1話 宿屋のオーナーのモーニングルーティン
1話 宿屋のオーナーのモーニングルーティン
まだ薄暗い室内。
空気は魔道具のおかげで一定に保たれているが、外を見るとしんしんと雪が降っている。
今日も寒いのだろうなと少し憂鬱な気分になりそうな自分の頬を軽く叩いて律する。
ベッドから起き上がり、ベッド横に設置してある机に乱雑に置かれていたガウンを羽織って部屋を出る。
歩く度にギシギシと鳴る床はそろそろ修繕しないといけないなと思いながら階段を降りて行き1階にある食堂へと向かう。
「おはようございますオーナー」
「おはようさん」
受付の前を通る時に従業員見習いとして雇っている孤児院から出向してきた少年と挨拶を交わす。
閉じられた正面扉を少しだけ開けて「寒っ」気温を感じ、情景反射で扉を閉めた。
受付から10歩程歩くと両開きのウエスタンスタイルの扉を開いたところに食堂がある。
食堂に入るとこれまた孤児院からの出向の従業員であるミーナが出迎えてくれた。
「オーナーおはようございます!」
「おはようさん、今日のメニューは?」
「今日は豆の煮物とベーコンとスープです!パンとマッシュポテトどちらにします?」
「パンを2つとコーヒーで頼むよ」
「かしこまりましたー」
従業員見習いとして働き始めて数年、つい先日に見習いの取れた従業員になったからミーナという名前をやっと覚えれた。
彼女は愛想も良いし、よく働くと店長が唸っていたから格上げしてあげたんだが良い判断だったね。
今日はいつもより少し遅めの起床になってしまったが、それでもいつもの席が空いていたのでそちらに向かい着席する。
するとそれを見計らっていたかのように新聞売りの少年が外の窓からコチラに声をかけてきた。
「オーナーさんおはようごさいます!新聞一部どうですか?」
「1部おくれ。それと寒いだろうに、中で温まってから帰りな」
食堂で働いている小間使いの少年に食堂側の扉を開けて室内に入らせて新聞売りの少年を入れさせる。
新聞売りの少年に銀貨1枚を手渡し新聞を受け取る。
「ありがとうございますオーナーさん!」
小間使いの少年に銅貨を一枚握らせて温かい飲み物、この場合だと朝食のスープを持って来させ新聞売りの少年に与える。
「ふーあったまります!」
「そうかい」
新聞を開き、内容を読む。
「西はまた荒れだすようだね、東がやっと収まったというのに…。この国もうかうかしてると十数年前みたいに荒れちまうかなぁ」
最近の新聞の内容はあまり良いものではない。
東が収まったと思ったら西が荒れる。
「僕は詳しいことはわからないですが、人間同士仲良くすれば良いのにと思うのですがうまくいかないんですね?」
「難しいもんだな。所詮宿屋のオーナー程度じゃ分からないな」
新聞売りの少年のささやかな疑問に返答する。
この平和な街で戦争なんて起こらなければどうでもいいと思っていることは内緒にしておこう。
新聞を読み進めていると食事が机の上に整えられていた。
「オーナーさんいつもありがとうございます」
そう言い新聞売りの少年も食堂の扉から外に出て行った。
「さて私もいただこう」
カリッカリに仕上げられたベーコンは美味しかった。