「ふう……」


 ガタが来ている備え付きのシャワーの湯を浴び、俺は部屋に戻った。


「ナルミン☆ おかえりなさぁい☆」


 理由はないが、もう一度シャワーを浴びる気になった俺は引き返す。疲れていると、判断が鈍る。そういえば最近湯船に浸かっていなかった。配給の湯は減ってしまうが、たまには豪勢にいくのもいいだろう。


「幽霊の正体見たり枯れ尾花……」


 蛇口をひねって湯をためつつ、俺は独り言つ。


「ナルミン☆ 私のためにおフロの準備なんて……☆ じいぃいいん……☆ 私、感激☆」


「だー! うるさいっ!」


 部屋に引き返すと、そいつは枯れ尾花でも幽霊でもなく、例の“バカ少女”だった。


「なんで、お前がここにいるんだよっ! さっさとナオミのとこにでも帰れっ!」


「え~☆ でもでもぉ☆ ナオミンはもうシオリンと相部屋でいっぱいだしぃ☆ マコピーはドア開けてくれないからぁ」


「そうかいそうかい。それじゃあ俺もお断りだ。ほかの空き部屋でも見つけて、勝手に星を飛ばしてろ」


「もしかして……」


「なんだよ」


「ナルミン……私のカ・ラ・ダにビビっときちゃったの? や~ん☆ 私、襲われちゃう☆」


「バ、バカっ! お前、俺の社会的地位を剝奪する気か! 誰かに聞こえたらどうすんだ!」


「ナルミンも一匹のおーかみさんだったのね……☆ いやいやぁ☆ 私ったらケモノの巣に来ちゃったあ☆」


「話を聞けっ!」


「ナルミンもオトコノコだもんね☆ いやぁん☆ 意識したら目線がヤラシ―感じがするぅ☆」


 ゴッと鈍い音が俺の部屋に響き渡る。


「いたぁい☆」


「出てけっ!」


「ナルミンがぶったぁ☆」


 ぶたれた頭と気の抜けた会話に星が飛び交う。こいつの相手をしていたら俺までおかしくなりそうだ。


「ここでは電化製品とバカは殴っていいことになってるんだよ」


「ひっど~い☆ 私、繊細なオンナノコ☆ だよぉ☆」


「ならもっと女らしくなって出直してこい」


「ぐすん☆ めそめそ☆」


「すぐに泣くやつは嫌いだ。従ってお前も嫌いだ」


「じゃあ☆ 泣かないなら一緒にいていいのね☆ ナルミン、私頑張る☆」


 畜生、予想外に粘りやがる。


「甲乙丙丁で言えばお前は丁だ。わかるか?落第だ。わかったら俺のパーソナルスペースを犯すんじゃない。あと、ナルミンはやめろ」


「ええ~そんなあ☆」


「はいはいお帰りはこっちですよ」


 粗末なTシャツの襟をひっつかみ、引きずる。機械のくせに、さほど重みは感じなかった。


 ポイっと放り出し、ドアを閉める。鍵をかけて、ようやく俺の空間を奪還した。


 薄いドア一枚を隔てて、「ナルミ~ン☆」と物音がした。ネズミでも鳴いているのだろう。今度駆除しなくては。


「ふう……」


 スプリングの効いていないベッドに横たわる。薄汚れた天井には、吊り下げられた電球の明滅。こちらも小汚く、気分を陰鬱にさせる。まったく、いつまでこんな生活が続くのか……。


 破れたカーテンの隙間から外が見える。相変わらずの鈍色。


「せめて晴れ間でも拝めればな……」


 わずかに揺れる電球を眺めているうち、俺の意識もユラリ、と揺れる。そのまま、俺は久しぶりの深い眠りに落ちていった……。

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