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◆ ドレスより中身が気になるなんて カリフside~


「えっ?私がリッチ侯爵家に呼ばれたのですか?」


 カリフの仕事は、デザイナー兼オーナーだ。 ジャンドルゼ通りで、小さいながらも店を構える事が叶っていた。

 伯爵家の三男坊は、スペアの必要もなく、学院を卒業してからは家を出る事を…余儀なくされる。

 幸いカリフは、幼い頃に祖母の刺繍や裁縫仕事を見ることが好きな…変わった男の子だったお陰で、自然とデザイナーの道に進む事が出来た。


 だが、世間の目は…男のデザイナーには冷たかった。

 紳士服ではなく、ドレスのデザイナーは女性デザイナーの専売特許だったから。


 カリフは表面上、この店のオーナーとして…自身の事は隠すことにしていた。


 なので…… リッチ侯爵家に呼ばれる理由など、当然…思い浮かばなかったのだった。


 それは麗かで、穏やかな日だった。



 いきなりパルムドール王国外相の、リッチ侯爵家の令嬢であるモアナの私室に通され、カリフは緊張していた。


 目の前の小さな令嬢は、美しいお顔が勿体無く思う程……沢山の布を巻いて、プクプクとしていた。


 モアナはただ……カリフを見つめていた。

 困惑したカリフから、用件を訊ねた。


「あのう?リッチ侯爵令嬢のモアナ様が、私に…どんなご用で、ございましょう?」


 モアナは頬を高揚させ、暫くカリフを見ていたが…幼い見た目と違って、声はとても落ち着いていた。


「こんにちは、カリフ様。早速ではございますが、勝手ながら調べはついておりますの。

カリフ様は、ドレスのデザインをしながら…ジャンドルゼ通りで、ブティックを開いておいでですね 」


( 何で知っているのだ )

 カリフがどう答えて良いのか熟考して、固まっていた。すると


「 話は簡単ですの。私に似合うドレスを作ってくださいませ 」


( 何を言って!?……駄目だ、断ろう )

 頭の中で、危険警報が…ガンガン鳴っている。

 爵位の高い令嬢が、気を悪くしない様に…


「あのう…… 私は、子供服のデザインはしておりませんが…… 」


(これで、良いだろう…諦めてくれるか?)


 なのに、モアナは毅然として悪戯に囁く。

「ふふふ、それはいけませんわ。カリフ様は、事前調査の大切さを分かっておりませんね。私は16歳でございます。16歳は子供でしょうか?」


「え? じゅ、16……歳……」

 目を見開き、急いで頭を下げた。


「も、申し訳ありませんでした!美しいレディーに、なんて失礼な事を!」


 私は噂話や、女性本人には全く興味が無かったから……… しまった! 先に、リッチ侯爵家の事を調べてから来るべきだったか!自分の失態に背中から冷や汗が吹き出した。


 モアナはカリフに、優しく声をかける。


「カリフ様…… 私はまだ、美しくありませんの……… カリフ様に美しくしていただきたいのです 」


「 わ、私でございますか?モアナ様は寧ろ女性のデザイナーがよろしいのではありませんか? 」


「 いいえ、女性の固定観念は要りませんわ。男性の貴方が、素直に思うように…私を変えてくださいませ 」


 男性の? …俺のデザインを…望むのか?

 だが、まだ16歳の娘だ………


「モアナ様……私がデザインをするにあたり…お身体に触れる事もありますが、よろしいのでしょうか?」


 モアナの凪の目に動揺の色は微塵もない。

 この令嬢は……全く動揺してこない?


 モアナは当たり前だと、言わんばかりに

「勿論、採寸や調整で触れるのは、当たり前のことです。仕事に誇りを持っている、カリフ様の前で…下着の姿になる事も…当然でございます」


 突然、部屋の中が暗くなった。

(えっ?カーテンを閉めている?)


 そして灯りが灯されると、大きな姿見が現れ…沢山の布に包まれていたモアナが、カリフの前で…誰の手も借りずに、自身でサラサラと脱いでいく。


 絹のショールから…胸周りを隠すための…何枚もの薄いシフォン…… ドレスの前開きボタンもパチパチと外すと、バサッと足元にドレスが落ちた。


 蝋燭のゆらゆらと揺れる灯りは、モアナの豊満な身体の陰影を…くっきりと映している。

 下着姿でも、身体の線はありありと…デザイナーのカリフには分かってしまう。


 なんて……美しいお身体なのだ……

 カリフは、未だかつて見たこともない…美しい女神の像を見ている様だった。


 だが、生きた……生身の女性……この女神は、私がデザインをしても良いと…言ってくれている。


 これは好機か?

 それとも女神が…私を、試しているのか?


 そこに、徐に紙とペンが渡された。


 フラッシュバックの様に、次々と…デザインが浮かんでくる。

 


 メジャーを持った侍女がスタンバイして、カリフが身体のサイズを測るのを手助けするようだ。


「さ、カリフ様。私のサイズを測って、思うままに… デザインを興してきてください。最初の原案が決まったら、真っ先に…見せてくださいね」


 カリフは採寸で、手が震えることなど…初めての事だった。

 先程から(ほとばし)る、デザイナーとしての欲を…抑えるのが苦痛に感じていた。


(もう、駄目だ!)


「モアナ様、私は内なる興奮が冷めやらぬうちに、デザインを起こしたいのです。もう幾つも浮かんでおります。このままお暇する事をお許しください!」


 モアナは悪戯に笑ってくれた。

「期待…していますね」


 私はそれからどうやって、店に戻ったのか覚えていない。


 目の前に広がるデザイン用紙に…湧き上がる案を描きあげてゆく。

 デザイン画は、幾つも折り重なっていった。


「駄目だ!もっとだ!もっとモアナ様の魅力を引き立てるデザインがあるはずだ!」

 カリフは取り憑かれた様に、デザインを書き殴っている。


「あの、たわわな胸を包む布は………

あの細いウエストをもっと、締め上げたらどうなるのだろう………そして…華奢な、長い手足はいっそ…晒してしまうか………」


 カリフはデザイナーとしての欲なのか、

自身の男としての欲なのか…最早ぐちゃぐちゃになった頭では、考えられなくなっていた。

 でも、手が止まらない。

 頭がデザインを…止める事を拒否する。


 それから、デッサンした…沢山のデザイン画をモアナに見せた。


 モアナは艶やかに微笑み、カリフを労った。


「カリフ様、私の目に、狂いはありませんでしたわ。 私のドレスは、カリフ様がこれからも…作ってくださいませ 」


 カリフは震える衝動を抑え、モアナに礼をして部屋を後にした。

 デザイン画を見ている、モアナの顔に釘付けになっていた。 カリフは、自分の中に…微かに芽生えそうな気持ちを…… 絶対的な家格の差を理由に、打ち消すのであった。

( モアナ様……… )


 モアナは部屋の窓から、馬車に乗り込むカリフを見ていた。


 小さく呟く。

「 カリフ様…貴方は、私のものになるのですよ。ゆっくり…射止めて見せましょう 」



 それから約一年後に、馬鹿な知らせが王家から届いた。


 モアナの父は最近、美しくなったモアナに…またもや王太子妃候補の名が上がった事に喜び、誇らしく思っていた。


「 モアナ、流石は私の娘だ!良くやった」

 

 モアナは白けた目を父に向け

「 私は、何もしておりませんわ … 」


 母も侮蔑の目を向け

「 貴方はこれが、屈辱以外の何ものでもないと……思われませんの? 」


 家族から向けられた視線に、動揺した父。


 この少しおめでたい頭の父に、モアナは冷静さを保てと言わんばかりに…冷や水を浴びせる。

「お父様… これだけは言えますの。王太子は、また必ず同じ過ちを犯しますわ。私が、王太子妃に選出される事はありません。ご期待されません様に」

 モアナはそれだけ言うと、自室に戻ってしまった。





 カリフはいつものように、モアナの私室で、次の舞踏会に着ていくドレスデザインの打ち合わせをしようと、呼ばれていた。


 最近は社交界の噂もチェックをする様になっていたカリフは、モアナが王太子妃候補に選出された事を聞きつけ…内心は傷心して激しくショックを受けていた。


 カリフはモアナを待つ間、ソファーに座り少し落ち込みながらお茶を飲んでいる。


(はあ、モアナ様なら、王太子妃になる事もあり得る…… だが…… そうしたら、私のこの気持ちは…… )


 噂を聞いた日から…益々自覚していった、自分のモアナに対する気持ち…… だが、所詮は伯爵家の三男…身分の差が……はは、逆立ちしたって、こればかりは…



 そんな時、モアナが部屋に入ってきた。


 モアナは妖艶に微笑んで…カリフに囁いた。 それはカリフが以前、モアナに言われた言葉だった。


「カリフ様は一生、私の服を作ってくださいませ。 私は…カリフ様以外の服は…着ませんわ」

 そう言ったかと思うと… 突然座っているカリフの太ももを跨ぎ、膝立つと… 左手をカリフの肩に乗せた。


「 えっ? 」

 そして唖然とするカリフを…モアナの右手が、頬から顎にかけて…ツーーと流れるように動いた。

 指がクイっと、顎を持ち上げて…二人の顔の距離が縮まった。

 カリフがゴクっと…喉を鳴らした。

 カリフに衝撃の言葉が落ちた。


「カリフ様は…私が、欲しくありませんか?」


「 は?わ、私は伯爵家ですが三男坊で平民と何ら変わりません。リッチ侯爵様に取り入る事など難しい……かと…」


 そんな言葉を…モアナは許してくれない。


「 私が聞きたいのは、そんなことではありません。カリフ様は、私が…欲しいのか聞いているのです 」

 そう言いながら…モアナはほんの数センチの所まで、距離を詰める。


 美しいサラサラの黒髪が…カリフの顔にかかり、モアナのアメジストの瞳に吸い寄せられる。

( ああ、モアナ様………

 心臓が壊れそうだ……… )


「 カリフ様は21歳の若さで、立派なお店も開いておいでですわ。でもそうですね、お父さまにはあと一つ、説得材料が必要ですか。カリフ様はそのままに……私に任せてくださいませ 」

 そう言って、モアナはカリフにチュッと…口付けをした。


「 ん!なっ! 」

( モアナ様! )

 カリフは目を瞬かせ、赤らめた顔で…モアナを見つめた!


 モアナは次に…両手でカリフの顔を包んだ。

 そして目を閉じ…深い口付けを交わす。


( ん………んん、駄目だ…… これは反則だろう……… )

 カリフの腕から、力が抜け…ドサっと落ちた。


( もう私は……君を放して…あげられない……… )


 カリフはモアナに、色々な意味で陥落した。


 そうしてモアナは、カリフの専属モデルとなる事を提案してきた。

 モアナがカリフの店の広告塔になると、王国の子女達から盛大なオファーが殺到した。

 伊達に『王国三代美女』の名を冠している訳ではない。


 だがそんな順調な時に、小さな事件が起きる。


「 私のデザインを、模倣する方が現れるとは…… 」


 少し落ち込む私を見ながら、モアナは得意に蠱惑的な笑みを浮かべる。

「 ふふ、こんな小さな悪い芽は、早いうちに摘んでおく方がよろしいですね 」


 まさか…それから特許というものや、貴族の紋章とは違う私の店の印まで作ってしまうなんて………。

 私はとんでもない令嬢を…手中に収めてしまったのかもしれない……。



 カリフの店は、過去最高収益をもたらし…リッチ侯爵を黙らせるには充分だった。

 晴れて…婚約内定の地位をもぎ取る事が出来て、カリフは天にも昇る気持ちだった。



 果たして……カリフがもぎ取った婚約者の席なのか?

 もぎ取ったと見せかけて、与えられた婚約者の席だったのか? 



カリフよ。

幸せなら良かったね。



おっとり見えるモアナですが本当に欲しいものは手に入れる貪欲さがあります。

でも多分、カリフは幸せです。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

とても嬉しいです。


これからもよろしくお願いします。

楽しく読んでいただけるように頑張ります。


よろしければブックマークの登録と高評価をお願いしますm(__)m。


そしてこれからの励みになりますので

面白ければ★★★★★をつまらなければ★☆☆☆☆を押して

いただければ幸いです。

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