大人免許証
奇妙な世界へ……………
俺は堀山保。今、人生最大の難関点に立たされている大学生だ。
今の日本、2086年ではとある免許がある。それは、『大人免許証』だ。
大人免許証とは、簡単に言うと、自動車免許と同じようなもので、自動車免許は、免許証が無いと運転が出来ないのと同じ様に、大人免許証が無いと、大人になれないのだ。
え?20歳になった時点で大人だって?いや、そんな事じゃない。この世には大人になっても罪を犯す者がいるから、この大人免許証が必要なのだ。
もしも、この大人免許証が取れなかったら、どうなるのか?子供扱い?それとも人権がなくなってしまう?
実際はどちらとも違う。もし子供扱いをすれば、大人免許証を取ってない人達に少年法が適用されてしまうし、人権を失くしてしまったら、これも罪を犯しても逮捕される事は無いのだ。
正解は人権があっても、一部は子供扱いをするのだ。例えば、お酒やタバコ、家なんかは子どもじゃ買えないし、会社でもバイトとして働けるとしても、正社員として働けないのだ。だから、この大人免許証が必要なのだ。
ここまで聞いてもらえるととある疑問が生まれてくる。それは、『どうやって大人免許証を取るのか?』。
それは、20歳になった者が、成人の日に試験を行い、受かった者だけが、大人免許証を取れるのだ。しかし、この試験には問題がある。例えば、子供の頃に盗みや暴力を行って少年院に入っていてもこの試験を受ける事ができるのだ。それが少し玉に瑕のなのだが。
そして、俺が冒頭に言った通り、俺は今20歳だ。そして、明日は成人の日。
そう。ここまで言ってもらえればわかる通り、明日は大人免許証の試験なのだ。
俺は小さい頃からエリート教育を施され、確定で合格点である70点以上は取れる自信もある。俺はやってみせるのだ。
きたる1月の第2月曜日。俺は大学内の試験室に訪れている。周りには色んな奴らがいる。俺みたいに真面目な奴。別に写真を取るわけではないのに化粧をつけている奴。自分はチャラいと見せつけたいのか特攻服を着ている奴。十人十色の20歳がここにいるのだ。
俺は席に付き、過去問題集をじっと見ていると、隣に見覚えのある顔が現れた。
「おっ、保、今回は頑張ろうぜ!」
この男は高崎涼斗。小中高大と一緒に歩んできた男だ。
高崎は小学校の頃から仲の良い男で、一言で表すなら相棒と言ったところか。
「なんだよ、高崎、今は集中してるんだよ。邪魔しないでくれ」
「ふ〜ん、つれねぇなぁ…」
高崎はフーセンガムを膨らませながらスマホを見ている。
(変わんねぇな…お前も)
数分後、ベルの音がなった。黒板の所には学長が立っている。机にはプリントが配られる。
「皆さん、今から試験を開始します。50分間の間、不正行為が見つかった場合、その人を即、試験室から追い出します。よろしいですね!では…始め!」
俺はプリントに答えを書き始める。
今回は特別に問題の一部を抜粋していこうと思う。
『問題1 現在の総理大臣は誰か。選択肢の中から答えよ。 1,島崎陽介 2,和田礼二 3,大柴権平 4,中野優作』
この問題は簡単だ。現在は165代目総理大臣の為、正解は3の大柴権平だ。
『問題5 窃盗罪は何万円以下の罰金が下されるか答えよ。』
この問題も簡単だ。正解は50万円以下。
『問題10 大人免許証制度を考えた政治家は誰か。選択肢の中から答えよ。 1,城戸隆 2,桜井智雄 3,喜多方賢三 4,葛西力也』
この問題は過去問題集に載っていたので簡単だ。正解は3の喜多方賢三だ。(因みに、この大人免許証制度が始まったのは1885年からである)
それからテストが始まって50分後、学長の声が響いた。
「皆様、テストは終了しました。結果は後日、メールで発表します。今日はこれにて終わりです。お疲れさまでした!」
俺は大学を出ると、颯爽と高崎に話しかけられた。
「よお!お疲れさん!」
「何だよ急に…」
「後で俺んち行かね?一緒に遊ぼうぜ!」
「……………いや、どうせお前といると変な性格になりそうでやだよ」
「全くノリわりいなぁ…」
俺はその場を去った。
家に帰ると、母さんが出迎えくれた。
「お帰り〜」
「ただいま。ふぅ…全く疲れたよ…」
「ねぇ、夕飯何がいい?」
「ハハ、母さんの作った物なら何でもいいよ」
「もぉ〜じゃあ今日はカレーにしてあげる」
「おっ、ありがとう」
俺は荷物を部屋に置き、仏壇の前に立った。仏壇には弟の隼人の写真が飾られている。
「隼人、兄ちゃん、頑張ったよ。天国から見ててくれ」
隼人は俺が小学1年生の頃に産まれた子で、俺とは仲が良かった。
しかし、隼人が2歳の頃、小児がんに罹り、闘病をしたものの、2歳という若さで亡くなってしまった。
俺は仏壇の前で上を見ていた。
「隼人……………そっちではどうだ?」
そうポツリと呟くとそこを離れた。
それから数日後、国からメールが来た。内容は大人免許証の合否結果だ。
結果は………………無論、合格だった。
「ヨッシャー!」
俺は喜び、家族に伝えた。
「おぉ…保、よく頑張ったな…」
「良かった…良かった…」
両親は喜んでいた。
「隼人、大人免許証、合格だったよ」
俺は仏壇に満面の笑みを見せた。
それから数分後、電話が掛かってきた。相手は高崎だ。
「保……俺、合格だったよ!」
「おぉ、良かったじゃん」
すると、俺はある1人の友を思い出した。
「そういえばさ、二宮って覚えてるか?」
「二宮……あぁ、俺達の幼馴染みだろ?そいつがどうした?」
「………いや、ちょっと思い出しただけだ」
「あっそう…」
すると、高崎は何かを思ったのか、電話を切った。
二宮。本名は二宮隆文。二宮は高崎と同じく小中高と歩んできた男なのだが、高校2年生の春に別の都内の高校に行ってしまったのだ。
俺は二宮に電話を掛けようとした。その時、電話が掛かってきた。相手は二宮で、俺はすぐに出た。
「二宮?」
「保…助けてくれ…」
「ど、どうした!二宮!」
「俺…大人免許証…不合格だった」
「はぁ?あの優秀なお前が不合格だって?」
「そうだよ。プレッシャーですべての問題を間違えちまって…今、親父に勘当されて、お前の住んでる阪倉町に来てるから、お前の家に…」
「いや…無理だ」
「へっ?」
「お前の様な非国民は家に入れるなとエリート教育を施されてるからね。無理だ」
「そ、そんなぁ…」
そして、電話が切れた。
「……………」
俺は複雑な気持ちになっていた。
すると、また高崎から電話が掛かってきた。
「ん、どうした、高さ…」
「どうしたもこうしたもねぇ!お前テレビつけろ!」
「えっ?わかった。つけてみる」
すると、電話が切れた。
俺は試しにテレビをつけた。
そこには総理大臣が緊急発表を行っていた。
「な、何だ?」
「えぇ…皆様!私、大柴権平は国民の皆様に謝るべき事があります。それは…私は大人免許証を持っておりません」
「!?」
「何故私が総理をやっているのか?それは父である元155代目総理大臣の大柴貞夫氏のコネクションを使い、政治家という仕事をしてきたのです」
「……………」
俺は呆れて物も言えなかった。
「えぇ…その後の考えとしては、官房長官の祖父江浩介氏に総理枠を譲ろうと思います」
総理大臣はその場を去った。
俺はテレビを前に固まっていた。
更に俺はあることに気づいた。それは祖父江の事だ。
祖父江は若い頃から犯罪に手を染めながらも、大人免許証での試験では、合格だった男。更に奴には黒い噂もある。
(あぁ…この日本はどうなってしまうのだろうか…)
俺はそう思いながら膝から崩れ落ちた。
その後、日本、特に東京ではクーデターが起こっていた。クーデターを行っている奴は皆、大人免許証を所持していない者だった。
中には前総理大臣と新総理大臣を殺そうとする者もいた。しかし、それは失敗に終わり、クーデターも終わり、新総理大臣の政策により、大人免許証制度も終わりを迎えた。
そして、2146年。私はかつての大人免許証を見ていた。
すると、孫の俊文がやってきた。
「おじいちゃん、何見てるの?」
「ん?あぁ…これはね…」
「あっ!これ知ってる!確か…『おとなめんきょしょう』でしょ?」
「ほうほう、正解だ。俊文は賢いなぁ…」
「ありがとう!」
「さて、おじいちゃんと何か遊ぶかい?」
「いや、この後塾があるからいい!」
「そうかい、そうかい、俊文は偉いなぁ…」
「じゃあね!」
すると、俊文は去って行ってしまった。
「………さて、私も一仕事やるか…」
私は大人免許証を残り少ない握力で千切った。
「………じゃあな…」
私は最後の仕事を終えたかの様に、息を引き取った。
読んでいただきありがとうございました……………