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1 少女起床

「さて……」


 気温、25度。湿度……は不明。窓から覗く空は鈍色(にぶいろ)


 天井からは華やかさとは対極の冷めた白い光。それに照らされて俺を含めた四人が部屋に立っている。


 俺たちの前には、粗末なベッド。その上に人間によく似せた形の機械が寝かされている。もっと言えば少女の姿。体からは、SFよろしく用途不明のコードが伸び、近くの大げさな装置に繋がれている。俺は技術者ではないので、この辺りはさっぱりだ。


「では、テストしてみようか。念のため、三人は下がっていてくれ」


 人道的配慮から服を纏わされたこの機械――便宜的に“少女”と呼称されているモノ――をチラリと見やってから、修復責任者の長谷川ナオミが俺たちに告げる。ナオミを除く俺たち三人は大人しく三歩……俺だけはやはり不安になってもう半歩下がって様子を見る。


「始める」


 感情を殺したような声でナオミが言い、何やら操作を始めた。海外の博物館からガメてきたというその装置は、俺らの曽祖父でも見たことがないほどの年代物らしい。


 ビクッと“少女”の体が痙攣(けいれん)し、同時に表情に(かげ)りが生まれる。あまりにも人間じみたその反応に、ある種の気味悪さを感じた。ついでに、当時の開発者の趣味の悪さも。


 ギ、ギ、ギ、と軋むような音がわずかにして、“少女”の右腕が持ち上がる。次いで左腕。それから確かめるように両手の指の曲げ伸ばし。動作こそプログラムに則ったものらしいが、その滑らかな動きは、やはり人間そっくりと言わざるを得ない。


 目覚めへと向かうこの“少女”を見ながら俺はとりとめもないことを考えていた。こいつは、これまで何を見てきたのか。何を思ってきたのか。


 人間とよろしくやってきたのか、あるいは戦火を目の当たりにしてその愚かさを呪ったか。


 少し大人びたその表情……これから開かれるであろうその目はこれまで何を映してきたのか……。


 各部の動きが、やがて止んだ。そして、満を持してと言わんばかりに、ゆっくりその目が開かれる。緩慢(かんまん)な二、三度の瞬き。現状把握を試みているらしい。


「あー、わかるかな。私はナオミ。長谷川ナオミという。覚えてくれなくとも構わないが、一応君の修復の責任者だ。君、自分のことはわかるか。型番や年式……通俗的な名称でも構わない。寝起きで悪いが、何かわかることがあれば教えてくれ」


 極めて機械的な問いかけ。“少女”の反応を俺たちは静かに待つ。そして、しばしの沈黙を経て、その口から言葉が発せられた。


「ぴっかり~ん☆ あは~☆ おはようございますぅ。えっと、私はぁ……あれっ、誰でしたっけ? にゃは☆ 忘れちゃった☆ 私うっかり☆」


 そして時間は凍てついた……。

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[一言] 初投稿お疲れ様です!続きが気になります!
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