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◆ 予定外の王太子妃選定試験~アンドリューの画策


コツン

コツン

コツン……


 一定のリズムで床を叩き、無機質な音を立てるのはパルムドール王国の超絶美麗な王太子と名高い、アンドリューその人だった。

 その髪は濃淡のピンク色に光り輝き、薄い水色の瞳は陽の加減で変化する、とにかく眉目秀麗なお姿をしていた。


 そんな美麗王太子の御前には、三人の令嬢が未来の王太子妃に選ばれるべく?…… 選定試験を受け()()られていた。


 先程一人ずつ受けた面接が終わると、次に等間隔で並べられた机に座り、筆記試験を受け()()られている。


 王太子アンドリューと共に、試験に立ち会っていた試験官達は、令嬢達の余りに美しい所作と模範とも言える面接内容に心から感服していた。


( 素晴らしい! 間違いなくこの王国の頂点を極めた、三令嬢ではないか…… )

( アンドリュー王太子は、今更なぜ、このような試験など、ご用意されたのだ? )

( この試験、必要なのか?…… いや、要らないだろう? 今更だ…… )


 試験官達ですら首を傾げてしまう、今回の王太子妃選定試験。


 王太子アンドリューは、目の前の三令嬢達を一段高い椅子の上から、心理的にも蔑んで眺めていた。

 相変わらず時を刻むように…… 杖のコツン、コツンは忘れない。


 アンドリューは内心、ひどく焦っていた。 それと同時に腹立たしくもあった。


( なぜ、父王はあんな王命を! )

 先日、国王陛下より拝された王命が、到底納得出来るものではなかったからだ。


『婚約者を決めろ!決めぬなら--

( 婚約者を決めぬなら? 何故、王太子で無くなるのだ? おまけに今日、集まったコレら!  一度は婚約破棄した、相手ばかりではないか? 私が求める美しい女は他にいる筈なのだ! 決して、コレ達など有り得ないのに…… 急遽、用意させた試験や面接で、上手くコレ達を落とせるのか? はぁ )



 しかし当の令嬢達も、内心では複雑な気持ちと怒りを抱え、アンドリューを(わずら)わしく思っていた。

 意図せず、また望んでもいないのに受け()()られている王太子妃選定試験…… 。



 一人目の令嬢、ポートリア公爵家の孫娘シンシアは少し青みがかった銀髪がサラサラと頬を滑りおちるのを優雅な手つきで時折かきあげていた。 窓の外を眺める瞳はスピネルの赤を思わせるほどに美しかった。


 そんな私は、目の前にいるアンドリュー王太子に対して怒り心頭に発する思いでイライラを募らせていた。


( 無いわ。この選定試験は、予定外だったわ。 全く、何を考えているの? この王太子(バカ)は。 でも今日、イヴァンヌ様とモアナ様に会えたのは僥倖ね。 折角のチャンスを逃す訳にはいかないわね )



 私は、実のところーー 腹の中に、ある策略を呑み込んでいた……。

 これから起こりうる、王家を巻き込んだ騒乱のために、日々奔走しながら山のような問題解決に追われていた。 とっくに書き終えた試験の答案など頭の隅に追いやって、今からすべき事を考える。


 最近の私は…… 一、公爵令嬢の枠を超えた働きっぷりだった。 

ーーだって、我が家は…… 暗部の…

 ううん、それよりーー


( イヴァンヌ様とモアナ様は、本当に頭脳明晰でおまけに勘が良いから、色々と勘付かれると困るわ )


 我がポートリア公爵家が王家の暗部を担っているため、これから遂行すべき途方もない任務がある。 それらを恙無(つつがな)く迎えるためには、親友二人を国外へ逃さなければならなかった。


(私の、今日一番の任務は…… イヴァンヌ様とモアナ様の今後の予定を自然に聞き出す事…… )

 私は頭の中で、二人に疑われ無いようにする為のシミュレーションを繰り返し行っていた。


 

--ところで、三人の美しい令嬢達は、とても怒っていた。 何が悲しくて、()()()の面接と筆記試験を受けなくてはならないのか……?


 アンドリュー自らが、過去に婚約破棄を言い渡したにもかかわらず、今度は三令嬢を一堂に集めては、再度改めて騙し討ちの様に選定試験をするなど…… 納得がいく訳もない。


 アンドリューは三令嬢に、ほぼ同じ理由で婚約破棄を言いつけた。


『お前達は美しくない。(中略)私の母上の様に美しくないのだよ。 ハッ、よって婚約破棄とする!』


 大まかに言えば… こんな調子なのだが。 まさか若干一名…… モアナにだけは、お年頃の令嬢に対して、決して言ってはいけない「デブ」と(ののし)たのだった。  

 もちろん、完璧なアウトである。




 二人目の令嬢イヴァンヌは、手元の試験内容に有し日の婚約者候補試験を思い出し、思わず問題を二度見していた。


( 嘘! 何で内容が全く同じなの?

 馬鹿なの? いや、馬鹿以外あり得ないわ。 この試験は13歳の時に受けた物と、全く同じじゃない! )


――だが、そうは言っても普通の令嬢なら頭を抱えるほどの難しさはあるのだが……


 立ち会った試験官達は、イヴァンヌの憂いを秘めた美しさにチラチラと視線を向けてしまっていた。


 一本一本が金糸かと思う程に艶やかに輝く髪と究極のサファイアを埋め込んだような瞳は儚げに憂いを帯びて見える。

 寧ろ、そう見せるのが得意なのだ。


(はぁ…… 帰りたい)

 

 イヴァンヌはこの場に呼ばれ、いざ馬鹿(アンドリュー)を目の当たりにすると、(かつ)ての不満と心の愚痴が果てしなく湧いてきていた。


( 嫌ーーーーー!!

 本っん当ーーーに選ばれたくないわ!

 自分(アンドリュー)から断ったくせに! )


 イヴァンヌは今、この場にいる事すら許せなかった。 

 その手にしている羽根ペンも握り潰す勢いだった。

 王家の申し出を断る事など出来ない歯痒さたるや…… 何故一度、婚約破棄をした筈なのに…… それも下らない理由だったじゃない! 

 シンシア様とモアナ様の気持ちは分からないけれど、私は決して王太子の婚約者になる事などあり得ないわ!!

 二度と婚約の話など聞きたくもないし、受けたくも無い。 出来る事なら、こんな奴と結んだ、過去の私が無駄にした3年間を返して欲しいわ!

 もう嫌、アンドリュー(あいつ)の顔を見ているだけでも吐き気がする……


 心の底から、〈拒絶〉の一択しか浮かばないイヴァンヌだった……



 黒い髪はこの国では珍しい。それも絹を思わせる艶やかで細い漆黒の髪ーー 三人目の令嬢モアナの瞳は、混じり気のない深いアメジストのようで、その瞳はゆらゆらと揺れていた。


(分からないわ……)


 さっさと試験解答を書き終えたモアナは、不思議な生き物を見る様にアンドリュー王太子を見ていた。


(この人は恥ずかしくないのかしら?)


 何故一度、婚約破棄した相手を一堂に会し直接面接や筆記試験などをさせる厚かましさがあるのかしら?

 私たち三人は既に、王太子妃になり得るほどの教育は無事済んでいるのよ……?


 今更、婚約者候補の試験をさせるなんて意味のない事を……

 ご自分が試験を受けた方がよろしいのではないかしらね?


 私はこの方(アンドリュー)からはデブと罵られ、美しさに問題があるからと、婚約破棄を言い渡された筈だし?


 モアナは目の前に、とっくに書き終えた王太子妃試験の簡単な問題より、別の生き物としてアンドリュー王太子自体が遥かに難しい問題だと思うのだ。


(うん、やめた)


 モアナは答えの出ないアンドリュー王太子の存在を蚊帳の外に追いやって、考えることをまるっと放棄したのだった………



ーー 三人の令嬢達は、過去も現在も眉目秀麗で甲乙つけ難い…これは誰にも覆せない真実……



 コツン、コツンと国王陛下の真似事で杖を鳴らされ続けて、苛立っていた優秀な令嬢達だが、全ての過程が流れるように終わっていた。


 三令嬢達は美しいカーテシーをして、静かに試験会場を後にした。


 各々に用意された客室に向かおうとする前にシンシアが二人にこっそり合図を送った。

 それに気づいた二人は頷いた。



 王家の客室が並ぶ廊下まで来ると、シンシアは内面の緊張を隠し柔らかに声をかけた。

(上手く聞き出さなくては……)


「イヴァンヌ様、モアナ様。まずは私の部屋で寛いでくださいませ」

 シンシアの提案を二人は喜んで受けた。


 三人は(かつ)てのお互いの苦労を分かち合う、大のつく親友となっていた。


 王太子妃にと選ばれるくらいなのだ。

 三人の人格は大変素晴らしく、全ての素養を兼ね備え美しさも申し分ない稀有な女友達だった。


 それぞれの侍女達も引き下がらせ部屋には三人だけで寛いでいる。


「不思議ですわ。何故一からまた、試験を()()る必要があったのでしょう? 私たちの能力は王家が一番知っている筈でしょうに? 」

 モアナが口火を切った。


「 それに一度、王太子の責で婚約破棄をした令嬢など王家にとっては恥の上塗りでしょ?」

 イヴァンヌも辛辣に言葉を続ける。


 うんうんと頷きつつ、シンシアは先ず、当たり障りの無い話をした。


「モアナ様、イヴァンヌ様。 お二人は、筆記試験の手応えは如何でしたか?」


「「・・・」」

 二人は沈黙する。

 

 高位貴族の娘は、幼い頃より高位である事を重んじて育ったのだ。勿論、成績も高位を狙ってしまう(さが)は致し方ないのだろう。


「やはり手を抜く事など、できなかった様ですね」

 モアナがムッとしてやり返す。

「そう言うシンシア様は?」


 シンシアも眉を八の字に下げて

「私もついつい…… 」


「「「はあー」」」

 そりゃあため息も吐きたくなるものだ。


 答え合わせなどしなくても、三人とも確実に満点であっただろうから。

 


 シンシアは少しばかり重たくなった場の空気を打ち消すようにして、二人に思いもよらない言葉を投げかけた。


「 今から、私がお二人をこの部屋へと呼んだ理由をお話しますわ。 実は…… 私から。 お二人に提案があるからですの 」


「 提案? 」

「 シンシア様から? 」


「 ふふふ、そうですわ 」

 

( これから、この王国は大きな事変を迎える。 私達が執り行うとする、危険な策略から遠ざける為にも…… 怪しまれる事無く、二人の願いを聞き出し、 他の国へ逃してみせるわ。 大切なイヴァンヌ様、モアナ様。 お二人を必ずお守りしますね。 決してヨーク公爵の駒になどーー絶対にさせませんわ )


 シンシアは王家の暗部…… 隠者として培った、平静な顔を纏ってーー 二人に微笑みかけたのだった。





ここから本編が始まります。最後まで読んでいただきありがとうございます。


また一時間後に投稿しますね。

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